結城玲奈は勇者である~友奈ガチ勢の日常~   作:“人”

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痛々しいポエムからスタート。





西暦2019年 5月

———抗神者の序列は、人類に対する貢献度で決まる。そう、戦闘力ではなく貢献度。

バーテックスを多く倒せば倒すほど、必然的に人類に貢献した事になる。だから、序列が高い抗神者の戦闘力が高いのは当然といえば当然だが、序列のトップ3は戦闘以外での人類の貢献期待値によって定められているらしい。

 

………滑稽な話だ。俺を含めて、序列の上位陣は人類の存亡なんて大して考えてもいないのに。

 

故にこそ、俺はここに宣言する。アリサに害意を抱いた時点で、俺は人類と敵対する道を選ぼう。

立場も年齢も、性別も理由も関係ない。誰か1人でも彼女に危害を加えようとしたその時点で、俺は人類の滅亡を企てる。序列1位が邪魔をしようが、関係ない。

 

———どうか、俺を敵に回すな。俺だって、命を懸けてまで人類全員を相手にしたいわけではない。

 

 

 

(抗神者序列2位 赤坂悠斗の手記より抜粋)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

———バーテックスが襲来し、早くも一年が過ぎた。

人類の生存域は(現時点で確認されているのは)諏訪と四国だけとなり、バーテックスと戦う力を持つ者達は修練に励み、着実に力をつけている。

バーテックスと戦う力を持つ者は、人類の希望たる勇者と、神にすら抗う力を持った抗神者。神樹から力を授かり、人類を守る為に戦う使命を背負った者達と、神樹から力を供給される事なく、力を発揮できる兵器たる者達。どちらが人類に期待され、どちらが恐れられているかは言うまでもない。

ましてや、勇者がマスコミに『救世主』と称えられるその一方で、抗神者はこの一年で数人とはいえ()()()()を出してしまっている。一部の人々の恐怖と憎悪は、バーテックス以上に抗神者に向かいつつあった。

 

 

———そんな情勢の中、『恐れられている側』の少年は。

 

 

「……んぅ」

 

「………すー」

 

 

金髪の外国人の少女に抱きしめられたまま、ベッドの中で呑気に眠っていた。

そもそも彼にとって、世間での評価など大した問題ではない。極端な話、彼は知り合いや家族に危害が及ばなければそれで良いとすら思っている。何より、『自分は評価される側でなく、評価する側である』という自覚が、彼の図太さに拍車を掛けていた。

 

———だが、問題がないのは彼視点で見た場合の話だ。客観的に見た場合、問題しかない。

 

 

 

 

「起きろおぉおおぉ⁉︎なんでこの惨状で呑気に寝ていられるんだお前達はぁぁぁ⁉︎」

 

 

彼らの現状を見た少女が、悲痛な叫びでツッコミを入れる。

———彼女の名は乃木若葉。抗神者とは正反対に、人々に期待されている勇者達のリーダー。しかし、一般の人々から雲の上の存在として認識されている彼女でも、この状況には平然とはしていられない。

 

部屋に入った時点でまず目に入るのが、壊れた窓。まるで外から爆弾でも投げ込んだかのようにガラスどころか窓枠も吹き飛び、窓の側にあったタンスも焦げ割れて倒れている。他にも調度品が粉々になった状態で床に散らばるなど、明らかに只事ではない。無事なのは彼ら2人が眠るベッドとその周囲という有様だ。

 

 

(……いや、そもそもこの状況に気づいてすらいないのか?明らかに神威の結界を張っている)

 

神威とは、すなわち神の威光、神の力。勇者が変身する時に発揮する力も、抗神者が扱う力も、個々人によって性質が異なるとはいえ全て神威。

 

———神威には神威を以ってのみ干渉できる。

 

だからこそ、バーテックスには通常兵器が通用しない。バーテックスは天の神によって生み出されたもの。バーテックス自体が持つ神威によって、通常兵器による攻撃は全て無効化されてしまう。そしてそれは、抗神者や変身した勇者も同じ。勇者は変身しなければ普通の人間とそう変わりはないが、抗神者はその身に常に神威を持つ。故にこそ、神威を持たなければ爆弾だろうと刃物だろうと怪我をする事がなく、それが人々にバーテックスを想起させ、恐れられる一因となってしまっている。

 

そして神威の結界は、文字通り抗神者の神威によって形作られた結界。抗神者である2人はともかく、2人が眠っているベッドが無事であるのもその結界が理由だろう。

 

(……生大刀を持ってきて良かった)

 

若葉は抗神者ではないから、詳しい事は分からないが———結界は、ある程度遮断する対象を決められるらしい。予め通過できるものとできないものを設定しておく事で、味方を通して敵を阻んだり、敵の爆音攻撃を防いだ状態で結界の外の味方と会話をすることもできるのだそうだ。

そして、この結界はおそらく神崎レナが作ったもの。……であるならば、まず間違いなく外の音を遮断する設定をしている事だろう。

 

 

(しかし、本当に呑気に眠っている。…………なんか腹が立ってきたな)

 

なにせ、今日は朝早くから大変だったのだ。

朝の4時に勇者全員と抗神者達が緊急招集され、神崎翼と神崎レナを除く全員が集結。2人を待つことなく、即座に不審者が丸亀城に侵入した事を告げられ、かと思いきや大きな爆発音。爆発物を持ち込んだ不審者は勇者によって呆気なく捕まり、大社本部の職員に引き渡した時点で朝の5時半過ぎになっていた。

 

———そして今は朝の6時過ぎ。結局やって来なかった翼とレナの様子を見るべく翼の部屋に入り、現在に至る。

 

爆発物が複数箇所に投げ込まれた事は把握していた。しかしよもや、抗神者の中でもトップクラスに位置する2人の寝床にも投げ込まれ———しかも、当の被害者である2人はそれに気づきもしていないとは。寝不足の若葉は、この光景に物凄くイライラしていた。

 

 

(流石に、結界を壊せば起きるだろう)

 

今日は日曜日だ。だから、本当ならば早起きする必要はない。しかし、別に早起きをしてもバチは当たらない筈だ。

そう自分に言い聞かせ、若葉は生大刀を振るう———

 

「ッ⁉︎」

 

 

———直前、若葉は慌ててその場から退いた。その直後、若葉のいた場所に5本のナイフが突き刺さる。

 

 

「……いきなり何をする?」

 

若葉は冷や汗を掻きながら、背後を振り返る。———そこには、ナイフを放った下手人がいた。

 

 

「それはこちらの台詞ですよ。余計な事をしないで下さい。辺り一面を消し炭にするつもりですか?」

 

下手人———新村アリサは、サファイアの双眸をより冷たくして若葉を睨む。

彼女の固有能力の一つである、空間操作。それを利用してこの部屋の前にまで瞬時に移動し、ナイフを若葉のいた位置に飛ばしたのだ。勇者でなければ———否、若葉のように特に勘の鋭い勇者でなければ、それだけで殺してしまっていたであろう攻撃。それを躊躇なく行った少女は、しかし悪びれもせず———むしろ若葉を咎める口調で———言い放った。

 

 

「……少し、いえ、だいぶ……序列4位を舐めすぎじゃないですか?」

 

「……どういう意味だ?」

 

 

———否、咎める口調どころか、それは軽蔑だった。呆れた、というよりは「信じられない」とでも言いたげな顔。だがその顔は、すぐに納得へと変わる。

 

「ああ、そうでした。あなた、まだ序列4位……レナさんと過ごし始めて日が浅いんでしたね」

 

勇者と抗神者は、数ヶ月前までは別の場所で教育を受けていた。それは勇者と抗神者の根本的な能力の違いが主な理由であるが、その能力の違いが表れにくい純粋な戦闘訓練や座学においては場所を変える必要はない。故に、カリキュラムが共通となってからは、抗神者達の何人かは勇者と同じ大社で教育を受けていたのだ。

 

———しかしそれでも、勇者と抗神者で認識の違いがあるのは否めない。

 

 

「レナさんが過保護なのは知っているつもりだ。……でも、流石に結界を壊したくらいで暴れたりはしないんじゃないか?」

 

 

若葉を始めとする勇者達の、神崎レナへの認識は『完璧超人』だ。

座学でも戦闘訓練でも、およそ隙が見当たらない。唯一の欠点があるとすればブラザーコンプレックスが目立つところだが、それも『愛すべき個性』と勇者達は思っている。

 

———しかし、抗神者達の神崎レナに対する認識は異なる。

 

「甘い。あまりにも甘いと言わざるを得ません。彼女は地雷のようなものです、うっかり踏むと本当に死にますよ……」

 

一番怒らせてはならない抗神者、それが神崎レナに対する抗神者達の印象だ。

神崎レナは最強の一角。特に近接戦闘においては他の追随を許さない、などと評価されているが———それが彼女の本質でない事を、抗神者達は知っている。

 

 

「……それはおよそ半年前の話です。戦闘狂で有名な、序列6位が、あろう事か挑発のためだけに、序列1位と共に眠っていたベッドを守る結界を壊しました。ああ、ちょうど今の若葉さんと同じ状況でしたね」

 

「…………」

 

あまりにも神妙な口調に、若葉は口を挟めない。

 

「もったいぶらずに結論を言うと———死にかけました、文字通り。結界が壊れたその瞬間、レナさんは寝ぼけたまま——ひっ……」

 

途中で口を止める新村アリサ。彼女は青い双眸を見開き、見てはならないものを見たような顔をした。

 

「何やら随分と、面白いお話をしているようですが。………不愉快なので、やめて頂けませんか?」

 

 

———少し困ったような口調。若葉は彼女の声を、そう認識した。

 

———少し不機嫌。アリサは彼女の感情を、そう解釈した。

 

 

少し不機嫌であるならば、最善の手はただ一つ。

 

「失礼しましたッ!」

 

逃亡。これ以上機嫌を損ねない為にも、それしかない。

新村アリサが空間転移で赤坂悠斗の元へ飛んだ後、そこに残るのは、若葉とレナの何やら気まずい雰囲気と、未だに呑気に眠る少年の寝息の音だけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

———人々から恐れられ、避けられる抗神者。中には世間での評価など気にしない図太い神経の持ち主もいるが、大半の抗神者はこの状況に少なからず心を痛め、ストレスを溜めている。

 

………しかし、ストレスを溜めているのは、彼らだけとは限らない。

 

 

 

「はあぁぁぁああぁああッ‼︎」

 

———そしてここに、ストレスを必死に発散しようとしている勇者が1人。

 

 

「ぐんちゃーんっ!そろそろ休憩しないのー?」

 

「待って、もう少しッ」

 

勇者姿の少女———郡千景は、的代わりの丸太を大鎌で斬り裂きつつ、高嶋友奈の問いに答える。……その胸中にあるのは、ジリジリと鉄板を焦がすような焦燥。

 

(……こんな力じゃ、全然足りないッ)

 

恐怖はもう乗り越えた。それでも、無力感はなくならない。

 

 

 

 

 

『……生まれ変わったら、また友達になれるかな…?』

 

『……そうね。……できるなら、また、高嶋…さん、と、一緒に……』

 

 

 

 

(……あんな終わりを、繰り返しちゃいけない)

 

千景は全てを思い出した。若葉に嫉妬し、勇者の力を以って樹海で彼女に斬りかかった事。そのせいで勇者の力を失い、若葉はバーテックスにやられ、友奈は千景と共に無残な結末を迎え、世界は滅びる。

 

(……私が弱かったから)

 

力が無かった。心も弱かった。だから、あんな悲劇を引き起こした。

 

(でも、私には『2回目』がある。そして、翼君達抗神者の力もある。……今度こそ、私はッ)

 

その為に、彼女はひたすら修練を積む。

技能は記憶と共に取り戻した。やる気も十分。戦力は『前回』よりも遥かに多く、何よりも千景の『覚悟』が違う。だから今度こそ、同じ過ちは繰り返さないと彼女は決意した。

 

 

 

 

———よもや、天の神側が想像を絶するまでに強くなっているとは、思いもせずに。

 

 

 














ぐんちゃん
逆行チート?やったわ高嶋さん!この戦い、私達の勝利よ!(なお難易度)
回想は結城玲奈のプロローグで、どうぞ。



赤坂悠斗
序列2位。痛々しいポエムを手記に書くくらいには痛々しい人。イタタタ。





現在開示可能な情報

抗神者は、各々二つの固有能力を持つ。この固有能力はそれぞれのパーソナリティに基づく能力である為、基本的に重複する事はあり得ない。
序列の高い者ほど固有能力が強大である事から、固有能力が序列の評価に大きく関わる事は間違いない。
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