満開祭り3どうやら勇者の章Blu-ray特典に収録されるようでほっとしました。
1+1+1+1を4ではなく、10にする。
私達なら、出来ると思った。そうしなくてはいけなかった。
敵の名前はバーテックス。ウイルスの中で生まれた忌むべき存在。
これを退けるために。
でも、そんな存在に、バーテックス......頂点という意味の名前をつけるだろうか?
この時はまだ、バーテックスが■に■られたモノだとは知らない。
勇者御記 298年 乃木園子記
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俺たちのお役目の訓練のための合宿は長かったようであっという間に終わり、帰りのバスにみんなが乗るのを待っていたのだが......
「遅いっ!」
「なんかデジャヴだな......」
行きと同じように園子は俺の肩によりかかりながら寝ていて銀が遅れ鷲尾さんが怒っている。すると申し訳なさそうに銀が入ってくる。
「ごめんごめん、野暮用で......」
「野暮?」
鷲尾さんは訝しそうな表情を浮かべる。そして銀がにやけながらこちらを向く。
「で、長門はいつまで園子を撫でてるんだ?」
「ん?ああ、つい癖で」
小さい頃一緒に寝たり、庭で寝転がると園子がいつも先に眠たそうにしていたのでよく頭を撫でてやっていたからその時の癖が抜け切れてないんだろう。
そうしているとバスが動き出し俺たちはそれぞれ帰路に着いた。
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「ぎりぎりセーフ!」
「セーフじゃありません」
いつも通り三ノ輪さんは遅刻して先生に出席簿で軽く頭をはたかれる。
三ノ輪さんは遅刻が多すぎる。けど理由を話そうとしないし......何か事情があるのかもしれない。
その時三ノ輪さんのランドセルから猫が出てきた......なぜ猫?怪しすぎる。
休み時間になり私は三ノ輪さんを調査することに決め乃木さんに協力を煽る。
「なぜ三ノ輪さんの遅刻が多いのか。やはり何か理由があるのよ。それが分からないならこっちから探るまで!乃木さんも協力してくれる?」
「すぴ~......」
乃木さんが船を漕いでるのを見て私は了承とみなした。なんだか乃木さんの扱い方がわかってきた気がする。
そういえば乃木君は?教室内を見渡すと三ノ輪さんと何やら話していた。
「平日は無理だけど日曜とかなら空いてるし手伝うよ」
「いいって!迷惑だろうし」
「俺がやりたいんだよ。一応知ってる身としては放っておけないしな」
「そこまで言うなら......頼むよ」
流石に最初から聞いてるわけじゃなかったので会話の詳細はよく分からないが、やはり三ノ輪さんには何かしらの事情がありそうだ。これだけではそれが何かは分からなかったけれど。
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日曜日、私は乃木さんを連れて三ノ輪さんを調査することにし、手始めに家へ行くことにした。
「そろそろね。三ノ輪さんの家に到着するわ乃木さん......ってあれ?」
振り返るとさっきまで後ろをついてきていた乃木さんが居なくなっていた。
「アリさんだ~!へいへい元気~?」
声がする方へ行くとアリの行列に手を振っている乃木さんを見つけたので引きずっていく。
ようやく三ノ輪さんの家に着いた。
「ここが三ノ輪さんの家ね。えっとまずは......「ピンポンダッシュ~?」そんな恐ろしいことはだめよ!」
私は家にあった手ごろなスコープを持ってきたのでそれを使い中の様子を見る。
「おい泣くなって。泣いていいのは母ちゃんに預けたお年玉が返ってこないと悟ったときだけだぞ?」
「ああぐずり泣きが始まってしまったぁ。ミルクやおしめじゃないだろうし」
すると三ノ輪さんは持っていたガラガラを使い弟らしき赤ん坊をあやしていた。
「泣き止んだ!えらいぞマイブラザー!大きくなったら舎弟にしてこき使ってやろ。ニヒヒ」
しばらく様子を見ていると学校に連れてきていた猫がやってくる。捨て猫を拾ったんだろうか。
「おお。お前もこの家になれたかー?」
「銀ー。食材が心もとなかったから買い足しに行くぞー」
今の声って......乃木君よね。教室で手伝うだとかいう話はこれだったのね。それにこんなに小さな弟さんがいたのね......世話が大変ということかしら?
すると唐突に乃木さんが
「わっしーそのスコープ下げて!」
「え、ええ。下げたわ。どうかしたの?」
「なっくんはね~気配に敏感だからそれすぐ見つかってしまうと思ったんだよ~」
私は合宿での彼の鍛錬の時を思い出した。確かにあの時彼は私の気配にすぐ気づいていた......スコープで覗くのは諦め中の声だけを聴く。
「長門?どうしたんだよそんな外の方を見つめて」
「いや、誰かに覗かれてる気がしたんだけど......気のせいだな。買い物行くか」
どうやらバレてはいないようだ。2人は買い物へ行くようなので私たちも後をつけるため乃木さんに声をかける。
「......わっしー。なっくんにはバレちゃったみたい~。でも見逃してくれるみたいだよ~」
え?でも彼は気のせいって......乃木さんは「アイコンタクト~」と言う。2人はそんなことも出来るの!?......兎に角2人の後を追う。
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2人を追跡していると祝勝会で来たイネスの近くに着く。買い物はイネスでするのね。
「あ、わっしー見て見て!」
乃木さんが指さしたのは乃木君と三ノ輪さんがお爺さんに道案内をしている姿だった。
「道を尋ねられたのかしら?」
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すると次は女性に道を教えていた。2人とも優しいわね......
「ミノさん優しい~」
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イネスの駐輪場まで来ると
「わ~自転車起こしてるよ~」
乃木さんの言うように2人は倒れていた自転車を起こしていた。
その後も三ノ輪さんと乃木君を追うと2人は次から次へとトラブルを解決していく。
「次から次だよ~。ミノさんって事件に巻き込まれやすい体質なんだね~」
勇者だからかしら?ようやく2人が目的地であろうイネスに入っていくので追う。
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「次は迷子だよ~?」
三ノ輪さん達は親御さんとはぐれてしまったのだろう女の子の手を引き連れていく。
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「けんかの仲裁?」
男の子と女の子の喧嘩を乃木君が引き留め三ノ輪さんが事情を聴いている。
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今度は客の一人がカバンからこぼした果物を拾うのを手伝っている。これは巻き込まれているというより......
「放っておけないのね。もう見てられないわ、三ノ輪さん!乃木君!」
私達2人も手伝いに入ることにした。
「やっと来たか2人とも」
「え?須美!?」
「園子もいるんだぜ~」
「ええ!?どうしたんだよ2人とも......」
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とりあえず昼ご飯を食べながらということで各々フードコートで買って事情を話している。銀も2人には事情を知られた方が動きやすいだろうし2人の尾行は敢えて見逃した。
「じゃあ、2人は家の前から見てたっての?......えぇ、なんか恥ずかしいな......」
「恥ずかしくなんかないよ、偉いよ~」
「いつも遅れる理由はこれだったのね」
「言ってくれれば良かったのに~」
始めは俺もはぐらかされていたけど推測で大体分かっていたのでそう言うと仕方なさそうに話してくれたのだ。今日も遠慮されたが事情を知っているのに手伝わないのは嫌だったので手伝いを申し出た。
「それは何か他の人のせいにしてるみたいで。何があろうと遅れたのは自分の責任なわけだしさ。というか長門2人に気づいてたんだろ?」
銀はそう言って俺にジト目を向けてきたので俺は悪びれずに返す。
「まあそりゃあんな気配隠さずに尾行されればな。2人には知ってもらった方が良いと思ったから見逃したんだよ」
「昔からそういう体質なの~?」
「ツイてないことが多いんだ。ビンゴとか当たったことないもん」
ん?俺と銀は周りの様子がおかしいことに気づいて辺りを見渡すとそれにつられて園子と鷲尾さんも目線が動く。
......どうやら3回目のお出迎えのようだ。
「ほらな。日曜台無し」
「休みの日で良かったというべきか嘆くべきか......」
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俺たちは勇者システムを起動させ大橋までいく。
「来たわ」
「ビジュアル系のルックスしてるなー」
「まずは私が......これで様子を見る!」
鷲尾さんが弓を放とうとすると地面が激しく揺れ始めた。どうやらあいつが揺らしているみたいだな。
「うわ!なんだなんだ?」
「あのバーテックスのせい?」
「だろうな。厄介だな......」
鷲尾さんが気張って再び弓を構えようとしていたので肩をたたいて止める。
「そんなに気張るなよ鷲尾さん。特訓しただろ?4人で......な?」
「乃木君......」
「私たちと一緒にあいつを倒そう?」
「乃木さん......」
「合宿の成果を出す。そうだろ?」
「三ノ輪さん......みんな」
その時揺れが突然収まった。どちらも動ける状態になり、そして敵が何かしようとしている。これはまずいな。
「園子!盾を!」
「了解だよ~!......うんとこしょ!」
敵が足で攻撃してくるが園子が前へ出て展開した盾ではじく。
「よ~し、敵に近づくよ~!」
「「「了解」」」
リーダーである園子の号令に皆返事を返し一気に敵に詰め寄るが敵は上空に飛んでしまった。さっきと同じ予備動作だ。みんな今回は余裕をもって躱す......が
「あれは......まずいな鷲尾さん!」
俺の声よりも前に準備していたのであろう、俺の声と同じタイミングで鷲尾さんから矢が放たれるが敵に届かなかった。これは悪い予感がする。攻撃を避けるためだけに上空に行ったはずがない。
制空権を取られるとこっちが後手に回るしかなくなる。非常にまずい。
「制空権を取られた!?」
「降りてこいこらぁぁぁぁ!!」
俺の感が警鐘を鳴らしている。敵の特徴はもちろんそのドリルのような脚......ドリル?もしかして
「何か仕掛けてくる......」
「銀!斧を構えろ!!」
「っ!?」
俺の声のわずか後に敵が4本の脚をまとめてドリルのように回転させながら銀に攻撃する。当たる直前に斧を盾にしていたのは見えたがそんなに持たないはずだ。が残念ながら俺には打開策はない。
「ああぁぁぁぁぁぁぁ!!!根性!!」
「ミノさん!「1分は持つ!上の敵をやれぇぇぇ!!!」......私たちで敵を叩くよ~!!」
「了解」
俺はリーダーの指示に短く返事をして刀を構える。俺には打開策はないが敵を落とすのは園子と鷲尾さんがやってくれるはず。だったら俺は出来ることをやる。
敵の脚と本体の間、そのつなぎ目のどこか。目的はあの回転を出来るだけ弱めて銀の負担を減らすのと現実への被害を減らすこと。
園子が槍で階段を作り鷲尾さんが昇って矢を放ったのを確認する。鷲尾さんの矢が当たる前。今!
「はぁぁぁぁ!」
勢い良く跳躍し一瞬で数回同じ場所を斬りつける。4本あった脚の内3本のつなぎ目しか斬れなかった。けれど鷲尾さんの矢が本体を落下させる。勿論つながっている残り1本の脚は銀からそれて地面に刺さる。
「4本全部斬ろうとしたんだけどな。やっぱり無理か」
少なくとも今の刀と俺の技術じゃこれが精いっぱいだ。
「ここから出ていけ~!!!!突撃~!!」
園子が槍を構えながら敵に突撃してこちらに飛んでくる。......なんかデジャヴを感じた。園子の槍を刀でいなして空いてる手で園子を抱きかかえる。
「銀!今だ!いけぇぇぇ!」
「ミノさん!!」
「砕けぇぇぇぇぇぇ!!!」
「4倍にして返してやる!釣りはとっとけぇぇぇ!!!」
銀が敵の元に跳躍して炎をまとった双斧を振りまわす。そして鎮火の儀が始まった。
「へへっ始まった」
「鎮火の儀」
「終わった......」
今回に関しては俺は何もしていない。近距離で戦えない堅い敵になると俺の出来ることはない......まだまだ俺が弱い証拠だ。もっと強くなりたい、いやならなきゃいけないんだ。勇者システムが弱いなんて言い訳にすらならない。だってそれならばあの夢の―――
それよりも今は
「園子さんや、あれ俺じゃなかったら危なかったぞ」
「なっくんなら受け止めてくれるって信じてたから~」
「......そうか」
全面的に信頼されているというのは少し恥ずかしい。顔を逸らすが園子にはそれも気づかれているんだろうな。今も視界の端でニヤニヤしているのが見える。
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現実世界に戻った私達は大橋近くの公園の芝生に倒れこんだ。
「ああー。痛てて......」
「ミノさん大丈夫~?」
「疲れたよ。腰に来る戦いだったぁ......」
「ああして攻撃を受け止めてくれたから私たちが攻め込めたんだよ~。ありがとうねミノさん~」
「そっちこそ凄かったじゃん」
「だってミノさんが1分持つって言ったから1分は持つじゃない?それくらいあればなんとかなると思って~」
ああ。先生は見抜いていらしたんだ。乃木さんのいざという時のひらめきを。乃木君もそれを分かってて身内びいきなどではなく彼女をリーダーに推薦した。私は迷っているだけだった。それなのに家柄のせいで乃木さんがリーダーに選ばれたと思い込んで......
大馬鹿だ。自分がしっかりしなくちゃって思ってたけど、ただ足を引っ張っていただけなんだ。それに合宿の時に乃木君に言われたのに三ノ輪さんを信じきれなかった。
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「あーあ。お腹空いたー!」
「うどん食べてる途中だったもんね~」
「でもイネスに戻るわけにもいかないしなー」
「......うぅ...ぐすっ......」
鷲尾さんが急に泣き出した。もしかして敵から攻撃貰ってたのか!?
「どうした須美!?どこか痛いのか!?」
「バーテックスの攻撃貰ったのか!?」
「......ううん、違うの...ぐすっ...ごめんなさい。次からは始めから息を合わせる...ぐすっ...頑張る......」
「うん。頑張ろうな!」
「はい、わっしー」
そう言って園子が鷲尾さんにがハンカチを貸す。
「ありがとう......そのっち」
その言葉に園子と銀は顔を見合わせて嬉しそうにする。
鷲尾さんがこの戦いで気づけて良かった。お役目は終わらないのだから......そうだとしても俺は必ず3人を無事に日常に返す。俺は決意を新たにする。
「もう一回言ってわっしー!」
「そ、そのっち......」
「おお~!!」
「アタシはアタシは!?」
「銀......「え?」銀......!」
「ははは、嬉しいなぁ、なんかようやく須美とダチになれた気がする」
「なっくんは!?」
園子が聞くと鷲尾さんは少し困った顔をする。おい園子さんや。俺は男子だし園子があだ名なら俺は苗字でいいでしょうよ。
「園子、鷲尾さんも困ってるし......」
「......長門君」
「む、無理しなくていいんだぞ鷲尾さん?」
「無理はしてないわ。だから長門君も私の事名前で呼んで......」
まあ本人に言われてしまったらそうするしかないな。
「分かったよ須美」
このお役目を通して改めて4人ならば1+1+1+1を10にすることが出来ると思った。
ゆゆゆい13話の更新でゆゆゆいのプロット練り直して書くかどうか思案したり、この鷲尾須美の章のほうのも少し直していました。