赤城のグルメ   作:冬霞@ハーメルン

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イベントも始まり艦これ人気も絶頂! 次々に新規サーバが稼働する中、運営鎮守府様の奮戦に頭の下がる思いです。
我々も大本営に少しでも助力すべく、盛り上げていきましょう! 先ずはそう、E-2突破!!


東京都千代田区外神田の人気セット

 

 

 

 

 秋葉原。

 多くの人はこの街の名前を聞いて、どんな印象があるだろうか。

 東京郊外のベッドタウンとの接続駅でもあり、多くの在来線が交差する街は日々たくさんの人々が通り過ぎて行き、一度駅から街へと一歩踏み出せば、他の街にはない独特の雰囲気に包まれることだろう。

 所狭しと並ぶ様々な電気部品を扱う専門店。もう十年単位で何も変わっていないのではないかという程に古臭く親しみの涌く店構えから視線を移せば、今度はビルの上に堂々と鎮座まします現実味のない女の子の絵姿。そして道路にはあちらこちらに何故か客引きをしているメイドの姿。

 過去には電気の街として名を馳せた此処も、今ではアニメ・オタクの聖地という新たな側面を持つに至り、賑わっていた。

 

 

「う、恨みますよ提督‥‥! あぁ、まだ誰かに見られている気がする‥‥!」

 

 

 観光に来た外国からの旅行客。何かのイベントへと訪れているらしき、いまいち冴えない風体の若者。そしてサラリーマンや、専門の技術者と思しきオジサマ方。そんな中に、街の特色から言うと明らかに浮くとは言い難い一人の袴姿の少女。

 淡い桜色の着物に真紅の袴。長い黒髪を少女らしいリボンでポニーテールにし、何故か用途の不明な指抜きの手袋。何かのポスターを腰に差し、凛々しい姿とは裏腹に今にも泣き出しそうな困り顔。

 まるで守るように、あるいは隠すかのように紙袋を懐に抱いているのだが、いくら袖が長いといって隠しきれず、所謂『萌え萌え〜♪』な装飾というかデザインというか、彼女の様子から察するにものすごく恥ずかしいものが覗いてしまっていた。

 

 

「いくら私が秘書艦だからって、いつもお世話になってる提督の頼みごとだからホイホイ聞いてしまったからって、年頃の女の子にこんなもの取りに行かせますか普通?!

 お休み貰えたのは嬉しいですけど、周りは怪しげな男の人ばっかりだし、写真は撮られるし、さっきはお巡りさんに職務質問されちゃいますし、恥ずかしくて顔から火が出るかと‥‥!」

 

 

 敬愛し、信頼する提督からの珍しい本気で真剣な頼みごと。

 完全に私的なものだけど、どうしても頼みたい、これをしくじってしまうと死んでも死にきれない、色々と礼もするからと必死に頭を下げた提督は何を思ってこんなものを買いに行かせたのだろうか。

 こんな、こんな恥ずかしい買い物、とてもじゃないけど提督の頼みであってもあんまりだ。

 

 

「お、女の子とイ、イチャイチャするゲームだなんて‥‥! 艦娘と共に軍務に就く者とは思えません! いかがわしい! 破廉恥! 最低です! 見損ないました!」

 

 

 朝早い電車に揺られ、開店前から列に並び。君にしか頼めない任務(クエスト)なんだと送り出されて購入したものが‥‥所謂ギャルゲー。

 当然ながら列には女子なんて殆どいなかった。何人かいたような気はするけど、自分とは明らかに違う匂いがした。そして不躾にも写真を撮られるし、あまつさえ盗撮はおろか「すいません、ちょっとポーズとって頂けませんか?」などと頼まれる始末。

 お礼にと朝食代わりだったのだろう菓子パンやジュースや、腰に差しているポスターをくれたから親切で善良な人達だったのだろうけれど、こちらは混乱しっ放しである。まさか艦娘と気づかれていたわけでもあるまいし、どうして少し奇抜な袴姿にここまで執着されるのかと。

 

 

「提督から『お礼だから是非とも明日はこれを着ていってくれ』って言われたコレ、まさかコスプレだったなんて‥‥!」

 

 

 確かにちょっと奇抜な着物ではあった。普段着のような仕立てなのに、色合いは成人式で使うのかというぐらいに派手。淡い桜色とはいっても、深紅の袴とのセットだとかなり目立つ。そして何より謎の手袋と普段は全く使わないリボン。完全に騙された。

 お巡りさんから職務質問をされなかったら、鎮守府に帰るまで徹頭徹尾気がつかなかったことだろう。お巡りさんも苦笑いしていた。むしろこの服がコスプレだと分かったお巡りさんも心配だ。とりあえず提督はお仕置き決定である。このゲームを遊んでる最中に電源引っこ抜いて差し上げます。

 

 

「球磨さんとかがコレを見たらと思うと‥‥少し心配ですね。紙袋とか欲しいなぁ。提督のお使いだって言い訳しても顛末が怖いわ。あの人、ああ見えてものすごく風紀に厳しいですし」

 

 

 自らの半身、前世のような存在である旧日本帝国海軍艦船の影響なのか、艦娘はどちらかというと酷く時代錯誤な価値観に影響されている。ものすごく誤解されそうな言い方をすると、憧れのアーティストをリスペクトして真夜中に盗んだバイクで走り出してしまう中学生のような感じ。

 例えば私も、候補生時代に比べると随分しっかりした、堅物になったなんて除隊した友達に言われたことがある。球磨さんみたいに右の方向に全速力で突っ走る人は流石に珍しいけど、那智先輩みたいな人は普通の部類。悪い方向だと扶桑先輩や山城先輩みたいに艦船の魂の遍歴の影響でダウナーな性格になってしまった場合もあって。

 それを艦娘に対する精神の侵略、人権侵害だと問題にする人達もいるけれど、自分が見る限り艦娘の中にそれを嫌がる子はいないように思えた。魂を受け入れた最初の内は混乱もするけれど、次第に大事に感じるようになっていく。唯一無二の相棒なのだ、当然だろう。

 

 

「扶桑先輩達はある意味スタンダードに悪影響受けてますけど、たまに大井さんみたいに適合症こじらせちゃう人もいますしね。もしかしたら十年後、二十年後には艦娘の在り方も変わっているのかも―――」

 

「あら、赤城さん」

 

「‥‥え?」

 

 

 同じ鎮守府で色んな騒動を巻き起こしている同僚のことを思い出しながら歩いていると、前方から聞こえた馴染みのある声。

 うっすらと品の良いお化粧。しっかり手入れされた、ふわりと柔らかそうな髪の毛。綺麗なお菓子か雲の切れ端しか摘まんでいないのではないかと思うぐらい繊細で白い指先。

 ―――重雷装巡洋艦大井。正確には、大井改二。鎮守府でも第一艦隊の所属として数々の海域へと共に出撃したエースである。

 

 

「大井さん‥‥どうして此処に?」

 

「そういう赤城さんこそ。私はホラ、非番ですから買い物に」

 

「買い物?」

 

「え、あ、いや、ちょっとプライベートなモノなんで、ほほ、おほほほ」

 

 

 いつも同じ重雷装巡洋艦仲間の北上さんと一緒にいるからか、あまり見かけない可愛らしい私服の後ろへと何かを隠す。駅の方から来たみたいだけど、あの辺りには大井さんの好みのお店はあっただろうか。

 いや、大井さんの好みなんて深くは知らないのだけれど。

 

 

「‥‥あら、赤城さんが持ってるのって‥‥女の子がいっぱい描かれた紙袋。女の子がいっぱい‥‥男の子ではなくて、女の子。もしかして赤城さん‥‥赤城さん!」

 

「は、はい?!」

 

 

 しっかり隠していたつもりが、しっかり見えていたらしき紙袋。それを覗き見た大井さんは暫くブツブツと考え込んだあと、突然がばりと予想以上に強い力で肩を掴んでくる。

 爛々と輝いた目と荒い息が怖い。ヲ級ニ隻とル級二隻に包囲された時よりも怖い。新入りだけど何となく頼れる阿武隈さん、助けて。

 

 

「おめでとう赤城さん! 加賀さん、きっと喜びますよ!」

 

「えぇ?! な、なんで加賀さんが出てくるんですか?!」

 

「なんで加賀さんが出てこないんですか?!」

 

「どういうこと?!」

 

「もう、水臭いんですから! わかってるくせに! 私ちょっと用事を思いついてしまったから、お先に失礼しますね! 赤城さんはゆっくり帰ってきてください! 本当に、おめでとうございます! とても喜ばしいことですよ!」

 

「あ、ちょっと大井さん! 大井さんってば! ‥‥行っちゃった。いつにも増して、というか別人じゃないのかしらってぐらいおかしかったけど、どうしたのかしら一体‥‥?」

 

 

 自分の知る大井さんは親友思いのとても良い同僚。練習艦時代が長かった半身の魂の影響で年下の面倒見が良くて、色々と不完全燃焼だった経緯があって戦いに熱心で、提督からも心配されている危なっかしい同僚。でもあんな危なっかしさはなかった。間違いなく。

 というか大井さんは本当に非番だったのだろうか。第一艦隊のローテーションを考えるとあまりにもおかしいが‥‥提督が何かしたのだろうか。

 

 

「まぁ、それは帰ってから聞いても大丈夫かな。そんなことより、今日は早く帰ってお仕事を片付けてしまわないといけませんからね。早めにご飯を食べてしまいましょう」

 

 

 電気街口、と呼ばれる改札から駅を出て、大きな道路の横断歩道を渡ったこの辺りは名前の通り、電気街と呼ばれるエリア。無線関係の電子機器が多い駅周辺に比べると、更に雑然とした店が並んでいる。

 自作パソコンに使う部品を扱う店。アニメショップ。メイド喫茶。楽器屋。レトロゲームショップ。もう何に使うのか名前と外見からでは全く判別出来ない謎の品々。そしてたくさんの食事処。

 一つの街の、一つの区画としては異常なくらい色んなお店が並んでいた。ラーメン屋。中華料理店。丼モノ。ケバブ。スパゲティ専門店。カフェ。洋食屋。カレーショップ。とにかくよりどりみどり、そしてどのお店も好みを直撃する渋い店構え。

 

 

「こ、これは悩みますね。どこもかしこも風情があって美味しそうです。中華も食べてみたい気がしますし、ケバブも最近気になってたんですよね。ナポリタンも大好物ですし‥‥あぁでも時間がない、早く食べて、帰ってしまわないと」

 

 

 見るからに美味しそうなナポリタンの写真の引力を振り切り、ケバブの匂いにフラフラと引き寄せられて、ラーメン屋に並ぶ行列を見て‥‥ぴたり、と歩みを止める。

 ラーメン屋の隣、あまりパットしない、まるで両隣の建物に埋れてしまっているかのような入口。その前の道路に、でかでかと据えられた手作りの看板。ごちゃごちゃした街だからか、とても馴染んでいた。

 

 

「‥‥秋葉原でボリューム、ナンバー1? いまどき大盛りを目玉にしている店なんて珍しくもない。この街でも結構見ますけど、その中でも自信満々ってことは相当の大盛りなのか、あるいは吹いてるだけなのか。どちらでしょうね、流石に普通ってことはないでしょうけど」

 

 

 飾られている写真を見ると、確かに多い。ご飯の量は普通盛りでも‥‥一升?! お茶碗二杯で一合だとすると、お茶碗二十杯分だ。

 ‥‥にわかには信じがたい量ではある。少なくとも、これを普通とは言わない、普通は。

 

 

「そのわりにお値段は普通の定食屋さんなんですね。白いお米がこんなに食べれて、このお値段なら満足できそう。あんまりお店を探す時間もないし、せっかくだし入ってみましょうか」

 

 

 何故か少し奥まっていて分かりづらい入口は引き戸。手をかけ、恐る恐るガラリと開く。

 狭い入口だけど、そこまで長身の部類ではないから問題なく潜り抜けることが出来た。一般的に装備が重いため長身の候補生が選ばれがちな長門型や扶桑型だと頭を打ったかもしれないけれど。

 

 

「いらっしゃい、お一人さん? 悪いけど、じゃあこっちのカウンターでいいかな? ごめんね! 今ちょっとホラ、大食い同好会の人達が来てるからさ! テーブル埋まっちゃっててさ!」

 

 

 さて店内の様子はと、視線を巡らせた途端にかかる威勢のいい声。

 常連さんとお話をしていたのだろうか、四人掛けのテーブルの近くで景気よく笑っていたお父さんが、まるで久しぶりに遊びに来た孫娘を迎えるかのような笑顔で手招きしてくる。

 招かれるままに、借りてきた猫みたいに大人しくカウンターの席へと腰かけた。使い古された座布団が何故か安心する。鎮守府の食堂の広い机に慣れていると、ここのカウンターは少し狭かった。

 

 

「御嬢さん初めて? テレビかネットか見てココ来たの?」

 

「え、テレビ‥‥ですか?」

 

「あぁごめんよ、みんなソレで来るからさ。いやね、結構有名なんだよウチはさ。秋葉原で一番のデカ盛りの店っていったらね、間違いなくウチだから」

 

 

 カウンターの立ち上がりに貼られた、たくさんの記事。どれにもこのお店のことが書いてあった。お父さんは誇らしげで、何処か子どもっぽい光が瞳の中でキラキラしていた。

 椅子に座ってるから見上げる形になって、自然と店内の様子も分かってくる。こじんまりとしているけれど、外の空気とは完全に隔離されていて、何十年も前の下町の雰囲気に満ちていた。神棚、お神輿の飾り、でかでかと貼られたお祭りの写真が独特の空気を作り出している。

 自分も、“赤城”も生きていなかった時代。でも、何故か温かくて懐かしい。

 

 

「初めての人ならコレだな、おススメのセット。ほら見て、これだけ入ってるから、お得なんだよ! 初めての人はみんなコレ食べるよ! いいね?」

 

 

 一番目立つところにある、指差されたメニュー。コロッケ、煮物、から揚げ、天ぷら、卵にサラダ、すべて入って定食屋さんとしては普通のお値段。確かにお得なのだろう。

 けれど押し付けられるっていうのは如何なものだろうか。普段から軍人として規律正しく上官命令には絶対服従の生活をしているが故の反抗なのか、ちょっと捻くれ者の血が騒ぐ。

 常連さんが多いお店だと独自のルールがあったりする。例えば加賀さんがたまに行くラーメン屋さんなんて、誰も教えてくれないルールを守れなければ店の外に連れ出されて袋叩きだとか。そういうのはちょっと好きじゃない。

 

 

「じゃあご飯の説明しようかな。初めてだってんなら分かんないもんね!」

 

(‥‥あぁ、でも良い人なんですね。お祖父様の家に、遊びに来たみたい)

 

 

 頑固親父、とは毛色が違う。すっごく楽しそうで、人懐っこいおじさん。悪い人じゃない、確かにその通りだ。すごく賑やかで、すごく温かい。

 あの、と口から出て行こうとしていた言葉は気がついたら引っ込んでしまっていた。面倒、でもない。無粋、とも少し違う。要は自分もこの雰囲気と空気、ご主人の人柄とお喋りを楽しんでいるわけか。うん、流されてしまうのも、悪くない。

 

 

「初めての人はさ、ご飯の量を聞くと普通って言っちゃうんだよね。ましてや大盛りなんてトンデモないよ! ウチは普通盛りでね、一升あります。だから最初は十軽から始めてくれよな。これでも結構多いから残しちゃう人もいるんだけどね」

 

 

 普通盛りは、と話しながら取り出したのは、もう丼ですらなくて大皿。下手すると特型の子たちなら一抱えぐらいの白い陶器のお皿。私が鎮守府の食堂で使っているのと同じくらい。まさか、娑婆でこんな大きさのご飯を用意しているところがあるなんてと吃驚。

 十軽っていうのは普通の十分の一。つまり一合だと差し出されたのは、御飯目安表なるポスター。使い込まれているのか、もう黄ばんでしまっている。

 

 

「大盛りで二升ってのはさ、伊達に出してるわけじゃあないんだよ。前に食べちゃった人がいてねぇ。やっぱりお相撲さんだったよ。流石にその人以外はいないけどさ。まぁ御嬢さんも最初は十軽から始めてよ」

 

「あ、私は、その」

 

「まぁまぁ、お代わりは出来るからさ。十軽っていってもアレだよ、この寿司桶で出してあげるから!」

 

 

 と、一通り話し終わったのか台所へと引っ込んでいくご主人。まるで嵐が通り過ぎたかのような怒濤のスピーチ。テーブルの方を見ると如何にもたくさん食べそうな体格の良い人達が、いつもあんな感じなんだよと笑っていた。誰であっても、この調子でお喋りし続けるらしい。

 いつの間にかメニューはご主人のおススメに決まってしまっていたけれど、ここまで推すのだから自慢の一品なんだろう。入門編というだけではなくて、是非とも食べて欲しいという思いが伝わってきた。これは楽しみ。まだですかね。

 

 

「―――はい、お待ちどうさま! 先ずこれね、お味噌汁とサラダと、ぜんまい。今おかず持ってくるからさ!」

 

 

 どん、と置かれる三つのお椀と皿。そして続けておかれる、ご飯と同じ桶に山と積まれたおかず。

 最後に十軽とはいっていたけど、目分量なのか少しばかり多めに見える白米の桶。狭いカウンターが料理で埋め尽くされる。二人分ぐらいは場所をとってしまっているだろう。このお店、カウンターは一人おきに座らなければいけないようだ。

 ではメニューを見てみよう。

 

 

『ごはん桶』

 →真っ赤な寿司桶にすりきり一杯。ご主人自慢のコシヒカリ。

 

『おかず桶』

 →煮物、天ぷら、から揚げ、卵焼きが文字通り桶からはみ出るぐらい山盛り。

 

『味噌汁椀』

 →濃い目の味付けで具だくさん。密かな名物。

 

『サラダ皿』

 →豆腐とレタス。ゴマだれドレッシングがかかってて、少し水気がきれてない。

 

『ぜんまい皿』

 →何故かこちらも山ほどのぜんまい。懐かしい味がする。

 

 

 試しにごはん桶とおかず桶を持ってみる。流石に装備よりは軽いけど、艦娘の自分でもズッシリと手に重い。ごはん、おかずとしては早々見ないボリュームだ。鎮守府の食堂でも正規空母、戦艦用のメニューでないとお目にかかれない。

 ごくり、と喉が鳴る。これは一刻も早くかっ喰らわなければ。我、食事に突入す!

 

 

「―――いただきます」

 

 

 先ず手をつけるのは、うず高く積まれたおかず。山頂を形成しているのは天ぷら。わずかに鳥の唐揚げが覗き、天ぷらの上には分厚い卵焼きだ。

 定番のかきあげに、キノコや野菜の天ぷらも乗せられている。これだけでも並の定食屋さんのおかずぐらいはあるが、このご飯の量には十分だろう。

 

 

「‥‥うん、よく揚がってますね。なんだか懐かしい味。でも醤油かぁ。私はお砂糖とみりんを混ぜたタレか、つゆが好きなんですけど」

 

 

 もっくもっくと天ぷらを噛みしめる。ものすごく豪快な揚げ方をしているらしくて、しっかりとした噛み応えとボリュームだ。ずっしりと口の中で存在を主張する。

 美味しいか、と言われたら美味しい。けどグルメな人はきっと気に入らないのかもしれないな。

 

 

「あ、これは‥‥ししとうですね。なんか、ししとうの天ぷらって幸せな気分になります」

 

 

 かきあげを片付ける合間に手を伸ばしたししとうといんげんの天ぷら。これもまたシンプルな揚げ具合で、こちらは醤油がよく染み込んだ。少し頼りないぐらいの食感が、むしろガッツリとしたかきあげの合間にすっごく爽やかな存在。横から殆どはみ出していたエリンギの天ぷらも、ことボリュームと歯ごたえでは茸の天ぷらの王様。

 ごはんの上にかきあげをのっけて、醤油をかけて少し醤油ご飯っぽくしてやるのは、はしたないけど好みだった。ご飯に直接かけるのではなくて、かきあげを通してかける。それは自分にとって明確なラインで区切られた行為だ。

 もちろんかき揚げを通したからといって味が変わったりするわけではない。そのランダムな醤油のかかり具合と、少しのラグ。これを楽しむのが誰にも文句のつけられないこだわりである。

 

 

「厚焼き卵‥‥既製品? まぁ、いいですけど。フカフカだと萎えちゃいますものね。このぐらいで丁度良い。それに私、これ結構好きなんです」

 

 

 市販のお弁当に入っているよりは大きいが、他のおかずに比べると少し小さめの厚焼き卵。しかし箸休めには丁度良い。

 逆にこれが、焼きたてフカフカならどうだろう? いや、それはそれで大歓迎ではあるけれど、箸休めとしての役割とはまた違う。

 

 

「水菜も久しぶりですね。シャキシャキ瑞々しくて、おかずみたいに満足出来る。豆腐ともよく合います。いくらでも食べられちゃいそう」

 

 

 天ぷらの山頂から少し掘り進めて、現れたのは煮物の中腹。おでん、だろうか、正確には。出汁がよく染みこんでいる。スーパーでも、定食屋でも、お家でも食べない独特の味だ。

 口に入れて噛み締めれば、シャクリ、ともグチャリ、ともフワリ、とも言えない歯ごたえ。少し冷めて温くなった汁が、溢れた端から口の中へと染みこんでいくような、落ち着いていくような‥‥。

 

 

「ああ、悪くない。落ち着く、安心します、この食感。濃いめの味付けも、ご飯が進みますね。お出しの染みこんだ大根ってどうしてこんなにご飯に合うんだろう」

 

 

 だいこん、しいたけ、にんじん、たけのこ、こんにゃく‥‥。どれも味が染みていて、不思議とご飯が進む。

 味が濃いとはいえ現代の若者にとってしてみれば、おかず係数は高い方じゃない。けど、軽めの係数に妙な補正が入って、気持ちよくご飯を口の中へと運んでくれた。重いだけなら飽きてしまうから、かな。

 

 

「お嬢ちゃん、唐揚げ食べてくれよ! みーんなウチの唐揚げを食べにくるのさ、カレー味でね、昔っから変わってねぇんだよ!」

 

「唐揚げ‥‥大きいし、重いですね」

 

「そりゃそうさ、なんたってウチの飯はやっちゃば飯だからな!」

 

「‥‥やっちゃば、といいますと?」

 

「野菜市場だよ。昔は神田に野菜市場があってね、ウチはそこに来る連中相手に商売してたんだ。よーく喰ったよ、連中は! 今でもその頃の人がね、社長とか、来てくれるのさ。夜は居酒屋やってるから、まぁお嬢ちゃんには関係ない話だけどね!」

 

 

 

 ご主人イチオシの唐揚げ。

 食べ慣れた、普通の唐揚げに比べると随分と大きい。そして箸で持ち上げてみると、重い。ずっしりとする。もうこれだけで、お肉の那珂のパワーが分かる。

 

 

「はむ、もぐ、もぐ、むむ、美味しい‥‥ッ!」

 

「だろ? 自慢のおかずだからね、やみつきになるよお嬢ちゃん!」

 

 

 

 ぎゅっと噛みしめると、カレーの味がしっかりと通った肉汁が染みだしてくるジューシィな唐揚げに驚いた。肉は程々に硬い。けど調理が良いのか、それが気にならなかった。

 みんなコレを目当てに来るのだ、という事実の真偽はさておき自慢するだけはある。これはまたごはんが進む、良いおかずだ。片時も止まらずに箸が動く。うん、豪快だけど、凄く美味しい。いいんですよ、こういうので。

 

 

「‥‥こりゃ、たまげた。よく食べるもんだ、お嬢ちゃん。たまにいるんだよなぁ、この前もホラ、大食い選手権に出たって女の人が来たんだよ。お代わり、要るだろ? 遠慮しないでたくさん食いな!」

 

「あ、ありがとうございます‥‥」

 

 

 いつの間にか寿司桶のご飯は空っぽに。

 カッカッカと豪快に笑うご主人が桶をひょいっと持ち去り、さっきと比べると随分と山盛りにして帰ってきた。長年この商売をやっているのだ、食べているところを見れば、その人がどのくらい食べる人なのかよくわかる、そうだ。

 勿論おかずの配分も抜かりない。というより多くて食べきれていない。これだけ資材(おかず)があれば心置きなくイベント(ごはん)に取り掛かれるというもの。

 

 

「昼間追撃船は、正規空母の見せ場ですから」

 

 

 これまた濃い味の、おかずのたくさん詰まった―――入った、とは形容できない―――味噌汁を啜り、先ほど半分ぐらい残しておいた天ぷらと、から揚げ、煮物と次々に片づけていく。

 少し味の変化が欲しくなったら、ご主人が他のお客さんに「撮影する時はこれと一緒に撮りなよ、大きさ分かりづらいからさ!」と差し出している七味唐辛子。個人的には一味よりも七味の方が、風味があって料理に合う。

 

 

「‥‥?」

 

 

 それでもやっぱりご飯が美味しくて、おかずは足りなくなる。残り少ない資材でどう戦うか、悩んでいた時に、ことんと目の前で小さな音がした。

 顔を上げてみれば、そこにはお皿に乗った揚げたてのから揚げが一つ。

 

 

「お嬢ちゃん、美味しそうに食べてくれるからサービス! これ食って午後も半日頑張りなよ1」

 

 

 人好きのする、皺だらけの笑顔。ありがたい艦隊決戦支援にお礼を言って、一気に残りを食べ進めた。

 温かいお茶に一息いれて、久しぶりにお外で満腹になったお腹が、これ以上ないほどに士気の強さを訴える。パワーをもらって、あぁ、確かに、これなら午後は全力でお仕事が出来そうだ。泊地戦姫だって昼間追撃の開幕航空攻撃でボコボコにできそうな気分。

 

 

「‥‥ごちそうさま、ありがとうございました」

 

「まいどあり、また来てよ。次はネギトロ丼を食べてってくれよな。ウチのはね、ネギトロ丼だけど、海鮮丼だから!」

 

 

 ネギトロ、が中央にうず高く盛られ、種々様々な海鮮がその周りを彩る異色な海鮮丼の写真を楽しそうに指差しながら話すご主人。

 この店ではご主人が司令官だ。次に来たときは、その言葉通りに海域(メニュー)を制覇していこう。

 何故かポカーンとした顔の常連さん達に見送られ、店を出た。太陽も登り切って、秋葉原の街はさらに多くの人で賑わう。外国人の観光客、サラリーマン、学生、メイド。とにかくたくさんの人波を掻き分け、駅へと向かった。

 

 

「―――早く帰って、あぁそうだ、先ずは提督に文句を言ってさしあげなければいけませんね」

 

 

 危うく置き忘れそうになってしまった紙袋と、自分の服装を見て溜息一つ。

 なんというか、非常に残念なことに。

 どうやら帰りの道中も心安らか、というわけにはいかないようだった‥‥。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

「‥‥え、どういうことですか大井さん」

 

「はい? 赤城さんこそ、大丈夫ですか? 私は今日は工廠で艤装関連のお仕事をしてましたよ。秋葉原なんて、非番じゃないんだから行けるわけないじゃないですか」

 

「ど、どういうことなの‥‥?」

 

 

 

 

 




Q.イベントの戦況はどうよ?
A.バケツを五十個以上費やしてE-2突破できず orz

Q.やっぱ昼間追撃戦が鍵かね?
A.それもあるけど、まず中破進軍の度胸がない

Q.ところで3-2は
A.おいばかやめろ

Q.冬コミとかどうすんのよ?
A.作者仲間でオフ会すんよ
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