一歩前に進む事は容易い。
だが、さて。
一歩ずつ前に進み続ける事は容易いのだろうか。
好きな道ならば進み続けることも苦ではない。
けれど、嫌いなことや報われない事がわかっているのなら―――――
「ふぅ、あー汗気持ちわりー」
燦々と照りつける太陽の下。
丁寧に舗装されているグラウンドにある物陰に座り込む。
暑い。全くもって暑すぎる。
地は太陽の熱に灼かれ蜃気楼すら見えている。
そんな中相変わらずの部活。
休憩を挟んでいない陸上部員は熱心に大会に向けて焼き付いているグラウンドを走っている。
自分も先程まであそこで走り回っていたのだと自覚すると余計に暑苦しくなった。
何にせよ今はクールダウン中。
ドリンクを適度に飲みつつタオルで顔や首元の汗を拭う。
「・・・・・・疲れたな」
汗まみれになったタオルをおいて無意識につぶやいた。
特に何か意味がある言葉ではない。
本当に無意識無自覚に口から出た言葉だ。
だが無意識にでも出るということは、それが本音という事でもある。
一瞬、もう明日からサボろうかと思った。
やはりこんな熱血スポーツは自分には向いていない。
疲れるし、汗臭くなるし、遊ぶ時間だって夜しかない。
そのくせ自分は過去の行いのせいで大会に出ることもできない。
やる意味がないじゃん。
そうやって自分に言い訳を聴かせる。
「梓ちゃん、お疲れ様」
「うわっ!?」
「おっと、ごめん。いきなり後ろからだったから驚かせちゃったね」
ボケっとしていたら長谷センパイの声が突然背後から聞こえた。
完全な不意打ちだったため、まるで野良猫のように過剰な反応をしてしまった。
慌ててセンパイの方に振り向く。
センパイはというと、特に気にした様子もなくニコニコと相変わらず人の良さそうな空気を出しながら立っていた。
「センパイ。ここ部外者は立ち入り禁止っすよ」
「大丈夫、一応学園や部活の先生にも許可とってあるから」
「コーチはともかく学園にまで許可とったんだ」
どういう理由と建前で許可を取れたのか少し気になる。
だがまぁ、それを聞き出すのもヤボな気がしたのでそこは触れないほうがいいか。
「はい、替えのタオル」
「あ、ども」
手持ちの鞄から真新しい未使用のタオルを取り出すセンパイ。
それをこちらに手渡してきた。
わざわざマネージャーのような事をする人である。
いや、この人ならマネージャーは天職な気がするけど。
それを受け取り、何度も使った汗の臭いや湿気を帯びたタオルを脇に置く。
「それ俺が洗っておくよ。
梓ちゃん帰るのいつも夕方すぎるし、洗濯も面倒でしょ?」
「お断りでござる!」
汗のせいで化粧も意味がないため今はほぼすっぴん。
それだけでもギャルな自分的に少し恥ずかしいというのに、
この汗吸いまくったタオルまで渡すとか有り得ない。
臭いとかセンパイは絶対に言わないだろうが、頭の中で思うかもしれない。
いや、センパイならばそれでも嫌な顔もしないだろう。
むしろ嫌だという感情すら持たないかもしれない。
しかしやっぱりこっちとしては恥ずかしい。
「そっか。でも言ってくれればいつでも洗濯とか引き受けるから」
食い下がることもなくあっさり引き下がる。
にこにこ笑いながらセンパイは隣に座った。
幸いにして今休憩しているのは自分だけ。
故に他の人間の姿は周囲にない。
二人きりである。
「皆暑い中頑張ってるね」
「あずも頑張ってましたよ」
「うん。えらいね」
「ん、えへへ」
気取る感じも、意識した感じもなくまるで自分の子供を褒めるかのように頭を撫でてきた。
褒められたり甘やかされたりするのは好きなのでいい気になる。
センパイの少し大きな手が髪を撫でる度に安心する。
ただ、嬉しさの中に一つだけ引っかかりもあった。
「でも、梓ちゃん。頑張っているけれど余り楽しそうじゃないね」
「気づかれてましたか」
よく見てくれている。
それが嬉しいと思う反面、見られていた事に羞恥心を感じた。
素直にその理由を言うべきか。
一瞬迷う。
けれど答えなど選ぶまでもなかった。
「記録、更新出来ないんですよね」
自分の出した記録は既にこの学園のトップに位置している。
今いる部員では自分の相手にならないし、学ぶべきところも日に日に少なくなってきている。
我ながら天才肌だ。
ただ、それでも越えられない壁はあるもので
自分の以前出した記録を超えられなくなっていた。
つまり過去の自分に勝てない。
「だからしょげてるんだ。
真面目なんだね、梓ちゃん」
「よしてくださいよ。ただ単に真面目に部活してんのに伸び悩んでるって事に苛立っているだけで
別にそんなんじゃありませんって」
相変わらず人のあらゆる感情を好意的に解釈する人だ。
「公式大会出られないし。
だったらもう陸上で自分が目指すのは自分の記録更新くらいしかないんですよ」
どれだけ本気で取り組んだって既に意味がない。
となれば自分は何をモチベーションにしてこんなハードな部活に打ち込めばいいのか。
宙ぶらりんな気持ちを納得させる理由が欲しかった。
勿論、陸上をして両親に恩返しする意味はある。
不良を抜け、真面目になる証明をセンパイに示す意味だってある。
だけど、乾梓という人間は現金なものでそれだけでは物足りなかった。
何かをする理由があれど、その何かで結果を出したいという欲望が出てしまうのだ。
「それで、最近陸上が楽しくないのかな?」
「楽しく無い事はないっす。
でも、どこか物足りないんですよね」
センパイは真面目に答えを選んでいるらしい。
数分、自分の返答を聞いたあと顎に手を添えて黙り込む。
自分もそれを邪魔することはせず、同じく黙って他の真面目に記録を出すために練習を繰り返す部員を見た。
彼女達はもうすぐ始まる夏の大会に向けて毎日必死だ。
だけどそれを辛いと思っているかは分からない。
でも必死さは伺える。
大会に出られない自分には無い必死さだ。
「何事も覚えたばかりの時期は楽しいものだよね」
「は?」
どうやら考えがまとまったらしい。
センパイは綴るように喋り始めた。
「ゲーム、部活、勉強。
大体の事は慣れてから、他の人たちより僅かに勝るようになったあたりが楽しいものだ」
確かにそれは心当たりがある。
ただ心当たりはあれど自分には身に覚えはない。
何せ体を動かす分野では自分は殆ど負けなしだ。
サッカーをすればプレイ中にサッカー部の技術を盗んで、盗んだ相手よりもいい動きができる。
武術をすれば稽古をつけてくれる相手の技やコツを盗んであっというまに追い越してしまう。
自他共に認める天才肌のせいでセンパイの言うことを理解は出来ても身に覚えはないのだ。
「すいません。その言葉は釈然としませんね」
「ん、そうかな?
俺はそうは思わないけど」
どういうことだろうか。
「じゃあ例えを変えよう。
何も競い合うものだけじゃない。女の子なら化粧だってそうだ。
最初、化粧のコツを覚えたあたりは楽しくなかったかい?」
・・・・・・ふむ。
確かに何となくわかる。
初めて化粧を覚えた時は驚きと楽しさがあった。
これが自分かと。
もっと可愛くなれるのかと思ってワクワクした。
センパイはあずの表情をみて納得したと思い、話を進める。
「だけどもっと上手くなろうと、もっと強くなろうと、
もっと美しくなろうと思い始めたあたりから楽しさのベクトルは変わるんだ。
最初はするだけで楽しかった事が、他人と比較したり、
勝つことや上達することを意識し始めたあたりからモチベーションは変っていく」
モチベーション。
自分は走ることは好きだ。
なんで好きなのかは理由がありすぎて説明ができない。
走った時にあたる風が好きだし、過ぎ去っていく景色も好きだ。
人より速いことを自覚できる優越感だってある。
余りにも理由がありすぎて述べられきれない。
「最初はするだけで楽しかった事なのに気がつけば点数や評価、結果の為に頑張り始めてしまう。
それは珍しい事じゃない」
つまり、勝つことが楽しい。
人よりも上回ることが楽しい。
センパイはそう言いたいのだろう。
「梓ちゃん。君もそうなんじゃないかな」
そうかもしれない。
自分は走ることが好きだ。
だから陸上部は自分にとって素晴らしい場所だ――――何て事があるはずがない。
いくら走れても誰よりも遅いのだったら何も面白くない。
どんなに速く走れても、記録を出せられないのなら何の面白みもない。
好きな事をするから楽しい。
人はそんなシンプルな精神構造をしてはいない事を理解した。
だが、ふとここで気になることがあった。
この例えはセンパイにも当てはまるのではないのかと。
「センパイも今じゃ結構喧嘩強くなりましたよね。
どうっすか、そろそろ喧嘩楽しく思えてきました?」
「いや全然全くこれっぽっちも」
「・・・・・・そっすか」
当てはまっていなかったようだ。
「でも、センパイはこれからも喧嘩するんですよね?」
「必要ならね」
自分とは違い、やりたくない事を続けているセンパイ。
だが嫌々続けているわけじゃない。
自分から望んで始め、未だ自分の意思で続けている。
対して自分の意思で始め、やりたい事として続けている自分。
なのにモチベーションは間違いなくセンパイの方が高かった。
なぜだろうか。何が違うのか。
「なんでセンパイはそんな嫌いな事を続けられるんですか。
アホらしくなったりしません?」
「しないさ。俺がした事で好きな人の夢の手助けができるのならそれは素晴らしい事だ」
だが、センパイの場合手助けされた側がそれに気づかない。
失敗しようが達成しようが誰からも感謝などなく完全なセンパイの独りよがりになる。
つまり確実に誰にも認められない行為。
だというのに何故ここまで。
「好きな人の為に何か出来る。
それだけで俺は満足だよ」
本心からなのだろう。
どうしてそこまで他人本位になれるのか。
好きな人のために嫌なことを続けられるのか。
しかもそれを好きな人本人に気づかれなくとも構わないときた。
・・・・・・何だろうか。
そんなどこか達観したセンパイの考え方が好きだ。
凄く格好いい。
「何より、俺が頑張っている事は君がわかってくれている。
だから充分だ。ありがとう梓ちゃん」
成程。
ようやく考えが纏まった。
自分はちょっと思い違いをしていたようだ。
最初から自分は親やセンパイを安心させる理由で陸上に戻った。
そして自分は走るだけで楽しいのだ。
それだけでよかった。それ以上いらなかった。
「あずはやっぱセンパイといないとダメっすね」
好きな事をして、頑張っている事はセンパイがわかってくれている。
しょっちゅう部活に来てはこうして自分の悩みだって聞いてくれている。
充分すぎるほど報われている。
人と比べる必要なんてない。
何せ自分は天才だ。
最初から比べる必要もないくらい優っているの確実。
だから大会なんて出る必要もないさ。
「梓ちゃんはしっかりしてるから俺がいなくても・・・・・・」
「しっかりなんてしてませんよ。
センパイいないとまた陸上やめてたかもしれません」
頑張ったら頑張ったぶんだけセンパイが褒めてくれるそれで良い。
「だから、ずっと傍であずが悪い道に戻らないように見張っててくださいね。センパイ」
●
「それでどうするんだ恋奈。
ヒロく・・・・・・ショウが三大天に入ったが勝てるのか?」
「アイツは三大天じゃないわよ!
例えなったとしても三大天カッコ仮よ!」
「まだそんな事を言っているのか。
この湘南で認めていないのお前だけだぞ・・・・・・」
「うっさい! なんと言われようがアイツが私と敵対なんてありえないの!」
余程ヒロ君にご執心らしい。
「別に長谷ならいいんじゃねーの恋奈様。
一応俺っちと普通にやりあえるくらい強かったんだぜ」
「そなの? あたしはショウがティアラから逃げたって話しか聞いてないシ」
「いや。ショウは元々原木狙いだったから無駄にしぶといコイツを無視して行っただけだろう。
もし俺が彼と同じシチュエーションになったのなら同じ事をする」
「なはは! 俺っちが強すぎるから諦めたあたり賢さもあるっての!」
おめでたい解釈をしているが、まぁそんな事はどうでもいい。
先日恋奈とヒロ君の一件でショウは三大天の一人として湘南中に名が知れ渡った。
元三大天のマキや現役の辻堂。
そして乾が揃ってショウを持ち上げた為に既に恋奈がどう言おうとショウはもう三大天扱いだ。
特に乾の奴が曲者で、暴走王国の追っかけに何か指示をしたらしく
決闘の翌日には既に湘南中にショウが三大天としてマキと辻堂に認められたことが知られていた。
「があああああ!
ちょっと今からショウぼこって三大天から引きずり下ろしてくる!」
「今はオフの時間だから絡んだら辻堂に殺されるぞ」
「うぐっ、畜生!」
ヒロ君の正体を知っている人間にも暗黙の了解が出来ていた。
ヒロ君が普通の私生活。
つまりショウとしてではなく一般市民の長谷大として生活しているときは絶対に不良として絡まない。
それが正体を知る人間の暗黙の了解であった。
明らかにヒロ君贔屓すぎる暗黙の了解だが、
そもそも知っている人間が暴走王国関係者と辻堂と腰越親子、俺と一条や花子、恋奈なため仕方がない。
『辻堂センパイと腰越センパーイ。ショウセンパイを倒すのならやっぱりショウとしている時じゃないと卑怯っすよね?
まさか長谷センパイとして善良平和に日常を過ごしている時に
江乃死魔とか江乃死魔とか江乃死魔とかのヤンキーが因縁付けてくるのって卑怯っすよね?
そんな事されちゃお二人が長谷センパイとのせっかくのデートの時に邪魔される可能性がげふんげふん』
『恋奈。ショウには手を出してもいいが、大に牙剥いたら殺すぞ』
『私もデート邪魔されちゃちょっとヘソ曲げちゃいそうだなぁ。
不良どもの責任者に鉄拳制裁もといクレームをしちゃいそうだなぁ』
『おいコラなんだそれ!? 私に厳しすぎというかショウに甘すぎだろ!』
なんて事があった。
何かもう完全に乾の手のひらの上な気がするが、メンツがメンツなため仕方ない。
俺としてもそれが理想な展開だったため余計な口出しはしなかった。
だが、恋奈としては不満極まりない条約だったようで。
「なんなのよ!
じゃあアイツどうやったら私の側につくわけっ?
腰越と梓と我那覇と追っかけとか明らか過剰戦力でしょうが!」
「まぁ、そうだな」
マキだけでも限りなく勝ち目が薄いというのに乾と我那覇付きだ。
しかも大将であるヒロ君も普通に強い為恋奈を更に悩ませる。
「でも、そもそも暴走王国の方からこっちに仕掛けてきたりするの?
長谷の性格じゃ有り得ない気がするシ」
恋奈と一条はうなづく。
まぁ、元々暴走王国自体が自ら喧嘩を仕掛けることはない。
勿論湘南の不良がカツアゲなどをしていた場合、そいつらの前に現れるかもしれない。
だが、単純な不良同士の抗争程度では介入もしてこないだろう。
「あれ、じゃあ放っておけば特にぶつかり合うこともなく勝手にフェードアウトするんかい?」
「いや、大が・・・・・・じゃない、長谷が何考えてるのかわかんないけど
でもそれはない気がする」
勘がいい事で。
「お前らは知らないかもしれんが、ショウは既に先日辻堂とやりあっているぞ」
「はぁ?
まだ怪我も治ってないのに?」
「ああ、お前とやり合ったあとの数日後だからな、
それはもう酷い有様だった」
「リョウはその喧嘩見たの?」
気になるらしい。
恋奈達三人が食い入るようにこちらに迫ってきた。
「まぁな。元々あの喧嘩を見ていたのは俺とマキ、乾くらいだったしな。
ちなみにどんな喧嘩内容だったかというと―――――」
『あわ、あわわわわわ!
やべぇやりすぎちまったぁ!』
『辻堂センパイやりすぎっすよ!
センパイが某龍玉みたいにコンクリート壁ブチ抜いて向こう行っちゃったじゃねーっすか!』
『まぁ、三大天になるってのはこういう事だ。
ダイも別に辻堂を責めはしねぇだろうよ』
『言ってる場合か! さっさとヒロ君回収して手当するぞ!』
こんな感じだった。
「一撃でやられたの?」
「ああ、金剛で一撃目を受け止めようとしたら辻堂の拳が思ったより重かったらしい」
「なんで死んでないシ?」
一応あの喧嘩も意味はあった。
三大天として辻堂にも明確に敵対する意思を示すための喧嘩だったのだ。
結果は散々だったようだが。
「まぁともかく。ショウも三大天としての自覚はある。
何せ辻堂とやりあうくらいだからな。
彼の素顔を知っているからといって油断していると足元を掬われるぞ」
攻めてこないと思って胡座をかいていると本当に宣戦布告しかねない。
むしろ他のチームと違って行動パターンが一切読めない分不気味なチームである。
「やだ」
「は?」
「やだやだ」
突然俯いてボソボソと何か言い出す恋奈。
一体どうしたのだろうか。
疑問に思い耳を近づけて見る。
「やだやだやだやあぁぁぁぁぁぁぁぁだあぁぁぁぁぁぁぁぁ!
大が私の足元掬うとか有り得ない!
そんなの有り得ないーーーーーー!」
「ぐ、お・・・・・・耳が」
至近距離で恋奈の大絶叫をくらった。
耳がキーンとした耳鳴りをあげる。
「あー、久々のれんにゃの駄々っ子モードだシ」
「ないないないない有り得ないってばッ!
何で私から離れていくのよぉ! わあああぁぁぁぁぁぁぁん!」
「いや、恋奈様と長谷って元から離れるとかそういう関係じゃ」
「うっさいうっさい! 何も知らないぽっぽこぴーは黙ってなさい!」
「ぽ、ぽっぽこぴーって何だっての」
「俺がしるか」
何にせよ恋奈はヒロ君にご執心らしい。
どうにもコイツはヒロ君と一緒だった記憶だけでなく、
何か嫌な記憶まで引き継いでいるらしく、ヒロ君が自分の味方でない事に怯えていた。
「おい恋奈。そういえばお前っていつからヒロく・・・・・・ショウの正体に気づいてたんだ?」
「あ、それあたしも気になるシ。
ねーねーれんにゃー、何で気づいたの?」
「あん?」
一応話は聞いてくれるらしい。
若干鼻声でぐずりながらこちらに視線を向けてきた。
「ん~、海辺で初めてあった時から長谷かなって疑ってたわよ」
「なんでだっての?」
「だって、あの梓と腰越が露骨にえこ贔屓する相手なんて長谷くらいしかいないでしょうし」
ふむ。
真実だろう。
だがちょっと気になることがあった。
俺は恋奈に近づき、こいつ一人にしか聞こえない程度のボリュームで聞くことにする。
「それだけが理由じゃないだろう?」
「う、実は初対面の時にアイツってパンツとマスクだけだったの。
それで身体つきとか黒子とか見てどっかで見た事あるなーって思って・・・・・・」
「ほうほうそれでそれで?」
「確信を得るためにデートで温泉混浴して、それで・・・・・・」
「やっぱりヒロ君とショウの身体が全く同じものだったと」
「・・・・・・はい」
まぁなんというか。
裸見て確信しましたなど他の人間に言えるはずもないか。
「このスケベが」
「す、スケっ!?」
判断基準が男の裸ってだけでスケベだろう。
「というか裸をみてヒロ君かもと気づけるお前は変態だ」
「だって何度も見たことあるし、長いと一日中裸で一緒に過ごした事だって・・・・・・
そ、そういうリョウは見た事無いの?」
黙秘する。
下ネタは俺のキャラではない。
断固として無視する。
「ははぁん。さては肌を見て大を見分ける事ができないのね」
「どうしてそうなる」
「あらあら。やっぱり絆っていうのかしら、
そういうのがどこかの鉄面皮と比べて私のほうが上回ってるって事なのよね。
だって、肌でわかるっていうのはそれだけ相手の事を知ってるって事じゃない」
コイツ、自分の変態さを棚上げしてきやがった。
変態って強い。
「まぁそりゃそうよね。
どうせリョウなんて私生活も謎ばかりで大にも隠しごとしまくってんでしょ?
そんなお方じゃ私と大のような肌見ただけで分かり合える仲になるなんてとてもとても」
「聞き捨てならないな」
こいつがさっきから低俗極まりない事を言っているのは理解しているが、
流石にここまで挑発されては引き下がれない。
総災天はちょっぴり大人気ないのだ。
「俺はヒロ君がまだ長谷の苗字でなかった頃からの付き合いだ。
それこそ尻の青いガキの頃からの腐れ縁。
彼の事ならなんだって知っている自信がある。
そこいらのカップラーメンオタクに舐められたくはない」
「カップラーメン関係ないだろうがコラァ!」
「子供の頃からしょっちゅう朝は顔を合わせ、
時には作りすぎたおかずを持っていき、食事を共にし
そして何より・・・・・・子供の頃に結婚の約束までしている」
「はいはいウソウソ。あっはっは、リョウも冗談上手くなったわねぇ。
ちょっぴり驚いたけど、余りにあざとすぎて逆に嘘くさいわよ~」
ヘラヘラ笑いながら嘘という事にしてきた。
「いや、事実だ」
「へ~どっからどこまで?」
「最初から最後まで」
「・・・・・・結婚の約束も?」
「ああ。その時にもらった指輪もあるぞ、ほら」
ポケットからガラス玉がくっついている玩具の指輪を取り出す。
流石に古いものだけあって色あせて風化している。
しかも指のサイズにも合わない。
だが、これは俺の宝物だった。
「・・・・・・」
硬直する恋奈。
「おーい。さっきからお二人共なんの話してんだい」
「あたしらも混ぜて欲しいシ」
「いや、もう話は終わりだ。
それじゃあ俺はもう帰るぞ」
「・・・・・・」
恋奈は何も言わない。
だが体の端から徐々に砂のように砕け始めていた。
色もどこか褪せている。
こんなステータス異常初めて見た。
ともあれいつまでもここにいる気もない。
俺は踵を返して拠点から出て行った。
『ド畜生があぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!
どいつもこいつも謀反かましてんじゃねぇぞクソったれえええええええ!』
虚しい勝利だった。
●
「なんでお前勉強してんの」
「受験生だからだ」
ほう、もっともだ。
「なんでお前勉強してんの」
「ダイと同じ大学行くためだ」
ほう、上手くいけばコイツがアタシの先輩になるわけか。
死んでも敬わねぇ。
「何でお前勉強してんの」
「ダイが元の時間に帰らないって言い出したからだ」
だろうな。
じゃなきゃコイツが自分から焦って勉強はじめるなんて事があろうはずがない。
ただ、何故大が帰らないって言いだしたのかは知らない。
「気になる、教えて」
「教えるのは別にいいけど勉強の邪魔すんなよな」
「あ、ああ。聞いたらすぐ帰るからさ」
腰越は嫌いだが、流石に真面目に勉強している人間を邪魔するのは違う気がする。
アポなしで来たが、大も今日は出かけているみたいだし話を聞いたら外でブラブラと大探しをしよう。
こういうアテもなく彼氏を探すってのも時間の贅沢な無駄遣いで面白い。
しかもそれで見つけることができたらそれこそ何か幸せだ。
「あれは・・・・・・この時間軸で私と再開した日の最初の夜の事だ」
腰越はシャーペンをノートに置いて、瞼を軽く手で揉んだあと
その時のことを語り始めた。
『マキえもーん、梓ちゃんから聞きましたよ。
元の時間に戻れるんですって?
すっごいなぁマキえもんは』
『あっはっは。それほどでもあるよ。
何せボクは未来に生きる猫型お姉さんだからね』
『どら猫みたいな女の子だもんねマキさん』
『女子捕まえてどら猫と来たか』
『それでそれでどんな不思議な技で戻してくれるの?』
『うーふーふーふーふー。簡単な技だよ。
この皆殺しナックルにしこたま気を込めてポカンと頭を叩けば一発さ』
『はっはっは。頭割れるわアホか。
行き先は元の時間じゃなくてあの世の方じゃないのかな。
何もかも嫌になって死にたくなった時にお願いするよ』
あ、ダメだこれ。クソだわ。
「ってな事があってさ。
元の時間に戻れるのにダイが嫌がって仕方ねーんだ。
だからマジでこの時間軸での受験も考えねーといけないから勉強をしてんだよ」
そりゃコイツの謎の気を込めたパンチなど脳天に喰らえば普通の人間なら即死だろうよ。
恋奈の馬鹿やアタシ、あと長谷先生ならばともかく
大や総災天、乾などが食らっては生死に関わる。
「ちなみに姉ちゃんの方も戻る方法見つけてたんだけどよ」
そう言えばそんな事も前に聞いたきがする。
ただ、それを大がアタシ達に伝えていないって事は・・・・・・
『楓ちゃん、タイムマシン完成したんだって?
いやぁ都合の良いタイミングで都合の良い発明・・・・・・やっぱり持つべきものは天才エンジニアな親友ね』
『褒めるな褒めるな。ちなみにこのタイムマシーン、名前は電話レンジ(爆)
電子レンジと電話いじってたら何か知らんうちに出来た』
『うっさんくさいわねー。でもいいわ、これでどうやって戻るの?』
『うむ。この備え付けのヘッドホンをつけてだな。
そんで後は私がお前の指定した時系列のデータを打ち込む。
そして発信すればあら不思議、その時系列、時間軸の自分に記憶が移るわけだ!』
『完璧じゃない! さっすが楓ちゃん!』
『おだてるなおだてるな。
因みにリスクとして、意識を飛ばす際強烈な吐き気と頭痛
酔いや苦痛により、指定した時間軸に着いたら廃人になる可能性がメチャ高いです』
『ゴミだコレ!』
あの狂気のマッドサイエンティスト、何か凄まじいのを開発したのか。
「私はそんな胡散臭い機械に頼るのは嫌だ」
「アタシだってやだよ」
そんな危ない機械に頼るのは誰だって嫌だろう。
どっちかが無事元に戻れても、同じく一緒に戻ってきた相方が廃人になってたなんて恐ろしすぎる。
まだ腰越の案の方がマシだ。
「じゃあ元に戻るのはひとまず先送りって事か」
「そゆこと。だからダイも喧嘩まで始めてこの時間軸でのお前と恋奈の決着の舞台をつくろうと――――」
「は? 何だそれ」
「え、あれ。もしかしてダイからそこまで打ち明けられてない?」
初耳だ。
っていうかなんだその話。
無視してはおけない。
「・・・・・・私は何も言っていない。
お前も今聞いたことは忘れろ」
腰越にしては珍しく、かなり困った顔でそっぽを向いてしまった。
「無視できないな。
どういうことだ、何で大がアタシや恋奈の喧嘩の舞台つくろうなんてしてんだ」
大が三大天になろうとしている事も、喧嘩をしている事も全てアタシにとっては問題ではない。
大は大のしたい事をすればいい。
頼られれば勿論力を貸してやるし、頼ってこないのだったら必要以上のおせっかいをする気もない。
そういったポジションで大のしている事を見守っていたが、肝心の行動の理由をアタシは知らなかった。
「そんなの私も知らねえよ。
だって私が知ってるのは私と一緒にいたダイの事だけだ。
お前や恋奈と一緒にいたダイの考えまで知るかっての」
本当に知らない上に大から聞かされてもいないらしい。
ふと、腰越の言葉に思うところがあった。
「そっか。今の大ってアタシの知らない大も混ざってんだよな」
「何を今更。話してて違和感とか無かったのかよ」
違和感、か。
「無かったな。大はやっぱり優しくて格好いい大だったし」
「けっ、惚気けてんな。
まぁ私も違和感なんてなかったけどさ」
大が何を考えて、何故あんな事をしたのかは把握しきれない。
しかし、大はやっぱり大だ。
あの目、纏う雰囲気は自分の知る誰よりもお人好しのカレシと同じ。
故に彼を疑いもしない。
「しっかしアレだな。
辻堂や恋奈にも教えていない事を聞かされているって事は
やっぱりダイにとって私はお前より頼られてるって事で良さそうだ」
「よくねぇよボケ」
アタシと恋奈の事だから本人に聞かせなかっただけで、
信頼の程度とかそういうのは関係無いはず、多分。
「でもさ、私今回すっげぇダイに力貸してやったんだぜ。
アイツの為にガラでもなく群れに入ってやったし、
八州連盟だっけか? 江ノ島の平和をアイツ等から守ってやったし」
「アレはそもそもお前を引き離すために江ノ島人質にしたようなもんだろ。
それにお前が暴走王国に入ってから大の生傷が余計に増えてたぞ」
どうせコイツがいつもみたく大暴れした為、
そのとばっちり被害が大にぶっかかったとかそんな所だろう。
コイツのする事は大抵敵味方問わず被害を及ぼすのが常だ。
そもそもコイツが誰かの味方をしている事が殆どないのだが。
私の知る限り、大にしか味方になったりした事ない。
「でもまぁ、お前が大の傍にいてくれたおかげでアタシも安心してたよ。
大の身を守ってくれてありがとな」
「う、ストレートに感謝されると反応に困るな」
誰かに感謝された事があまりないらしい。
腰越は照れや戸惑いのごっちゃになったような表情で頬を指先で掻いた。
「でもよ、私がいなくても問題なかったんじゃねーのか。
お前、ショウの喧嘩殆どを見てただろ」
「気づいてやがったか」
「鼻が良いもんでね。
っていうかショウが殴られる度にあんな殺気出してたら気づくっての」
まぁクミにショウの情報を調べさせていたからな。
あいつのそういう情報収集能力は湘南でもかなりのレベルだ。
お陰でショウの行動は大体把握出来ていた。
「過保護なのは結構だけどさ。
そんなんでショウとマジで喧嘩出来んのかよ?」
「既に少し前にしただろうが」
「つってもあれって見栄えだけで、ダメージ殆どない攻撃だったじゃん。
実際ショウも気絶はしても翌日けろっとしてたし」
「勝ち負けで考えりゃそれが一番ベストだろ。
どんな攻撃しても勝てるのなら、最低限のダメージで済ませてやるのが遺恨も残らなくていい。
ましてや相手が大ならな」
コンクリート壁ブチ抜いていった上に血反吐吐いてたが、一日たったら元気になっていた。
実は手加減し損ねていたのだが、思ったより大がタフだったのでよかった。
「何にせよ、三大天になったショウはアタシの敵だ。
そこはちゃんと分別つけるさ」
三大天は馴れ合いの関係じゃないと知った上で大は三大天になった筈。
ならアタシがショウに親しくする事も求めてはいないだろうし。
「お前さ、実は大との喧嘩楽しんでるだろ」
バレていた。
腰越の言うとおり、ちょっと楽しんでいる。
何せあの大が喧嘩である。
あの平和主義の彼がである。
「だってよ、あの大が真剣に本気で必死でアタシに向かってくるんだぜ・・・・・・
彼女としては受け止めてやりたいし、
それに喧嘩してる時の大の表情って凛々しくて格好いいし・・・・・・」
「おい馬鹿やめろ。事あるごとにのろけんな」
腰越が半ばキレながら消しゴムを投擲してきた。
それをキャッチして机に置き直す。
「はぁ。お前さ、そうやってダイの事見守ったりして保護者みたいにしてるけどよ」
「な、なんだよ」
何やら呆れ顔で忠告してくる。
「いやさ、ちったぁアクティブに行かねぇとダイかっさらわれんぞ」
「誰にだよ」
「あのおっぱいとか私にだよ」
「おっぱいってお前の事じゃん」
「・・・・・・乾、だっけか。アイツと私だ」
「ああそっちのおっぱいか、クソが」
だが、確かに腰越の言う事も一理ある。
あの乾の積極さ、距離感、かなりのものだ。
しかも大に喧嘩の仕方を教えた先生でもあるわけで、
へたすりゃ今一番頼りにされているのは乾なのかもしれない。
腰越は・・・・・・皆殺しだし、どうでもいいや。
「何かお前その顔むかつくな」
思っていることが表情に出ていたらしい。
「言っとくけどよ、私からダイを奪おうとする奴はただじゃおかねぇぞ」
「へぇ。不良ぬけた奴が言うセリフとは思えねぇな」
気に食わないから殴るなんて事はもうしないと決めたと聞いている。
そしてコイツは気まぐれではあるが、それでも自分のケジメはつけている人間だ。
つまり、その腰越が自分に課したルールすら破る程大にこだわる理由があるという事になるが。
「ダイの隣に立てなかった奴がいる。
ソイツは嫉妬に狂って泣きながら私を殴って、喧嘩にも勝ったのにその席を奪わなかった。
ダイの幸せだけを考えて身を引いて私に任せた奴がいるんだ。
だから、ソイツの意志を無駄にしないためにもダイは誰にも譲る気はない」
懐かしむようにアタシの顔を眺めながら覚悟を語る腰越。
真っ直ぐアタシを見ているのに、その視線はどこか別の所を見ているような。
「そうか」
義を通すとはまた少し違う誓い。
腰越らしいような、そうでないようなそのセリフにアタシは噛み付こうとは思わなかった。
多分、腰越の言ったソイツとは―――――
「まぁ、そんなの抜きにしてもダイは私と小さい頃に結婚の約束と誓いのキスしたしな。
最初から他の奴らとは土俵が違うというか。約束された勝利ってヤツ?
いやぁ悪いね辻堂、私ら仲睦まじくてさ」
はっはっは。
そんなの今のアタシには何のダメージもない。
「アタシなんて大と結婚しちゃってるんだぜ。
悪いな腰越、お前がスタートした時点でアタシはゴールしてたんだ」
「んなの通るかゴラァ!」
「テメーのこそ通ると思ってんのかダラァ!?」
互いに胸ぐらを掴み合いにらみ合う。
野外ならばこのまま殴り合いに発展しても一向に構わないのだが、
ここは長谷さんち。
とてもじゃないが家主がいない間に更地にしてしまうのは忍びない。
だがこちらから引くことも出来ず、睨みながらどうするか冷静に考えていると
「あ、やべぇ!」
「うおっ」
腰越の方からアタシを突き放してきた。
突然の事で一瞬反応が遅れ体勢を崩すが、踏ん張って転倒を防ぐ。
「何しやがる・・・・・・って、何してんのお前」
見れば腰越さんはチェアに座り、シャーペンを握って勉強を再スタートしていた。
「うっさい邪魔すんなここに居るなあっち行け」
「な、なんだよいきなり」
鬼気迫る腰越の姿に圧される。
だが、その腰越の奇行の理由が次の瞬間わかった。
「まーちん勉強頑張ってるー?」
「み、見りゃわかんだろ。真っ最中だ」
あー。
そういう事か。
「ん? 何で辻堂さんがここにいるの。
まーちんかヒロと遊ぶ約束でもしてたのかしら?」
「い、いや。してない」
「うー。辻堂いい加減帰れよー」
腰越としても姉に勉強見てもらっている所を見られるのは恥ずかしいらしい。
少し顔を赤くしながらシッシと手を払ってきた。
そんな態度を取られると普段なら頭に来るところだが、
そもそも腰越のその似合わない勉強姿が面白く、逆に笑ってしまう。
「わかったわかった。
もう勉強の邪魔しねーよ。それじゃあ頑張りな」
そう言って手を振って腰越の部屋から出ようとした時
いきなり後ろから肩を長谷先生に掴まれた。
「な、なんだよ」
「折角だから貴女もまーちんと一緒に勉強していきなさい」
「は? 嫌だよ面倒くさい」
何が悲しくてこんな日の高いうちから勉強しないといけないのか。
こちとら夏休み中の学生。
自由にさせて頂きたい。
と、思うのだが。
姉ちゃんはアタシの体をとんでもない腕力で引きずり、
ちゃぶ台に強制的に座らせた。
「辻堂さんやヒロのテスト見たんだけどさ、二人共異様にいい点だったのよね。
これってもしかしてこっち来る前に同じテスト受けたとかでしょ?」
・・・・・・その通りである。
長谷先生のテストはそれを考えていたからか、少し内容が違っていたが
他の科目は全てこっちの時間軸に来る前に受けた期末テストと全く同じ内容だった。
一応委員長や大に言われてそのテストも復習もしていたし、そもそも始めて受けた時からそこそこいい点取れていた。
なので今回は平均点どころか成績上位にアタシと大は食い込んだのだが。
「・・・・・・はい」
「やっぱり。まぁ別にそれ自体が悪いことじゃないし、貴女やヒロに悪い点は一切ないけど」
どうやら責める気はないらしい。
ただ少し困ったようにはしている。
「でもこれじゃあ何の為のテストかわからないわね。
って事で、今日これから抜き打ちテストを始めます」
「やです」
「黙れ小娘、貴様に拒否権はない」
目を細めて凄む先生。
メチャクチャ殺気があったぞ今。
腰越からも感じたことのない命の危険を感じて反射的に黙ってしまった。
「それじゃあ今からプリント配るから解いてみて。
これ全部終わったら帰っていいわよ」
「ったく。わかった、分かりましたよ」
さっさと解いて帰らせてもらおう。
最初からプリント作ってたあたり近いうちにやらせるつもりだったようだし
だったら予定のない今日みたいな日にやっておいた方が良い。
観念して腰越の予備のペンを借りて取り掛かることにした。
「はい、まーちんはこれ解いて」
「え、何で私まで?」
「折角だからまーちん用にも実力テスト作ってたのよ。
やらなきゃ飯食わさんぞ、点数悪かったら飯食ったあとも勉強さすぞ」
「な、なな・・・・・・」
哀れな。
「相模のおばさまにも厳しくしてと言われてるからね。
かーっ、私は厳しくするつもりなかったんだけどおばさまに言われちゃせざるを得ないわー
私は厳しくしたくないんだけどなー!」
「ぐぐぐぐ、辻堂テメェが来たからこうなったんだ!」
「アタシが知るか。諦めろ」
「やだ諦めない。私は飯時まで逃げる。
いざさらば」
「させるかクソガキ」
「んぐあ!? げ、いつのまにすっぽんぽんに!?」
逃亡を企てた腰越だが、一瞬のうちに姉ちゃんに身ぐるみ引っペがされていた。
第三者の目線で見ていたのだが、姉ちゃんの動きが全く捉えられなかった。
それは当事者である腰越も同じようで
「ケケケケ。裸で外うろつくかここで大人しくテスト受けるか選ぶ権利をやろう」
パンツすら脱がされている腰越。
そして魔女みたいな笑い方をしながら腰越に選択股を渡す姉ちゃん。
「もうやだこんな生活。お腹が満たされたと思ったら心が貧しくなって来た」
半泣きで姉ちゃんから服を受け取る。
そして服を着たら大人しく席についてペンを掴んだ。
因みに、また逃げられると困るので姉ちゃんは下着とシャツだけ渡してホットパンツは返さなかった。
お陰でパンツ丸出しでテスト受けることになった腰越。
ひっでぇ。
コイツがこうして折れる姿を初めて見た。
「ふぇふぇふぇ、良い子やなぁ」
・・・・・・怖いわこの姉。
●
「あれ、今日はショウ君いないの?」
「はい。ちょっと自宅で用事あるみたいっすよ」
「そっかー・・・・・・残念、だなぁ。
あ、これ差し入れのチョコだよ。皆どうぞ」
「む、恐縮です。
センパイ、これはどう分けましょうか」
「んー。あずが数個センパイに持って行くから後はナハ達で好きにわけなよ」
「承知しました。
聞いていたな、烏丸先輩からの差し入れだ。心して頂け」
「ヒャッハァー! 久々の甘味、ひとつ残らず胃袋に詰め込むわい!」
「待てこら。俺らの分まで手をつけたら殺すぞオタンコナスが」
夜、江ノ島の砂浜に集まった人達。
自分とナハが暴走王国のメンバーで、残りは全てが同じチームでもないただの追っかけだった。
合わせて八十人近くがその人気の無かった場所に集まり、
ナハと自分の間にある焚き火を中心にして囲っている。
夏のこの時期はどこも一般人だらけなため、こういった人気のない場所。
つまりたむろしても誰にも迷惑をかけない場所を探すのが面倒で仕方がない。
「うっせーなぁ。
毎度毎度アイツら勝手についてくるから落ち着けるところ探すのメンドイんだよね」
「しかも追い払っても付いてきますからね。
我としても静かに夜を過ごしたいものなのですが」
街で顔を見かけられたら隣に友人がいても挨拶してくるし、
そのせいで自分がまた不良に戻ったのかと最近噂が立ち始めて本気で困っている。
しかも自分が喧嘩している噂まで蔓延り始めたのでセンパイの体を休めるのに便乗してあずも暫く喧嘩はするつもりもない。
元々センパイがいなければ喧嘩もするつもりはないが。
「でも二人共本気で邪険にはしてないよね。
皆も二人に対して懐いてるし」
「そりゃ、本気で邪険にしたらセンパイに怒られるもん。
自分、外見ちゃらいですけど結構良い子っすよ?」
「へ~、自分で良い子って言ってるあたり胡散臭いね。
我那覇さんは?」
「む、我ですか・・・・・・」
自分はそれ程こいつらに思い入れはない。
センパイは自分を慕ってくれる人達だからだといって追い払ったりもせず
たまにお菓子とか作ってきてもてなしたりしているが
最近人が多くなりすぎてセンパイも困っている。
「そうそう聞いてくださいよ唯センパイ。
ナハってば何かコイツ等気に入ってるみたいで、
今日なんて昼はコイツ等と食べ歩きしてたみたいなんですよ」
「や、やめてください。我は別に馴れ合うつもりなど」
「未唯なんですけど」
「またまた~、実際ナハもアイツ等とつるむの結構楽しんでるっしょ?
今お菓子渡した時も仲良さげだったし」
「それは・・・・・・むぅ」
素直になればいいものを。
あくまでも個人の主観的意見でしかないが、
別に群れる事は悪いことじゃないし格好悪い事でもないと自分は思う。
悪いのは群れることで増長し、他人へ迷惑をかけたり、仲間に頼りきって堕落する事だ。センパイの受け売りだけど。
ともかくどれもナハに当てはまるとも思えない。
ならば意地を張って否定する必要がない。
「なになになんですかー? なにやらナハさんが困っているご様子」
「うわ酒臭。何一杯引っ掛けてんすか」
「あははは。
いやぁ、ショウさんが晴れて三大天になったんですからお祝いとして酒持ってきてたんですよー」
「ショウ君は未成年だよ?」
「唯センパイの言うとおりっすよ。
ショウセンパイは未成年だからその酒飲めないから。
あと臭いんであっち行ってください」
「未唯なんですけど」
センパイは年齢に関わらず酒に弱い。
別にアルコールが嫌いではないようだが、速攻酔ってしまうレベルだ。
それはいいのだけど、酔うととんでもなくエロくなるので他人がいる席では飲ませられない。
っていうかこの女本当に酒クセェ。
確かセンパイの使用不能になったマスクを集めて、代わりに新品のマスクを作る大学生の変態女だっけか。
コイツは妙にセンパイとも馴れ馴れしくて気になっていた。
「えー、ショウさん酒飲めないんですかー?
私とか中学生の頃からスピリタス常飲してましたよー」
「汝は肝臓を一度検査した方が良いのではないか」
「あ、やっぱり心配してる。
ナハってば素直になっちゃいなよ」
「センパイ、いい加減その話題は勘弁していただきたいのですが・・・・・・」
いい加減いじりすぎたらしい。
本気で嫌そうな感じだ、仕方ないやめるか。
となれば別の話題だが。
「ねぇねぇ。前から聞きたかったんだけど、
暴走王国って集まる日とかってどういう風に決めてるのかな?」
「ん、そう言えば教えてませんでしたね」
「教えてもらってないね。
だから毎日長谷君に聞いてたんだけど、流石に夏休みに入っちゃうとね・・・・・・」
ああ。学園で会えないから聞けないと。
だったらメールで聞けばいいのに、と思ったが。
「前にメールで聞こうと思ったんだけど、
長谷君ってお姉さんにはこの事隠してるみたいだし、証拠残る手段はちょっと躊躇うんだよね」
聞く前に答えが出た。
確かに、メールが何かの拍子にお姉さんに見られたらちょっと拙いだろう。
ここら辺はいい気遣いである。
「別に隠すことでもないんで教えますけど、アイツ等には内緒だよ?
毎度毎度集まられるとウザイんで。唯センパイだけ特別っす」
「未唯だっつってんだろ」
何やら激おこしている唯センパイ。
まぁそんな事は気にせず、耳元に口を近づけて教える。
「毎日自分の部活終わりにセンパイに迎えに来てもらってんですけど、
その帰り道でセンパイがあずの右手を繋いだら修行して今みたく雑談する日。
左手だったら喧嘩の日。そんでどっちで手を結んでも別れ際にキスしない日は特に何もない解散日っす」
「お、大人な予定の伝達方法だ・・・・・・」
「かぁーッ! いいねぇ青春だねぇ!
他人のノロケとか肴にもなりゃしねぇ! どうだい未唯ちゃん、飲む?」
「飲みません。あと酒臭いんであっち行ってください」
つまり今日は部活終わったあと家まで送ってもらったのだが、
別れのキスが無かったためセンパイもここにいない。
聞いた所では今夜はあの女、山本相模が家に来て食事を一緒にするらしい。
流石に家族事に口出しできないので大人しく引き下がった。
そして夜の散歩をしていたらアイツらと唯センパイを連れたナハに遭遇し今に至る。
「といっても、もう暫くは集まることも無いかな。
センパイも身体大分痛めてるんでお休み挟むと思いますよ」
「そっかぁ。じゃあショウ君と会いづらくなるなぁ」
「あれあれ未唯ちゃんもしかしてショウさんにホの字?
報われない恋? うはは人の恋バナ興味あるぅ!」
「うっさいなぁ。酒臭いんでもう近寄らないでください」
「あ、今の傷ついた。あかんなぁお嬢さん。
ちょっとその肉が余ってる身体で詫びて貰いましょか。
具体的にはちょっと柔らかそうなんで枕になってもらえません?」
「酒臭いんであっちいって」
唯センパイがショウセンパイに気があるのは何となく察していた為特に驚きもない。
この酒臭い女とかがショウセンパイに好意もってたらライバルとして排除する所だが、
唯センパイならば別に構わない。
なぜだろうか、妙に気が合うのだ。
「センパイに会いたいなら家に直接いけばいいじゃないっすか。
なんなら今度あずと一緒に行きます?」
「え、良いの?」
「構いませんよ。あずだけで行っても結局二人きりなんてなれないし」
長谷家にはお姉さんと皆殺しセンパイというお邪魔虫がいる。
その為どうあがいても長谷家内ではいい空気になれない。
「じゃあ今度お願いしようかな。
そ、そうだ。何かお姉さんに差し入れとか持っていったほうがいいかな?」
「そんな彼氏が彼女の家に挨拶するとかじゃないんですから・・・・・・
あ、いや。やっぱり持っていったほうがいいかも。
うん、食べ物とかがベストっすね」
「わかった! ちょっと明日買ってくる!」
お姉さんは唯センパイの先生だし、変な事はしてこないと思うが
腰越センパイは何してくるかわかったものじゃない。
切り札として食べ物を持っておく事に越したことはないだろう。
「・・・・・・青春っすねぇ」
他人が恋だのなんだので色めき立っているのを見るとそう呟いてしまう。
それが年寄りくさいと思いはするが、自分はまだ高校1年生。
ちょっと大人っぽい少女って事で通るだろう。
若さとは多少厚かましい事も押し通すことができるステータスだ。
「ん~・・・・・・自分も今度進展狙ってアクションしてみようかな」
「それって長谷君に?」
「それ以外に誰がいるんすか」
恋奈ちゃんは前に大胆にも温泉に連れ込んでいた。
そして自分や腰越センパイ、辻堂センパイの妨害がなければいい線行っていた。
やはり仕掛けるとしたらデート中、それも長谷家から遠い場所だ。
色仕掛けならライバル達よりも圧倒的に上手い自信がある。
よし、ちょっと今後の方針固まってきたぞ。
「悪い顔してるね~」
「悪い顔をしておられますね」
「うっさいな」
失敬なやつらである。
●
「マキちゃーん、たまにはお母ちゃんの肩揉んでぇな」
「やだ、帰れ。迅速にゲラウトヒア」
「お、習った言葉早速使ってるわね。
教えた甲斐があったもんね」
「姉ちゃん、何教えてんの」
夜の二十時過ぎ頃、長谷家は賑やかだった。
食事も終わり、食器も俺があらかた片した。
リビングには満腹感に満たされ、一日の終わりを実感し気が抜けた空気が漂っていた。
悲しいことに俺にはまだまだ一日の終わりを実感できないけれど。
「親不孝ものやなぁマキちゃんは。親の顔見てみたいわ」
「それはわざとボケてんのか、本気でボケてんのか」
「んふふ、本気でボケとるわけあるかい。
ちょっと一発シバくからこっち来ぃ」
「やなこった、年寄りは説教臭いから嫌いだ」
「こんガキャ・・・・・・ッ」
この親子は実に仲良い。
聞いているだけでさっきから心がポカポカしてくる。
ほっといたら長谷家が炎上するのも時間の問題だ。
「相模おばさん、俺が代わりに揉ませてもらうよ」
「あら、なんや悪いなぁ。
あーあ、こんな気の利いた子が実の息子やったらどれだけ幸せやったか」
「すいませんね、こんな気の利かない娘で。けっ」
憎まれ口を叩き合う二人。
まぁ、思春期の娘とその親子ならば別に不自然な光景でもない。と思う。
俺も両親や姉はいるけれど、血が繋がっていないからか反発心も無いのでマキさんの心情は把握しづらいのだ。
「うぃ~っく。
ヒロー、おつまみ買ってきてー」
「うっせぇ酔っ払い。そこの棚にジャーキー入れてるから自分でとれや」
「それ私がさっき食った」
「このクソガキ、マウントとってボコボコにしてやる」
「お、やんのかコラ。
昼間散々絞られたぶんやり返してやるぜ」
酔っ払った姉ちゃん激怒。
俺は相模おばさんの肩を揉みながら二人の取っ組み合いを見ていた。
普通に二人が喧嘩したらこんなリビングなんて一秒足らずに木っ端微塵になりそうなのだが
何故か二人の喧嘩は煙の中から手足、時々顔が出てきてポカポカと殴る昭和っぽいテイストの喧嘩だった。
ドラ○もんでジャイアソにぼこられる時の風景だ。
「んー、やっぱり実家よりこっちおる方が羽伸ばせて居心地えぇなぁ」
「そうなんですか?」
「そうなんよ。んあっ。
・・・・・・んふふ、相変わらずヒロちゃんのマッサージ気持ちえぇわぁ」
羽を伸ばせるか。
それだけ長谷家に親しみを覚えてくれているようで嬉しい。
相模おばさんも俺にとっては親代わりの人だったので、
俺の性が長谷に変わったあとでもこうしてマッサージをしてあげられるような関係でいられたのが幸せだった。
「シャオラッッ!」
「いてぇ!? この野郎教員の分際でなんて本格的な正中線五連突きをッッ!」
「貴様は酔っ払いを舐めすぎたッッ!」
何かヒートアップしてないかこれ。
グラップラーレベルの喧嘩に発展してる気がするぞ。
「それにあの子と喧嘩出来る子も殆どおらへんし。
マキちゃんもここが好きみたいやね」
「そうは言いますけどお母さん。
あのマキさんと喧嘩できるウチの姉って何者なんですか」
「お、お母さん!?
あ、そ、そんな嬉しい事・・・・・・年甲斐なくはしゃいでしまいそうやん」
話の焦点はそこではないんですが。
何かマキさんにぶん殴られてるのに平然と乱打戦を繰り広げているうちの姉。
なんだあの酔っ払い。
「んふふ、ヒロちゃんも何や楽しそうやねぇ」
「ん? そんな顔してました俺?」
「うんうん。充実してるような、そんな顔してたで」
そうなのだろうか。
日常で自分の表情を意識する事はあまりない。
なので今自分がしていた表情もどんなのだったかわからない。
「そうかもしれませんね。
実際今俺は楽しいですし」
「あら、あっさりと認めた。
マキちゃんやったら反発しそうな所やのに」
反抗期真っ只中なマキさんなら確かに否定しそうだ。
だが俺には反抗期は無いっぽいし、そもそも相模おばさんに反発なんて怖くて出来ない。
「変わらない毎日ってやっぱり良いですよね。
刺激的な日々ってのも悪くないとは思いますけど」
「なんやジジ臭いなぁ」
「ほっといてください」
平和な毎日は良い事だ。
何もない毎日は退屈で精神的にもクるものがあるが。
流石にマキさん達に絡まれて何もないなんて事が無い。
「あー、ほんまヒロちゃんのマッサージ気持ちえぇわぁ」
ニコニコしながら俺のマッサージを受け続ける相模おばさん。
満足頂いてなによりだ。
「なぁ、高校卒業したらうちと一緒に旅でもしてみん?
毎日が刺激的で楽しいで」
本気で言っているらしい。
「うちヒロちゃんの事ほんま気に入っとんよ。
一人旅も時々寂しゅうなる時あるし、ヒロちゃんとならええかなって」
破天荒な人でも人間嫌いではない。
一人でいればたまには寂しくなることもあるらしい。
そんな風に言われたら少し揺らぐものがあるが。
「すいません。高校出てもまだ大学に進学するんで」
「あら、そうやねぇ。
今は学歴社会やし大学進学もあたりまえやわなぁ・・・・・・ざんねん」
心から残念がっているらしい。
肩を落としてネガティブなオーラを出し始めた。
何か良い切り返しはないかと頭を回転させるが、ひらめかない。
どうしたものかと考えていると
「おいババァなに人のカレシに粉かけてやがる。
年寄りの火遊びにしちゃ笑えねぇぞ」
「あ゛あ゛!?
この親不孝なバカ娘、言うに事欠いておかんをババァ呼ばわりかい!」
「ババァだからババァっつってんだろうが!
ダイに愛着沸いたからって光源氏計画完遂させようとしてんじゃねぇ!」
「ちゃ、ちゃうわいっ。
そんな人聞きの悪い事いうなや!」
そして始まる親子ゲンカ。
「ういー。ヒロー、相模おばさまの代わりに私の肩揉んでー」
「はいはい分かりましたよ」
いきなりマキさんが相模おばさんにヘイトを切り替えたので放置されたらしい。
姉ちゃんは酒瓶片手にソファーに座った。
「っと、その前に。ちょっと待ってて」
一旦キッチンへ戻る。
そしてとある用意をしてリビングへ戻った。
「あれ、ジャーキー。
食べられたんじゃなかったの?」
「いや。こういう時の為に予備も隠してたんだ。
隠し場所は教えないけどね」
そう言って三個程ジャーキーを切った物を皿に乗せて姉ちゃんの前にあるテーブルに置く。
「ふふ、持つべきものはしっかりした弟ね」
「はいはい。おだてても酒の追加はありませんから。
わかってると思うけどその一本がラストだからね」
「ちぇー。けちんぼー」
「うっさいな。おとなしくマッサージうけてなさい」
「あ、今日は肩よりもお尻の方がこってるからそこんとこよろしくね」
そういってソファーに寝そべってお尻を突きだしてきた。
お尻がこるってどんなだ。
しかもお尻突きださなくとも別にいいでしょうに。
「ちっ、ノッてこないか」
「ふふん、よい子さんのプリケツで尻に対するハードルは上がってるもんでね」
「あ、なんか私の弟が変態として高みに向かい始めてる……うひゃん!?
叩くんじゃなくて揉んでよー」
「尻じゃなくて腰とかをマッサージで我慢なさい」
姉ちゃんの尻を一発ひっぱたいてから腰から背中にかけてのマッサージにする事にした。
お尻揉んでたらエロイ気分になってしまいそうだし、姉ちゃんもそれが狙いだろう。
それに今大喧嘩してるマキさんがまた怒るかもしれないし。
「決闘のやり方は学んどるな? まずは互いにおじぎや……
格式ある儀式は守らなならん。極楽院は礼儀を守れと教えたやろ……
おじぎをするのだ!!」
「私そんなの習ってないんだけど」
長谷家の騒がしい夜は更けていく。
●
変わらない毎日、変えようとも思わない日々。
それは何も無い日々とは意味合いが違う。
そもそも、毎日などその人の心持ち次第でいくらでも変えられる。
何かスポーツを始める。何か勉強を始める。
料理教室に通い他の人たちと楽しく料理を学んだっていい。
人と人との繋がりなんて些細な勇気を持てば作ることができる。
ただ、その繋がりが強固なものにできるかは人それぞれだが。
「おはよ。夏休みは朝からランニングする習慣でもつけたのか?」
「まぁね、ところで愛さんは何故ここに」
「ん? ああ、アタシは昨日からこうやって朝にラブの餌をあげに行く事にしてたんだ」
夏休みの一日。
一人でランニングをしていると愛さんの背中が見えた。
なので後ろから声をかけようと気配を消して近づいたのだが、
流石愛さん、数メートル手前で気づかれてしまった。
俺の顔を見るやいなや笑顔になった彼女はそのまま気さくに話しかけてきてくれた。
「そっか。俺ももう折り返しで家に戻ってる所だし、一緒に行ってもいいかな?」
「ああ、勿論だ。
それじゃあアタシも走るか」
「い、いや。俺がそっちに合わせて歩くよ」
ジーンズでは走りにくいというか、蒸れて気持ち悪いだろうし。
俺は俺で少し疲れていたので丁度歩きたい所だった。
俺と愛さんは夏の朝特有の涼しい風と蒸し暑い温度のギャップを感じながら歩道を歩く。
何というか、そういえば愛さんと横に並んで歩くのは久々だった。
意識しすぎなのか、手をつなぐべきなのかどうかすら迷ってしまう。
しかし愛さんは俺とは違うらしく、あちらの方からこちらの手を結んできた。
相変わらず男よりも男らしい人だ。
憧れる。
「あら、ヒロ君と辻堂・・・・・・さんじゃない。おはよう」
「おはようございます、よい子さん」
「おはよ」
惣菜屋、孝行の前を通るとよい子さんが打ち水をしていた。
「昨日はヒロ君の所かなり騒がしかったけどお客様でも来てたの?」
「あ、いえ。相模おばさんが来てたので、多分騒がしかったのはそのせいかと」
「ああ、そっか。マキもいるものね」
何やら察した様子。
因みに現在、長谷家のリビングを半ば崩壊させた親子には清掃を命じてある。
今頃一生懸命棚とかの配置を直しているところだろう。
「なんだよ。あのオバサンも大の家にいるの?」
「いや、今日の昼過ぎたら実家に戻るって言ってたよ。
マキさんも多分引きずられていくと思う」
「うふふ。マキも流石にあの人には本気で逆らえないのよね」
「・・・・・・まぁ、アタシも似たようなもんだから腰越バカにできない」
親子仲が良いという事はそれだけで素晴らしい事だ。
恋奈や梓ちゃんはまだそういう点では不安が残る。
でも恋奈は親をそういうものだと納得し、割り切っているし
梓ちゃんは梓ちゃんで歩み寄りを始めている。
そして愛さん、マキさん、よい子さんの親子仲などまるで問題などない。
「俺も久しぶりに母さん達に会いたくなったな」
相模おばさんの事も母親だと思っているが、それでもやはり本当の母親ではない。
産みの母ももう覚えていない。
そんな俺にとって、俺を拾って育ててくれた長谷さんは特別だ。
どれだけ長く長谷家で過ごし、愛してくれたとしてもどこかやはり純粋な家族に抱く感情とは違う感じがする。
そもそも純粋な家族愛すら知らない俺には何が本来の家族愛なのかすら分からない。
だが、義理の家族でも愛は確かに感じられる。
義理の家族だからこそ、その絆の強さと大切さを理解出来る。
「じゃあさ、アタシのウチ来る?」
「え?」
「いや、うちの母さんが将来の息子に合わせろってうっさいんだよ。
ほら、こっちだとまだ顔合わせ済ませてないじゃん」
そう言えばそうだった。
完全にそこらへん放置してしまっていた事に今気がついた。
最低だ俺。
「あら。将来の義母の顔合わせならもう済んでるわよ?
ね、ヒロ君」
「え、あの。よい子さん?」
「あ? どういう意味だよ」
俺はよい子さんの言葉の意図に気づいた。
やばい、地味によい子さん愛さんを牽制している。
「お母さんとヒロ君の仲も文句ないし、順風満帆ね」
「・・・・・・はっ、そういう事かこの野郎!」
遅れて気がついた愛さん。
そして珍しくよい子さんが悪い顔をしている。
っていうか目つきがおリョウさんだった。
なんだこの展開は。
「なんだ辻堂、俺はおかしな事でも言ったか?」
「忘れてた、コイツはコイツでかなり厄介なポジションな奴だった」
「ふん、ポっと出のお前とヒロ君がまだ長谷さん家に引き取られる前からの
付き合いだった俺とではスタート地点と今までの積み重ねが違う」
「ぐ、真のライバルは腰越でも乾でも恋奈でもなくテメェだったか・・・・・・」
目つきだけでなく喋り方まで総災天モードに入ったらしい。
「あ、そうだヒロ君。ちょっと待ってて」
早業のように総災天モードからよい子さんに戻り、
プリケツを揺らしながら彼女は孝行へ戻っていった。
あの安産型なケツ、やっぱ良いよな。
そして数分後、よい子さんは孝行の名前が書かれたビニール袋片手に戻ってきた。
「ご飯まだでしょ?
これ、作りたてだから持って帰って」
「あ、どうも。えと、いくらかな?」
「お金なんていいわよ。はいどうぞ」
半ば押し付けられるように握らされた。
本当に出来立てらしく、ビニール袋越しに中身の暖かさが伝わる。
しかも凄いいい匂い。
「じゃあ遠慮なく。
それじゃあ今日の夜は奮発して沢山買わせてもらうよ」
「あら気を使わなくていいのに。
ふふ、でもそういう気を使ってくれる所もお母さんは気に入ってるみたいよ」
「じゃあ尚更この性格を貫き通さないとね」
なんて少し彼女と彼氏のする内容ではない会話をしていると。
「んん! ゴホンゴホン!」
「あ、ごめん愛さん。それじゃあそろそろ行こうか」
「うんっ」
愛さんが焦れていたらしく、アピールしてきた。
「やれやれ。硬派な喧嘩狼は存外に嫉妬深い」
「う、うっせぇな」
「別に悪いとは言わないさ。
だがあまり度が過ぎてヒロ君に迷惑はかけるなよ。
じゃあね、二人共」
言葉の途中からよい子さんモードに戻ったよい子さんは、にこにことした看板娘な笑顔を浮かべ手を振った。
●
「セーンパイっ。ほら、あーんして?」
「いただきぃ! はっはっは、足りんもっとよこせおっぱい」
「こらぁ! アンタに言ったんじゃねぇよ!」
その日の夜。
長谷家には沢山の客人の姿があった。
「ねぇ。やっぱりアンタどこかで私と会った事ない?
その綺麗な髪、見覚えがあるのよね」
「私は貴女と会った事なんてないわよ~。
私のことは気にせず食事続けてください」
「お前、恋奈には隠し通す気なのかよ。めんどくさそうな事してんのな」
「黙れ辻堂、二度と余計な事を言うな」
「あれ、そのドスの利いた声。
ん~・・・・・・惣菜店、総災天・・・・・・ん? んん?」
「あら、片瀬さん! 頭に虫が!」
「あだぁ!? いきなり人の頭殴んなや!
・・・・・・あれ、今私なに考えてたっけ?」
賑やかだった。
誰もが笑い、誰もが心から楽しんでいる。
俺はその光景を一歩離れた立ち位置で眺めていた。
姉ちゃんも出来上がっているらしく。
おつまみと酒を口につめこみまくっている。
「姉ちゃん飲みすぎ。
全く、ちょっと俺スポーツドリンク買ってくるよ」
明らかに二日酔い確定コースだ。
俺は半ば呆れつつ財布を持って外に出た。
「やぁ、奇遇だね。どうだい体の調子は」
「まずまずです。水戸さんはどうしてここに?」
「俺? ははっ、ちょっと友人と酒でも飲む予定をしててね。
ここで待ち合わせしてたんだ」
最寄りのコンビニの近くには水戸さんが立っていた。
久しぶりという程には最後に顔を合わせて日数が経っていない。
けれど、どこか久しぶりに言葉を交わしている気がする。
俺は立ち止まって軽く世間話をする事にした。
「噂は聞いたよ。最初の目標通り三大天になったんだって?
いやぁ、まさか長谷君が湘南最強の代名詞である三大天に本当に加わるなんてね」
「それは水戸さんの協力があったからこそです」
「謙遜だぜそれは。
俺は機会を与えただけ、大半が君に実力がなけりゃ出来なかった事だ。
あ、これあげるよ。さっき自販機で当たりが出てさ」
そう言いながら水戸さんはポケットの中から缶コーヒーを取り出してこちらへ投げ渡した。
おっかなびっくり俺はそれを片手でキャッチ。
「ナイスキャッチ」
「どうも。それじゃ早速いただきます」
蓋を開け、軽くあおる。
うん、流石日本の缶コーヒーはレベルが高い。
「それで、これからどうするかね。
互いにさ」
「ほんとどうしましょうね」
俺達は困ったように頭を掻いて笑い合う。
実の所、俺達は今後の事など綿密に計画立てていない。
俺は三大天になる事だけに力を尽くしてきた。
水戸さんはというと、俺を利用する形で自分の足を引っ張る人間を切り離す事に力を入れていた。
どちらもその当面の目標をクリアし、先が見えなくなったのだ。
「湘南制覇とか目指さないんですか?」
「あー、目指そうにも夏の間は無理そうだわ。
原木失脚させるのに俺も結構被害被ったし、辻堂や江乃死魔倒すには連盟立て直す時間が足りないね」
くいっと二人並んでコーヒーを一口飲む。
ブラックのほろ苦さが体に染み渡る。
「そういう長谷君はどうだい。
せっかく三大天になったんだ。
辻堂と片瀬のお嬢さん倒して湘南の頂点に立とうとか思わないワケ?」
「全然思いませんね」
「はは、長谷君らしいね全く」
まるで親友のように笑い合う。
会話の内容は物騒極まりないが、けれど互いに敵意もなければ腹の中を探り合うような空気もない。
本当に、純粋に会話を楽しんでいた。
「話は変わりますけど水戸さん、もし元の時間に戻れるとしたらどうします?」
「おっと、もしかして戻る方法見つけたの?」
「一応は二通りはあります。命の保証はありませんけど」
「ダメじゃん」
どんな手段なのかは伏せておくが、戻る手段が存在する事だけは伝えておく。
これで命の危険があっても戻りたいというのなら俺はその手段を教えるつもりだ。
「俺は戻らなくていいわ。
ここでの生活も満足してるしね」
「そうですか」
そういうと思っていた。
水戸さんも俺と同じく、ここで生きていく為に色々な積み重ねをしていた。
だからそれを積み重ねていくうちに元に戻る必要性も無くなったのだろう。
それは俺も似ていた。
だけど、俺はそれでも
「俺はいいけどさ、長谷君は戻りたいんじゃないのかい?
ほら、このままだと問題があるだろう。色々とさ」
「そうですね。とんでもない問題がありますね」
俺の事情を知っている水戸さんは嫌味のない、同情する目で俺を笑った。
このままじゃ誰とも一緒になれない。
愛さん達との関係はこのまま放置できないのだ。
今は良いけれど、時間が経ち結婚を意識するようになればその時に困る。
「幸い時間は沢山ある。その点はゆっくり考えていけばいいさ。
もしかしたら今後リスクのない戻る手段も見つかるかもしれないしね」
「そうですね。焦らずいきます」
「そうそう。君はそうやってマイペースにしているのが一番良い。
一応俺の方でも戻る手段は探っておくよ。
川神って土地にいる武神がブラックホールだして異世界とか行き帰りしてるとかメチャクチャな噂聞いたことあるし」
結局、今後のことも元の時間に戻ることも先送り。
俺達の会話は何の実りもないものだった。
けれど、そんな実りのない会話こそが友人同士の会話とも言える。
「おっと、待ち合わせしてたダチが来たようだ。
それじゃあ長谷君、また今度飯でも食いに行こうぜ」
「はい。楽しみにしてます」
それだけ言って水戸さんは街灯の向こう側へと歩いて行った。
どうせまた会えるのだ。
なら別れの言葉もあっさりした物で良い。
「ん? あの人は」
遠目で、しかも薄暗いから分かりづらかったがあの水戸さんがダチと呼んだ人は原木さんだった。
向こうも俺の事に気付いたらしく、軽く手で挨拶してきてくれた。
俺もそれに習い手で挨拶を返す。
「はは、流石水戸さんだ」
何の後腐れもなく、半ば敵対していた人間と今では飲み合う仲になったらしい。
その人柄に俺は好きになった。
俺もあんな風に人に好かれる人間になりたいものだ。
「っと、時間だいぶ経ったか」
腕時計を見れば結構な時間が過ぎていた。
俺は慌てて足を動かしコンビニへ入っていった。
これからどうして行くのか。
これからどうして生きていくことが良いのか。
そんな事は未来の自分しかわからない。
あの時こうしておけばよかった。
そう思うのは後悔した人間しか思わない。
今、ベストを尽くそうとする人には思うべくもない考えだ。
なら、俺はどうすれば将来後悔しない生き方ができるのだろう。
考えたところでその回答は見つからない。
片鱗すら定まらない。
悩みは尽きない。
ボヤけた思考回路を抱いて夜の湘南を歩く。
ふと、そこで喧騒が遠くから聞こえた。
なんだろうと思いその場に足を向けると、人気の多い弁天橋付近で暴走王国の追っかけの人達と知らないチームが喧嘩をしていた。
俺は少し心配になって離れたところからその喧嘩を見守る。
流石に今回はマスクも持ってきていないから加勢もできないが、恐らく大丈夫だろう。
追っかけの人達の方が人数的にも有利だし、何よりナハさんもいる。
負ける要素はほぼない。
「おらぁ! テメェら三大天の一人に群がっていい気になってんじゃねぇぞコラ!
このコバンザメ野郎どもが!」
「群がっているのではない。慕い集っているのだ」
「我那覇さんの言うとおりだぜ。
せこせこカタギにカツアゲかます小物がほざいてんじゃねぇよ!」
野次馬も周囲に集まり、かなり目立っている。
これでは警察が来るのも時間の問題だが。
「おい、あれ。ショウさんじゃね?」
「は? 今日あの人はオフの日の筈だぜ」
「でもよ、ほらあそこ」
乱戦のなか、素早く自分の獲物を倒し余裕のできた人達が目ざとく俺の姿を発見した。
敢えて人ごみではなく、少し離れた高台で見ていたのがアダとなったか。
とはいえ目が合って逃げるというのも失礼なので、苦笑いしながら手を振る。
「ショウさんがいるんじゃ情けねぇ所は見せられねぇ。
オラァお前ら俺に続けや!」
「「「おうよ!」」」
一応俺が素性を隠しているのをわかってくれているので、あちらからは目立った挨拶はしてこず
軽い会釈のみだった。
そして目を輝かせ、数人の仲間を連れてさらに激戦の中に突っ込んでいく。
「・・・・・・楽しそうだな」
俺は無意識にそう呟いた。
彼らが私生活で充実しているのかどうかはわからない。
クミちゃんのように、愛さんの前では楽しそうにしていても家庭の不和で悩みを抱いているような人もいるだろう。
むしろヤンキーをやっていてるのだ、不和がない方が珍しいのかもしれない。
ただ、それでも今の喧嘩している彼らは楽しそうだった。
「あ、センパイ。やっとみつけた。
コンビニ行ったきり帰ってこないんで心配したんすよ。
しかしこんなにあっさり見つけられるなんて、やっぱ愛の力って偉大っすね」
「見つけたのは私だろうが。
なに自分で見つけたような風吹かせてやがる」
「っていうか、何で大の家から匂いだけでここまでたどり着けるんだよお前。
将来警察犬でも目指したほうが社会の為になるんじゃないか」
愛さん、マキさん、梓ちゃんが後ろから声をかけてきた。
「姉ちゃんと恋奈達は?」
「あそこっすよ」
梓ちゃんが指差した先を見ると、何やら強面の人たちに囲まれていた。
「君カワウィーネー! ボクとファックしない?」
「失せろ。今私は忙しいの」
「か、片瀬さん。流石にナンパ如きに苛立ちすぎよ。
ごめんなさいね、私達用事があるので」
「そう残念。じゃあそこの酔っ払って色気ムンムンなお姉さん。
君どうかな?」
「この人なら立ったまま寝てるから話しかけても意味ないですよ」
「・・・・・・出直してきます」
ナンパの人も彼女たちの個性に圧されたらしく、諦めて素直に立ち去った。
なまじ美人ぞろいなだけあってタチが悪いな。
断り方がよい子さん以外エグい。
「ありゃ、アイツらまた喧嘩してるし。
飽きないんすかねー」
彼らからすれば喧嘩は楽しいのだろう。
俺には未だ無い感情だけど、理解はできる。
でも、今を楽しむ彼らの内、何割が将来の事を考えているのだろうか。
今が楽しければそれでいいという刹那的な生き方をしている人間は少なくないはずだ。
「ダイ、お前アイツら手助けすんの?」
「いえ、今回はしませんよ。
あの調子なら大丈夫でしょうし」
「そっか。まぁあそこから負けるのならよっぽどだ」
でもそれが果たして悪い事なのか。
日常に楽しさを求めるのは何もおかしなことじゃない。
毎日が劇的に楽しいのならそれはそれで良い事なはずだ。
だから、だからこそ俺も毎日が楽しくあって欲しい。
今この瞬間、そして未来も。
「大、もう結構な時間だぞ。
警察に補導される前に帰ろうぜ」
「うん。そうだね」
俺は愛さんの手を取る。
「えへへ。あずは空いてる方の手をゲットー」
「ちっ、相変わらずこのおっぱいは行動がはえぇな」
両手を引く愛さんと梓ちゃん。
さしあたって俺の幸せとは彼女達が幸せになって貰うことだ。
だから、これからも努力しよう。
俺が幸せであるために、彼女達の毎日が楽しいものであるようにしよう。
「こら梓! あんたまた抜けがけか!」
「ひぃっ、そ、そんなつもりじゃないってば。
一々あずに凄むのやめてよ恋奈ちゃん!」
「ヒロ君ってば、両手に華で幸せそうね。
それじゃあ私は冴子さんをおぶらないと」
「うい~・・・・・・よいちゃん相変わらず髪さらさらでいい香りー。
あー、何か美味しそうかも」
「きゃあ! 冴子さん髪の毛食べないで!」
今見える彼女たちの笑顔。
それを俺はいつまでも見ていたい。
それが分不相応な望みなのかどうかはわからない。
だけど、その望みを叶える努力をしていこう。
「大、行こうぜ」
「センパイ、行きましょうよ」
その俺の手を引いてくれる人達と過ごす毎日は―――――
「ああ。帰ろうか」
幸せに違いない。
お疲れ様でした。これで辻堂さん達のカーバルロード本編は終わりとなります。
ただ、このエピローグまででまだ書きたかったのにかけてないシチュエーションがかなり残っていたりします。
特に同級生との掛け合いネタとか。
今後も読み切り短編として時々更新していくので、それで書いてみようと思います。
また、ちょくちょく「真剣で私に恋しなさい」の二つをまんべんなく更新する予定なので、不定期更新にはなると思います。
では、ここまで読んでいただいた皆様。これまでお付き合い頂いて本当にありがとうございました。
それでは、失礼します。