今回の話の時系列は中学入学前。当然、オリジナル設定盛り盛りでございます。
「友奈、誕生日おめでとう!」
「ありがとう、玲奈ちゃん!」
3月21日は何を隠そう、我が妹友奈の誕生日だ。この日は毎年、豪華なパーティを行なっている。結城家に養ってもらっている身分のため、高いプレゼントを買ったりする事はできないけれど、その代わり安くとも心のこもった手作りの物は渡すことができる。
「これ、プレゼントね」
「開けても良い?」
「もちろん」
ふふふ、喜ぶが良い我が愛しき妹よ。私がこの日の為に1週間かけて作り上げた至高の逸品を!
「…か、可愛い!ありがとう、玲奈ちゃんっ!」
「ふわぁ……」
友奈が私に抱きついてくる。
……その笑顔に、そしてその感触に私は一瞬昇天しかけた。冗談抜きで心臓が一瞬だけ、だが確実に止まった。そこまで喜んでもらえるなら、頑張った甲斐があったというもの。『ここで死んだら一生を友奈の腕の中で終えられる』という自分でもかなり危険極まりないと分かるくらいの邪な考えが浮かんだが、頑張って振り払った。友奈の誕生日を、私の血で汚すわけにはいかない。
私が作ったプレゼントは、桜の花柄を入れた薄桃色のくつ下。周りからは見えないように、足裏に『結城友奈』と刺繍してあるのがポイントだ。
中学校に上がったら普段は地味な色の物しか履けなくなってしまうので、あまり必要性はないかもしれないけど。それでも、贈りたかった。私の為に、泥でくつ下を一足駄目にしてしまっているのを知っているから尚更。
父と母は今日はいない。今朝、仕事で出張に出掛けてしまった。
「さて、お昼ご飯は何にするの?味見と監視役は任せて!」
張り切る友奈。現在は午前11時。普段なら今から昼食を作り始めるところだけど、残念ながら食事は既に用意してある。
「心配しなくても、もう作ってあるわ。サプライズよ」
「ッ⁉︎」
友奈が、驚いた表情のまま固まる。……なにか、おかしな事でもあったのかしら?
「れ、玲奈ちゃん怪我してない⁉︎大丈夫⁉︎味見はどうしたの⁉︎」
……なるほど。確かにこの流れだと、私が一人で食事を作ったように思える。きちんと説明して、安心させてあげないと。
「大丈夫よ。ちゃんと昨夜、お母さんに見てもらいながら作ったから。味見も大丈夫。お母さんがしてくれたわ」
それを聞いて、ホッとため息をつく友奈。当然だ。私が友奈の為に、中途半端な食事を作る事はない。やるからには徹底的に。材料、調味料各種はキッチリ分量を計測し、レシピ通りにカッチリ作る。そして最後に味の分かる人に少しだけ食べてもらって、OKが出れば終了!
冷蔵庫から、昨夜のうちに作った二人分の食事を出す。今の時代は良い。冷蔵庫と電子レンジという文明の利器のおかげで、気軽に作り置きができるようになったのだから。
「でも、具はともかく麺はまだだから……」
「分かった!茹でるねっ」
「……誕生日なんだし、私がやるわ。友奈は、火を見てて」
「はーい」
昼食はかけうどん。茹でた麺にレンジで温めたつゆをかけて出来上がり。その次は毎年恒例の写真撮影だ。両親がいないから二人きりになってしまうけど、たまにはこういうのも悪くない。
三脚に乗せたデジタルカメラの電源を入れ、タイマーをセットする。これは昼の分。友奈の誕生日がこの時期のおかげで、パーティは毎年必ず春休み。故に昼も夜も好きな食事にできるし、写真も昼と夜両方撮ることができる。夜は部屋の明かりを消して、ケーキのロウソクだけを光源に、幻想的な写真が撮れるのだ。故に昼間の分は『普通の記念写真』として残しておくのである。
「お誕生日おめでとう、友奈ちゃん」
最近引っ越してきた隣人、東郷美森が訪ねてきたのは午後3時を回った頃だった。手には花束。出会ったばかりだというのに、もう友奈とこんなに仲良くなっているらしい。
「ごめんなさい、脚の検査と家の事情で……これからまた出掛けなければいけないの」
「ううん、気にしないで!忙しいのに、プレゼントありがとう!」
隣人、東郷美森は脚が不自由である。なんでも事故の後遺症らしいけど、詳しい事は聞いていない。彼女は花束を友奈に渡した後、玄関先で数分だけ友奈と会話してすぐに立ち去る、瞬間。
———友奈ちゃんの写真の取引、よろしくね。
———了解。対価は音声データで。
私と目線だけでやり取りをした後、東郷は満足そうに微笑んで出て行った。
「Happy birthday, to you. Happy birthday, to you. Happy birthday dear 友奈〜♪ Happy birthday to you♪」
歌を終えた後、友奈がロウソクの火を消して部屋が真っ暗になった。
「おめでとうっ!」
「ありがとう!」
写真は歌の前に撮ってある。これで新たにコレクションが増えてしまった。
夕飯も当然、昨日の内に作ったもの。ケーキを食べる為に夕飯そのものの量は少なく、しかし贅沢にした。
「すごいね、どうやって作ったの⁉︎」
「……企業秘密よ」
素直に作り方を教えてしまいそうになるのを堪える。友奈に教えてしまったら、「私が友奈に作る」意義が薄れてしまうように思ったからだ。
食卓に並ぶのは、ローストビーフ、生ハムサラダ、ミネストローネ。そしてパン屋さんで購入したパンを2個ずつ。食後にはバースデーケーキ。
「いただきまーす!」
「……いただきます」
美味しそうに食べる友奈を見て、内心ホッとため息を吐く。……今年も大成功。去年とは違って楽しみは減ってしまっているし、以前と同じように料理が作れているかは分からないけれど、その不足を補って余りある満足を友奈の笑顔から得ることができた。
1日の終わりは早い。それが楽しい時間なら尚更。あっという間に就寝の時間がやってきた。友奈は先程「おやすみ」と挨拶をして、すぐに眠ってしまった。もし今からこっそり友奈の部屋に忍び込んだら、きっと可愛い寝顔で寝息を立てる尊い写真が撮れる事だろう。
———では私は何をしているのかと言うと。
「……ふふふ、ゲット」
東郷とメールで取引をしていた。これで私は友奈が東郷に話しかける音声データを入手できたし、東郷は今日の記念写真を見ることができる。まさしくwin-winの関係。
これで友奈も、12歳。来月からは、中学という新しい環境で生活することになる。
———ああ、生活が。そして明日が。未来が、こんなにも楽しみになる日が来るなんて。
何度言ったか分からないこの言葉。今の私の幸福は、全て友奈がくれたものだ。その事に愛と感謝を噛み締めつつ、いつものように友奈の今日の様子を日記に書き込んで。
「おやすみなさい」
私は、明かりを消して眠りについた。
番外編なのに伏線を仕込むスタイル。
神樹の恵みを取っておいて本当に良かった…。
友奈ちゃん万歳!友奈ちゃん最高!友奈ちゃんよ永遠に!友奈ちゃん、もう一度映像化してくれえ!(懇願)
追記
友奈ちゃんの誕生日に浮かれるあまり、四国以外滅んでいたのを忘れてましたので、両親の海外出張はただの出張になりました。
「伏線ってこのことでは?」と深掘りして下さった方、大変申し訳ありませんでした。