ピピピピ、ピピピピ、ピピピピ……
「ふぁ……あと5分……zzz」
穏やかな朝。
布団にくるまって寝息を立てていた少年が小煩く鳴り出した目覚まし時計のスイッチを押してアラームを消す。
静寂を取り戻した部屋に満足気な少年はまた夢の中へ意識を戻す。
「トガ兄ーーーーーーーー!!!」
「ぐえっ……!?」
直後に現れる乱入者。
小柄な体躯に青い髪の少女が人間ロケットを思わせるフォームで真っ直ぐにベットに眠る少年に突撃をかます。
突然の特攻兵器アタックを喰らった少年は当たりどころが悪く絞められた鶏染みた悲鳴を上げて飛び起きた。
「……お前か、葵」
「えへへー」
部屋の主、烏丸渡鴉は下手人の顔を視認して嘆息。
彼の身体に馬乗りになって無邪気に笑うその顔は烏丸葵。
特技大食い趣味ご飯を自称する渡鴉の妹で、ガンプラファイターの間で『蒼い粉砕者』と呼ばれ恐れられているが、ガンプラバトルをしない分には渡鴉にとって可愛い妹だった。
そしてその葵は満面の笑顔で渡鴉の体を揺すりながら彼にとっての爆弾発言を投下する。
「お兄、学校のセレクション?もう始まるよー」
「寝坊シタァァァァァァ!!!?」
葵ごと布団を持ち上げ、文字通り飛び跳ねる。
今日は渡鴉の私立高校受験日だった。
黒いパーカーを着込み、バックにガンプラを入れたケースを二箱仕舞い込む。
今回のセレクションに文房具は要らなかったはずでひとまず支度は完了。
キャッキャと笑う葵を脇に抱えて二階の階段を降りる。
リビングでは父が新聞を読み、母は食器を片していた。
「おはよう。渡鴉」
「おはよう父さん。紅葉は?」
「仕事だって」
「ああ」
「あ、あんた起きたのね。時間大丈夫なの?」
「全然?食べながら向かうからパンない?」
「準備してるわよ」
「お兄、行ってらっしゃーい」
「おー行ってくる」
ノールックで放られたトーストを口で掴み食卓の引いた椅子に妹を座らせ家を飛び出した。
「緊張してヘマすんじゃないよー」
「余計なお世話だ!」
自転車を漕いで試験会場へ走る。
時刻は試験開始の20分分前。
余計な時間の前倒しさえなければ自宅からチャリ通10分の試験会場に間に合う時間だ。
私立ガンプラ学園二年生のアドウ・サガはガンプラ学園を受験しに来た後輩候補達を一瞥して目に見えて落胆した。
(期待外ればっかだな)
彼らは一様に名門として名高いガンプラ学園のセレクションに期待を踊らせ、アドウ・サガを含む在校生に対して憧憬と畏怖の視線を寄越している。
とりわけアドウに対する恐れの視線が多いものだが、それも『デッドエンドのサガ』の異名を持つ彼ならば仕方のないことだろう。
彼ら受験生のガンプラや大まかな力量はアドウにとっては物足りないものの他校であれば即戦力に足るもので、期待しなければそこそこ楽しめるだろうとアドウは今日のセレクションを想像していた所だった。
受付終了間際にガンプラ学園の校門を通過する自転車に跨った男。
「あっぶねー!?ギリッギリ!セーフ!」
「あぁ?今頃受験者ーーーッ!?」
直後、アドウの背筋に冷たい感触が刺した。
鳥肌が一斉に立ち、感じて久しい身震いに知らず知らず彼の口角が上がる。
もしかしたらの期待で声の主を振り返ると、地味な黒いパーカーにズボンのいでたちで、やる気のない疲れ目と寝癖ぼさぼさの男が自転車のスタンドを下ろしつつ肩で息をしていた。
「受験番号ーー番で、はい。烏丸渡鴉です」
受付を終えた渡鴉はこちらを見つめるアドウの視線に気付いた。
見るからに強面ヅラした巨漢がこちらを睨みつけるように凝視しているのだ。
到底無視できるものではないと判断して一先ずかの御仁と会話をすることに。
とは言っても何を話そうか思いつかず、今日はガンプラ学園入学セレクションなのだし目の前のこいつもそういう類だろ、と見当を付けた。
まるっきりハズレである。
「よー。もしかしてお前も受験生?」
ピシッと周囲が固まった音がした。
周りの学生は受験生も在校生も例外なく「こいつあのアドウ・サガに対して何言ってんだこいつ」の視線を渡鴉へ向け、アドウは渡鴉の勘違いに更に笑みを深める。
アドウ・サガを知らぬこの勘違いしたバカに俄然興味が湧いたのだ。
「俺、烏丸渡鴉。お前は?」
「……アドウ。アドウ・サガだ」
「あっそう。んじゃアドって呼ぶわ。よろしくな、アド」
「くくく、ああ」
「「「……」」」
大して強そうでもないそいつはアドウを軽々しく呼び捨てにするどころか自分専用の呼び方まで決めてしまった。
なんて馴れ馴れしいやつだ。
その癖いやにビリビリした気配を持ってやがるそいつへアドウは周りの仲間たちに視線をやる。
ーーアレは俺のだ。
恐ろし気な含みに、デッドエンドに目を付けられた渡鴉を憐れむ在校生たち。
受験生もそのやり取りに気づき、アドウの矛先が自分に向かないのと知れて目に見えて安堵を吐き、渡鴉にこれから訪れるだろう結末を嘲笑う。
受付を終えて余裕が出来たのか、ジュースを片手に鼻歌を歌う渡鴉が受験生たちの輪に入った頃。
「時間です。これよりガンプラ学園入学セレクションを始めます」
遂にガンプラ学園のセレクションが始まった。
受験生は番号呼ばれた順に持参したガンプラで割り振られた在校生と戦い、その総合評価を持って合否を掛けられる。
といってもそこはガンプラ大会連続優勝記録保持の常連校。
殆どの受験生は為す術もなく試験官のガンプラに捻られている。
「つ、強……」
ジムのビームサーベルで両断されるガンダムMk-ll。
ザクのパンチでメインカメラを潰されるVガンダム。
逆に受験生が在校生側を圧倒する場合もあったが、それはほんの一部分に過ぎない。
大部分の受験生が健闘むなしくバトルに敗れ、がっくりと肩を落としていく。
「次は烏丸渡鴉。相手は……アドウ。お前だ。あまりやり過ぎるなよ」
「ちょっと遊ぶだけだ」
渡鴉とアドウの名前が呼ばれた瞬間周りの空気が一変する。
既に彼らの注目は『デッドエンドのサガ』が見せるガンプラバトルでありデッドエンドを気安く呼び捨てる男、烏丸渡鴉が惨めたらしくボコボコにされて彼の自慢のガンプラが粉砕されることだ。
アドウはGPベースに今回使用するクルーエルガンダムをバトルシステムにセットして渡鴉の出方を見るが、渡鴉はデッドエンドに対峙するにも関わらず、余裕綽々な態度を崩さない。
といっても、彼自身アドウ・サガのことを知らないだけなのだが。
「あいつ、デッドエンド相手に余裕そうだな」
「勝てる自信があるってのか?嘘だろ?」
それを知らない周りは渡鴉に対して恐れに似た感情を持ち渡鴉が一体どんなガンプラを見せるのか注目する。
勿論それは対戦相手のアドウも同じことだ。
元から凶悪な人相を更に歪ませて渡鴉とのガンプラバトルに臨む。
「はっ、精々楽しませろよ!渡鴉ァ!」
「気合い充分なのはいいけど、それが一周回って空回りしないと良いなぁ?アド」
渡鴉は背にからったリュックから緑色の蟲のようなモノを取り出した。
そのおぞましい姿に他の生徒は全員唖然とし、アドウですら口をぽかんと開けて自失しかけた。
「それがお前のガンプラか?」
アドウ・サガ自身ゲテモノガンプラ好きを自称し、アナザーガンダムの対極に位置するライバル機をこよなく愛している。
しかし渡鴉が出したソレは明らかにゲテモノの域を超えていて不気味であった。
「あ、これ?ただのケース」
「た、ただのケースでソレかよ。じゃあ本命のガンプラはどんなゲテモノ機体だァ?」
ゲテモノvs.ゲテモノを想像し薄く笑う。
しかし渡鴉は首を傾げて疑問を口にした。
「これ、一応AMIDAちゃんっていうんだけど、可愛くないか?」
(((やべえこいつ頭イかれてるぜ!)))
アドウ以下全員の気持ちが一体化した瞬間だった。
※アドウはゲテモノ機体が好きなだけであり、ゲテモノ枠を超越したAMIDAちゃんは思考の範疇にありません。つまりAMIDAはゲテモノ界最強の生物なのです。
「本当。あの子可愛い」
「………シ、ア?」
約1名AMIDAをお気に召した重症患者がいたようです。
「まあケースとしては最高級だから今度使ってみなよ。ほら、こんな感じでガンプラと中を別々に収納できて」
「……んだ、そりゃ」
胴体から頭が離れ、中に隠れていたガンプラが姿を現わす。
ソレを見てアドウは思わず呟いた。
「軽量二脚〝アクアビットマン〟ま、未完成だけどな」
アドウのガンプラに明日はあるか?
コジマはチャージ出来てるか?
ーーコジマ戦士アクアビットマン 一話にてーー