光を纏いし少年は漆黒の闇より舞い降りし転生者~もうひとりの王~―fate and destiny―《リリカルなのは編》 作:もぬ
見渡す限り緑の広い草原、そこにあるなだらかな丘で座って休む。ここから晴れの日に見える青空が好きで、お気に入りの場所だ。
アルフは、救急箱をとってくるからここで待ってな、と言ってさっさといなくなった。
別にこんなのケガの内に入らない。大した痛みも無いし大げさだ。それに何故、ここで俺達を待たせるのか。
フェイトと二人っきりになってしまったではないか。
「そういえば、勝ったら何をお願いするつもりだったの?」
ほら、隣に腰かけていたフェイトが声をかけてきた。
この頃は色々と考え事をしていて、この子とは少し距離を置いていたから、実はちょっとした気まずさを感じていたりする。
考え事の結論を言えばフェイトとアルフを避けるのはやめにすることにしたのだが、やはり人を避けるのは良くない。後悔する。今後悔してる。
「今日は引き分けみたいなものだし、私もレプリのお願い、なんでも聞いてあげるよ」
……いやはや優しい姉君だ。こういった姉的言動を積み重ねられ続けた結果、最近はフェイトを姉と認めるのもやぶさかではないと考えているが絶対口には出さない。妹扱いは嫌。
しかし負けた方が勝った方の言うことをなんでも一つ聞く、と宣言したものの、特にフェイトに命じたいことは何もない。あれはあの場のノリで言っただけである。頭に思い付いたことがすぐ口に出るタイプ。
「んん……別に何も考えてなかった。先に君からどうぞ」
「そうなの? えっと、じゃあ、お願いは、えぇと」
数秒ほどあたふたした後、考えがまとまったのか、一呼吸の間をおいてフェイトは口にする。
「これからもずっと、一緒にいてね」
心からの願い、そんな感じがした。
……重っ。
「……重っ。え、お願いってそういう方向性……?」
しまった、口に出た。
するとこちらの反応にフェイトは怒ったのか恥ずかしがっているのか、眉根をよせた赤い顔で言い返してきた。
「じゃあ、どんなお願いすればよかったの」
「負けた方がジュースおごるとか、そういう軽い感じで勝負することってあるだろ、例えば、友達とさ」
「友達……」
今度は少し、申し訳なさそうな表情で言う。
「ごめん、友達はいないから、よく分からないかな」
「む」
そうか、普通の子みたいに学校に通ってもいないし、街に出かけることも殆ど無い生活だ。家族以外の人間と会うこと自体珍しいのに友達なんぞ作れやしない。
悪いことを言ってしまった。
「レプリには友達、いるの?」
「……まあね」
もう覚えてないけど多分いた、気がする。こんなに社交的で男前な俺がぼっちなわけがないからね。
「そうなんだ。私はレプリとアルフと、母さんがいてくれるなら……友達なんか、別にいらないかな」
「ばーか!」
「いひゃ!?」
苛めたくなるような表情でダメなことを言うので、いじめっ子のごとく姉のほっぺたを軽く引っ張る。小さい子のほっぺはむにむにしていて非常によろしい。
「友達がいないと大変だぞ。試験は失敗するし」
「しけん……」
「就職もうまくいかないかもしれない」
「しゅうしょく……」
子どもに嘘を教えるのって楽しい。
「だからとは言わないけど。とりあえず友達が出来たら、大事にしなよ」
「あ、リニスと同じこと言ってる」
「……リニスも俺も、フェイトの事が心配なんだよ」
いつも俺達を心配してくれた、優しいリニスを思い出す。
その最期の言葉は、絶対に忘れない。
「あ、えっと……そうだ、結局レプリから私にお願いしたいことは無いの?」
「……後にとっておく。例えば、掃除が面倒な日に、掃除当番をフェイトに代わってもらったりする」
「えー! それってありなの?」
「あり。フフフ、命令権が一個残っていることを常に忘れるな」
「もう、わかったよ」
リニスの名前が出ると、少し、悲しくなる。この姉ときたらそれを察しやがったのだろう。話題を変えた。
それからは二人で軽口を叩きあいながら、夕日が沈むのを眺めていた。
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ここで暮らすようになってから、どれくらい経っただろう。大体、一年と半年――いや、もうすぐ二年近くになるかもしれない。
カレンダーはあまり見ないたちだし、アルトセイムの季節の流れが故郷と同じかどうかもわからない。だからどれだけ経ったのか曖昧だ。
生活に大きな変化はなく、同年代の子どものように学校へ行くなんてことも魔導師業に就職するということもなく、プレシアさんの研究の手伝いをする日々。
目に見えて変わったのは……背の高さ、くらいだろうか。この頃は成長期なのか身長は結構伸びた。フェイトとの背比べでは一進一退の攻防を繰り広げている。
このままいけば不便な幼児体型を脱却することも時間の問題――と、思いたいのだが。体つきがどうも、知っているセオリー通りに成長しない。
鍛えているのに変なところに脂肪がついたり、一部には筋肉がつくというより丸みが増している気がする。
クローンだから成長に異常があるのではないか? そうでないとしたら――太ったか? ……なんていうのが最近の悩みだ。
回想はさておき。
さっき出先から戻った俺は、入手した資料を提出するためにプレシアさんを探しているところだ。
研究室も応接室も、プレシアさんのいそうなところは回ったのだが、どうも見つからない。
痺れを切らして、こっちから使うことは基本禁止の念話で呼びかけてみる。便利な魔法は使うべきなんだ。
『……もしもし。プレシアさん、私です。言われたものを持ってきました』
……返事が無い。あの人の事だから、突然の念話に腹を立てて無視しているのだろうか。
沈黙がこわい。折檻は勘弁である。が、どうせもう後には退けないので腹をくくって二回目の送信。
『あの、今どちらにいらっしゃいますか?』
…………おかしいな。
あの人ときたら、珍しく居眠りでもしているのだろうか。寝室にもいなかったけど。
だとしたら、念話で起こすのも可哀想だ。ここはひとつ寝顔でも拝ませてもらうとしよう。
目が覚めて俺の置いた資料を見つければ、油断したと悔しがるに違いない。日頃こき使ってくれていることへの仕返しだ。
それからしばらく、プレシアさんの姿を探して回った。こういう時、庭園の広さが恨めしい。未だ行ったことの無い部屋すらあるのだ。
もしかしたら立ち入り禁止の部屋にいるのかもしれない、報告はもう少し後にしようと思って、自分の部屋へ戻ろうとしたとき。
なんとなく通りがかった、普段は使っていない玉座の間から、少し光が漏れているのが見えた。
「え……?」
何となしに立ち入ってみたそこで、ようやくプレシアさんを見つけた。
ただし、床に倒れ伏した姿をだ。
「っ……!」
急いで駆け寄り、うつ伏せになっている体勢を仰向けにした。吐血の跡があり、顔色が悪い。
なるべく揺すらないようにして、頬を叩きながら呼びかける。
「プレシアさん、聞こえますか……!」
すると、う、と息を漏らして身じろぎしたのがわかった。やがてプレシアさんは目を開き、意識に問題が無いことを確認できる。
「良かった。立てますか?」
「……触らないで。平気よ」
「あっ――」
肩を貸そうとするも、弱々しく振り払われてしまった。
……病人は大人しく看病されろってんだ。
「駄目ですよ。寝室まで連れていきます」
逆らって、無理やり補助する。今度は振り払う気力も無いのだろう、大人しく肩を預けてくれた。
寝室までの道すがら、プレシアさんは覇気の無い声で話しかけてきた。
「誰にも……このことは、言わないでちょうだい。医者を呼ぶ必要もない」
「なんで――」
「医者には何度も診させたわ。もう、意味が無い」
それはつまり。
何回も医者にかかって、しまいには匙を投げられるような病気を患っているということか。
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病人さんをベッドに寝かせ、脇に椅子と台を持ってきて看護の体勢になる。
プレシアさんはしばらく手ぬぐいや水、薬などを用意する俺をぼんやりと見ていたが、やがて口を開いた。
「前に、頼んだものは……」
「あ、それは、えっと……ここに、あります」
適当に仕舞っていたそれ――研究に必要らしい資料を出す。
しかしプレシアさんはそれを一瞥すると、予想外のことを口にした。
「……それはもういらないわ。私には、もう時間が無い」
時間が、無い。
それが意味するところは……もう、永くないということだろうか。
「もう身体は平気よ。そんな下らないことより、あなたには今すぐにやってほしいことがあるの」
そう言いながら、布団から出ようとする。
嘘だ。平気なもんか。
「あるロストロギアを回収してきてもらうわ。形状は、中に数字が刻まれた青い宝石。一般呼称は『ジュエルシード』」
「……!」
「それを、全部で21個」
その名前は、知っている。
ジュエルシードというロストロギアは、この日々の終わりにある。だから、考えないようにしていた。
今から少し未来に起きるかもしれないこと。ジュエルシードに関わる紆余曲折の末に、プレシアさんは動かないアリシアの亡骸と一緒に虚数の海へ沈んでいく。
そうなったら二人は永遠に迷子だ。この人にとって、この上ないバッドエンドじゃないか。
そんなのって……嫌だ。
「もう……やめませんか」
だから、ついに、言ってしまった。
「ジュエルシードなんか集めても、きっとあなたは不幸な目に遭うだけです」
押し込めていたものは、少しでも漏らしてしまうと、後は堰を切ったかのように溢れ出す。
「アリシアのことは残念だけど、なくなった命はどうしたって戻らないんです」
絶対にこの人の前で言ってはいけないこと――いわゆる地雷。それも思い切り踏み抜いてしまった。もう殺されても文句は言えない。
「アリシアは、いないけど、フェイトが、います。私も、います」
それでも、言葉は止められない。
なんでだろう。自分でもよくわからず、ただ必死に言葉を紡いでいた。
「人を生き返らせるのは、無理だけど、病気はきっと治せます。だから……皆で、このまま静かに――」
「わかった。もう、いい」
それ以上は、有無を言わさぬ声に断ち切られた。
「リニスも、同じようなことを言っていたわ」
……ああ。やっぱり、ダメか。
この人が抱え込んでいるモノは、俺なんかが口を出せることじゃなかった。
目が、合う。その顔にはなんの表情も無く、瞳は……
「こっちへいらっしゃい」
その呼び方が、記憶の中にある優しい声と重なる。だからだろうか、焼き殺されるかもしれないというのに、自然に体を寄せてしまっていた。
互いに手が届く距離になる。冷たい手が、私の顔に触れた。今は防御魔力も何も纏っていない。この手から少し魔力を発揮しただけで自分は終わる。
「……あ」
違う。
これは思い出の中の、この人の癖。幼い私はその真似をして、いつの間にか自分でも癖になっていた。
思わず、頬をそっと撫でてくれた、その手をとる。冷え切った手を暖めたいと思ったから。
瞬間。
全身を突くような刺激と不快感に襲われた。
何が起きたのか、考える前に脳は答えを出していた。これは、敵をスタンさせる電撃の魔法。
「あなたとこれ以上いたら、私は――」
全身が痺れて、うまく動かせない。
「……フェイトは、何も知らないあの子には、まだやってもらうことがある。用済みになった後で捨てるわ、あなたと同じようにね」
立ち上がれない俺を中心に魔法陣が現れる。同じ紫の魔力光だが、これは俺が展開したものでは無い。プレシアさんのものだ。
「お別れよ。もう二度と会うことは無い。これからは……」
なんでこうなる、そんなのって無い。だって、俺は、私は。ママ――母さん。
「ま、って。かあ、さ」
私は、あなたとずっと一緒にいたいだけなのに。
意識に靄がかかり始める。眠りの魔法を使ったんだ。そのレジストに失敗した。
知覚が眠りへと沈んでいくまでに、はっきりとその声を聴いた。
――これからは、自分の思う通りに、生きなさい――
自分の瞼が閉じる前に見えた、あの瞳。その奥にあるのは、怒りではないような気がした。いったい何を想っていたんだろう。
意識が暗く閉ざされていく中では、わからなかった。
○おまけ NGシーン
「……友達なんか、別にいら」
「ばーか!」
「うわぁ!?」
食い気味なツッコミと共にレプリの拳が閃く。顔面めがけて飛んできたそれを、フェイトは持ち前の反射神経で辛うじて躱した。
「レプリ、今……」
「ん? どうかした、お姉ちゃん?」
今殴りかかってきたように見えた妹は、満面の笑みを顔に張り付けている。さっきのは何かの間違いだろうか?
「………」
「………」
「……ともだ、」
「ばーか!」
「くうっ!」
フェイトは雷光のごとき反応速度で、己の頬を狙い飛来してきた次弾の拳を捉え、掴むことに成功する。しかし掴んだその腕からまだ力は抜けていない。明確に顔面へと狙いをつけたままだ。力は拮抗している。姉妹は、そのままの姿勢で膠着状態に入った。
レプリは口元には笑みを浮かべているものの、目が笑っていない。
「フェイトォ……顔に攻撃をくらったことはあるかぁ……?」
(……模擬戦のとき顔をバルディッシュで叩いたこと……根に持ってる……!!)
ここに、姉妹によるバトルの、第二ラウンドが幕を開けた。