光を纏いし少年は漆黒の闇より舞い降りし転生者~もうひとりの王~―fate and destiny―《リリカルなのは編》   作:もぬ

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12話 ホームレス外国人

 肌で感じていた空気が変わる。

 転移魔法がうまくいったのだろう、目を開けると、さっきまでとは別の景色が広がっていた。

 視界いっぱいの青空だ。

 

「……おわっ!?」

 

 バランスを崩し、足場が無くなっているのに気付いた。下に目をやれば、地面――街が、遥か遠くに見える。何のミスか、上空数百メートルに跳んでしまったらしい。

 焦りながらも、今やそれなりに慣れた飛行魔法を使い、徐々に落下速度を落としていく。

 真っ直ぐ下には小さな公園が見える。あそこに降りよう。

 

「よっ……と。10点!」

 

 無事に着地成功。

 カン、と軽い音をたてて、綺麗な姿勢で滑り台のてっぺんに降臨してやった。

 しかし死ぬかと思ったぞ、というか一瞬驚きで心臓止まった。地面のあるところに転移するつもりだったんだけどな。

 そして、下半身に意識を向ける……よし、漏らしてない。ドクターのところで出発前に済ませておいて良かった。

 

「ん?」

 

 ふと、視線を感じた。反射的に振り返る。

 そこにいたのは、小さな子供たちだった。歳はこの身体と同年代くらい、つまり小学校低学年くらいだ。

 この公園で皆一緒に遊んでいたのだろうが、全員こちらを見て口を開けたまま固まっている。

 

「……はっ!?」

 

 し……しまった……っ!

 頭の中で、いつか読んだ分厚い本のページが高速でめくられていく。

 ――管理局法、第なんとか条ほにゃらら項。管理外世界への魔法の秘匿。管理外世界の住民へ魔法の存在を示唆することは、原則としてこれを禁ずる。ただし緊急時においてはこの限りではないうんぬんかんぬん。

 さっき自分は何をした? 飛行魔法を使って空から降りてきた。

 つまり、やばい。

 何か言い訳をして誤魔化さないといけないと思い、滑り台をスーッと滑り降り子供たちに近づく。

 

「えーっと、きみたち、今のは違うんだ」

 

 とりあえず笑顔を作って声をかけてみた。幸い、相手は子どもだけ。とりあえず大人にバレなければなんとか無罪で済みそうだという魂胆である。

 そんな笑顔でコミュニケーションを求めた俺に対し、子供たちは一斉に頭の上に『!?』というマークをつけたような顔をする。

 そして困惑の表情で、何やら相談を始めた。

 

「○×△……!?」

「□□……○△△?」

「うん?」

 

 小声で話しているからか、よく聴こえなかった。

 しばらくすると、子ども達の中から一人だけ、少年がこちらに歩み寄って来た。雰囲気から察するに、彼らの代表者らしい。

 

「△△? □□○□△?」

「はい?」

 

 一瞬己の耳を疑ったが、彼が発しているのは俺にとって未知の言語だった。

 よく聴いてみても、何を言っているのかさっぱりわからない。

 

「~~~~○○×! △□○!! ■■■■■■■――!!!!」

「あ、ちょっと!」

 

 しばらく身振り手振りを交えて一生懸命何か喋っていたが、少年はどうしても言葉が通じないことを悟ったからなのか、最後に狂戦士みたいな雄叫びを上げながら仲間の子供たちと一緒に走って逃げて行ってしまった。

 

「何語だ、あれ。ここ日本だよな……」

 

 周りを見渡せば、昔懐かしい遊具のそろった公園。その外には現代日本の家屋群。間違いなくここは地球の日本だと、かなり薄れてしまった記憶が言っている。

 さっきの少年は日本人ではなかったのだろうか? 日本語なら俺にも理解できるはずだ。

 

「俺、日本人だし……」

《いいえ、あなたの出生地は第1管理世界ミッドチルダですが》

「ラブリュス……」

 

 混乱する俺を見かねたのか、マイデバイスことラブリュスが声を挟んできた。

 

《先ほどのトラブルですが、自動翻訳がうまくいっていないようです。現在保有している翻訳魔法の機能は現地言語『日本語』に未対応のため、バージョンアップの必要があります》

 

 えーっと……どういうこと?

 

「翻訳魔法に日本語入れてないってだけだろ? それがさっきのことと関係あるのか?」

《マスターは第一管理世界の公用語兼の住民ですから、こちらの世界の言語が理解できないのは当然かと》

 

 つまりラブリュスの言うには、俺は日本人じゃないから日本語がわからない、だから少年の言葉が理解できなかった、ということらしい。

 

「いや、おかしいよ。俺は生まれも育ちも日本なの!」

《発言の意味を理解しかねます》

「さっきのはあの子が宇宙語を喋っていただけだ。ちょっと街に出て誰かに話しかけてみればわかる、見てろ」

《急な環境の変化で疲れているのかもしれません。少々休憩した方が……》

 

 失礼なことを言う。まだ来たばっかりだ。

 ひとまずこの言語問題を解決するべく、話しかける人を求めて公園を出ることにした。

 

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 懐かしい風景。行きかう顔は日本人。

 すれ違う人は物珍しそうな顔でこちらを見てくる。あ、そうか。外国人の小さい女の子が一人で出歩いていたら、目立つよな。

 小さい女の子。ふふふ、なんだろう、情けない気分になってきた。夜に外を歩いていたら補導されちゃったりするのだろう。元は深夜はいかい上等の青年だったというのに。

 

 結論から言って、言葉が通じる人はいなかった。

 みんな苦笑いしながら何事かを言って去ってしまう。気の毒な子どもを見下ろす視線が、忘れられない。

 

 ラブリュスによると、あなたはミッドチルダの言葉しか話せないのだから、翻訳魔法無しでは当然こうなる、とのこと。

 ラブリュスの持つ常識の中では確かに当たり前だろうが、俺にとっては……それは、おかしな話だ。

 もともと俺という人間は日本人だったはず。なぜ日本語を話せなく、理解できなくなっているのか。

 その疑問について自分なりに仮説を立ててみた。

 

 仮説その1。翻訳魔法のミス、もしくはバグ。

 基本的にこの魔法は異世界に行くときデバイスが自動で使ってくれるので、今回も発動していたはずだ。しかし今回は正常に機能せず、日本語をどこかの知らない言語に翻訳してしまった、という説。

 その2。ここは俺の知っている日本ではなく、よく似た別の世界である。使われている『日本語』とやらが、俺のよく知る日本語と異なっている。

 その3。脳に施された、記憶転写技術の影響。

 この世界で目覚める前に、この脳には正常な人間として生活するための記憶、知識が転写された。もちろん使用言語はミッドチルダのものがデフォルトだろう。それによって俺の本来持つ記憶、日本語ベースの記憶は上書き、または書き換えられてしまい、ミッドチルダの言語をベースに思考をするようになっていた。結果、脳が日本語を処理できなくなったのだ。

 つまり、あれのせいで、日本語をすっかり忘れてミッド語しか理解できなくなったという説だ。

 

 ラブリュスの言を信じるなら、その1は無さそうだ。翻訳魔法の不備は、単に日本語に対応していないという点のみであり、故障の類ではないらしい。

 2か3。この中では2が最もあり得る話ではないかと思う。

 3もあり得るかもしれない。思えば今まで自分がミッドチルダ語をペラペラ喋っていることに何の疑問も抱かなかったというか、あっちの言語が自然に頭になじみ過ぎて、もともと使っていた日本語じゃなくなっていることに全然気付かなかった。もしや――バカなのか、俺は。

 

「はぁ……これからどうしよ」

 

 しかし、こんなことになるとは。ミッドにいる間にちゃんと準備しておくんだった。翻訳魔法は異世界渡航の必需品だが、日本語は大丈夫だと思って整備を怠ったのがいけなかったか。

 97番なんていう遠い管理外世界じゃ翻訳魔法のアップデートも出来ない。インフラが整備されているのは管理世界だけなのだ。

 

 ――異言語コミュニケーション問題については後回しにする。

 異世界に着いてまずすべきことは拠点の確保だ。例えば日本だと、マンションなどを借りるのが望ましいが……よく考えたら、お金がない。着の身着のまま庭園を追い出され、持ち物はデバイスだけ。

 ここは管理外世界だから、いざという時のために身分証明の偽装もしなければならないのだが、無理だ。いつもそういうことをアルフにやってもらっていたのが、ここで仇となるとは。

 最後の手段として『いつでも頼りたまえ!』というあの人のセリフが思い出される。実際、頼れば住居も金も翻訳魔法も問題解消出来そうだけど……今更あそこに戻るのも嫌だ。それにもしかしたら助ける代わりに実験台になることを強要されるかもしれない。いつメスを入れられるかと戦々恐々だったのだ。出来れば、借りを作りたくない。

 

 とりあえず。まずは雨風がしのげる、いい感じの廃墟を探してみようか。

 夜までに見つからなかったら……野宿、かな。

 果たして最近まで金持ちの城みたいな家(そらもとべる)で何不自由なく育ってきたクソガキにそれが出来るだろうか。

 

=============================================

 

 日は完全に沈み、辺りはすっかり夜。

 残念なことに、屋根のある物件は見つけられず、ジュエルシードに関してはこの地域一帯では、一切の魔力的な痕跡を発見できなかった。

 歩き疲れたので、人があまり寄り付かなさそうな公園のベンチにスーパーマーケットの裏から貰ってきた段ボールを敷き、ベッドにして今夜は寝ることにした。掛け布団も段ボールである。掛け段ボール。

 少々寒いが、気温調節フィールドを張って誤魔化す。これなら眠れそうだ。段ボールのにおいが鼻を掠め、なんともみすぼらしい気持ちになってきたが、それを無理やり考えないようにして、横になる。

 

 仰向けの体勢になれば、広い夜空を見ることになる。今日は晴れていて星が綺麗に見えた。でっかい衛星が見えて無駄に迫力のあるミッドの空と違って、こっちの星は小さくきらきら瞬いている。なんだか懐かしく感じた。

 生涯インドア派である俺にとって、星空を見ながら寝転がるというのは初めての体験だ。星座なんぞは全く分からないが、なかなかオツなものである。

 晴れている日なら、外でも意外となんとかなりそうだ。

 

 さて。

 眠ってしまうまで、色々と考え事をするつもりだ。

 例えば――これから、具体的にどう行動するか。

 元の物語についての記憶、なけなしの未来の情報を総動員して、今後の方針などを立てていこう。

 

 まず、ジュエルシードを全て集める。

 願いによって、あの人が虚数空間に堕ちて行ってしまうのを未然に防ぐためだ。

 あの人の手に渡らないように、素早く全て集めて、その後は時空管理局に渡してしまいたい。集めた後に奪われないためには、それが一番いいように思う。

 もっと欲を言えば、フェイトやあの人が犯罪者であるとして管理局に捕まってしまわないように立ち回りたい。そうなると、フェイトを見つけて説得する必要があるかな。二人で民間協力者を装ってすべてのジュエルシードを管理局で厳重に保管してもらって、円満解決……いや、その場合あの人はなりふり構わず管理局に攻撃をしかけるかもしれない、それだと逮捕されてしまう。

 自分一人だけで、隠れて全部集めてしまうのはどうだろう? フェイトや他の探索者と顔を合わせることが無ければ、あの人にもこちらの動きを知られることもなく、ひっそりとジュエルシードをどこかに隠してしまえる……のだが、無理だな。難易度高い。誰かに一個でも先に回収されると、もうだめだ。

 

「うーん……」

 

 なかなかうまくはいきそうもない。俺のわがままを通すのに、この固い頭ではもっとじっくり考える必要がある。

 とりあえず、あの人に一個もジュエルシードを渡さないのが、当面の目的だ。まずは探すことから始めよう。

 話をするのは、それから。私の気持ちを全部、ちゃんと伝えるんだ。

 

「日本……地球。ふあ」

 

 そうだ、ここに来てから、もう一つ気になることがある。

 元の俺が住んでいた街、家、知人たち、そして『俺』自身はどうなっているんだろう。外見は女児になってしまったが、この心はこの日本で生まれ育ったものだと記憶している。言うなれば魂の故郷である。

 家族がいたのなら、いなくなってしまって迷惑をかけただろうか。友人がいたのなら、悲しい思いをさせてしまっただろうか……などと感傷に浸れそうなことを想像したが、元の記憶が希薄になっているせいか、そのことへの関心はあまりない。

 ない――とはいえ。

 考えてみればこれは重要なことだ。今まですっかり後回しにしていたが、この世界で目が覚めたことへの疑問はいつか解かねばならない。そして、元の自分の情報は、そのための手がかりになるかもしれない。

 ところで魂の故郷って言い回しめっちゃかっこよくない? いつか使おう。

 

 ……そろそろ眠くなってきた。

 誰にというわけでもなくおやすみと呟いて、目を閉じる。魔法のおかげで割と快適だからなのか、疲れているからなのか、こんな寝床でも意識はすぐに眠りへと沈んでいく。

 

 ――全部、終わったら。

 この世界でのやりたいことを無事に終えたら、探してみよう。

 無くしてしまった、自分を。

 

================================

 

 時を遡ること数時間。ちょっとした珍しい出来事が、市街の方であったそうだ。

 

「Excuse me?」

 

 外国人の女の子が通行人に話しかけてくる、という話だ。何が珍しいのか? おそらく慣れない土地で道に迷ったから道を聞いているとか、そんなよくある話だろうと考える人が多数のはずだが――

 ここ鳴海町は、観光が盛んだとか国際交流に力を入れているとかいうことは特にない、目立つ特色の無い平凡な田舎である。外国人、しかも見事な金髪に綺麗な顔立ちのまだ幼い少女、なんていう派手な存在は滅多に見られない。

 したがってこの少女が、街の住民から物珍しい眼で見られるのは仕方のないことであった。

 

「Wasn't blue jewelry seen around here? The number is carved in it. It is my…」

「……ごめんねお嬢さん、誰か他の人に聞いてね」

 

 外国語で何事かを一生懸命話しかけ、通じないと分かると残念そうな表情で別の通行人を探し始める、といった行動を少女はとっていたようだ。

 あの顔を見て僕は英語を学ぶと決めた、とは実際に声をかけられた学生のAさんの談。

 

「Why !? Labrys, what happened !?」

 

 しかし気の毒なことに、この日は英語に自信のある人間は通りがからず、少女は泣きそうな顔で何事かを呟きながら何処かへと去って行ったという。

 現場で一部始終を目撃していたというBさんは、生き別れの両親が見つかることを祈るわ、と涙ながらに語った。

 




○おまけ NGシーン

 ――全部、終わったら。
 この世界でのやりたいことを無事に終えたら、探してみよう。
 無くしてしまった、自分、を――いや、その前に。
 虫よけ魔法を習得する必要がある。
 耳朶をかすかに震わせるその羽音が、うっとうしい。いい感じにウトウトしていたのに、目が覚めてしまった。
 ぷ~ん(笑)。ぶ~ん(笑)。ブブブ……と、屋外の住民たちが煽ってくる。顔のそばで旋回するな。蚊帳が欲しい。
 ……まあ、この程度でイラつくような人間様ではない。虫けらに抱く感情などあるはずもないのだ。明日もやることがある、早く寝てしまおう。

「……煌めきたる天神よ」

 そう。何も感じたりはしない。

「導きの元降り来たれ。撃つは雷響くは轟雷」

 たとえば羽虫が、

「怒りの鉄槌をもて焼き尽くせェ!」

 横になっている俺の顔に止まってもだ。

「死ねえ!!! サンダァアッ……!」
《エラー。使用目的が非合理的かつ規範に適さない魔法の発動には制限をかけます》
「止めるなァッ!!! やつらを一匹残さず殺すんだッ!!」
《落ち着いてください。落ち着け!》
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