光を纏いし少年は漆黒の闇より舞い降りし転生者~もうひとりの王~―fate and destiny―《リリカルなのは編》   作:もぬ

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4話 複雑なご家庭

「おーいフェイトーっ! こっちこっちー! はやくー!」

「あっ、もう、待ってよアルフ!」

 

 お昼の座学の時間を終え、今は自由時間。

 わたしはアルフと二人、外で駆け回って遊んでいた。

 アルフは私の使い魔。本契約はこの前したばかりだけど……ずっと一緒にいてわたしを守るって誓ってくれた、大切な、最高のパートナーだ。

 今まで一人で過ごす時間も多くてちょっと寂しかったりもしたけど、この頃はアルフが居てくれるおかげで楽しい時間が増えた。あっ、リニスと遊んだり魔法や勉強を教えてもらうのが面白くなかったってことじゃないんだけど。

 そんなことを考えていると、リニスから念話が飛んできた。 

 

『フェイト、アルフ、戻ってらっしゃい。プレシアから私たちにお話があるそうです』

「えー、あたしもー?」

『アルフもです』

 

 かあさんから呼び出し……?

 かあさんはとても忙しい人だ。今もすごく大事な研究をしているとかで、いつも研究室にこもりっきり。かあさんの部屋や研究区画はわたしがよく使う書庫や寝室とは全然違う奥の方にあって、とっても危ないから立ち入り禁止。かあさんとはご飯やお風呂の時間もズレていて、同じ時の庭園で暮らしているのに滅多に会えることはない。今日かあさんと会えるのもいつぶりだろう。

 それに、かあさんの方からわたしたちに用事だなんて、何か大事なお話かも。

 

「アルフ、行こう」

「うう、あの人苦手なんだよねー……」

「早く! 家まで競争!」

「あ、まってフェイトー!」

 

 

 

 わたしとアルフはリニスと一緒に、三人でかあさんの部屋に向かっていた。

 ほんとに、どんなお話なんだろう。ちょっと緊張しちゃうな。

 

「リニスは何の用事か聞いてる?」

「いえ……直接会って説明するから二人を連れて来るように、とだけ」

 

 リニスに用事をお願いするときもいつも念話で済ますのに、直接会って、だなんて。今日はよっぽど重要なお願いなのかもしれない。すごく緊張してきた。

 と、気がつけばかあさんの部屋の前に着いてしまっていた。リニスが扉をノックしている。あ、まだ、心の準備が……

 

「プレシア、二人を連れてきました」

「……入りなさい」

 

 かあさんの声。失礼します、とリニスが扉を開ける。

 リニスの後について部屋に入り、そして―――

 

 最初は、鏡かと思った。部屋に入って一番に見えたのは、見慣れたわたしの顔。

 でもよく見ると、それは鏡じゃなかった。わたしと違う動きをしたからだ。じゃあ一体何だろう?

 あぁわかった、人だ。わたしと同じ顔の。

 

 かあさんが何か話しはじめたけれど、わたしはそれどころじゃなくて全然耳に入らなかった。だってわたしと同じ顔をした何かが目の前にいるのだ。

 リニスが寝る前にしてくれたお話の中に、こわいお話がある。自分とそっくりの姿をして目の前に現れ、本物を食べてしまい、そのあとで本物のふりをして生きていくというお化けの話だ。そっくりだから誰も偽者に気付かない。

 私も実は偽者かも、フェイトが言うことを聞かない悪い子になったら食べちゃいますよ……リニスがそんな話をしたせいで、わたしはその後しばらく鏡とリニスが怖くて仕方なかった。

 その時のことを思い出してしまった。こわくて心臓が飛び出そうだ。

 その、わたしと同じ顔のお化けはじっとわたしのことを見ている。無言の無表情で、何を考えているのか分からなくて不気味だ。

 

 ――すると突然そのお化けは、ニタリ、と嗤った。わたしを真っ直ぐに見ながら。

 間違いない、わたしを食べる気だ。

 

「――フェイトの、双子の妹よ」

 

 ……え?

 わたしの、妹? 双子の……?

 その瞬間、ある記憶を思い出す。小さい頃の思い出だ。かあさんに、何か欲しいものはある? って聞かれたときのこと。

 妹が欲しい、って言ったんだっけ。あのときは家族がかあさんしかいないのが少し寂しくて、妹がいたらどんなに素敵だろうって思ったんだ。

 今改めてその子を見ると、なんだか困った顔をしていた。わたしが何故か怖がっているのを変に思ったのだろう。それに気付いて、一気に恥ずかしくなった。

 

「……レプリ……レプリ・テスタロッサです。……よろしくお願いします」

 

 妹が出来るなんて、今日はもしかして、すごく素敵な日なのかもしれない。かあさんはあの時の約束を覚えていてくれたのだろうか。

 

「ほらフェイト、あなたも自己紹介しないと」

 

 リニスに注意される。なんだか今日のわたしは全然人の話を聞けてなかったみたいだ。

 

「フェイトです。ええと……よろしく、ね」

 

 そうあいさつすると、わたしの妹……レプリは、とても綺麗な笑顔をみせてくれた。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「これからあなたが会う二人……三人の中に、フェイトという子がいるのだけれど」

 

 唐突にプレシアさんが口を開いた。

 今、俺達はデスクだけがポツンとある部屋にいる。扉からプレシアさんの座るデスクまで真っ赤な絨毯が敷かれてる以外は非常に殺風景な部屋だ。

 ここで、俺を紹介するらしい。

 

「その子もあなたと同じ、アリシアの出来損ないよ。けれどあの子はそれを知らないわ。アリシアの記憶をあげたから、私を本当の母親だと思っている」

 

 フェイト……やっぱり悲劇のヒロインって感じだな。可哀想な子だ。自分の母さんからアリシアの出来損ない~とか言われたら、そりゃあ泣くね。俺なら立ち直れないかも。

 ところで、フェイトはリリカルなのはの中でも主要なキャラクターで、会えるのが楽しみだったりする。

「あんなものに母親と呼ばれるなんて、とても気分が悪いけど……その方が言うことをよく聞いてくれるから、都合がいいの。だからあなたは本当のこと――アリシアのことを、あの三人に知られてはいけない……分かるわね?」

「……はい」

「そうね、よそに預けていたフェイトの双子の姉妹……ってところかしら。あなたの素性」

「その『設定』の通りに、プロジェクトF関連のことは全部秘密にしながら、これからやっていけばいい……のです……よね?」 

「……そうしてちょうだい。聞き分けの良い人間は嫌いじゃないわ……」

 

 良かった。別にアリシアがどうのこうのだなんて、そう簡単にばれることじゃない。嘘をつくのは得意な方だし、余計なことを言わなければ大丈夫だ。

 

「でもアリシアはもっと……もっと、歳相応だったのよ……。フェイトやあなたを見ると、イライラするわ……もし本当のことがばれてしまったら、どうしてやろうかしらね?」

 

 何か地雷踏んだ。恐い。恐すぎる。しかも内容が理不尽すぎる。

 そ、そんなに脅すくらいなら、例の記憶操作技術か何かで適当に記憶弄れば良かったじゃないですか。なんで自分がプロジェクトFの産物だってことや、クローン元がアリシアだって知識まで俺に植えつけてるんだよ。

 と思ったが恐いので聞けない。

 それにアリシアと違うなんて言われてもどうも出来ない。真似でもしろってかい。

 

「あ、あの……私のことは、アリシアさんじゃなくて……アリシアさんの親戚だとかそっくりさんだとか思っていただけたら、あまりイライラしなくて済む……かも……」

 

 と愛想笑いしながら言ったところで、プレシアさんの顔が大きく歪んだ。なんでだ。

 鬼のような形相。俺死んだ。うん、口は災いの元である。いらんこと言うこの性格が俺の死因となるのだ。

 しかし、今にもプレシアさんが噴火しそうなところで、コンコン、とドアをノックする音がした。

 

「プレシア、二人を連れてきました」

 

 女性の声。どうやら待ち人が来たようだ。

 プレシアさんは大きく息を吐き、部屋の入り口へと向き直った。

 

「……入りなさい」

 

 クールダウンしてくれたみたい。グッドタイミングだ、助かった。

 やっぱりこの人にいらんこと言ったらダメだな、改めて発言には気をつけよう。

 

「失礼します」

 

 部屋に入ってきたのは三人。

 一人目は若い女性だ。見た感じ、高校生かそれより上くらいの年頃だろうか。なんだか変な服を着ている……看護婦? いや、メイドさんっぽく見えないこともないかな。あと美少女だ。すごく可愛い、惚れそう。

 二人目は、長くて綺麗な金髪と赤い色の眼が特徴的な女の子。というかさっき部屋の鏡で見た顔だ。

 三人目。赤毛の小さな女の子。なんかおでこに赤いのがついてる。……インド人?

 アニメでの特徴と照らし合わせてみると、おそらく、一人目の可愛い子がリニスで、二人目の可愛い子がフェイトで、三人目の可愛い子が……えーっと、誰だったかな。

 三人は俺を見て驚いているようだ。部屋に入ってこちらを見るなり、そのまま固まってしまっている。そりゃ驚くだろうな。

 

「ふぇ、フェイトがふたりぃ!?」

「プレシア、その子は……?」

 

 ポカン状態から二人が復活したようだ。しかし金髪の女の子……フェイトさんは固まったままである。まぁ、目の前に自分そっくりの人が現れたらびっくりするよね。

 

『……今からあなたを紹介するけど、その内容をよく聞いて頭に入れておくことね。それがあなたの『過去』だから』

『はい、わかりました』

 

 プレシアさんからの注意に頷く。しかし我ながら念話も手馴れたものである。既に使いこなしている自分が恐い。

 それにしても……うひゃあ、本物のフェイトが目の前にいるよ。すげー、三次元だとこんな顔なんだ。いやさっきも同じ顔を見たりはしたけども、表情が違うというか、オーラがあるというか。さ、サイン貰っていいかな?

 いやはや、こんなリアルな夢をみれるとは幸せです、よしもう目ぇ覚めてもいいよ。

 

「……今日からここに住むことになった、新しい家族よ」

 

 ……ん? なんだろ、こっちを見て……怯えてる、のか?

 対面のフェイトは表情が硬く、困惑している様子だ。この子は人見知りなさるタイプなのだろうか。

 あぁそうか、恐らく今まで同年代の友達もいなかったのだろう、人見知りになるのも仕方ない。それにじろじろガン見しては悪印象ですよね。そうだ、初対面では笑顔に限る。笑顔は良好な人間関係の第一歩です。

 というわけで、精一杯の笑顔でもって笑いかけてみる。二コッ、という擬態語がぴったりのはず。渾身のスマイルが決まった。

 ……実は俺もなかなかの人見知りである。我ながら頑張ったと自分を褒めたい。

 

 と、フェイトの表情が変わった。

 さっきまでなんだか不安そうな顔をしていたのが、こちらが笑顔を見せたことで徐々に……血の気が引いていき……顔が、真っ青に――

 ……あれ。なんか、引いてる? おかしいな……。

 

「色々と事情があってね……今まで知り合いの家に預けていたの。フェイトの、双子の妹よ」

「フェイトに、妹がいたなんて……今日から住むですって? プレシア、そんな大事なことは、早く知らせて頂かないと困ります……!」

「うるさいわね、私にとっても急な話だったのよ」

 

 ――なんですと? 妹? 俺こんな小さい女の子の妹になるの? そこはせめて姉じゃないの?

 ついつい小声でプレシアさんに訴えかけてしまう。

 

「は、博士。プレシア博士」

「…………その呼び方はやめてちょうだい」

「私は妹なのでしょうか。姉じゃないんですか」

「あなたの方が後に生まれたのだから、妹よ。下らないことを聞かないで、あなたからも自己紹介なさい」

「は、はい」

「……くすっ」

 

 なんかリニスさんに笑われた。なんでだ。初対面の人間を笑うとは少し失礼じゃないか。

 自己紹介……もうプレシアさんの紹介は終わりって事かい。設定が薄すぎないか。

 ……いや、なるほど。設定が多すぎるとボロが出るから、これでいいんだ。ええと、他所で育った双子の姉妹……これさえ守っていれば、何も問題は起きない、はず。

 三人に向かって口を開く。

 

「初めまして、私は――」

 

 私は――――誰?

 

 たった今気付いた。なんてマヌケだ。

 吾輩、名前がまだ無い。

 

「わ、私は……」

 

 そうだよ、まだ自分の名前を聞いていない。自分の名前が、脳からすっぽ抜けている。

 三人に聞かれてはまずいので、念話でプレシアさんに話しかける。

 

『ド、ドクター。ドクタープレシア』

『……ドクターもやめなさい』

『私の名前を教えて下さい』

『………』

 

 返事が無い。ちらっと横目でプレシアさんを窺ってみると、無表情のままだが……あ、これ今考えてる。今考えてるぞ。

 

「……どうしたの? 緊張しているのかしら。リニス、先にあなたの方から挨拶してくれないかしら」

『クローン、コピー、フェイク、レプリカ、イミテーション、シェイム……インフェリア、ニードレス、トラッシュ、ジャンク……』

 

 プレシアさんはリニスさんに話しかけながら、同時に念話を送ってきた。一体どうやってるんだ。

 ……と一瞬思ったが、すぐに答えに思い当たる。これはマルチタスクという複数の思考を同時に進める技術の応用で、戦闘魔導師を目指すのなら必須のスキルだ。逆に言えば、大抵の魔導師には出来ることである。

 いやそんなことより、プレシアさんはぶつぶつと何の呪文を唱えているのだろうか。

 

『……この中から好きなものを選ぶと良いわ』

 

 はい?

 

『あなたの名前よ』

 

 え……いやいやいや、ちょっと……それは考え直して欲しい。

 なんかクローンとかジャンクとか言ってなかった? それゴミって意味じゃないの? 人間につけていい名前じゃないよ!

 

『あの……い、異議あり……』

『人形のくせに生意気ね』

『ご、ごめんなさい……でも、クローンとかいう単語じゃあまりにもストレートすぎるというか、アリシアのクローン体だってばれるかも知れませんし……ゴ、ゴミって……せめてもうちょっと工夫を……』

『………』

 

 プレシアさん怖い……。なんで私がこんなゴミの名前をいちいち考えてやらなきゃならないの、とか思っているのだろう。心底俺のことをどうでもいいと考えてたから名前のことを忘れてたんだと思う。なかなか酷い人だ。

 ……自分で考えろって言われたらどうしよう。いや、自分で考えないとこれ酷い名前になるよね?

 

「初めまして、お嬢様。私はリニスといいます。プレシアの使い魔です」

「へっ、あ、初めまして……」

 

 今度はリニスさんが話しかけてきた。やはり念話をしながら他の人と喋るなんて無理な気がするのだが。

 

『フェイクなんか、フェイトと字面が似てて、良い名前じゃない。双子にはピッタリだわ』

『で、ですから、それだと率直すぎませんか……』

「この家の、子供たちのお世話係のようなものですから、慣れない所で何か困ったことがあれば私に言って下さいね」

「あ、はい、あの、どうぞよろしくお願いします」 

 

 なんとか同時に対応出来た。

 しかし自己紹介の途中で自分の名前を考えることになるとは……。せめてもう少しじっくり考えたかった。心の底からそう思う。

 

『コピーだから……ピーコ・テスタロッサ』

 

 おすぎの弟です! え、本気で言ってるんですか?

 プレシアさんの横顔を見てみると……あっ、ちょっとニヤついてる!? 口角が真顔の時より少しだけ上がっているのが見て取れる。

 嘘だろ、プレシアさんも笑ったり出来るのか、レアな瞬間だ……じゃねぇ! この人、俺を困らせて楽しんでるんだ!

 

『クロー……クーロン・テスタロッサ』

 

 なんか電気っぽい……そういえばこの身体、電気変換資質持ちだったな……わりとうまい名前かも。

 それでいいです、そういう意味を込めてプレシアさんに目配せすると、

 

『やっぱり今のは無し』

 

 ――なんでや! 

 あまりの理不尽さについ頭を抱えてしまう。

 

「……ほ、ほらアルフ、次はあなたが」

「え、あたし? わかった」

 

 赤毛の、額にチャクラ少女が少し前に出てきた。

 なんか気を遣わせてるみたいで申し訳ない。人見知りの厄介なやつだと思われてやしないだろうか。違うんです。今、名前を考えているんです。

 ええと、じゅげむじゅげむ……

 

「あたし、フェイトの使い魔のアルフだよ! はじめましてで、よろしく!」

 

 あーっ! アルフ! アルフじゃないか!

 アルフはもっとデカくてボインな、姐さんっぽい雰囲気の女性だと記憶していたものだから気が付かなかった。あぁ、そういえば、小さい女の子の姿にもなれるみたいな話を聞いたことがあるような。

 よく見たら犬耳と尻尾が生えている。言われてみれば、目の前の少女は外見年齢以外は俺の覚えてるアルフと特徴が一致している。そういえばおでこに赤い宝石もついてた気がする。多分。

 

「うん、よろしく」

 

 アルフと始めましての挨拶を交わしていると、プレシアさんから最後の通達が来た。

 

『決めたわ。あなたは『レプリ』よ。『レプリ・テスタロッサ』と名乗りなさい』

 

 レプ? 何だって?

 ……なんつう変な名前だ、「レプリカ」という単語を弄ったものだろうか。その、あんまり良い名前じゃないと思うのだが。

 全国のレプリさんには申し訳ないが、これからずっとこの名前なのは、俺は嫌だ。おじいちゃんにつけて貰った俺の名前の方が良い名前だった、という記憶がある。我ながら気に入っていた。

 いいのか、レプリで。そんな名前で大丈夫か俺? プレシアさんは決まりと言ったが、ここで俺が別の名前を名乗ってしまえば、その名前で通せるんじゃないだろうか?

 

「……あの……私は、私の名前は……」

 

 こちらに向けられた視線に、力がこもるのを感じる。

 今が名前を決める最後の機会だ。いけ俺、素晴らしい名前を披露してしまえ!

 あ、ピンと来た。これなんかどうだろ。

 フランシスコ・ザビ……!

 

「……レプリ……レプリ・テスタロッサです。……よろしくお願いします」

 

 ……妥協してしまった。

 だが仕方が無い。良い名前が思いつかなかったんだ。

 俺ってあんまりネーミングセンス無いし、RPGとかでも主人公の名前はデフォルトネームで始める派だし。

 それにプレシアさん的には、すごく良い意味が込められた名前なのかもしれない。……それは無いか。

 

「ほらフェイト、あなたも自己紹介しないと」

 

 あれ、そういえばまだだったか。

 再びフェイトを見てみれば、リニスさんの言葉にハッとした表情になり、それから少し顔を赤らめて恥ずかしそうにしている。反応を見るに、どうやら部屋に来てから今まで呆けていたみたいだ。そんなに母の隠し子の双子の姉妹が衝撃だったか。だろうな。

 そのまましばらくもじもじしていた彼女だったが、やがて口を開いた。

 

「フェイトです。ええと……よろしく、ね」

 

 恐らく今の俺と同じ声のはずだが、自分の喉から出た声とは若干違って聞こえる。これが本物の生水樹声なのか。

 実に幸せな体験だ、顔が自然とにやけてしまっている。

 

「……うん、よろしく」

 

 と、全員が自己紹介を終えたところでプレシアさんが、ハァとため息をつきつつ話し始めた。

 

「じゃあ、この子のことはリニスに任せるわ。フェイトと同じように、一流の魔導師に育て上げなさい」

「……はい、承りました」

「話は終わりよ。もう行きなさい」

「プレシア、まだ色々と聞きたいことが……」

「リニス。話すことはもう何も無いわ……さっさと出て行きなさい」

「……かしこまりました、マスター」

 

 隠し子がいたことについて何の説明もしない。それがプレシアさんだ。

 ごり押しか。それじゃ俺が後で色々聞かれるでしょうが。

 

『後は何かあったらリニスに頼りなさい。……さっさと一人前になって生みの親の役に立ってみせてちょうだい』

『はい、プレシア博士』

「……ハァ」

 

 プレシアさんが俺を見ながらため息をついた。何か気に障ったのだろうか。

 さっきからこの人はため息をつきすぎだ。初対面から一日経ったかどうかぐらいなのに、何回ため息を聞いたことか。そんなんじゃ幸せが逃げていきますよ。……ため息癖がつくほどの苦労人だということなのか。

 

「さ、行きますよ皆! レプリお嬢様、あなたも」

「あ、はい……」

 

 リニスに手を引かれ、俺はプレシアさんの部屋を後にした。

 

 

 

「……さて! 今日はフェイトの午後の勉強はおやすみにして、新しい家族と親交を温める日にしましょうか」

 

 廊下をある程度歩いたところで、急にリニスさんが言った。

 ……あー、俺、本当にここで暮らすのか。なんでこんなことになってるんだろう。

 

「さんせー!」

 

 言いつつアルフはてくてくと俺の目の前まで近付いてきて、俺とフェイトの顔を交互に見ながらつぶやく。

 

「うーん……ほんとにフェイトとそっくり……」

「そうね。髪型と服を同じにしたら、見分けがつきそうにないです……ところで、あなたはここ、時の庭園にはいつから?」

「あ、はい。昨日来たばかりです」

 

 というか昨日目覚めたばかりですね。夜中にプレシアさんに連れられて外に出た後、気付いたら知らない部屋にいて、傀儡兵と凄まじいバトルを繰り広げたのが数時間ほど前の話。

 

「そう。じゃあこれから私たちで、ここを案内しましょうか。これからあなたも住む場所ですから」

「ああ、ありがとうございます、リニスさん」

 

 嬉しい申し出だ。ここがどれだけ広いのか、気になっていたところである。廊下は長いわ部屋は多いわ……お城かここは。四人で住むような場所じゃないと思う。

 

「私のことは、リニス、で良いですよ。敬語も無しで構いません」

「だったらあたしもアルフでいいよ!」

 

 む、そうかい。じゃあ普通にしゃべるとしよう。

 とここで、今まで黙っていたフェイトも口を開いた。

 

「わ、わたしのことは……お姉ちゃん、って、呼んでもいいよ?」

 

 …………お、おう。

 馬鹿な、既に妹扱いだと。くそ、なんでこうなった。こんな小学校低学年くらいの女の子を姉と呼べというのか。違うだろ、逆だろ。俺をお兄ちゃんと呼んで欲しい。

 

「リニス……アルフ……」

 

 名前を呼びながら、順繰りに三人の顔を見ていくと、フェイトは何かを期待するまなざしでこちらを見ていた。

 

「……おね……………フェイト」

 

 途端に悲しそうな顔になるフェイト。それを見て少し申し訳ない気持ちになるが、そこは譲れない。許して欲しい。

 リニスが俺達を見てくすりと笑った。やめろ。その微笑ましい光景をみるような、子供に向ける保護者の表情をやめてください。

 

「……じゃあこっちも、えーっと……レプリって呼んで下さい。三人とも、改めてよろしく」

 

 あ、敬語が抜けなかった。まぁいいか。

 

「さぁ、行きましょうか」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 その後、時の庭園をあちこち案内されたのだが……

 やはり恐ろしく広かった。食堂、書庫、風呂、中庭、フェイトたちの部屋などを見せてもらったのだが、俺の住んでいたアパートや実家と比べると、一つ一つの部屋がアホみたいに広い。日本の住宅事情に喧嘩を売っている。あれだ。テスタロッサ家は大金持ちだ。

 しかも外の平原はテスタロッサ家の土地らしい。魔法を使ったり模擬戦をしたりするんだとか。どんなスペースの庭だ。

 研究区画や時の庭園の動力部などは危険なので基本的に立ち入り禁止とのことで、案内されなかった。今日見せてもらったのは普段の生活で使う、住居部分だけなのだそうな。あれだけ歩いたのに一部分。笑える。

 

 道中、ここに来る以前のこと……どこに住んでいたのか、誰と暮らしていたのか……そういうことを色々聞かれたが、答えられない質問にはプレシアさんの真似をして何も話さないでいると、何か事情があるというふうに理解してくれたらしく、それ以上は聞かれなかった。とりあえずボロは出してないと思う。

 こんな要塞みたいな家に住んでいて、母と娘は不仲、さらにそこへ生き別れの双子出現……ワケあり一家だ。何の説明ももらえないリニスはさぞ頭が痛かろう。

 

「さて、ちょうど良い時間ですから……晩御飯にしましょうか」

 

 庭園の案内が一通り終わった所で、リニスが言った。

 

「今日はレプリの歓迎会ということで、いつもよりちょっと豪華な食卓にしましょう。……ええと、好きな食べ物は?」

「にくー!!」

「アルフには聞いてませんよー」

 

 好きな食べ物かぁ。ラーメンかな。カレーライスもいい。ステーキもいい。お肉、いいね。というか最早何でも良い。

 しかしまぁ、ラーメンは家庭料理ではないので、このチョイスはおかし……あれ、そもそもミッドチルダにラーメンはあるのか? なさそうだ。というかみそ汁も白米もあれもこれも……和食が無くね? そもそもミッドの食文化が謎だ。

 ……お、俺の好きな……ラーメンは……?

 ここには……ない!

 そんなのいやだぁあああああっ!!

 

「……美味しければなんでも」 

 

 ミッドチルダの料理はわからないので、選択肢がない。

 ……いや、記憶がある。そんなに地球と変わらない料理のイメージが、脳裏に――

 

「ふむ。一番困る答えではありますが……まぁそれなら、得意料理で攻めることにします」

「リニスの得意料理って、もしかしてアレ? それならわたしも大好きだよ」

「フェイトの好物なら、レプリも気に入ってくれるかもしれませんね。双子ですし」

 

 お? 何? アレって何? 期待させてくれるじゃないですか。果たしてこのグルメを満足させるに値するメニューかな?

 豪華料理に想いを馳せていると、お腹の虫が大きな音を鳴らした。三人がそれを聴いて笑う。く、恥ずかしいな。笑うなチクショウ。

 ……そういえば、ここに来てずっと何も食べていない。意識すると急にお腹が切なくなった。

 

「……腹減ったな……」

「ふふ。じゃあ急いで作りますから、あなた達は席について、待っていて下さいね」

 

 はーいと返事をし、リニスは調理場、俺達はテーブルにつく。

 

 

 

 食事を待っている間、アルフとフェイトと適当な話を楽しんだ。

 ……と言いたいところだが、人見知り、悪く言えばコミュ障の俺である。今日会ったばかりの人とはあまり気軽に話せない。あと、子供は少し苦手だ。

 フェイト達はめげずに話しかけてきてくれるが、自然と、何回も会話が止まってしまう。俺からしてみれば、こちらのボロを出さないような異世界人との話題なんて思いつかないのだから仕方ないだろと思う。

 ……あ、そうだ。一つ気になることが出来たので聞いてみることにする。

 

「そういえば、あの人は……プレシアさんは、一緒に食べないの?」

 

 すると、フェイトは一瞬だけ悲しそうな顔になりながら言った。

 

「かあさんは研究で忙しいから……ご飯とかは一緒には食べないんだ。今日会ったのも、えーっと……二ヶ月ぶりくらいかな」

「え……そ、そうなんだ」

 

 二ヶ月って……そんなアホな。

 まぁアニメを視てある程度わかっていたことだが、不仲すぎる。聞いてはいけないことを聞いてしまったな。

 思ってた以上に悲しい親子だ。なんとか出来ないものだろうか。

 

「あの……レプリはなんでかあさんのこと、プレシアさん、って呼ぶの? わたしの妹なのに」

  

 今度はフェイトから俺に質問してきた。 

 ……言われてみればおかしいよな、母親なのに。

 一瞬、答えに困ってしまう。なんとか適当な理由を考えないと。

 

「……あー、ほら、小さい頃からずっと、別の人に育てられたから。あんまり、あの人が母さんって感じがしないんだ」

 

 これだ。決して嘘ではない。完璧。

 しかし、何を思ったのかフェイトはまたも暗い顔になる。

 

「そう……なんだ」

 

 ……また会話が止まった。しかも暗い雰囲気に。

 どうしよう。何か明るい話題はないだろうか。そうだ、異世界の話題といえば、俺はプレシアさんから色々知識を貰ったはずである。今こそそれを存分に披露する時!

 

「……す、好きな魔法は?」

「え? えっと……射撃系、かな? ランサーとか……」

「ランサーかぁ。俺……私も好きだよ。単純だけど色々応用が利くよね、えぇと……ファランクスシフトとか」

「ファランクス? わたしまだそこまで習ってないよ」

「へっ? あ、ああそうなんだ!」

「……もしかして、レプリって魔法得意なの? ほ、砲撃とか撃てる?」

「ま、まぁね。朝飯前かな」

「すごい! あのね、今ちょっとスマッシャーの展開式でわからないところがあって……」

「うえっ、いや、教えるのはちょっと……」

「リニスー、ごはんまだー?」

 

 にわか魔導師の知ったかぶりは、その後リニスの調理が終わるまで続いた。

 

 

 

 

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