光を纏いし少年は漆黒の闇より舞い降りし転生者~もうひとりの王~―fate and destiny―《リリカルなのは編》 作:もぬ
世界はいつだって、こんなはずじゃないことばっかりだ。
世の中には、人間の力ではどうしても抗えない理不尽な出来事が、時たまある。
それによって大切なモノを失い、そしてそれを取り戻すことは出来ないのだと知った人々の悲しみ、怒りは、計り知れない。
こんなはずじゃない現実と、やり場のない感情に打ちのめされて。
それでも人は、前に進まなければならないのだろうか。
たとえば。
目の前に裸の美少女がいるのに、それに反応するべき大切なモノが無くなってしまっている今とか。
これから一生童貞のままだという現実。
それらに、一体どんな気持ちで立ち向かえというのか。
深いまどろみから目覚めた朝や、アダルトなコンテンツを観たあの夜。
幾多の戦いをともに駆け抜けた、己の半身とも言える存在。大切な、絶対に無くしてはならないはずの相棒が……今はもう、いない。
「……うう」
この頬を伝うのは、シャワーのお湯なのか、それとも……
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「ご馳走様でした」
聞いていた通り、リニスの作った晩御飯はとても美味しかった。
ミッドチルダの料理は未知の物だらけじゃないだろうかと身構えていたが、意外にも割とどこかで食べたことのある味が多かった。というか洋食だ。食器もフォークにナイフにスプーンだし。
しかし出会ったことのない味もあって、ちょっと感動しながら全部たいらげた。やっぱり人間の幸せの半分は美味しいご飯で出来てるよね。
ちなみに、ラーメンは無かった。パスタみたいなやつはあったけども。
「実はちょっと多めに作りすぎて、残り物は明日また使おうと考えていたのですが……これは……」
「そっくりの双子でも似てない所はあるんだね」
リニスとフェイトは完食した俺を驚きの表情で見ている。
……そんなに多かっただろうか。これくらいはいつも食べている量だと思う。というかフェイトが小食過ぎるんじゃないか? 俺の半分も食べていないように見えた。結構残していたので、それ食ってもいいかなと3回くらい聞いた気がする。卑しいとか言うな、美味しいのに残すなんて勿体ない!
まぁアルフは見た目幼女のくせに俺と同じくらい食べてたけど。小さいうちからそんなに食べて大丈夫なのか? 後でお腹壊しても知らないぞ。
「でも、これだけ綺麗に食べてもらえると作った甲斐があるというものです。フェイトも少しだけ見習って下さいね?」
「うっ……はーい……」
微笑ましいやりとり。ついニヤニヤしてしまいそうだ。
そうそう、たくさん食べないとナイスバディになれないよ。食べ過ぎて太るのもアレだけど。
最もアニメを観た限りでは、彼女は約束された巨乳の持ち主なのだが。
「じゃあ少し休憩したら、皆でお風呂に入りましょうね」
食器を片付けながらリニスが言う。
……何……やて……?
「ちょ、あの、皆でって……一緒に入るってことですか!?」
「ええ。まだフェイトは一人で頭を洗えませんから、心配で」
「リ、リニス! もう出来るよ!」
バカな……! 女性と一緒に風呂だと……!? しかもこんなスタイルの良い女の子と!?
い、いいのか? 今日まで紳士として真摯に生きてきた俺だがここで道を踏み外すなんて許されないはず否待つんだこれは何かの罠か危ない騙されるところだったこんなことは生まれて初めていや小さい頃に家族と入った気がする、そうだ家族なら何の悪いことがあるだろうか今はテスタロッサ姓だぞ合法だ捕まる謂れは無いというかこんな展開があるということはやはりこれは夢だ紳士でもそういう夢くらい見るさむしろ常時賢者モードと言われた俺だからこそ夢に日頃秘められていた願望的なアレが出て何だ夢なら問題ない誰かに見張られてる訳でもないしいいよね。
「レプリ? 早く入りませんと、いつまでもその格好じゃ風邪を引きますよ」
「は? は、へ……ぶぇっくしょおおい!!!!」
何か気づいたら全裸で脱衣所に居た。
いつの間にかリニスに脱がされていたらしい。わけが分からない。
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テスタロッサさん家の風呂は広い。
何せライオンっぽい何かの口からデカい浴槽にお湯が流れ出ている。ところどころに岩のようなオブジェクトが配置してあって、どこの温泉かといった景観だ。
シャワー・蛇口も一つではない。時の庭園は元々旅館か何かだったのだろうか。外にすごいトゲトゲ生えてるけど。
ちなみに、シャワーに手をかざすとお湯が出てくる。その辺はやはり文明の発達したミッドチルダだからこそのハイテクなのだろう。見た目は日本にもありそうな浴場なのに。
でも今は、そんな事はどうでもいいんだ。重要な事じゃない。
ここに来て、ようやく自分の体が変わってしまったのだという事をはっきり認識した。
反応しないのである。意識してしまうと、強烈な違和感に襲われた。人生で初めて、初めて若い女性の【見せられないよ!】というのに、何の【自主規制】も無かった。
俺はED――Eternal Douteiとなってしまったらしい。
……夢だ……こんなの夢に決まってる……。
「あの……大丈夫? さっきから元気ないけど」
そりゃ元気も無くなる。この数時間でどれだけ男のプライドにダメージを負ったことだろう。
風呂で受けたショックの後、よく考えたら着替えが無いことに気付いたのだが、それならフェイトの服を借りればいいという話になり、今はフェイトの寝巻(もちろん女の子用の服)を着せられている。しかも自分で着たんじゃなくてリニスに無理やり着せられた。もはや男の尊厳は地に堕ちたと言っていい。ははは。
「いや、大丈夫。ちょっと……眠くなってきちゃって」
現在、フェイトの部屋で子供同士の談笑中だ。ちなみにリニスは、夜更かししちゃダメですよーとか言いながら何処かへ行ってしまった。
食事の時間からだいぶ打ち解けたのかもしれない、まだまだ話したいことがこの子には沢山あったようで、体感で一時間以上はこうしている。
最もその間、精神的なダメージに苦しんでいたのでかなり適当に相槌を打っていた。非常に申し訳ないのだけど、まぁ子供の話を聞くときは基本こんな感じじゃなかろうか。
「あたしもねむーい……」
「そう言われると……わたしも……ごめんね、こんなに遅くまで」
いやいや、眠いのは本当だけど、対して遅い時間ではないと思う。昨日までの俺なら、むしろ夜はこれからだ! とか言えそうな時間帯だと思うのだけど……
疲れているのか、眠気が我慢できない。
「じゃあ今夜はお開きで。おやすみ」
「うん。おやすみ……」
「おやすみー」
フッと部屋の電気が消える。
この子供部屋のベッドはキングサイズ……いや、キングオブキングサイズの大きさだ。身体が子供に縮んだせいで大きく見えるのかも知れないが、五つ子でも眠れるんじゃないかと錯覚してしまう。
それにフカフカ。いくらしたんだろうコレ、横になったら一瞬で眠ってしまいそうだ……おやすみ……
「ちょっと待て」
なんで一緒に眠るみたいな空気になってるの?
勢いよく身体を起こす。横になっている状態からツッコミと上体起こしを同時に行うことで威力が2割増しになる技だ。
……二人は俺の技もなんのその、すやすやと可愛らしい寝息をたてていた。驚きの寝つきの早さである。流石はスピードタイプの魔導師というか……沢山喋って疲れたのかな。
よく考えたらこの件に関しては子供たちに聞いても意味はない。他の人に聞こう。
プレシアさん……は怖いな、リニスがいい。
「よっこい昇龍拳」
二人を起こさないように、静かにベッドを抜け出す。
大の男が小さい女の子と一緒になんか寝れるもんか。今からリニスを探して、他に寝床を用意出来ないかお願いしてみよう。
……あ。
よく考えたら昨日の夜使った部屋があるじゃないですか。その部屋に案内してもらえばいいや。
「どこにもいねぇ……」
時の庭園は人の住む場所か? いいえ、これはダンジョンです。
10分は歩いた。しかし人影が見当たらない。廊下は進むと自動で明かりが点くのだが、進む先は明かりが点いていないので暗い。行く先は闇。
というか、ここはどこだ。
正直、怖くなってきた。何しろここでの暮らしはまだ1日目である。無音の廊下を一人で歩くのは、その……出そうな雰囲気と相まって、
「おや? フェイト?」
「!! 何奴ッッ!!!!」
電光のごとく振り返る。リニスさんでした。
「リニス……」
「ああ、フェイトじゃなくてレプリですね。こんな所で何を? おトイレならここじゃありませんよ」
この溢れ出る母性。さっきまでの恐怖が中和されていく。ああリニス、君が光の女神(てんし)か……。
「レプリ?」
「あ、ええと。そうだ、リニスを探していたんです」
「私を? 用があるなら念話で呼びつけてくれて結構ですのに」
「あ」
別の寝室がいい、という旨をリニスに話した。
一人でないと眠れない、昨日は確か別の部屋で寝ていた、そもそも何故フェイト達と同じベッドで寝ることになっているのか、などなど。
それなら使っていない、外来のお客様用の部屋がいくつかあります、との事だ。ここに来て2回目に目覚めた部屋がそうだろう。まだ7歳の子が一人で……だの何だの言われたが、3分にも及ぶ実に長い話し合いの結果そこを寝室として使わせてもらえることになった。
なので、現在はベッドの中。勿論一人でだ。
……本当に、リアルで長い夢だ。
この次目覚めるときこそ、自分の慣れ親しんだ部屋の小汚い布団の中にいるだろう。夢は充分に楽しんだ。そろそろ終わりのはずだ。
もし、次もこの場所で目が覚めたなら。その時はこれが現実だと思うことにしよう。決めた。
そんなことを考えながら、徐々に眠気が増してきて――
――目が覚めた。なんだか長い夢を見ていた気がする。いまだに夢心地の気分だ。
まず視界に入ったのが見慣れた天井。身体を起こしてみればそこは安アパートの自分の部屋だった。太陽の光が入ってきてないので、どうやらまだ夜中らしい。
夜中に目が覚めるとしたら、それはトイレである。尿意を感じたのでもそもそと布団から這い出て用を足しに向かう。
いつも通り便器の前に立ち、速やかにパンツを下して……おや?
無い。
今から用を足そうっていうのに、大事なものがついてなかった。つるっつる。もうつるっつるだった。
パニックになりながらも備え付けの鏡に目を向ける。しかしそこにいたのは、俺ではなく。
暗闇の中でも紅く不気味に光る瞳が、こちらを見返していた。
「うわあああああああああ!!!」
もう思いっきり身体を起こした。今とても怖い夢を見た。あれ、どこだここ……って。ここは時の庭園の寝室か。
頭がはっきりしてきた。どうもさっきのが夢で、こっちが現実らしい。悪夢だと思ったら思いっきり現実だった。いまだに俺の体は小さな女の子のものだ。
汗びっしょりだ。下の方まで濡れてる感触がある。もう服が張り付いて、不快で仕方がな――
「まさか。いやいや……ありえないから……」
なんて口にしながら、布団をガバッと剥がしてみる。
……高級そうなベッドは、TUNAMIもかくやと言わんばかりの大洪水に侵されていた。
大惨事だった。
「……こ、こんなバカな……」
この年になって、お漏らしとか。
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今回のミッションの概要はこうだ。
まず、布団とシーツの洗濯。確か記憶が確かなら、風呂場の脱衣所に洗濯機があったはず。科学の発展した世界なんだから乾燥機機能くらいついているだろう。着替えが無いので、このびちょびちょのパジャマと下着も一緒に放り込み、お急ぎモードをポチッと。そしてその間素っ裸で何をするのかというと、もちろん風呂に入って汚れを落とすのだ。
どうやらまだ夜中のようなので、うまくやれば家の人々にばれずに事を終えられるはずだ。翌朝、何事も無かったような顔でおはよう。
……ステイ初日から漏らすなど、決してあってはならぬ。速やかな証拠の隠滅が求められる。
というわけで現在、二度目のお風呂である。
一回目はもう衝撃で何があったかはっきり覚えていないのだけど、今はいくらか落ち着いている。というかもういい。吹っ切れた。どうしようもないので、今は自分の身体がこうなったことを受け入れるしかないと思うのです。
風呂場の鏡に映った姿を見つめる。まぁ女性になってしまったと言っても幼児だ。このくらいの年なら別に男女も大して変わらないだろう。違いといったら股間くらいのもんだ。
意識すると、強烈な違和感が主に股間にある。しばらくこの違和感との戦いになりそうだ。でも人間は慣れる生き物なので、きっといつか慣れる……といいな。でないと頭がおかしくなりそう。
鏡には、すっぽんぽんで何やら難しい顔をしている少女が映っている。……この、鏡に『自分』が映らない違和感にはなかなか慣れそうにない。吸血鬼にでもなった気分だ。
「おー、マリア~」
気を取り直して、歌いながら身体を洗い流す。これはいつもの癖だ。風呂に限らず、よく部屋で大声で歌い、隣の部屋から壁ドンをされたり、下の階の住民から昇龍拳を食らったりした事もあった。すいませんでした。
さらに風呂だと、声は響くし湿気で喉に優しいし、熱気でテンションが上がっていつの間にか俺オンステージになる。マンションにさえ住んでいなければ、風呂があればこれでカラオケとか行かなくていいと思う。ちなみにうちはガス代が大量に出ていく。
であるからして、喉から普段と違う女の子の声が出る今、歌っているうちにどんどん楽しくなってくるのは必然だったといえる。
「よっしゃみんなかかってこーーーい!!! いええええ!!」
気付いたらシャワーヘッドをマイクにして熱唱していた。エキサイティングなビートでチョベリグな会場(風呂)の熱気も最高潮だ。
「いくぜえ! ETERNAL BLAZE!! まよなっかーの」
「………」
「うひゃあ!!??」
いつからそこにいたのか、気付けばお風呂場の入り口からこちらを覗いていたのはプレシアさん。
ここここれは一体どうしたらいいものか。完全に想定外でありこの場はどう切り抜ければいいかさっぱり
「ま、ママ!? 入るなら声かけてよ!」
――あれ。今俺、何を……
何故だろうか、頭で言い訳を考えるより先に口が出た。学校の先生を間違えてお母さんと呼んでしまった気分。プレシアさんも驚いた顔をして固まっている。
……いや、それにしても、よりにもよって何ということを口走ったのか。今の呼び方は、『偽物』の俺がこの人の機嫌を損ねるには最上級のやり方ではないか。
「………」
「あ、の……今のは、違うんです。咄嗟に口から出た妄言っていうか、だからその」
というかママってなんだよ。そんな単語もうずっと口にしたことねぇよ。
無言でプレシアさんが近づいてくる。そして、小声で何かを言いながら俺の頬に手を当てた。
彼女は高ランクの魔導師だ。俺を焼き殺すなど造作もないだろう。
「ヒッ」
しかし、添えられた手は優しく頬を撫でるだけで。
一瞬だけ見せたその顔は、本当に弱々しく、悲しげだった。
「……そんなに怯えないでちょうだい。あなたの人格が不安定なことくらいは把握してるわ」
「え?」
「あなたにあげた魔法知識は、元は複数の人間の記憶。それによってどんな人格が形成されるかは全くわからないのよ」
……ここに来て俺頭おかしい説がランキングの上位に食い込んできた。人格が不安定? そんなことないと言いたいのだが。
ああそういえば――元の名前が、思い出せない。
「……もう行きなさい。洗濯、終わってるわよ」
「っ!! お、おやすみなさい……!」
……バレてる。しかし見逃してもらった。さっさと退散しよう。
そそくさと風呂場を後にし、洗濯機からカピカピのブツを取り出し、いまいち着方のわからない服を無理やり着て、布団を持ち上げえっちらおっちら脱衣所から逃げる。……来る時も超苦労したが、やはり重い。小さな女の子の身体になって、力が無くなってしまった。もうヘトヘトだ。
部屋に向かいながら、さっきの事を思い出す。俺についての新たな情報をゲットした。
俺には色んな人の記憶があって、人格が不安定だとプレシアさんは言っていたが……それなら、「魔法少女リリカルなのはというアニメをみていた男の記憶」が混じっているというのだろうか?
それはあり得ないだろう。そのアニメの登場人物であるプレシアさんがそんな男の記憶をどうやって入手出来るというのだ。それに、細かい記憶は少し曖昧になっているようだが、俺は俺だと認識している自我がちゃんとある。多重人格とかではない。多分。
確かにさっきは変なことを口走ったり……『自分の名前』が思い出せなかったりしたが、そうだ、これが多分、プレシアさんが知識を転写した影響なんじゃないか、と思う。記憶転写だなんて、脳みそを弄られてる様なものだ。すこーしくらいは頭もおかしくなるんじゃない?
いやはや今日は冴えてる。我ながら素晴らしい説得力。断じて俺は精神異常者ではない、と、いいな……。
しかし……ショックだ。名前が、大事な自分の名前が……どうしても、思い出せない。出てくるのは『レプリ』なんていう変な単語だけだ。このままどんどん大事な事を忘れていくとしたら……それは、すごく怖い。なんで、こんなことになってるんだ。あれ、これじゃさっき考えた説と逆だ。自分の名前も忘れて、結局、俺は俺でなくなってしまうのではないか?
アホな脳みそを回転させてなんやかんや考えたが……今回の結論。
つまり、何故『俺』がこうしてこの世界にいるのかは、謎のままだ。
これ以上は考えが及びません。
それにしてもプレシアさんのあの時の顔が忘れられそうにない。あの時小声で、何か言ってた。
――――アリシア。
……あの人はそう口走っていた。
確かあの人がこれから迎える結末は、本当に、救われないものだった。
なんとか出来ないのか。その結末を変えることは、俺にしか出来ないのでは――
ところで。
そういえば。
プレシアさんはとても一児の母とは思えないプロポーションだった。すごくよかったです。