掩護屋さんはハルコンネンとともに 作:瑕疵
この世界は紛れもなく最新鋭の世界である。ヴァーチャル・リアリティな世界である。人間の脳に直接作用するようにヘッドギアをつけて使用者の意識を刈り取り、ネットワークな世界に打ち込む娯楽世界。硝煙の臭いが立ち込めた鉛弾が縦横無尽に自由奔放な仮想世界。
それがガンゲイル・オンラインである。
とまあ、そんなモノローグはさて置いておこう。
現在僕は、あるスコードロンに防衛を任されている。最近それなりの実力が身についてきたのでそれを機にして《掩護屋》を始めたのだ。始めたと言ってもシステム的に登録されているような正式な職ではなく、あくまで個人的に、あくまで趣味として、あくまで小遣い稼ぎ感覚で行っているものだ。TwitterでGGOメインのゲームアカウントを運用しているので、「GGOで掩護屋を始めました。読んで字のごとく、頼まれればどこまでも掩護致します。詳しくはDM、またはゲーム内のチャットから!」というツイートをしてみた。するとものの数分で援護の依頼がやってきた。数にして9件。得体の知れないと言ったら自分から始めておいてなんなんだとは思うが、そんな防衛屋を頼る人がいるとはなかなかどうして込み上げてくるものがあった。いやはや、GGO内での知名度やTwitterのフォロワーがいっぱいよかったといつも思っている。
自分で言うのもなんだが、GGO界隈ではこう見えて結構有名な方だ。有名になってしまったのは不本意なのであるが、本人の不本意を差し置いてなお盛り上がりを見せるほどの知名度だ。独り歩きす根も葉もない噂話や都市伝説も耳に入ってくる。日本政府が送り込んだデザイナーチャイルドだとか、ただのチート使いだとか。前者も後者も嘘の塊である。僕は純日本人女性の胎内から這い出てきた正真正銘の人間である。そして僕はチートを一度たりとも使ったことがないし、使おうとも思はない。どうしてひどく嫌悪されるようなことをしてまで優位に立ちたいのか甚だ疑問である。
さて、どうして有名なのか。それは僕が使う武器にある。僕が使う武器はスナイパーライフル。対物ライフル――かっこよく言うとアンチマテリアルライフルというものはGGOにも存在するが、生憎と僕は所持していない。というか僕の使うスナイパーライフルは、分類上がスナイパーライフルというだけで、見た目はライフルというか、もはや
その名も――ハルコンネン。
分類はスナイパーライフル、狙撃銃。しかしどう見ても銃というよりも砲である。携行砲である。というか大砲である。口径は30ミリ。インチだと118口径。使用弾薬はハルコンネン専用劣化ウラン弾と爆裂徹甲焼夷弾。装填方式は単発のブレイクオープン。装弾数は1発。破壊可能なものであれば大体1発打ち込んだだけで木端微塵にできる。それに劣化ウラン弾までは分かるのだが、爆裂徹甲焼夷弾ってなんだ。着弾したら徹甲弾のように深く穿って、更に爆裂弾のごとく爆裂して、焼夷弾よろしく着弾点の周囲一体を燃やし尽くすこの弾薬は一体何なんだ。まるで意味が分からん。ともかく僕が使っている武器は常軌を逸しているのだ。ちなみに、本来狙撃銃に取り付け必須であるような着弾予測円で狙うスコープなどは取り付けられない。一応備え付けのスコープがあるのだが、あれは正確に狙うためのものというよりもあくまで目安を決めるだけ。望遠機能なんてものは備わっておらず、着弾予測円を表示してくれないのである。
扱いにくいのは事実であるが、あるとき爆裂徹甲焼夷弾でスコードロンを行動不能に陥らせてから、ドツボにはまってしまい、以来フィールドで高所から待ち伏せてはどかどかと撃ち込んでいる。そしてそのスコードロンは高確率で戦闘不能に陥る。そういった明らかに目立つ襲撃を繰り返しているうちに、いつしかGGO内ではそれなりの有名人となっていたのである。火力の高いハルコンネンを持っていることに対する嫉妬、壊滅させられた憎しみも含めてであるが。
ステータスは、STRをメインに、DEXとAGIに振り分けている。もともと二丁拳銃がやりたくて始めたGGOであった。しかし、とてもレアな拳銃がドロップする高難易度クエストがあるとネット上で話題になり、ぜひ欲しいと挑んだ際のボスドロップ品で手に入れたハルコンネン。手に入れた当初は、大いに戸惑ったものである。装備しようにもSTRがぎりぎりで、装備しようものなら他の銃やらフォトンソードやらが装備できなくなってしまう。防弾チョッキを着ることもままならない。どうすりゃいいんだこれ、と思っていた。よって僕は、そのようなステ振りを行っているのである。
ちなみにと言ってはなんだが、現在ハルコンネンは手に入れたときよりも遥かに軽量化されている。なんと驚くべきことに、元の質量の3分の1。3分の1である。もはやこれは魔改造の域である。これは知り合いの、歴戦のガンスミスがメンテのついでにと勝手にやったものであるが、しかし彼には感謝でいっぱいである。
さて、話を戻そう。現在僕は掩護屋として、とあるスコードロンの掩護を行っている。スコードロンのリーダー曰く「掩護屋の実績は本物らしいからMob狩りを邪魔されないように遠距離から見張っていてほしい。邪魔が入ったら容赦なくやっちゃってほしい」とのこと。合点承知。ハルコンネンは必須。相棒だもの。対人用の狙撃銃としてAWMも持っていこう。ハルコンネンは対人というか対物だからね。対物ライフルにしては阿呆みたいな火力であるが。あと中距離戦や近距離戦も見越してP90も持っていこう。あれは結構軽いからね。拳銃はいらない。変わりにフォトンソードを持っていこう。流石に銃弾を斬ろうとは思わない。でも可能であればやってみたいかも。あと超望遠双眼鏡。これもハルコンネンと同じようにレアドロップ。5,000メートル先を覗けるすぐれものである。
本日の装備は、そんな感じである。
「配置に付きました。現在後方500。そちらが100メートル離れるたびにこちらも100メートル動きます」
スコードロンのリーダーに無線で準備完了の旨を伝えると、すぐに応答が返ってきた。
『了解。待ち伏せてたら撃ってくれて構わないからな』
「分かりました。立地的にAWMで狙いにくいところにいた場合や、AWMの射程外にいたときには、ハルコンネンの爆裂弾で障害物もろとも爆破するので、そのつもりでお願いします」
『いいねぇ。ロマンがあるねぇ』
ですよねー、と談笑しつつ、双眼鏡でスコードロンの周りを確認する……お。いた。
「待ち伏せ中の狙撃手発見。そちらからの距離1550。こちらからは2050。ついでにお仲間らしきスコードロンが待ち伏せしてますね。そちらから450」
『狙撃手は狙えるか?』
「AWMの射程外です。ハルコンネンで直接狙おうにも正確さに欠ける距離ですね。どうします? 横に回り込みましょうか?」
『ハルコンネンの威力が見てえな。倒せなくてもいいからぶっ放してくれる』
「了解です」
言われたので、ハルコンネンに爆裂徹甲焼夷弾を装填する。地面に伏せて構え、双眼鏡を覗き込む。映るのは、アンチマテリアルライフルを構えて僕が掩護するスコードロンをスコープ越しに狙っている狙撃手。こちらには気づいていない。
「――……」
あれ、よく見たらあの狙撃手、女性ではなかろうか。顔立ちからして高校生。青い髪が美しく、黒光りするライフルがとても映える。いや、GGOのアバターはランダムだから、もしかしたら男性がまんま女性キャラっぽいアバターをゲットした可能性も無きにしもあらず。
「まあ、撃っちゃうんだけどね」
立地的にあそこらへんかな……と双眼鏡に映る景色と肉眼で確認できる景色の相互関係を確認すると、双眼鏡を置いて備え付けのクソみたいなスコープを覗く。着弾予測円は表示されない。これがハンデってやつだろうか。まあいい。御託はいい。僕は女の子でも容赦なく撃っちゃうぞ。ゲーム内では、だけど。
「――ファイアッ!」
一声叫び引き金を引く。穿って爆ぜて燃やすハルコンネンの専用弾が、狙撃銃ではまず出せない豪快な爆音とともに撃ち出された。爆風も尋常ではなく、あたり一帯は砂煙が立ち込める。僕はすぐに着弾予想地点である、狙撃手がいる黄土色の崖を確認する。直後、崖が爆発し、破砕する。砕けた崖は見るも無残な姿に変貌し、重力に従い崩壊を見せる。
「ヒットォ!」
『うおおおおお!! 派手すぎるぞやべぇ!!』
『いぇええええす!』
『Foooooooooo!!』
スコードロンの歓声が無線越しに聞こえる。そらそうだ。崖を一気に破壊するとかバズーカーぐらいにしかできない芸当だ。それをやってのける(分類上)スナイパーライフルなんて、これはもう喜ばずにはいられない。
「あと4発ほど敵スコードロンがいるあたりに撃ち込んだら、そちらに行って直掩致します。それまで頑張ってください!」
『よっしゃあ行くぞ野郎ども!!』
『おおおおお!!』
『俺たちのMob狩りを邪魔したらどうなるか思い知らせてやるぜ!!』
『俺のミニガンが火を噴くぜぇ!!』
『ヒャッハァアア――!!』
耳に入ってくる鬨の声に苦笑する間に、次弾装填を済ませる。装填にも結構慣れたものである。そして構え、双眼鏡で位置を確認する。こちらのスコードロンを撃たないように、交戦状態に移る前に撃ち込みまくる。1発、2発、3発、4発。撃ち終えると薬莢を取って捨て、劣化ウラン弾を装填する。ハルコンネンを銃身に着けられたベルトで背中に斜めにして引っ提げ、地面に放ってあるP90を取る。
「よぉし久々の近距離戦だ」
後方にあるバギーに乗り、エンジンをかけ、急いで交戦予測地を目指す。疾走するバギーの後ろを見ると、ハルコンネンで撃ったときのように、砂埃が舞い上がっていた。
一体何が起こったのか。言葉で言い表すならば、「待ち伏せしていたら急に地面が爆発して飛ばされた」。恐らくバズーカーあたりを撃ち込まれたのだろう。しかし、狙っていたスコードロンからのものではない。後方からの支援か、それとも第三者によるものか。
『シノン、大丈夫か!?』
ダインが無線で私の安否を確認する。
「えぇ、なんとか……でもHPは結構削られてる。こっちの場所は割れてるみたいだから、急いで廃ビルに向かってるとこ」
『そうか。なんとかバレないようにして』
突然、ダインの声が消えた。まさかと思い、HPバーを確認しようとした直後。
「砲撃――!? やっぱりバズーカー持ちが……ああもう!!」
4発、一定の間隔を持った砲撃が、私のスコードロンを襲った。地面を抉り、壁を穿つ。障害物なんて関係ないと言わんばかりの強襲である。爆ぜた轟きが耳を劈く。まさか、こっちが待ち伏せしていることを覚られているとは思わなかった。あのスコードロンは気づいている素振りを見せなかったが――やはり、後方支援を行っている者がいるのだろうか。それこそ鷹の眼のごとく鋭い眼光で周囲を観察し、見つけたらやられる前に封じ込める。
「もしかして……いやでも……」
そこまで考えて、ある一つの結論が頭に浮かんだ。突如とした爆発した。撃ち込まれる砲撃。待ち伏せを見抜く観察眼。もしかしたらこれは――。
「……ちっ」
HPバーを見て、舌打ちをする。全損が2人。先ほどの砲撃だろう。隠れている場所を見抜き、かつ障害物を気にすることのない攻撃。一体どんなヘビーユーザーが、全体どんな武器を使っているのだろうか、と私は廃ビルの螺旋階段を駆け上がりながら、現実逃避気味に想像する。仮想の世界で現実逃避とは、少し矛盾している気もするが。耳を澄ませると、アサルトライフルとミニガンが猛威を奮う音が聞こえる。存分に唸って空気を震わせ搔き乱していた。スコードロンの平均HPは低下の一本道。このままでは埒が明かない。
「私は、一人でも多く倒して、強くな――」
自分に言い聞かせるように、自分を奮い立たせるように、強い意志を持って言葉を紡ごうとした途中で、横槍が入る。すぐ後ろ、後頭部の数センチ離れたところに何かが通った。
「嘘、バレてる!?」
爆破こそしなかったが、撃ち込まれた砲弾は爆破した音とほとんど同じ轟音を周囲に主張する。廃ビルを支える柱の一つに深く刺さり、破砕音とともに柱は己の役割を失った。もしあれに当たっていたら、頭なんて簡単に粉々だ。私は走る速度をより一層高め、砲撃から身を護る。走りながら、HPバーを確認する。
「……壊滅じゃない」
こちらが相手を何人撃破したか分からないが、相手のスコードロンはものの見事にこちらを壊滅に追いやった。今生きているのは、私だけ。私以外倒された。
「……」
順調だった。あの砲撃が撃ち込まれるまでは、全てが。でも流れが大きく変わって、まるで逆の結果に陥ってしまった。私がもう少し、遠方まで観察していれば、こんなことにはならなかったと思う。……もう結論はついている。誰があのスコードロンの掩護をしているのか、もう分かった。そいつは、かつて私の狙撃を避けきった。莫迦みたいに大きな狙撃銃をもって、私を貫いた。
「――っ!!」
廃ビルの最上階に着いた。茜色の荒野が広く見わせるくらいに崩壊した最上階の縁まで走り、狙う。スコープで探す。相手からの弾着予測線の照射はない。どこだ。見当たらない。どこだ。どこだ。
「どこだ、掩護屋ポーレット!!」
「ここだ」
――!? 声のする方へ、ヘーカトⅡを向ける。そのまま至近距離にいる掩護屋を撃ち抜こうとする――が。
「――――っ」
空気を切り裂く光。振動するかのような独特な音を、私の耳は捉えた。直後、私の首は光に裂かれ、胴体と別れを告げた。
「よし、今日のお仕事終了」
掩護屋の声が、
少女の首を断ち、離れる。アバターは赤色のポリゴンになり、ガラスが割れるように散乱した。しかし声からして、彼女は本当に女性だった。氷を思わせる美しい輝きを伴った髪と眼。アンチマテリアルライフルを持つ姿はなかなかに映えていた。そして、恐らくはこのゲームにおいてとても良く噂されている狙撃手なんのだろう。
「狙撃手撃破。待ち伏せスコードロンへ強襲完了です」
『よっし!!』
『流石は掩護屋!!』
『実績は本物だったんだな……すげぇ』
ドロップ品を確認する。……MP7か。この世界では結構レアな方だ。しかしサブマシンガンはもう間に合っているので、放置しておこう。とてもレアなもの……例えば対物ライフルなら持ち帰ることもあっただろうが、しかし彼女は、噂に聞くあの狙撃手。流石に酷であろう。男なら問答無用で持ち去っていただろうが、女性には優しく、が僕のモットーである。
「本日の掩護内容は『1つのスコードロンを倒すまで』でしたね。本日はこれを持ちまして掩護を終了させていただきます。よいMob狩りライフを!」
『お疲れ!』
『またよろしく頼むぜ!!』
僕が言うと、スコードロンは僕に労いの言葉を送る。
「さてと……」
しばらく休もうと、廃ビルの床に転がる。
最後に彼女を倒したのは、今右手に摑んでいるフォトンソードである。超近距離戦で使えて、斬られればHPを大きく損なう代物で、STRが高ければ高いほど切断もできてしまう。銃の世界だというのにこれいかに。
廃ビルの廊下を、対物ライフルを持って疾走している彼女を見つけ、ドタマぶち抜いてやろうと下から頭に狙ったもののウラン弾は見事に外れ。見えなくなって狙えなくなったので、スキル《軽業》を利用して、廃ビルをよじ登ったのである。それはもうアクション映画のように、ババっと素早く。トム・クルーズのごとし。登っている間、無抵抗になってしまうがそこはご愛嬌。登り終えるとその先に狙撃手の彼女がいて、バレないように跳躍して、一気にスパン。首を断つ直前にソードの電源を入れるのがコツである。音でバレるときがあるからね。断ったあとは廃ビルの窓枠を摑んで落下を回避。なかなか軽業は楽しいものである。
「さて、一旦ログアウトしますか」
言いつつ、俺はメニューを開き、ログアウトを選択。全く無防備なものだが、今更こんなところには誰一人いないだろうと思うのであった。
あーあ、遂に書いちゃったよ。ピトさん、ハルコンネンを見たら喜ぶだろうなあ。
続きは2月末以降です。