光を纏いし少年は漆黒の闇より舞い降りし転生者~もうひとりの王~―fate and destiny―《リリカルなのは編》 作:もぬ
プレシア・テスタロッサは、現在は使用していない研究区画に向かっていた。コンピュータがその区画の異常を報告してきたからである。
(あそこは確か……『プロジェクトF.A.T.E』の……アリシアの、出来損ないの人形を……。あんな所、とっくに凍結させたはず……)
どうやら勝手に機械は動いていたようだが。まるで悪の秘密組織の地下研究室だ。
そう、プレシア・テスタロッサはまさしくここで『人造人間』を造っていた。
ただし、それはある人間のクローンである。間違っても有名な魔導師たちの細胞をかき集めてものすごい化け物を生み出そうなどしていたわけではない。
ある人間……それは、幼くして事故で亡くなってしまったプレシアの一人娘、アリシア・テスタロッサ。
プレシアがここで行っていた研究とは、死んでしまった娘アリシアのクローン体に、アリシア本人の生前の記憶を転写し、クローンをアリシアとして生き返らせる……すなわち『生命蘇生』の研究。
娘への深い愛情、喪った悲しみから始まった研究だ。
研究区画に入ったプレシアが目にしたのは、床に横たわる金髪の少女だった。
どうやらコンピュータの異常で、勝手にアリシアの出来損ないを一体製造してしまったようだ。
(……最悪ね。なんで今更、こんなモノ……!)
苛立ったプレシアはコンピュータらしき機械を魔法で破壊した。
プレシアにとって、既にこの研究は失敗であった。
生み出された『アリシア』は、アリシアではなかったのだ。記憶転写は完璧ではなく、生前の娘とは様々な齟齬があった。それを愛そうと努力はしてみた。だが、そうすればするほど、アリシアとの違いだけが目に写る。
利き手も、好きな物も、人格さえ違う。あの子には無かった、高ランクの魔力資質まで持っているのだ。どう考えても愛娘の蘇生は失敗、『アリシアの偽者』はアリシアのものを奪っていく悪魔に見えることもあった。アリシアと呼ぶのは我慢できず、失敗作にはプロジェクトの名からとって『フェイト』と名づけ、その記憶から、自分がアリシアと呼ばれていたという記憶を削除した。
そしてクローン製造を研究していたこの区画を閉鎖したのである。
区画内の全ての機能を停止させたプレシアは、床に倒れている少女を見やった。
どうせ記憶転写はうまくいかないのだ。さっさとこの素体を処分して、ここを完全に廃棄しよう。そう考えた時、
「ぅあ……」
「!?」
少女の体がピクリと動いた。
(……これ以上お慰めの人形なんて必要ないけど……駒はもうひとつくらいあっても、いいかしらね……)
プレシアには、アリシアと同じ姿をしたものを殺すことなど、出来なかった。
このクローンの処分をしなかった理由は実のところ、それだけのことだった。
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『魔法少女リリカルなのは』―――。
いつ頃このアニメにハマったかは忘れたが、ついでに内容も若干うろ覚えだが、とにかく好きなアニメだ。以前友人と映画も観に行った。
登場キャラクターは女の子ばかりだが、今まで『魔法少女』に対して持っていたイメージとは違う、熱く燃える展開にドキドキしたものだ。三期では変身シーンに違う意味でドキドキしたりもしたが。
先ほど、またもや知らない部屋――あの実験室か手術室のような部屋とは別の部屋である――で目覚めた俺は今、部屋の中にある姿見の前に立っている。
鏡には金髪の少女が映っており、いつもの自分とはまるで違う姿が鏡に映ったことにぎょっとしたが、鏡の中の少女が俺と全く同じ動きをすること、見下ろした自分の身体が明らかに以前と異なっていることから、鏡の中の少女が自分であることを確認した。
そして、その少女……いや、自分の容姿は、金髪ロングの髪に赤い瞳、整った顔立ち。そして、
「あーー。あーあー!」
この声。某歌合戦にも出場した歌手兼声優の、ある人の声にそっくり……な、気がする。あの声よりちょっとだけ高いかな。
「あーあー、ゲフンゲフン……ふみとぉぉぉぉおおおおおおおおお!!」
うーん、とっても可愛らしい声。なるほどこれがDiamond Dust(天使の囁き)か。しかしいまいち低い声が出せない。幼女だからかな? 女の子も声変わりってするの?
それはともかく、これらの特徴を持った人物――キャラクターを、俺は知っている。先ほど会ったプレシア・テスタロッサさん(年齢不詳)の娘、フェイト・テスタロッサさん(年齢不詳)である。フェイトさんが年齢不詳なのはクローン人間であるがゆえ。
プレシアもフェイトもアニメの中のキャラクターだが、プレシアさんにはさっき確かに会ったし、今目の前の鏡にはフェイトの特徴を持った少女が映っている。
そして頭の中にある魔法の……この世界の知識。実際に使うことの出来る魔法。
ここは、リリカルなのはというアニメの中の世界なのではないだろうか。
言葉にしてみるとかなり痛いやつになってしまった……。もちろん、俺の頭がおかしくなった可能性もある。というか残念だがそっちの可能性のほうが高い。アニメが現実になるなんて普通じゃ有り得ないからだ。だけど何をしても目の前の光景は変わらないし、魔法の知識はあるし、頬をつねったら痛かった。
すごいクオリティのドッキリかもしれない。だがそれでは今の自分の容姿と魔法の知識があることの説明が出来ない。
すっごいリアルな夢かもしれない。しかし人間はこれほど意識がはっきりした状態で、これほど現実感のある夢を見れるのだろうか。俺は経験したことがない。
すっっごい機械がつくった仮想現実ってやつかもしれない。映画のマトリックスみたいな。……この考え自体がアニメや小説じみている。無いと思う。
そして、自分がこうなる直前の記憶がはっきりしない。
自分が誰なのか、といった記憶はあるが、ここで目覚める直前に自分が何をしていたか、いまいち思い出せない。……ぐっすり寝てたのかも。
いくら考えても、今の状況の説明が出来ない……。普通じゃ考えられないことばかり起きているからだ。だからもう面倒くさくなって、仮にこう考えてみたのだ。ここがリリカルなのはの世界である、と。
もちろん有り得ない、夢みたいな話だが、こうして有り得ない話をオーケーにすれば、無理やりだがいろいろと説明がつく。
魔法が使えること、プレシアさんがいること。そしてこの建物。多分『時の庭園』じゃないか? 無印編ラストダンジョンの。
それにプレシアさんは言っていた。俺がアリシアのクローンで、頭になにやら知識を転写した……とかなんとか。さっきから頭に、魔法の知識やこの世界の一般常識などが当然のようにある。これが知識の転写というやつの成果だろう。勉強いらずだ。
これで状況の説明は、今来た人にも3行で教えられる。
ただいま俺、アリシアのクローン!
とするとここは、リリカルなのはの世界!
バストがすごいプレシアさんもいるよ!
タ ト バ !
ちょっと無理があった。
とにかく、「ここは魔法少女リリカルなのはというアニメの中の世界だ」と考えたほうが、楽だ。
そうじゃなかった場合は恥ずかしいが、仮にドッキリか何かだとしても凄いクオリティだし、いい思い出になるだろう。仮に俺の頭がおかしくなっていて、現実の俺は病院のベッドで寝ているのだとしたら……まぁ、それもある意味、幸せかもしれないね。現代社会は非情だからね。
アニメの世界。夢のある話じゃないか。しかも好きなアニメだし。
まぁその、一番可能性が高いのは、これは頭がおかしくなった自分が見ている幻覚である……とう説だけど、これはどうしようもなさすぎるし、正直あまり信じたくない。とても却下したいです。
とにかく色々説明できるし、夢があるし、じゃ、もうここはリリカルなのはの世界だということにして、さて。
どうやって家に帰るのかな?
世の中は非情といえど、まだまだやりたい事が沢山ある。もとの世界へ帰りたい。
ドッキリか夢だったならこのまま時間がたてばいずれ終わるのだけど、そうではないとすると。
まずここにどうやって来たのかが分からない。それを言うとなぜ俺の姿が変わっているのかも分からない。アリシア・テスタロッサのクローンとして生まれ変わった? 二次小説の主人公みたいに? だとしたらどうやって帰る?
もしかしたら……もしかしたら、
――俺は――
二度と地球には戻れないかもしれない……。
二次元と三次元の中間の生命体となり
永遠にリリカルなのはの世界をさまようのだ。
そして 帰りたいと思っても帰れないので
――そのうち俺は 考えるのをやめた。
しかし鏡の中の少女……アリシアのクローンか。お人形さんのように可愛い、なんて言葉がしっくりくる。しかし宝石のように紅い眼は実に非現実的な……この世のモノでは無いという雰囲気を感じさせる。少々不気味だ。
小学校低学年くらいだろうか。これは将来美人さんになること間違いない。外国人の幼女って天使だよね。まぁ、これ自分なんだけど。傍から見たらナルシストである。
……それにしても………無い。ナニが……。
トイレとかどうするんだろう。というか俺これからどうすればいいんだろう……。
やめだやめ。考えてもどうにもなりそうにない。さっきから頭の中に何個クエスチョンマークが出てきたか数え切れん。……もっかい寝よ。そしたら夢から目覚めるかも。
『目は覚めたかしら』
「うわっ!?」
急に頭の中に声が響いた。
ビックリした……! ちょっと鼻水出たわ! 鏡の中の金髪少女もちょっと鼻水が出ている。さっきまでの幻想的な風貌はどこへやら、だ。あのフェイトちゃんと同じ容姿だと思うと、非常に残念な光景だ。
今のは、『念話』か。通信の魔法である。電話いらず、すごい便利。あ、でも遠すぎると念波が届かないため、かかりません。やっぱり電話は要る。
……知識の転写、すごいな。やり方なんかもバッチリわかる。これ、インチキだね。
『聞こえているでしょう? 聞こえているなら返事をしなさい』
こいつ……直接脳内に……!
『ファミチキください』
『……? ……起きているようね。半日も寝ているなんて良い御身分だわ……実験をするから、第3区画まで来なさい』
第3区画? どこだろう、思い当たりが無い。
『第3区画とは何処でしょうか。記憶にありませんが……』
『……ああ、ここの地図はインストールし忘れたのかしら。……ハァ、今その部屋に行くから、待っていなさい』
念話でため息を伝えてくるとは……。なにやらうっかり転写し忘れたらしい。……僕、悪くないですよね? なんかプレシアさん恐いんだよね。怒らせたら鞭で叩かれそう。
……今、自分がどういう状況なのか、それはさっぱりわからない。しかしプレシアさんの様子を見るに、殺される……なんてことは無さそうだ。
自分に出来ることはまだ、何も思いつかない。とりあえず今のところは、なるようになれ、だ。プレシアさんの言う事でも大人しく聞いとこう。というか聞かないと何をされることか。
あ、そういえば女の子が俺とか僕とか言うのはおかしいな。この世界でもそういう常識は同じみたいだ。うっかり男口調で喋ったらプレシアさんに解剖されるかも。なるべく一人称は「私」で通そう。別に男も使う一人称だし。
「私、わたし……うーん」
あまり口にしたことないから、違和感あるなぁ。
まぁいいや、意識して使っていけばすぐ慣れるだろう。そういえば俺っていつから一人称俺なんだろうか。
などとどうでもいいことを考えながらプレシアさんを待つ俺であった。来週につづく。
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「この傀儡兵を倒してみせなさい」
「えぇっ!?」
第3区画は広い場所で、あまり物が無い、体育館のような所だった。そして今は、部屋の中心に三つの人影がある。俺、プレシアさん、変な鎧。
そう、鎧である。ただし現実にある鎧の形ではない、と思う。見たことのない形だ。ファンタジーものの漫画とかアニメに出てきそうな感じ。プレシアさんの言うには、こいつは傀儡兵というモノらしい。
たしかアニメのラストで、わらわらと出てきた敵キャラ……ロボットだったと思う。で、ひとつひとつがなかなかに高ランクの魔力を持っている、みたいな設定じゃなかったっけ。
……高ランク?
「無理です」
「……そう。生みの親の言う事が聞けない不良品だということね」
プレシアさんの持っていた杖がムチみたいな形状になった。
怖っ!
「で、でも、デバイスも無しに……」
「いいから、やりなさい」
デバイスとは、魔法の使用を補助する機器である。演算なんかを肩代わりしてくれたり、術式を保存できたり、魔法の威力を上げたりしてくれるのだ。他にも、最近の携帯電話みたいに時計やら何やら色々な便利機能があるが……つまるところは、便利機能つき魔法使いの杖である。これが無いのと有るのとで、戦闘時の魔法の使い勝手がかなり変わってくる。
しかし言ってる間にプレシアさんはムチをしまい、空中にディスプレイとキーボードみたいなものを出現させ、なにやら操作し始めた。こちらの訴えは華麗にスルーである。
彼女がいじっているあれは空間モニターというやつだ。SF映画みたいでかっこいい。ていうかこの世界の技術すごいなぁ。
鎧の顔のあたりに光が灯った。ギギギ……とロボットらしい硬い動きで、こちらを向く。なんか恐いな……。
「実験開始」
傀儡兵が歩き出した。こちらへ攻撃してくるのだろう。
ガシャン、ガシャン……と遅い動きだが、しかしその緩慢さが鎧の威圧感と相まって、逆に恐怖を煽る。貞子がゆーっくりこっちに向かって歩いてくるようなものだろうか。しかもあいつ、突然目の前に瞬間移動とかしてくるからすごい心臓に悪いんだよね。緩急つけて脅かしてくる。まさかこの鎧はワープなぞして来るまいな。……しかし実験開始、などと言われてしまったからには、なんとかこいつを倒さなければ。
仕方ない。どうやら俺が本気を出す時が来てしまったようだ。中学校の授業中はよくイメージトレーニングに勤しんだものだ。暴漢をやっつけてモテモテになるとか。ちなみに今もたまに妄想してしまうあたり、病気が完治していないようだ。恥ずかしいので人には言えない。
……大丈夫。俺は今や魔法使いなのだ。
それに無印ではクロノが「この程度の相手に無駄弾は必要ないよ^^」とか言ってたじゃないか。
「ま、まずは距離をとって、それから攻撃を……」
声にして自分に言い聞かせてみる。手持ちの攻撃魔法を考えると、これがベターな立ち回りだろう……遠距離攻撃が主体となる、ミッド式魔導師の一般的な戦法でもある。
傀儡兵から離れるべく走り出そうとした、その時。
ワープでもしたんじゃないかという爆発的なダッシュで鎧が目の前に迫ってきた。
「ひっ……!」
走り出そうとしていた足はもつれ、転んでしまう。こんなに素早く動くなんて聞いてない!
傀儡兵が斧のような武器を振り上げる。……死んでしまう。恐怖への反射で、身を守るように手を前に出し目を閉じてしまった。
「……停止。実験終了」
……攻撃がこないのでおそるおそる目を開けてみると、傀儡兵は振りかぶった姿勢のまま停止していた。
生きている、と理解したところで、ぶわっと嫌な汗が出てきた。心臓がバクバク言ってる。
座ったままの姿勢で固まっていると、少し離れていたプレシアさんが近づいてきた。
「使えない子ね。戦闘魔導師の記憶が働いてないの?」
「……いえ……知識はあるんですけど……その、身体が、咄嗟には動かなくて……」
「………なるほど。あなたが役立たずだって、分かったわ」
だって、頭動かすのと身体動かすのは別じゃないですか。昔から、何か作戦とかを考えながらスポーツしたりするのは苦手だった。
役立たず……もしかして……俺、今アリシアのクローンだよな……処分、とか。しちゃう?
「明日から、リニスに戦闘訓練を受けなさい」
「……あ、は、はい」
良かった。今のところ、殺されることは無いみたいだ。マジで怖いなぁ……あなたなんていつでも捨てられるのよ、みたいなこと考えてそうな顔してるんだもんこの人。アニメの内容を知っているからそう見えるのかもしれないが。
それと、リニス……確か、プレシアさんの使い魔で、フェイトの魔法の先生だ。ゲームやら劇場板やらに登場していた記憶がある。猫の使い魔だから、猫耳と尻尾つきお姉さんだ。……なにそれ萌える。
プレシアさんが歩き出したので、立ち上がってその後をついて行く。
「そういえばあなた、もう感情があるの?」
「……え、えぇ、まぁ」
「……やはり自我の発達が異常に早い……使い魔じゃあるまいし……だけど転写した記憶は……ポッドの中で既に人格が………いいえ違う、どうでも良い事だわ……」
いかん、どうも感情が豊かなのは不自然なことらしい。今までのプレシアさんの言から察するに、この身体は生まれたばかりのクローン、ってことなのかな。だとすれば、俺はあるアリシアのクローンとして……この世界に生まれてきたということ? 元の身体はどうなったんだ? ダメだ、意味分からん。
……とりあえず、変に思われて解剖でもされたり、頭の中を覗かれたりしちゃたまらない。これからはなるべくポーカーフェイスでいこう。
「……今から、リニスと………ここの人間を紹介するから、来なさい」
「はい」
戦闘訓練、かぁ。
今まで平和な国で生きてきて喧嘩も碌にしたこと無いのに、そんなことをする日が来るとは。
さっきの鎧の恐さを思い出しビビりつつ、俺はプレシアさんの後ろについて第……第4? 第3? ……第ウン番区画を後にした。