辻堂さん達のカーニバルロード   作:ららばい

7 / 19
7話:暴走王国 スピードキングダム

「なぁダイ。何でお前最近家に帰るたびに生傷増えてんの?」

 

ナハさんと出会ってから数日。

俺は今日も梓ちゃんと別れた後、家に帰った。

 

時計を見れば太い針は既に10時を指している。

 

「マキさん、今日はご飯もう食べました?」

「ああ。リョウが来て作ってくれたよ」

「それは良かった」

 

ここ数日俺は晩御飯を用意できていない。

流石にそれだと姉ちゃんやマキさんがキレかねないので、よい子さんに食事の用意だけお願いしている。

少し申し訳ないが、事情を説明すればよい子さんも納得はしてくれた。

納得はしても凄まじく心配していたが。

 

「で、何で生傷増えてんの?」

「そこから離れてくれないんですね」

「露骨に話逸らそうとしてりゃ逆に気になるっつーの」

 

俺のベッドで寝転がり、足をパタパタと跳ねさせながら俺を横目で見るマキさん。

 

正直あまり追求はして欲しくないのだが。

一緒の家に住んでいるマキさんにいつまでも誤魔化せるとも思えない。

 

「ちょっと梓ちゃんとその後輩の子に体鍛えてもらってるんだ。

 ほら、梓ちゃんって何げに人に何かを教えるの上手いんですよ」

 

梓ちゃんが人に何かを教えるのが上手いのは本当だ。

何せバッティングセンターで普通の小学生レベルのバッティング技術しかない俺に

ちょっとした技術、コツをわかり易く教えてくれたおかげでかなり上達した例もある。

 

他にも恋奈とかにも様々なトレーニングのコツやダイエット知識を教えてたりもしてるらしいし。

 

「後輩ねぇ。それってあのデカイの?」

「ええ。我那覇葉さんです、名前覚えてます?」

「覚えてねーし、今後も覚える気ねーよ。興味無い」

 

相変わらずだった。

興味の薄い人間には一切の関心を向けない一匹狼。

俺も未だに名前を間違えられているが、これは最早ワザとだろう。

 

ともかく、マキさんが名前を呼ぶ相手は大抵何かしら凄い人であることが多い。

愛さん、恋奈。この二人が最たる例か。

 

「じゃあそのデカイのとおっぱいをぶっ飛ばしてくる」

「ちょっとちょっと! なんでですか!」

「あぁ? だってその傷って殴られて出来るヤツだぜ。

 お前、何か私に隠し事してるだろ。何でお前が殴られるんだよ」

 

・・・・・・傷を見ただけでどういう経緯でできた怪我なのかまでわかるのか。

しかも鋭い。

ここはもう隠しごとをしないほうが良さそうだ。

 

「隠し事はしています。でも、それが何なのかまでは教えません」

「おっと、ストレートに言い切りやがった」

 

何かを隠している事を隠さない。

マキさんは俺のその対応に軽く笑う。

 

「マキさんに隠しごとをしてる事には謝ります。

 でも、これ以上の追求は許して欲しい」

「・・・・・・なら別にいいよ。私に後暗いことをしてるわけじゃないんだろ?」

「それだけは誓って頷ける」

「そっかだったら好きにしな」

 

あっけないほどに納得してくれた。

 

無理やり聞き出さられる事を覚悟していたのだけど。

 

「ただ、ダイを怪我させたのはやっぱり許せねぇな」

 

納得してなかった。

窓枠に手を伸ばし、今から梓ちゃん達に襲いかかろうとするマキさんを慌てて取り押さえる。

 

「この怪我の事は大丈夫だって。

 そもそもこれも俺が無茶した結果負った傷だしナハさんや梓ちゃんに非はないんだ」

 

肩に手を置いてそのまま出て行かないようにする。

実際本当のことだ。

この生傷は完全に俺が未熟だから負った傷。

二人が責められる点など欠片もない。

むしろこんな俺の我侭に付き合ってくれているだけ感謝しなければならない。

 

「けっ、露骨にあの二人庇いやがってさ」

 

少し拗ねたようだ。

ただ、二人を殴りに行くのはやめてくれたらしく再びベッドに戻る。

 

「マキさん、拗ねちゃいました?」

「うるせぇよ。ほらダイ、こっち来い」

 

ブスっとした顔のまま俺を呼ぶ。

何だろうかと思い、恐る恐る近づく。

 

そして手の届く距離になった時、一瞬で捕まってそのままベッドに引きずり込まれた。

 

「美味そうな獲物ゲット。このまま捕食してやろうか」

「マキさんが言うと本当に食っちゃいそうですね」

 

比喩でもなんでもなく文字通りに。

 

「失敬なやつだな君は。いくら私でも人様なんて食わねーよ」

 

そりゃそうだ。

まさかこのご時勢にカニバリズムなんてしたら国家権力が動かないはずがない。

というかそもそも人の肉って不味いらしいし、マキさんが食べる筈もないか。

 

「あー、でもさ。食うってのは別の意味でも使えるよな」

「え、どういう意味です?」

「こういう意味だよ」

 

未だベッドから起き上がれない俺に覆いかぶさるマキさん。

そのまま俺の両手を同じく自身の両手で固定し、動けないようにする。

 

ああ、食うってそういう意味か。

 

「マキさん」

「そんな警戒した目で見んなよ。

 台無しにしてやりたくなるじゃん」

 

嗜虐心顕にした目で笑う。

 

・・・・・・やはりマキさんは奔放だった。

俺がみんなに敷いたルール。

元に戻るまでは肉体関係は自重するという約束を気まぐれで越えようとしてきた。

 

「ほらダイ、抵抗してみろよ。

 無駄だと思うけどな」

 

マキさんは俺の頬についた真新しい傷口に舌を這わす。

 

ねっとりと、それこそ味わうように。

薄くついていた血の痕すら残らないように舐め上げる。

 

「ダイ。私は知ってんだぞ、お前・・・・・・溜まってるだろ」

 

何も言い返せない。

間違っていない、図星だからだ。

 

「それでも、やめてください。

 愛さん達を裏切りたくはない」

 

今の俺は曖昧な立ち位置だ。

それこそ殆ど浮気しているようなものだろう。

何せよい子さんに結婚の話を語っておいて愛さんや梓ちゃん、恋奈達とデートだってしている。

そして皆は俺の事情を察して俺を責める事はしない。

 

だから何をしていいわけでもない。

 

多分、一度この状況でそういう事をすれば確実にタガが外れる。

それこそ愛さん達に殺されたって仕方がない状況になる。

 

「・・・・・・マキさん」

 

俺は余計なことは言わず、真っ直ぐにマキさんを見つめる。

 

俺の真意は伝わっている筈。

彼女は眉を寄せてこちらを睨む。

 

「わかったよ、しゃーねーな」

 

大きな、本当に大きなため息を残し解放される手。

そして俺から目をそらした後、マキさんはボソリと呟く。

 

「ったく。溜まってるのは何もお前だけじゃねーんだよ」

「はい?」

「何でもねーよ・・・・・・ちょっと自分の部屋戻って落ち着いてくる」

 

何やら火照った顔をした彼女は、少し急ぎ気味な様子で自室に戻っていった。

 

落ち着いてくる?

何を落ち着かせるのだろうか。

追いかけて確認してみたい衝動に駆られそうになるが、

そうしたらそのまま殺されるか、大きく道を踏み外しそうなイメージがしたため立ち止まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後。

日曜日の前日の夜。

江ノ島の人気のない海辺の一角に三人の影があった。

 

「センパイもマゾっすね。

 何が嬉しくて自分から殴られたがるのか。あずには理解不能ですわ」

「べ、別に殴られて喜んでるわけじゃ――――」

「集中しろ」

「ぐはぁ!?」

 

長谷大は我那覇に殴り飛ばされる。

体はきりもみ状に回転し、そのまま頭から海に着水。

 

普通ならば慌てて助けに行くところだが、梓と我那覇は特に慌てた様子もない。

 

「あはは、今日これで何度目っすか」

「通算十一度目です」

 

ケタケタと笑う梓。

そんな彼女の問いに真面目に答え、長谷大が戻ってくるのを待つ。

 

十秒後、海水でびしょ濡れになった大が自力で戻ってきた。

顔どころか全身から海水を滴らせて、疲労濃い表情をしているが

まだ目に活力は残っている。

 

「はぁ、はぁ・・・・・・何度も手加減、ありがとう」

「む、気づいていたか」

「そりゃそうでしょ。

 本気でナハさんに殴られたら一撃で俺なんて木っ端微塵だよ」

 

大の言うとおりである。

 

ナハが手加減していなければ恐らく大は耐えれて二~三発。

だが今日殴られた回数は既に十を超えている。

 

ならば何故この段階まで殴られても大に大したダメージはないのか。

答えはシンプル。我那覇が派手に大を吹き飛ばしているだけだからだ。

 

「でも、これはいいかもね。

 今は殴られなれる事よりも吹っ飛ばないようになるコツを掴むことが重要だし」

「うむ。今は質を求めるよりも回数をこなすべきだとセンパイからの指示に従ったまでだ」

「こらナハ、ばらすな」

 

少し怒る梓。

これにしまったと渋面を作る我那覇。

 

「はぁ。それでセンパイ、コツ掴めてきました?」

「あぁ!? 全然全くこれっぽちもつかめてないよ! 舐めんな!」

「威張ることか」

「清々しい程にセンスないっすね」

 

ナハとのぶつかり稽古を始めてから、何十回も言われた言葉である。

だが最初からセンスがないことは自覚しているため、大は大で言われても特に反発心はない。

無論克己心はある。

だから何度も海に吹き飛ばされている。

 

「センパイはまず姿勢を直していきましょう。

 さっきから見てて思ってましたけど、その姿勢じゃ踏ん張りきかないっしょ」

 

そう言って梓は未だびしょ濡れの大にくっつき、腰や足に手を回して

意識すべき姿勢を大に作らせる。

 

その行為で梓自身も海水で汚れるが、一切気にしている様子はない。

 

「これって三戦立ちって言うやつだよね。

 前に漫画で見たことがある」

 

矯正されるがままにしていたら、大は空手にある三戦立ちという姿勢を作られていた。

膝を落とし内股でレの字に足を構える形だ。

 

「良いっすか。ど素人のセンパイに構えとか技を教えるのはまだ早いです。

 それ以前に立ち方から覚え、そこから筋肉の動きを理解しましょう」

 

立ち方から。

確かに格闘技で言うファイティングポーズすら大には分からない。

だったらそれ以前に立ち方から覚えていこうという考えだ。

 

「その姿勢のまま脇腹、肋骨、腹筋、背筋を締めてください」

「・・・・・・えっと」

 

いきなり言われてもどう締めればいいのかすらわからない大。

梓も先走りすぎたと思い、どう言い換えようか考えた。

 

「括約筋・・・・・・ぶっちゃけ肛門を締めてください。

 そうすりゃ意識が足腰に向きやすいんで、そっから踏ん張るイメージしていきましょう」

「ああ、確かに便意我慢してる時って地面に踏ん張ってる姿勢だよね」

「うぐ、そうですけど別にそういうのを関連付けたかったわけじゃ」

 

三戦立ちだけでも教えることは余りにも多い。

 

膝は柔軟に力を抜き踵を内に絞める。

臀部と丹田にを中心に力を入れて内へと引き締める。

まだまだ沢山イメージしなければならない事は沢山ある。

 

「汝が覚える立ち方はそれだけで良さそうだ」

「そっすね。センパイにはこれと後二つだけ技を覚えてもらいましょうか。

 一、二ヶ月じゃそれが限度でしょうし」

 

残された時間がどれほどなのかはまだあやふやだ。

ただ、何にせよ来るべき日に備え大は梓と我那覇の世話になっていた。

 

 

 

 

 

 

「ぐっはぁーーーー!」

「踏ん張りが足りん―――――ぬ、しまった!」

 

立ち方を習って尚吹き飛ばされる。

しかも今回はなまじ踏ん張る強さが比較的優れているその姿勢のせいで

吹っ飛ぶ際に我那覇が手加減をし損ねて彼に大きなダメージがあった。

 

我那覇は拳を振り抜いた後、力を入れすぎた事に気付く。

恐らく今ので気絶したかもしれない。

そうなれば海に沈み、命の保証はない。

 

慌てて海に駆け寄る我那覇。

 

その横を一瞬で通り抜ける影があった。

 

「せ、センパイ!」

 

梓だ。

 

彼女は全力で砂浜を駆け抜け、大が宙に浮いている段階で海に飛び込んだ。

そのまま、凄まじい速度で泳ぎ抜き、大が着水するのと殆ど同時に彼の体が沈まぬようにと抱きとめる。

 

「っぷはぁ! 今の見てた梓ちゃん!?

 何か今までで一番耐えれてた気がする!」

 

だが梓の心配は杞憂だったようで、大は多少痛みに顔を顰めてはいるものの、

自力で泳ぐのには問題ない程度の余裕がある。

 

「タフっすね」

「今のを教えてくれた梓ちゃんのおかげだよ。

 やっぱり君とナハさんに頼んでよかった。もう一回レクチャーしてもらってもいいかな?」

 

笑いながら二人は海を泳ぎ、直ぐに再び砂浜に足を付ける。

そこには我那覇が困った表情で立ち尽くしていた。

 

梓はその姿を確認し、すれ違う際に呟いた。

 

「ナハ、実は結構楽しんでるでしょ」

 

その言葉にギクリとする我那覇。

 

「恥ずかしながら」

 

少しばかり照れくさそうに、正直に答えた。

梓はその珍しい彼女の表情に軽く笑った。

 

「あはは、別に照れなくてもいいよ。あずも結構楽しんでるし・・・・・・でもさ」

 

不意に、梓の語気と我那覇を見る目の質が変わる。

 

「――――手加減し損ねてセンパイに何かあったらわかってるよな」

 

殺意に似た気配。

明らかに脅しではない言葉に我那覇は硬直する。

 

「心得ております」

 

梓は黙って我那覇を見る。

目に普段見せる一切のおどけた色はない。

ここで回答を間違えれば確実に粛清されかねない。

 

我那覇はそう判断し、答えた。

 

「そっか、ならいいや」

 

先程まで、射殺さんばかりだった鋭い目を緩ませ笑顔をつくる梓。

 

その極端な変貌に我那覇は震えが走った。

 

「センパイ、貴女は」

 

言いかけて口を閉じた。

言えるわけがない。

 

何せ今言おうとしたことは

 

「・・・・・・与太者と同じ目だ」

 

不良を抜けた梓。

しかし、彼女の内には当時のような荒い気性がまだ潜んでいた。

今の表情や気配はその片鱗なのだろう。

 

「やはり人の本質はそう簡単には変わらぬか」

 

その言葉は果たして、梓にだけ当てはまるものなのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日に日に大の外見は変わっていった。

たくましくとかそういうベクトルじゃない。

 

「大、誰にやられたの。

 隠さずに言いなさい」

「皆俺を見るたびにそう言うんだよね・・・・・・

 そんなに俺の顔酷い?」

 

酷いなんてもんじゃない。

青タンができてパンダみたいになっているし、

見た感じ体にもダメージがあるのか、歩き方が不自然だ。

 

「不良に絡まれてるのなら言いなさい。

 私がただじゃ置かない。江之死魔の総長の男に危害を加えた奴を許さない」

 

久々に殺意が湧いた。

 

だが頭は至って冷静だ。

冷めた頭で誰が大に手を出したのか考える。

 

やはり水戸の差金か?

いや、水戸はそんな馬鹿な事をしない。

大が私だけでなく腰越や辻堂とも懇意にしているのは承知のはずだ。

だったら大に手を出すリスクを犯すとは思えない。

 

ならば千葉連とかの先走った下っ端どもか?

 

なんにせよ、落とし前はつけさせる。

見逃すつもりなど毛頭ない。

 

「あのさ、何か真剣に考えてるみたいだけど。

 この怪我は自業自得というか、俺が未熟だからできたものであって誰かのせいというわけでは」

「人の良いアンタならそう言うでしょうね。

 そこがアンタの良いところなのは知ってるし、私にとっても好きな美点よ。

 でも、大が納得してたとしても私は納得しない」

 

大本人が語らない以上どうやって犯人を搾り出す?

辻堂や腰越の力も利用するか?

流石に大が現在進行形で怪我をし続けていればアイツ等も腰を上げるだろう。

 

「恋奈」

「な、なによ」

 

一瞬、大が出した真面目な声に固まる。

 

「俺を心配してくれてありがとう。でも、これは本当に俺個人の問題なんだ。

 だから気にしないでくれ」

 

この目は嘘を言っていない。

声からは必死さではなく、かと言って誤魔化すアクセントもない。

真剣に、一切の濁りのない言葉の重さがある。

 

「・・・・・・本当に、大丈夫なのね?」

「ああ。大丈夫だ」

「嘘とか、そんなのはついてないわよね」

「勿論だ。俺は恋奈に嘘なんてついていない」

 

だったら良い。

 

恐らくこんな事を辻堂や腰越ともやってるだろう。

私も多分あいつらと同じ反応をしている。

 

大にあしらわれた気がしなくもないが、それでもコイツが大丈夫だというのなら大丈夫なのだろう。

信じよう。

 

「ところで、何でアンタ首筋にキスマークつけてんの?」

「え? あれ!? い、いつの間に・・・・・・」

 

手鏡を見せると大は露骨に狼狽した。

 

多分誰に付けられたかはわかっているな。

 

「まさかとは思うけど、腰越と時々一緒に寝てたりするんじゃない?」

「・・・・・・これ、俺の姉ちゃんです」

「・・・・・・そう」

 

よく見れば首の反対側には腰越のと思わしき歯型もあった。

 

朝のことを思い出したらしい、露骨に渋い顔になってる。

大は大で腰越や姉に欲情しないように結構苦労しているらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ、何で長谷がここにいるシ」

「ども。相変わらずハナさんは顔を見せてくれるだけで心を癒してくれるなぁ。

 残機システムがあるのならここで一機増えてるよ」

「にょわー! 馴れ馴れしいシ!」

 

江之死魔集会所に現れた田中花子の顔を見るやいなや速攻頭を撫で回す大。

それに抵抗しようとするものの、余りにも非力すぎて手を跳ね除けられない。

この田中花子、一見すると小学生低学年あたりにしか見えない。

 

無論正真正銘高校生なのだけれど、それでも幼児にしか見えないという特徴があった。

尚、身体能力は小学生低学年以下である。

 

「あ~、かったりぃっての。

 毎度毎度偵察ばっかりで俺っちもう限界だわ」

「我慢しろ。そもそも俺はお前の図体は偵察に向いていないから止めただろうが。

 呼んでもいないのに勝手についてきて邪魔をした挙句文句を言うな」

「でも一人留守番ってのも退屈だっての」

「知るか――――あ、ヒロく・・・・・・君か。

 何しに来た」

 

続いて戻ってきたリョウとティアラが戻ってきた。

今の二人の会話を聞くに、どこかのグループの偵察にいってたらしい。

 

リョウは大の姿を見て即座に反応する。

 

「はぁ。コイツがここにいるのは私が呼んだからよ。

 辻堂や腰越と仲のいい長谷から情報を私が直々に絞り出してたってワケ」

 

因みに大と恋奈、リョウとの関係は事情を知る人以外には完全に秘密にしている。

 

表向きでは恋奈は大を毛嫌いしていて、リョウも大のことを何とも思っていない。

そんな関係だ。

 

「ふーん。それで何かいい情報引き出せたんですかい?」

「まー、ボチボチね」

「何かはっきりしないシ」

 

大を無視してたむろし出す三人。

大はどうしたものかと思い、会話に混ざろうか考える。

 

「・・・・・・ヒロ君、恋奈と何を話していたんだ?」

 

気配を消したリョウがいつのまにか大の傍に立っていた。

これには大も驚き一瞬声を上げそうになるが、ギリギリのところで踏ん張る。

 

「うん。この青タンの事でね」

「ああ、そっちの話か」

 

リョウは大が何故こんなに毎日怪我まみれになっているかの事情を知っている。

その為今の明らかに足りていない言葉でも理解できた。

 

だが、チラリとその怪我を見てリョウはため息をついた。

 

「怪我、痛まないか?」

「実は結構痛いね。特に首のところなんてムチウチみたいになっててさ

 これ以上曲げると尋常じゃなく痛いんだ」

「本当に君は無茶ばかりして・・・・・・」

 

心配気に手をさし伸ばし、大の首に手を回す。

そのまま柔らかな手つきで首を揉む。

 

「少し、火照っているな。

 筋肉痛も結構キツイんじゃないのか?」

「実はね。でも、キツイけど辛くはないよ」

 

怪我も筋肉痛も痛い。

しかし、自身の目標を果たすためならば仕方ないし。

この積み重ねがきっと意味を持つ。

大はそう確信している。

 

リョウはその自信に満ちた大の顔を見て、少し胸が高鳴った。

 

「君は・・・・・・ちょっと見ない間にまた格好よくなったな」

「そ、そうかな」

 

いきなりおだてられても大としては困るばかりだった。

 

「あれ、今度はリョウと仲良くしてるシ」

「リョウが笑顔で話してる所なんて初めて見たっての」

「ちょっと気持ち悪いシ・・・・・・」

「ほっとけ」

 

結構酷い言い草の二人に渋い顔をする。

 

もっとも実際にリョウが笑う事など滅多にない。

その為大以外は彼女が笑ったところを見るのはこれが初めてなのだ。

 

周りの人間が自身に視線を向けていることに気づいたリョウは空気を変えるべく、

一度咳払いする。

 

「こほん。恋奈、結果報告だ」

「オーケー、聞くわ」

 

恋奈もリョウが空気を誤魔化したがっている事に気付き、それに乗る。

 

「恋奈様ー、ここに部外者いるけどいいんですかい?」

「構わないわ。どうせ聞いてた所で何の事かわかんないだろうし」

「でも辻堂にそのまま伝わっちゃうかも?」

 

花子の言葉に頷く一条ティアラ。

 

恋奈の本心としては、ここで大にも情報を聞かせて警戒させたい所だ。

これから語ることは八州連盟の事、それも最近の活動範囲や行動パターンの詳細。

ここでそのよく奴らが暴れるポイントを聞かせておけば大もそこには近づかないだろう。

そう考えてのことだった。

 

「別に構わないだろう。

 辻堂に情報が伝わったところで俺達に何もリスクはない。

 あるのは八州連盟に関わる奴らだけだ」

 

現在、江之死魔の見立てだとまだ八州連盟はできていない。

千葉連、茨城連、そしてベンテンのメンバーはまだ顔合わせ程度しか済んでいなく

それこそ誰がトップなのかを決める以前に手を組むかどうかを検討中な段階だ。

 

その為、そのじれったい状況にしびれを切らした者達が湘南を荒らしている。

 

江之死魔としては自分の縄張りを荒らされているようなもので、捨て置くにはプライドに関わる。

とは言え数が数で、しかも本当に誰かが指揮をとっているわけでもなく

ただの烏合の衆。

叩き潰すにはキリがない。

 

「むしろ辻堂や腰越に伝えてくれた方が手が増えて楽かもだシ」

「・・・・・・そうね」

 

まだ腰越マキが不良を抜けた事は記憶の件の事情を知る者以外誰も知らない。

 

だが、それでもここ数週間暴れていない腰越を不思議がるものは増えてきた。

 

「彼も同席することで構わないな。

 それじゃあ話を始めるぞ」

 

結論が出て、リョウが説明を始める。

 

その時、その場で彼女の話を聞く大の目は酷く真剣なものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どもっすティアラさんハナちゃんセンパイ。長谷センパイ迎えに来ました」

「お、梓。ひさしぶりだっての」

「ホント久しぶりに顔を見た気がするシ」

 

報告が終わり、今後の方針等を話し始めた頃

江之死魔集会所に梓の姿が現れた。

 

それに反応し、その場の全員が彼女の姿を見る。

 

「うはぁ。相変わらず凄い人数っすねぇ、久々に見たらちょっと驚きましたわ」

「久々って、まだ梓が江之死魔抜けて二週間程度じゃないんかい」

「あ、あはは。そういやそうっすね。

 いやぁ・・・・・・ほら、自分江之死魔出席率良かったっしょ?

 だから急に来なくなったら一日千秋的な感じで・・・・・・ね?」

「い、イチヂクせんそう?」

「いちじつせんしゅう、だシ。全然ちがうじゃん。

 ティアラに難しい言葉使うと会話噛み合わないシ」

 

何とか誤魔化せたかと梓は冷や汗をかく。

 

それを何やってんだかと呆れ顔で見る三人。

 

「あの様子じゃうっかりいつかバラしちゃいそうね」

「バレたとしても誰も信じはしないだろうがな」

「だよね。俺、未来の記憶持ってるんだーって言ったってねぇ・・・・・・」

「隔離病棟にぶち込まれても文句は言えないわね」

 

三人は結構冷静に自分の状況をそれぞれ考えていた。

 

マキの手で元の時間軸に戻れたとして、今の時間軸はどうなるのか?

その疑問に答えを出すのではなく、もし戻れなかったらどうするか。

そちらの方に意識を向けていた。

 

ここで好き勝手に過ごし、もし戻れなくなって全てがパーなんかでは笑えない。

故に各々が戻れなかったとしても尚絶望しない為のアクションを起こしている。

 

「じゃあ梓ちゃん迎えに来たから行くね」

「ああ・・・・・・今日も頑張ってね、ヒロ君」

「何そのキャラ。

 っていうかその喋り方と声の質どこかで聞いたことあるような」

「気のせいだ」

 

彼を励ますために多少の危険を侵して大を励ますリョウ。

大はその事に嬉しさを感じ、力強くうなづく。

 

「っていうか、頑張るって何をよ」

「ちょっと最近勉強してることがあってさ。

 これがまた俺にセンスない分野で苦労してるんだ」

 

嘘はついていない。

むしろ真実しか語っていない。

その為嘘をつけない性格である大でも恋奈が引っかかるような素振りは見せなかった。

 

「そう。勉強頑張りなさい、時間があれば私も見てあげるから」

「年下の一年生に勉強見られる俺って一体」

「まぁ、恋奈は特別だからな。君が気にする必要はない」

 

大が落ち込むたびに気の利いたフォローを入れるリョウ。

こういう所で各々の個性がよく現れる。

 

「・・・・・・大、話聞いてたわよね。

 絶対にさっき説明した危険な所には足を運んじゃ駄目よ」

 

恋奈は心配した様子で大に訴える。

大はその恋奈の必死な様子に言葉を選んだ。

 

「あ、ああ。わかった」

 

そう言って恋奈に背を向け、梓の方へ向かう大。

その背中を黙って見送る恋奈。

 

「・・・・・・ヒロ君ってば、相変わらず嘘が下手なんだから」

 

恋奈も恐らく気づいているであろう。

 

相変わらずな大にリョウは苦笑いした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同日の夜。

湘南の海辺で一つの中規模の喧嘩があった。

 

「グボァ!

 ぐ、クソ・・・・・・てめぇら千葉連のヤツだな!」

「ああそうだよ。

 しっかし湘南ってのもしょぼい田舎だなぁ。

 田舎ついでにどいつもこいつも喧嘩が弱い。こりゃ湘南制覇も時間の問題だわ」

 

一つの無名のチームが千葉連の一角の不良達に袋叩きにあっている。

ただ、この喧嘩には発端があった。

 

「ぐ、卑怯者がッ!

 一般人巻き込んでんじゃねぇぞ!」

「はっはっは。不良に卑怯もクソもあるかよ」

 

言葉通りの意味である。

この喧嘩の発端は、この千葉連のチームが一般人相手に暴行した事が原因である。

 

そして比較的硬派なタイプであった湘南の方のチームがそれを止めに入った。

おかげで一般人は無事逃げることができたが、

代わりに数で劣るこの湘南のチームは一方的に殴り倒された。

 

「おい、テメェら。こいつ等どうするよ」

「ん~・・・・・・もうちょい痛めつけて江之死魔にお届けするってのはどうっすかぁ?」

「はは、それいいかも!」

 

痛めつけられ身動き取れない湘南のチームを下衆な笑いを浮かべながら話あう数十人。

 

「―――――ふん、下劣さを隠しもしないそのみっともなさ。

 所詮与太者よな」

 

全く気配なく、その場に声が澄み渡る。

 

「あぁ!? 何だテメェ!」

 

問いに一切答えず、いつの間にか現れた声の主は黙って湘南のチームと千葉連のチームの間に立ちはだかった。

 

「はは、ナハって背がデカいからそうやって割り込むとスゲェ雰囲気でるよね。

 そう思いません? ショウセンパイ」

「・・・・・・」

「ありゃ、やっぱ喋ってくれませんか」

 

続けて、更に離れたところから二人の姿が近づく。

 

一人は乾梓。

そしてもう一人は、黒ずくめの服装に不気味な

喜怒哀楽のどれとも取れないような表情を象っているマスクをつけた男の姿があった。

 

「な、なんだこいつ等・・・・・・」

「あ、俺この巨人の噂なら聞いたことある。

 確か、一人で元プロボクサーの利根川さんをノシたって」

「はぁ!? 利根川さんを!?

 フカシじゃねぇのかよ!」

 

我那覇の姿を見て怯え始める千葉連の不良たち。

 

「じゃ、じゃああの二人は誰だよ」

 

こちらに向かってゆっくり歩いてくる二人を指差す。

だが誰もが首を捻った。

 

「女の方は見覚えあるっ。確か江之死魔の元幹部のヤツだったはず!

 顔が可愛いからよく覚えてるぜ!」

「あ、ああ! あの喧嘩始まると逃げてばかりって奴か!

 俺も思い出したわ!」

「だったら、隣の男は何だよ。

 あんな気色悪いヤツの噂なんて聞いたことねぇぞ」

 

必死に現状を整理する。

そのお陰で梓と我那覇の情報はまとまった。

 

しかし、三人目であるマスクの男の情報だけは一切ない。

 

我那覇はその正面の不良たちから目を逸らし、後ろに倒れている数人の湘南の不良に目を向けた。

 

「与太者共、貴様らが一般人をこやつらから保護したのは評価しよう。

 与太者ではあるが外道ではない。故に後は我らが引き受ける。汝らは引くが良い」

「え、あ・・・・・・あぁ。助かる」

 

その威厳ある声質に湘南の不良たちは驚き、

直ぐに反応して立ち上がった。

そして邪魔にならないように言われたとおりに距離を置いた。

 

「見た感じ雑魚ばっかりだけど、実験台になりますかねぇこいつ等」

「・・・・・・」

 

酷く冷酷な嘲笑を浮かべる梓。

そしてその隣に立つマスクの男。

 

「ぐ、やべぇ! 流石に我那覇は無理だ!」

「逃げるぞ! あの二人なら余裕だろ!」

 

不良たちは梓とマスクの男相手なら、殴り倒した上に逃げきれると答えを出した。

男たちは必死になって我那覇に背を向け、そのまま二人の方へ走り出す。

 

「愚かな・・・・・・もっとも苦痛を味わう選択肢を選んだか」

 

我那覇は自分から逃げるように走る男たちに憐れみの目を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

その翌日。

 

江之死魔の集会場にはボロボロになった千葉連の不良が捨て置かれ

―――――暴走王国『スピードキングダム』という名のチームが現れた事が湘南の不良の間で話題となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。