結城玲奈は勇者である~友奈ガチ勢の日常~   作:“人”

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感想・お気に入り登録、ありがとうございます!大変長らくお待たせ致しました。……二ヶ月って早いですね。

ゆゆゆいで新しく『UR』なるレアリティが出ると聞いて絶望。




……長い事悩んだけど結局勇者達出せなかった。


西暦2019年 5月 “抗神者達の日常”

———奇跡、というものを信じる人は、世界にどのくらいいるのでしょう?

 

私は奇しくも、奇跡を二度も経験している。

———一度目は、悠斗さんと出会った事。そして二度目は、悠斗さんに治してもらった事。

 

薬物で壊れた私の脳細胞も、ボロボロになっていた身体の中身も、注射針の痕でさえ一切痕跡を残す事なく治してくれた。

 

みんな、バーテックスが襲来した事を嘆いています。死んだ人も多い。人類は滅亡一歩手前の状態で、なんとかギリギリ踏みとどまっているような状態です。天恐という、精神疾患に苦しむ人も多いと聞きます。

 

———でもごめんなさい。私はバーテックスなんかより、人間の方が怖い。

 

だから、バーテックスが襲来して、悠斗さんが抗神者になった事は、私にとっては奇跡でしかないんです。人間は誰も助けてくれなかったけど、悠斗さんはいつでも私を助けてくれたから。

…………悠斗さんが望むのなら、天の神側に寝返るのも良いのかもしれません。あの人がいれば、私はどんな所でだって生きていけますし、彼の側ほど心が安らぐ場所なんてないんですから。

 

———この思考も、色々なことを考えた上での事です。

 

悠斗さんと序列一位さえいれば、衣食住に困る事はあり得ません。だから、天の神によって滅ぼされてしまった場所でも、少人数なら生きていけると思うんです。

 

———今の人類を見捨てて、抗神者達だけが『新人類』として命を繋いで生きていく。そんな世界も、面白いでしょうね。

 

 

 

 

 

 

(抗神者 序列3位 新村アリサの日記より)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

神崎翼は、自身の体内時計に従って目を覚ました。そして隣に愛する姉がいない事を訝しみ、

 

「……ふむ、なるほど。………………余計な事をしやがって」

 

部屋に残された神威の残滓から、おおよそ起きた出来事を推察して舌打ちした。

 

部屋に残っている神威のうち、最も大きい痕跡は抗神者序列3位、新村アリサのもの。そしてその次に大きな神威の痕跡は宿敵———もとい、引っ掻き回し役の乃木若葉の持つ生大刀、そして僅かにレナの神威が残っている。そしてその3人の性格や人間関係を背景に考えれば、自ずと答えは見えてくる。……すなわち、若葉が余計な事をしようとしてアリサに止められたものの、レナが起きてしまったのであろうという答えが。

 

 

(……こっちは少しでもレナに眠ってもらいたくて陰ながら色々やってるってのに、バカが)

 

神崎翼は、見た目だけは可愛らしい女子高生………に見える、男子高校生である。

抗神者というよく分からない超人になったり、情勢の変化で愛する姉の負担が増えていたり、挙げ句の果てには人類に嫌悪されながらもバーテックスに立ち向かわなければならない立場になったりした結果、以前よりも性格が悪くなった。

 

———その結果、図太くなったお陰でマイペースさに磨きが掛かったのは彼にとって果たして良かった事なのか。それは誰にも分からない。

 

しかしそれはそれとして、ストレスを全く感じない、というわけでもない。

彼は身近な人間に危害が加わらなければそれで良いと思っている。つまり、身近な人間に負担が掛かっている事を良しとしない。そして彼の周りで一番負担が掛かっているのは、まず間違いなく神崎レナだ。何せ他の抗神者達と同じように教育を受けているかと思えば、秘密裏に大社に依頼された仕事を夜中にこなしたりしている。本人は皆に気付かれていないとでも思っているのだろうが、この一年でシスコン度合いが深刻なレベルに到達した翼にはバレバレだった。

 

……だが、知られたくないというのならば仕方ない。ならばこちらも悟られないよう、可能な範囲で手を尽くすのみである。

例えば、シャンプーやボディーソープの香りをレナのリラックスできるものに変える。

例えば、レナに回るであろうタスクを、本人に知られる前に片付ける。

例えば、レナに付き纏うストーカーを秘密裏に処理する。

 

他にも、レナが潜り込んでくるベッドをより高いものにしたし、布団もシーツも、通気性の高い、品質の良い物に変えた。要するに、これはレナが密に接触してくる際、彼女に僅かな不快感も感じさせまいとする彼なりの努力だった。

 

———もっとも、できることといえばその程度なのだが。

 

彼はいつも考える。『レナに対し、自分ができる事は何か』、と。

当たり前の事だが、優秀な人間ほど、求める『手助け』のハードルも高くなる。大抵の問題は解決してしまえるから、他者に助けを求める時に直面している問題もそれ相応に難しい場合が多い。特に、『本人に悟られないように』という条件がつくと、その難易度は一気に跳ね上がる。

………レナ本人がそれを求めているのかは別として、『愛する姉の役に立てない』というのが彼の最近の悩みだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

抗神者。それは、神の力に目覚めた者たち。

勇者は『無垢な少女』という条件があるが、抗神者にはそれがない。抗神者扱いされない異能力者も含めて、性別も年齢もバラバラ。しかし、それに『偏り』がないわけでは決してない。

 

例えば、抗神者達の中でも特に力の強い者達は、十代の少年少女が多い。特に序列10位以上は、その全員が高校生。11位が20歳の大学生、12位が中学生と続くため、単純に年齢が若ければ抗神者としての力が強くなるわけではないと思われるが、統計的に若い方が強力な抗神者として目覚めるのは確かだ。

付け加えるのなら、抗神者は勇者達とは違いその各々が独自の能力を身につけている。その能力は大抵その抗神者の個性に準ずるものであり、攻撃的な能力を持つ者は攻撃的な性格をしている者が多い。……故に。

 

 

「はっはーッ‼︎」

 

「ぶち殺すッ‼︎」

 

 

……授業中に突如乱闘が始まるのも、そう珍しいことではない。

喧嘩を吹っかけたのは、戦闘狂として知られる序列6位、天童綾音。喧嘩を吹っかけられたのは、序列5位、工藤雷姫。

稲妻が迸り、烈風が吹き荒れる。「ヒイイィッ」と哀れな大社所属の講師が悲鳴を上げながら教室を退室し、愉快なバトルに興じる2人は窓ガラスを割りながら外へ飛び出す。———その直後に戦闘が激化し、雷鳴と風音が轟き、衝撃波が伝播した。

 

 

「いつもいつもいつもッ‼︎授業の邪魔ばっかりしてッ!今日こそぶち殺して灰にしてやるッ‼︎」

 

「Wonderful!やってみろっ。あははっ!」

 

 

1年前ならば決してあり得なかった大喧嘩。抗神者になるとともに起こった人格の変質は、かつての人間関係を歪めるばかりか、周囲を危険に晒す激突を度々引き起こす。

神崎レナを始めとする抗神者達は、それを止めない。止めても無駄、という以前に、この争いが普段のストレスの捌け口になっている事を彼らはよく理解していた。

 

「……にしても、ストレスの解消の仕方、暴れる以外にないのか?これだから脳筋は……」

 

そう呟くのは、序列2位の赤坂悠斗。一見チャラく見える外見の彼だが、本人の気質はインドア派。体を動かすのが嫌いなわけではないが、自分から率先して外に出るタイプではない。そんな彼からすれば、たとえ健康的だと感じていても、ストレスの発散を『暴れる』以外にしないというのはなんとも不自由に感じた。

 

「いいんじゃないですか?やり過ぎなければ。神装を出さなければ、そうそう悲惨なことには———」

 

「出してるぞ」

 

「……えっ」

 

新村アリサの言葉を遮り、悠斗は窓の外を指差す。———そこには、空中で壮大に飛び回りながら大剣を振り回す雷姫と槍を振りかざす綾音の姿が。

 

神装。正しくは神威武装。固有能力同様、抗神者のパーソナリティによって異なる、高密度の神威によって形成された武装。それを出すという事は、すなわち本気の本気。周りの被害を一切顧みず、全身全霊で相手を叩き潰す腹積もりだ。

 

 

———そう、周りの被害を顧みず。

 

その『周り』には、多くのものが含まれていた。大社が利用している丸亀城、そこで働く大社職員、そして言わずもがな、人類の希望たる勇者達。その者達を顧みずに、『彼』の前で暴れればどうなるか。それを知らない抗神者はいない。

 

 

 

———まずは、『ズダン』、という轟音と共に空中に舞っていた綾音が叩き落とされた。地面に激突した際に比喩でも誇張でもなくクレーターが出来上がり、彼女の身体は真っ逆さまの状態で頭から腰まで土に埋まっていた。スカートが重力に従って捲れ下がり、下着が晒されている光景はなんともシュールだが、それを笑っていられるような状況ではない。

 

「ちょ、待っ……」

 

『ズバコン』、という鈍い音。

 

 

———続いて、雷姫が叩き落とされた。うつ伏せの状態で地面に埋まっている彼女は、さながら手形を取る時の人の手に似ていた。うつ伏せであるが故にスカートが捲れていない点においては綾音よりもマシだが、綾音も雷姫も顔が埋まっている事に変わりはない。……すなわち、このまま放置すれば窒息死ルートまっしぐら、だが。

 

 

「高位の抗神者だから、3時間くらいは大丈夫だろ」

 

少女2人を文字通り地に沈めた少女のような少年、神崎翼は、罪悪感を感じる事もなくそれを放置。何の感慨もなくスタスタと教室へと戻ってしまう。

 

因果応報。周囲に気を配らなかったからこそ、2人の少女は配慮の対象外となった。抗神者達の中でも特に親しい相手にしては、あまりにも冷たい仕打ち。あるいはそれも、抗神者になった事による精神面への影響か。

 

 

(……そもそも、どうしてこんな極端になったのでしょう?)

 

教室の外の惨状を見ながら、レナは疑問を抱く。

抗神者の中で最も精神面への影響が少ない者の1人、それが神崎レナだ。彼女からすれば、神崎翼や工藤雷姫といった既知の人間の変貌は、豹変と呼ぶべきものだった。

 

———まず、最も親しい相手である神崎翼。

 

彼は、極端になった。マイペースさに磨きがかかるのは序の口。好きな相手と嫌いな相手に対する態度の激化から始まり、相手の行動に対するアクションも過激化しつつある。友好には利を、敵対には害を。それを彼は、分かりやすい形で示す。

……例えば、工藤雷姫と天童綾音の争いに容赦なく制裁を加えたように。

 

 

———次に、工藤雷姫。彼女は、遠慮をしなくなった。

捉え方によっては、それは良い事だ。なにせ、これまで本心を出して来なかった彼女が、曲がりなりにも感情を露わにするようになったのだから。

……だが、それも度が過ぎている。

 

なにせ、授業中にちょっかいを出されただけで爆発する始末。抗神者達の中で最も『乗せられやすい』からこそ、天童綾音の標的にされるのだから。

 

 

———そして、天童綾音。彼女は、『壊れた』。

彼女の固有能力、『加虐者』。『攻撃すればする程、抗神者としての基礎能力が向上する』という出鱈目な効果を持つこの能力は、彼女の本来の素顔、暴力性にブーストを掛け、暴走を招く。さらに、星宮和希を失う事となった元凶———バーテックスに対する憎悪が、彼女の精神を歪め、破壊していた。彼女の頭にあるのは、『いかに強くなるか』『どれだけのバーテックスを殺し尽くすか』の二つのみだ。辛うじて今はまだ正気をギリギリ保って丸亀城に『縛りつけている』ものの、いつ四国を飛び出してバーテックスの群れに突っ込むか分からないような状態。

 

今更語るまでもないが、抗神者の力は精神状態に大きく左右される。そしてそれは、憎悪に支配されている天童綾音も例外ではない。頭に多少血が上っている程度ならば問題はないだろうが、それが度を過ぎると自身の霊体を壊す要因になる。そして霊体を損傷して身体がうまく動かなくなれば、自身の悪感情が憎悪だけでなく『無力感』までもが追加されて終わり。呆気なくバーテックスに喰い殺される事だろう。

 

ベストコンディションになる精神状態は、個人によって異なる。しかし、『最も優れている状態』ではなく、『最も安定している状態』が平常心を保っている状態である事は、全ての抗神者に共通している。故にこそ、『抗神者の生存率を上げる』という点と、『抗神者を手懐けやすくする』という点で、教育の場を提供する大社の行いは間違っていない。間違ってはいないが、抗神者を御しきれていないのが現状だった。

 

———そしてそんな惨状の中で、最も精神面に変化が少ないと言われている神崎レナ。確かに彼女は、抗神者になる以前と大した違いは無いように思われる。

しかし、『何か』が足りないと彼女は常々思っていた。ただの人間の頃には確かにあって、しかし今では失くしてしまったもの。……それがなんなのか、その疑問に対する答えは全く出てこなかった。

 

———それがとても、気持ち悪い。

 

だが、自身の異変に気がついている分、他の抗神者達よりはマシなのだと彼女は思っていた。

 

 







神崎翼
容赦のないシスコン。空中で戦う少女を掌で叩き落すその姿は、まるでハエ叩きで羽虫を落とすベテラン主婦の如し。
勇者は大体好き。



工藤雷姫
授業邪魔されてプッツン。自分も暴れ周り、他の教室にいる勇者達の授業を妨害。


天童綾音
暴れたくて仕方ない人。……実はこれでも我慢している方。



ぐんちゃん

出番の無かった人。このまま抗神者2人の喧嘩が続いていたら、色々大変な事になっていたかもしれない。






現在公開可能な情報

『神装』
神威武装。高密度の神威によって形成された武装。あるいは、『そこにある物体と錯覚する程にまで高められた神威エネルギーが武器の形を成すように集中している』と表現すべきか。

個々人によってその形状や能力は大きく異なる。固有能力とは違い、その数さえも抗神者によって差がある。
なお、序列1位はその性質上、神装の個数をカウントする事は不可能。

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