「ほい、これ。 いつもありがとな本貸してくれて」
「気にしなくていいよ、僕も話題のネタが増えると嬉しいからね。 それに岬とはこういう話題じゃ話せないから」
「ま、それもそうだな」
俺は遥に借りてた二冊の本を百均で買った袋に入れて手渡しで返す。
放課後の図書館にやってくる人は余程の読書好きか提出課題がギリギリの問題児のどちらかに大きく分類されるだろう。
あ、自己紹介がまだだって?
俺は日向彼方(ひなたかなた)、どっちが苗字なのか名前なのかハッキリしない中学二年生、もう桜が舞い散った5月の図書室にに入り浸る、ごく普通の男の子だぜ。
「なぁ遥、この本ってオススメ?」
「彼方はさ、僕の評価を聞く前に実際に読んだ方がいいんじゃないの?」
「いいんだよ。 前情報は重要だし、遥は信頼してる」
「.....その本は僕もまだ読んだことないよ、だから彼方が読んで面白かったら回して」
「りょーかいっと」
俺と一緒に図書室に入り浸る、伊達眼鏡の文学少年は櫻田遥(さくらだはるか)、なんとこの国の第二王子だ。
馴れ馴れしいのは何の問題もない、昔からだし本人も敬語はやめてくれと言ってきてるからな。
この国の王様の方針で王族であるにも関わらず、城に住まわず城下町の住宅街に一軒家を構えて王家総出でお住まいになっている。
それでも高級住宅街であることには変わりないけど、学校でもこんな風に遥とは王子国民という身分関係なく仲良くさせてもらってる。
あと、ここの中学校は王立の中学校で歴代王族の皆さんの通う由緒正しく、そこそこレベルも高いところだ。
俺がここを志望した理由が家に近いからとか言ったりしたら、入学できなかった奴らに袋叩きにされそうだけど、事実なんだからしょうがない。
「あと、テレビ見たぜ。 選挙やるんだってな」
「そうなんだよ、父さんが突然言い出してビックリだよ」
–––次期国王選挙。
現国王である遥の父に当たる人物が何の前触れもなく発表したことだ。
選挙は三年後、俺が高二になる頃に行われる予定だ。
「俺遥か岬に投票しようかなぁ、他の人たちのことあんま知らないし」
「それなら岬に入れてやってくれよ、僕は王様になる気ないからさ」
「え、そうなの?」
「そうだけど?」
意外だ、こいつに野心がなかったとは。
あ、この本結構面白いぞ。 タイトルは『閻魔大王だって休みたい』か、控えておこう。
あ、ちなみに岬ってのは遥の双子の姉で一応俺らと同じ中学校に通ってる。
多分だけど、もうすぐ遥のことを探してここにやって来ると思うんだけどなぁ。
そろそろ部活も一段落つく時間だろうから。
「あ、そういや今日部室に顔出してないや」
「何やってるんだよ」
まぁ、そういう日もあるさ。
正直この時期は新入生が入ってくるから、指導とかで部室を広々と使えないからな。
正直部長たちに任せておけば大丈夫だろう。 俺が行ってもできることは特にない。
「そういえば数学の課題って明日までだったよな」
「彼方のクラスはそうなの? 僕のクラスは今日までだったよ」
「マジか〜、もう答え見れないじゃん」
「.....それ、今日岬にも言われる気がする」
–––図書室の静寂を破るように扉が勢いよく開かれる。
そこには長い髪をポニーテールにした少女、遥の姉である櫻田岬(さくらだみさき)第四王女の姿があった。
何故か仁王立ちをなさってる。
「はるかー! 帰るよー!」
「おー、岬こっちこっち! 助っ人お疲れさん!」
「あ、カナタもいたんだ!」
もう人少ないけど、図書室では静かに願います櫻田岬第四王女様。
「勝手に帰れよ、僕は彼方と読書してるんだから」
「「もー、照れちゃって」」
(.....岬と彼方ってこういう時、すごく気があうんだよなぁ)
「遥、お前ちょっとその態度は冷たくないかぁ?」
「いつも通りだよ、いつも通り!!」
「もー、照れちゃってー! 前から気になってたんだけど、その伊達眼鏡ってお洒落だったりする? 似合ってるよー!」
やれやれ、またイチャイチャし始めたよこの双子は。
こうなると俺は蚊帳の外だな、邪魔者はクールに去るぜ。
「ちょ、彼方? どこ行くの、彼方?」
「あー、ちょっと部室に忘れ物しちゃったから取りに行ってくるわー」
「さっき今日部室に顔出してないって言ってたよね!? 彼方!?」
「じゃ、岬。 俺は先に帰るよ、また今度ベルちゃんにモデル頼むよ」
「ふふ、今度は私をモデルにしてみる? なんてね、またねー!」
彼方ー!?と俺の名を呼ぶ声が聞こえるが、きっと気のせいだ。
気になった本を数冊貸出手続きを済ませ(※図書委員)図書室の扉を閉める。
お察しの通り、岬は遥のことを溺愛している。 もうお前ら結婚しちゃえよって勢いだから目に毒である。
このまま帰るのもいいけど、部室に顔出すのもいいな。
そうだな、うん。 誰もいないかもしれないけど部室に寄ってから帰ろう。
※
今日はクラスの数少ない男子達と修学旅行に必要な物品を買いに来た、といってもどうせこの後カラオケとかボウリングに行くことになるんだろうな。
男子って単純馬鹿だから仕方ないな、うん。
「おやつっていくらまでだっけ?」
「何も言ってなかったし、無難に300円まででいいんじゃね?」
「小学生かよ」
遥がいないと俺の知能指数が下がる気がする、あいつと別なクラスになったのは痛いな。
こんなところで支障がくるなんて。
「なぁ、カナタ。 岬様に前言ってたこと伝えてくれたか?」
「あほぅ、好きなら好きって自分で伝えやがれ、このヘタレ。 ていうか、ファンクラブ副会長が抜け駆けしてもいいのかよ?」
「声がデカイ!!」
「お前の方がデケーよ」
体格いいんだから、もっと堂々と正面からいけばいいのに。
「そういや、会長は相変わらずか?」
「あの人は変わらずだな! めっちゃ語り合える!」
「ホントに相変わらずだな」
遥と岬含む、王族9人のご兄弟にはそれぞれファンクラブがある。
正式なものから派生したものまで、アイドルみたく偶像的な扱いとなっているのは実は少し問題視されてたりする。 主に他国で。
うちの国の王様が王様なら王族も王族だ、あまり気にしてる節はないようだ。 実際こんな状態なのに平和だし戦争もない、とても優しい世界だ。
「また近いうちに定例会があるから、カナタにも来て欲しいとも言ってた!」
「そういうことは早く言えって」
その後、俺達男子中学生六人はカラオケで五時間歌い続けた。
※
うちの中学は何故か女子率が高い。
元女子校とかそんなこともなく、普通に女子率が異常に高い。
俺や遥がかなりレアな男子となってしまうレベルである。
そんなわけだから必然的に女子の友達は増える増える。 うちの美術部の大半も女子で構成されてるくらいなんだから、何度も言うがうちの中学は明らかに男女比がおかしい。
「日向君、どうしたの?」
「綾瀬さんこそ、次移動教室だぞ」
「ノート忘れたから取りに来たのよ」
「ふーん」
たしかにそろそろ移動しないと間に合わないかもな。
次は第二理科室だったか、となると教科書とノートも必要になってくるな。
「あ、そういやノート岬に貸してたんだった」
ベルちゃんにデッサンモデルを頼んだ等価交換ってやつだ、わざわざ別な予定があったベルちゃんに来てもらったんだから後々になって申し訳なくなってくる。
「綾瀬さん、鍵って綾瀬さんに任せていいの?」
「いいわよー、ていうかどうせ行く場所一緒なんだから待っててよ」
「それもそうだな」
この一年で女子には慣れたつもりでいたけど、まだどっかで恥ずかしいんだろうなぁ。
綾瀬さんが鍵を閉めるのを待って、そこからは綾瀬さんと世間話をしながら第二理科室へと向かう。
「あれ、日向君ノートないんじゃない?」
「あぁ、岬に貸してるから始まる前に回収する予定」
「そうなのね、前から思ってたけど日向君って櫻田さんと仲良いよね」
「まぁ、あの二人とは幼稚園の頃からの付き合いだからな。 母さんもよくお城に行くし」
宮廷画家の母さんは王様とも面識があるし、信頼されてもいる。
小さい頃、よく城に行って遥と岬ともよく遊んだものだ。 記憶曖昧だけど。
「ちょっと、羨ましいな」
「え?」
「なんか、あそこまで仲良くできること。 日向君と話してる櫻田さん心の底から楽しそうだし」
「.....俺が特別なわけじゃないよ、綾瀬さんも積極的に行けばいいのに。 特に遥にさ」
「なんでそこで櫻田君が出てくるのよ!?」
「あれ、違った?」
それともまさかあのストーカー行為がバレてないとでも思ってるのか?
以前、偶然見つけた時に札束を握らされた時はゾッとしたね。 ていうかこのエピソード綾瀬さんとのファーストコンタクトの時じゃん。
「ねぇ、櫻田君の好きな本とかわかる?」
「遥の? そうだな、あいつたしか最近は–––」
チャイムの鳴る三分前に第二理科室に到着した、岬と同じ班で助かった。
さすがに女子トーク割ってノート返してなんて言う勇気俺にはとてもない。
「カナタギリギリじゃん! どうしたの?」
「課題片付けてた、あと岬ノート返してくれ」
「あ、そうだった! はい、ありがとうね、助かった!」
「それはどうも」
「いえーい!」
「いえーい」
ハイタッチを求められては、返すしかない。 何のハイタッチかはよくわからないけど、まだ休み時間だから大きな音を出しても特に問題はない。
「そういや、遥と喧嘩したんだって?」
「そうなのよー、聞いてよー! 遥ってばさー!」
こいつらホントによく喧嘩するよな。
昨日メールが来たときは思わず頭を抱えてしまったよ、今月で何回目だってんだ。
チャイムが鳴るまで岬の愚痴を聞き続けたが、まだ愚痴り足りないらしく放課後カフェに行く約束をしてしまった。 どうやら遥は放置して行くらしい。
「–––って、それって岬が勝手にいじけただけなんじゃねぇの?」
「その言い方は酷くない!? 間違ってないんだけどさー!!」
結論から言うと、今回は喧嘩ではなかったらしい。
岬が勝手に自己嫌悪に陥って、勝手に自爆しただけという話だった。 明日あたりに遥から愚痴られる予感しかしない、カフェに来る金足りるかな。
「でも、解決したんだったらいいんじゃないの?」
「.....そうなんだけどさぁ、カナタはないの? こう、自分が普通すぎて嫌になるってこと」
「俺からしたら、岬は普通じゃないぞ」
「え!?」
「分裂する人間をとても普通とは俺は言いたくない」
何もそんな驚いた顔しなくてもいいだろ。
王族には特殊能力というものが備わっている、それが王族の証であり王家である証明となる。
岬の能力は計七人の分身を生み出すことのできる[感情分裂(オールフォーワン)]
ちなみに遥はあらゆる確率を叩き出す[確率予知(ロッツオブネクスト)]
こんな能力者が十人も現在の王家にはいるんだから、中々恐ろしい。
万が一空き巣とか入ったら、俺は間違いなく犯人を憐れむことだろう。
「でも、劣等感を感じることはあるかな」
「え?」
「母さんって壁がデカすぎてさ、俺の絵なんてまだまだ、正直描かなくてもいいんじゃないかって思えることもある」
将来は宮廷画家になるもありだし、フリーのイラストレーターとして稼ぐのもありだと考えてる。
けど、今の技術では圧倒的に足りない。 母さんは俺くらいの歳の頃には既に著名な画家として歩みだしていた、それに比べて俺はちっぽけだと何度悩まされたことか。
「でも、さ」
「–––俺は俺なんだよ。 俺は母さんと同じ人生は歩めない、それは母さんだって同じことだ。 俺には俺にしか描けない人生を描くって決めたんだよ」
母さんは俺くらいの年齢の頃には既に宮廷画家としてスカウトされてた。
そんなことは関係ない、他人の人生なんだ。 俺は俺にしか描けないモノがある。
だから、次の展覧会では賞を取って芸術の都に行く。
「だからさ、岬には岬にしか歩めない人生を歩むべきだよ」
「カナタ.....」
「.....ちょっと調子乗りすぎたかもな、恥ずかしい」
冷静に思い返したら普通に恥ずかしい。 コーヒーが来ててよかった、めっちゃ苦い。
「–––ぷっ、あっはっはっはっはっ、何それ! キリってしたと思ったら顔真っ赤にしてさ!」
「う、うるせぇ!」
「はは、でもありがとうカナタ! 私頑張ってみる!」
いくらなんでも笑いすぎじゃありませんかね!?
「.....あんまり喧嘩するなよ、俺は二人には仲良くしてて欲しいんだからさ」
–––そうしないと俺の小遣いが消える。
後日、やはり遥に呼び出されカフェで岬の愚痴を聞かされたことは言うまでもあるまい。
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