光を纏いし少年は漆黒の闇より舞い降りし転生者~もうひとりの王~―fate and destiny―《リリカルなのは編》 作:もぬ
迫りくる魔弾の数は、ここまで増えるともはや数える余裕も無かった。
避ける。全方向から次々と撃ち出される魔法弾を、必死こいてかわしていく。最初の頃はスローだった弾速は徐々にスピードを上げ、避け方なんぞ考えている暇が無い。発射体の位置も把握できず、思いっきり地面を蹴って離脱する以外に何もできなかった。
「いつっ……!」
避けきれなかった弾が、右足首を掠めた。思わず足を止めてしまう。
完全に動きが止まった自分に、空中に展開したスフィアの群れが一斉に攻撃を放つのが分かった。
「ぐ……サークルプロテクション!」
周りに防護膜を張り、弾丸の雨をなんとか凌ぐ。途中でバリアにヒビが入ったが、幸い訓練用魔法弾の威力は低く設定されているので、無事生還。
「……ハァッ、今度こそ、死ぬかと思った……」
「レプリ、また防御魔法に頼りましたねっ」
少し離れた所で訓練の様子を見ていたリニスがつかつかとやってくる。どうやらこのスパルタ教師によると、最後のは減点行為のようだ。
「最初にも言ったことですが……あなたの魔法資質はフェイトと同じ、軽装高機動タイプです。防御の薄さをスピードで補わなければなりません。今レプリがやったのは防御に自信のある重装甲の魔導師の手段です。時を経て成長すればあなたのバリアも硬くなるでしょうし、有効な防御魔法を持っているのは褒めたい点ですが、これが実戦ならば容易く破られていたでしょう……それに、これは回避訓練。最後の場面であなたが使うべきだったのは高速移動魔法です」
「や、リニス……俺……」
「あ、またそんな言葉使いを。今日もみっちりと教育が必要なようですね?」
「うぐ……」
リニス先生は厳しい。
数日前のこと。日が経つにつれて被っていた猫もどこかへ行ってしまい、素の態度が出た俺に対して彼女は恐ろしいことを宣言した。
『俺、だなんて言葉、どこで覚えてきたのですかっ。あなたは女の子なんですよ? 今日から立派な女性に成長出来るように教育してあげます!』
そんなわけで、1日のスケジュールのうち、休憩時間というものはリニスのお小言を延々と聞く時間に変わってしまった。その横でフェイトとアルフは澄ました顔で優雅に紅茶なんぞを啜っている。あれがお手本の淑女らしい振る舞いというものらしい。まだ7歳のくせに、ブルジョワめ。あとアルフ無理するな君は野生児でしょうが。
このようにリニスは魔法の訓練だけではなく、一般教養も熱心に教えてくれる。実に有能な家庭教師だが……立派なレディとやらに教育されるのは苦痛だ。魔法の練習は楽しいが、これだけは苦手である。
そして今取り組んでいたのは、回避訓練だ。
リニスが操るスフィアから繰り出される魔法弾を、基本に沿った動きでひたすら避ける。撃ち出される弾丸の数は決まっており、これを自分でカウントしながら――つまり、迫りくる弾丸を目で捉え、数えながら避けなければならない。まずは弾の速さも遅い状態からスタートするのだが、それが時間が経つにつれどんどんレベルアップしていき、しまいには「実戦の速度」とやらにまで達する。これがまた恐ろしく速い。
魔導師として基礎的な立ち回りを教える訓練の一つだそうだが……何度も挑戦しているが全弾回避に成功した試しがない。しかし初回は10発ほど数えてからの記憶が無かったくらいだから、それに比べれば成長したものである。うん。
「初日に比べたら成長したもんだと思わない?」
「この頃分かってきたことですが、あなたは自分を甘やかすタイプの子のようですね……」
「リニス? 何かご用?」
と、リニスに対する言い訳を色々考えているところへフェイトがやって来た。今この子は座学の時間のはずだが。
小さな疑問が顔に出ていたのか、リニスが説明してくれる。
「私が念話で呼びました。見学というのも大事な勉強ですからね……フェイト、弾丸回避訓練をやってみせてくれる?」
「うん、わかった」
なるほど、この小さな姉が見本になってくれるようだ。知識以外では全て俺の上を行っているフェイトは、よくこうして先輩として訓練を手伝ってくれる。しかしこんな小学校低学年くらいの女の子に教えを請うのは割とプライドが……あ、始まった。
フェイトを囲むスフィアから魔法弾が発射される。足を止めずに動き続け、きっちりと視界に収めながらそれを危なげなく避けていくフェイト。しかし攻撃が激しくなるのはこれからだ。
動きはそのままに速度だけが早送りになっていく。なるほど、ところどころに高速移動魔法を混ぜながら無難に回避したり、少しだけ身体をそらして紙一重で躱したり、バック転したり宙返りしたり……なんだそれ。そんなの真似できるか。
「295……299……」
動き回っていたフェイトが足を止める。だが、そこに右斜め後方から1つ、最後の弾丸が迫っていた。明らかに死角からの一撃だ。
――危ない。そう思って心臓が大きく跳ねた。
「……300!」
しかしフェイトは真っ直ぐ立った姿勢のまま、振り返ることなく後方の弾に向けて手をかざし、シールドでそれを防いで見せた。ノールックガード……
「かっこいい……」
リニスと比べてまだまだちっちゃいはずのフェイトの背中から漂うイケメンオーラに、心中の感想が口をついて出た。しかし、そこにリニスが一声。
「こらーっ! フェイト、最後のアレはなんですか! 妹の前だからってカッコつけましたね!」
「あう……それは……ごめんなさい」
やはり7歳。この子も真にかっこいい魔導師になるのはまだ先のようだ。
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それからしばらくして、訓練を終えた俺達は庭園中庭のテーブルで優雅におやつを食べながら談笑していた。
優雅に、である。ここは重要なところだ。
「ズズズ……」
「レプリ、お茶を飲むときはあまり音をたてないように」
「……はい」
初日はただ優しかったリニスだが、徐々に模範的な教師へと化していき……いや、厳しいなあもう。優しいんだけど。
基本優しくて、注意すべきところはちゃんと注意してくれる――俺の場合はあまりにも注意点が多いのか、優等生なフェイトに比べて3割増しくらい怒られているように感じるが――良い先生だ。
ただこの年齢になって食事や日常のマナーを指導されるのは割と面倒くさいというものだ。さらに子ども扱いと妹扱いには、精神的にくるものが……。
あぁ、この年齢になって……と言っても、この身体はある意味まだ1歳にも届いてないんだけど。椅子に座った時に足が床に届かない時の違和感とかすごい。あとよく転ぶ。これは俺の運動神経のせいじゃない、身体が女の子になったせいだ。断じて運動音痴ではない。
「そういえばそろそろレプリの服を買いに行きませんと……あぁ、アルフもこの頃フェイトのお下がりが入らなくなって来ましたね。そうなるとフェイトも……うん、今度みんなで街に出ましょうか」
「いいの? リニス」
「あたし街って初めてだ!」
「新しい服ね……」
現在着ているのは姉のお下がり。つまりフェイトの服だ。
ワンピースやスカート……下が開いていてスースーする、そんな涼しすぎる格好で野外を動き回っているうちに、新たな性癖が目覚めた……なんてことはないったらない。けどなんか涼しすぎて股間がヒュンってなるよね。
……その買い物の時は絶対に男の子用をねだる。絶対だ。
ついでに髪も短くしたいのだが、それを切るなんてとんでもないとリニスが言うのでしかたなくそのままにしている。涼しすぎる格好といい、長すぎる髪といい、女性は面倒だ。胡坐かいて座っただけで怒られるし、言葉遣いは注意されるし。あぁ、それとトイレが……
『レプリ、今すぐ私の所へ来なさい』
「ぼぶば」
「うわっ!」
ところでプレシアさんは、いきなり念話で呼びつけるのを止めた方が良いと思う。
急に明瞭な声が頭に響くのだ。お茶を吹き出したのは仕方がないことと思う。ゆえに、アルフが俺の吹き出した紅茶まみれになったのはプレシアさんのせいだ。
「もー……きたないな……」
「ご、ごめん、今のはプレシアさんに念話で呼ばれて」
汚れてしまったアルフを、苦笑いしながらフェイトがハンカチでぬぐっている。いやぁ申し訳ない、せめて机だけでも片付けていこう。
「ふぅ……私が掃除しておきますから、行っていいですよ」
「あ、うん、ありがとう。ごめんアルフ! 次から気をつける!」
ということなのでその場を後にし、屋内へと急ぎ戻る。プレシアさんは遅れると機嫌が悪くなるのだ。
1階の広さだけでなく上下にも無駄にでかい時の庭園内を駆け抜ける。道を覚えるのは大変だが、生活エリアとプレシアさんゾーンは覚えたので問題ない。迷いなく廊下を疾駆する俺。かっこいい。
……あぁ、もうそこの広間を横切ればプレシアさんの部屋だ。走るのをやめて扉の前までは歩きながら息を整える。足をとめて深呼吸し、ノックする。
「プレ……! ハァッ、プレシアさん、ハァッ、きま、来ました! ゼェッ、ゼェッ……」
ちなみにこの身体、体力が無い。200m走ろうものなら限界。
「入りなさい」
「し、失礼します」
部屋に入る。以前フェイト達と初めて顔をあわせた時にも来たが、この部屋は相変わらずプレシアさんの机以外に何もない。彼女はここを何に使っているのだろう……まさか、家人を呼びつける時専用の部屋なのだろうか。いや、まぁ普通に考えてデスクワークとかだろうけど。
時の庭園は用途不明の部屋が腐るほどある。例えばこの間目にした、玉座の間っぽい広間とか。……偉そうに座る意外に使い道は無いだろう。
そんなことを考えながら眼だけを動かして部屋を見渡すと、いつもなら何もないはずの床にポツン、とアタッシュケースが置いてあった。これは……なんだろう。
「あの……どういったご用で……」
「それ」
「はい?」
「それを持って、行ってほしいところがあるの。あなた一人で」
ケースを指してそんなことを言うプレシアさん。成程、つまりプレシアさんの用事とは、はじめてのおつかいだ。
確か元はといえばこの身体はプレシアさんの手足となるために生みだされた……駒となって働け、と言っていたはずだ。彼女に生かしてもらって、ここで暮らしている以上、その命令は聞かねばならない。
ただ、まだ魔導師としてへっぽこもいいところなのだが、それでも大丈夫なのだろうか? それが不安だ。
「ええと、わかりました」
「よろしい。まぁ死にはしないと思うわ……多分ね」
「………」
あれ。
ただ荷物をどこかに届けるだけだよね?
「あのぉ……これ、中身は何なのか教えてもらっても……?」
「ただの研究データよ。同じ科学者との情報交換……」
「科学者さんに荷物を届けるのに何か危険が? それと、データなら端末からでも送信できるんじゃ……」
「フッ」
何がおかしいのか、笑みを零すプレシアさん。笑顔といってもその笑みには人を怖がらせる要素しかない。今のはドSの顔だった。
一体このお遣いの先に何が待ち受けているのだろう。
「今回は『現物』を見せる必要があるの。だからあなたが行くのよ……大事な取引だから、逃げ出したりだけはしないように」
「あの、まだ全然魔法戦とか出来ないんですが!」
どうもこちらの反応を楽しんでいるのか、不安を煽るような言い回ししかしない。詳細を話して欲しいのだが。切実に。
大事な取引ならしっかり詳細を話すか、自分で行くべきじゃないかとも思う。
「戦闘は無いから、安心して行きなさい……あぁ、あなた転移は使える?」
「……いえ、まだ試してはいません」
「そう。ならそこに立ってなさい」
「あの、一緒に行ってはくれないんですか?」
「私は忙しいの……それにあの男は嫌いよ。モニター越しならともかく、面と向かって顔を合わせたくはないわ」
言いつつプレシアさんは椅子から腰を上げ、虚空から杖型デバイスを取り出した。そのままこちらに杖を向けると、俺の足元に紫に光る魔法陣が現れる。これは……転移魔法か?
えっ、いきなり?
「……それを渡したら、あちら側の言うことを聞くこと。しばらくすれば帰してもらえるはず。それと、このことは他の3人には口外しないように」
最後までアバウトな説明、あまりにも人使いが荒いと思う。でもこの人には逆らえない。急いで足元のアタッシュケースを持ち上げ……重い。覚えたての身体強化を使って持ち上げ、プレシアさんに向かって頷く。それを見届けすぐさま転移を発動させたのだろう、視界はたちまち眩い光で埋め尽くされた。思わず目を閉じ――
――そして次に目を開くと、景色が変わっていた。
さっきまでは明るい部屋にいたのに、今は暗い空間に居る。天井も高いし、時の庭園と比べると何やら空気がどんよりしていて、明らかに違う場所だとわかる。これが転移魔法の効果か、すごいなぁ。
足元に目をやると、自分が淡く光る台座の上に立っているのが分かった。転移魔法を補助する転送ポートだ。こんな高級な物を置いてある施設にしては……どうも人の気配が無さすぎる。周りを見渡すと、暗く広い空間に一人きりだった。灯りは足元が見えるように小さいものが床に設置されているだけで、まるでどこかの怪しげな秘密基地みたい。こういうのがミッドチルダの研究者にとってはデフォなのだろうか。
「……ごめんくださーい」
後ろは行き止まりなので、とりあえず前に進んでみる。まずは誰かに会わなければ話にならない。
もっと明るい普通のオフィスとか、転移すれば誰かが迎えに来てくれるとか、そういうのをイメージしていたのだが……初っ端から違った。とてもじゃないが受付のお姉さんやガイドさんが出てくる雰囲気ではない。
「どなたかいらっしゃいませんかー」
「誰だッ!」
暗い廊下を歩いていると、ようやく人に出会った。正直この施設、なんだか怖かったのでほっと一安心だ。
向こうから駆けてくるのは……銀の長い髪が特徴的な、小さな女の子だった。とは言っても今の俺よりはいくらか年上だろう。身長はこっちの方が低……なんだろう、この子、随分と個性的な服装をしている。ロックマンみたいな青の全身タイツに、上からグレーのコートを羽織っている。
――変態?
「侵入者か? こんな子供が……警備システムはどうなっているんだ」
「あのー、この研究所? の方でいらっしゃいますか?」
「気の毒だが……ここまで来られたからにはもう帰してあげられない。すまないね」
「ウェッ?」
どうも様子がおかしい。出向くときは事前に先方様に連絡を入れるべきじゃないかと思うのだが、ちゃんとプレシアさんはここの人に俺が行くことを伝えてあるのだろうか?
なんだか――身の危険を感じるんですが。
「いや、ちょっと待った。タイム!」
「せめて痛みの無いように一瞬で――」
物騒なことを口にしながら、ゆらりとこちらへ向かってくる銀髪の子。その鋭い眼光で射抜かれた途端、足が震えだして逃げられない……これが殺気というものだろうか。
そして目の前までその手が迫って来る。小さな女の子なのに、今の俺にはとても巨大な敵に見えて――
「やめなさい、チンク。その子はお客様よ」
「っ!? ウーノ……」
手が、止まった。銀髪の女の子――チンクというらしい――を止め、暗い廊下の向こうから現れたのは、若くて美人なお姉さんだった。服装もまともだ。あぁ……助かった。
「妹が失礼を。あなたがテスタロッサ様の……レプリお嬢様、ですね? 私はスカリエッティの秘書、ウーノと申します。この子は妹のチンク」
「侵入者では無かったのか……いや、とんだ失礼をしました。どうかお許しを」
チンク、ウーノ、スカリエッティ……聞いた覚えが、ある。確かに聞いたことがあるはずだがしかし、記憶に靄がかかったように、思い出しきれない。とても重要な名前の気がするんだけど……
もどかしさに頭を悩ませていると、ウーノさんは背を屈め、薄い笑みを浮かべながら俺の手を取って言った。
「ドクターの元まで案内しますわ。あぁ、荷物はお持ちしましょう……あなたは下がった方がいいわチンク。お嬢様が恐がってしまうから」
「了解した。恐がらせてすまなかったね」
「あ……いえ」
深く頭を下げた後、チンクさんは去って行った。この場に残ったのは、片手にケースを下げ、もう片方の手を俺の手と繋ぐウーノさんだ。
……ちょっと。なんか子供扱いされてる。恥ずかしいので手をほどいた。
「あら?」
「あ……ええと、初めまして。レプリ・テスタロッサです、えー、この度はプレシアさんに言われて、それを届けに来ました」
「ええ、存じ上げておりますよ。こちらへどうぞ」
薄い笑顔が似合うクールビューティーに案内され、施設を進んでいく。こっちは身長が低いので、前を行かれると視線がぶつかるのは短いタイトスカートに黒ストッキング……うん、いいものだ!
道中聞く話によると、ここはドクター・スカリエッティさんの個人所有するラボなんだとか。こんな広いところで一体、一人で何を研究しているのだろう。それって変人の類じゃなかろうか。あれ、広い施設を一人で使う研究者といえば、身近に一人いたような……いや、考えないようにしよう。
「ドクター、プロジェクトFの成功体を連れてきました」
自動ドアが開き、ウーノさんがドクターさんとやらに声をかける。どうやら目的の人物の元へ辿り着いたようだ。
ウーノさんの後ろから顔を出して見る。そこにいたのは――無造作に伸びた紫色の髪と、どこか狂気を感じさせるような笑みを顔に張り付けた、白衣を着た男だ。
「ん? やぁ、君がプレシア・テスタロッサの『娘』かい? よく来てくれた、歓迎しよう」
満面の笑顔でもってこちらへと歩み寄って来た彼は、俺の頭に手を乗せ優しく撫でてきた。またも子ども扱いである。
一瞬、その笑顔が怖いものに見えたのだが……どうやら子供には優しい好人物のようだ。さっさと荷物を渡して帰してもらおう。
「レプリ・テスタロッサといいます。今日は荷物をお届けに……」
「おおっ!! 聞いたかいウーノ……! 受け取ったデータによると生後から大して経っていないというのに、彼女は既にはっきりとした自我を確立しているようだ! 記憶転写が機能しているんだろう!」
「は? ちょ、痛っ……!」
急に大声をあげたかと思うと、ドクターさんは人の身体を素早い手つきであちこち触り始めた。
その豹変ぶりに戸惑いを隠せないがそれより……とても大きな、身の危険を感じる。
「五体満足の健康体、リンカーコアの質も良いらしい! フフ……ハハハハハ!! どうやら彼女は娘の特殊クローンなどではなく、良質な人造魔導師を造りあげてしまったようだ! 素晴らしいッ!!」
「あの、ドクターさん、ちょっと……」
「おや、これは失礼! 私はジェイル・スカリエッティという。君を生んだプロジェクトFの基礎を生み出した科学者だ、父と呼んでもらっても構わないよレプリ!!」
ジェイル・スカリエッティ――その名前。
思い出した……! むしろ何故忘れていたのかがわからない。ウーノ、チンク、スカリエッティ……全員、リリカルなのはの登場人物だ。確かその役どころは、悪役。非道な実験を繰り返す違法科学者で、フェイトとは因縁がある……そんな感じだったはず。
頭の中で、耳にした言葉が反芻される。『現物を見せる必要がある』『プロジェクトFの成功体』『死にはしない』……非道な悪の科学者。ケースより幼女に関心がある様子。
よーし、逃げよう。
「モノは渡したので失礼しますそれではッ!」
「おや? 怖がらせてしまったかな……?」
「そのようですね。少し子供の扱いについて気を付けた方がよろしいかと」
早足を通り越し、全力疾走で部屋の出口へ向かう。目的地はあの転送ポートだ。
「参ったなぁ。ウーノ、その子を眠らせてあげてくれないか」
「了解しました」
魔力で強化しているといっても子供の足だ、記憶だとなんたら人とかいうサイボーグであるウーノさんには、軽く追いつかれてしまった。女性とは思えない強い力で身体をがっちりと掴まれてしまい、振りほどけそうにない。
「大人しくしてくださいお嬢様、私たちは危害を加えたりはしません……きゃっ!?」
「ハハッ! 生まれてまだ間もないというのに、もう魔法が使えるのか! プレシアはいい仕事をするじゃあないか!!」
電気に変換された魔力を身体から放出し、ウーノさんの手から逃れる。あとはこの廊下をしばらく真っ直ぐだ、高速移動魔法を使おう――、
「……ん? なんだこの騒ぎは」
そこに、新たな登場人物が現れた。その青タイツ、ドクターに造られた、なんとかズの一人で間違いないだろう。立派な体格をした男……じゃないな、女だ。骨太の女性が行く手を塞いでいる。
「トーレ! その子捕まえて! 傷つけないように!」
「ブリッツアクション!」
トーレさんというらしい女性が動き出す前にその脇を抜け、魔法を発動する。やった、これで簡単には追いつけないだろう――と、思ったが。高速移動中の俺の横を、何かが追い抜いて行った。
ブリッツアクションの効果時間が終わる。足が止まった俺の前には、またしてもトーレさんが立っていた。より速い高速移動で抜かれてしまったらしい。万事休すか……。嫌だ死にたくない!
「事情は分からんが……私からは逃げられん、残念だったな」
そうしてあっさりと。彼女の手が自分の首に触れた瞬間、意識があやふやになっていった。
「大丈夫だよレプリ。君は何も心配することはない、ちょっと身体を見せてもらうだけさ。目が覚めるころには家に帰してあげよう……ンフフ、フハッ、クハハハハハ!!」
どこからか変態っぽい声が聴こえてくる。ああ不安で仕方がない。でも、なんだか眠い。どうしようもないのだから寝てしまおうか。
……この声が、最後に俺が耳にした言葉だった。DED END
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というのは嘘だ。
その後、悪の科学者のラボの手術台のようなベッドの上という場所で衝撃的な目覚めを果たした俺だが、どうやら身体には何の異常もないようだった。
転送ポートにてウーノさんにお菓子の入った紙袋を渡され、満っっ面の笑みを浮かべたスカリエッティさんに見送られ、時の庭園へと帰ることが出来た。帰り際に「何か困ったことがあったらいつでも頼りたまえ、娘として歓迎しよう!」などとぬかしていたのが印象に残った。二度と来ない。
「………」
「……そんな目で見ないでちょうだい。あなたのおかげでアルハザードの情報が得られたわ」
「アルハザード?」
そして今はプレシアさんに恨みを込めた視線を送りながら報告をしていた所だ。
彼女の口から出た、アルハザードという単語……あぁ、そうだ。このアルハザードというのは、これから起きるであろう出来事――プレシアさんの最期と密接に関わる単語である。
「アルハザードに頼るのは最後の手段よ……あなたには関係の無いこと。もう行きなさい」
「あ、はい……それでは」
リリカルなのはという物語の中で、プレシアさんはいなくなる。
アリシアを蘇らせる技術が眠っているであろう異世界、アルハザードへ旅立つと残して、謎のマーブル空間へと落ちて行ってしまうのだ。それがフェイトとの今生の別れとなる。
「あぁ――何か体調に異常があったら報告すること。あの不気味な男、何をやっても不思議じゃないわ」
この人は、悪役という割には甘い人だ。
ほら、道具に過ぎないこの身体を気遣ってくれている。そう思うとなんだか、つい笑ってしまう。やっぱり私の母は、根っこのところは昔と変わってない、優しい人――そう感じるのだ。
「大丈夫です、ありがとうございます」
「……何、その顔? 気持ち悪い子ね」
「ふふふ、失礼しますね」
そうして部屋を後にする。
散々な日だったが、何故だか今は良い気分だ。
久々に書くにあたってプロットを読み返してみたらあんまり面白くなかった。
何度もプロットを書き換えてるので、迷走しそうです。
個人的に素人あるあるだと思う。