光を纏いし少年は漆黒の闇より舞い降りし転生者~もうひとりの王~―fate and destiny―《リリカルなのは編》 作:もぬ
「選ばれし者だったはずなのに!」
光剣を手にしたフェイトが悲痛な声で叫ぶ。奴の一振りで俺の脚は切り落とされ、最早立つことは出来ない。地面に這いつくばり、胸に溜め込んでいた怨嗟を吐き出し、ぶつけることしか出来なかった。
「お前が憎いッ!」
「っ……本当の、妹みたいに思ってた」
俺の醜い姿は見るに堪えないとでも言うのか、奴は身をひるがえして去ろうとする。憎い。俺のすべてを奪ったあいつが憎い――!!
「殺してやる! 待てッ、降りてこい!」
「……さらばだ、私の妹」
最後に、憐れむような視線を向けるフェイト。
……ここでこの物語は終わりだ。誰も救われない、バッドエンド。すれちがってしまった二人の絆はもう取り戻せない。残酷な、運命――
と、どの辺りから見ていたのか、横合いからアルフに声をかけられた。
「あのさ……二人とも、何やってんの?」
「宇宙の騎士ごっこ」
「エピソード3」
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リニスによる訓練は順調に進んでおり、俺の立ち回りも随分魔法使いっぽくなった、と思う。この頃は近接戦闘の訓練にも手を付け始めている。クロスレンジでもロングレンジでも資質的に問題ないので、なるべく万能型の魔導師を目指す方針なんだそうだ。
ところで。最近のマイブーム魔法が、魔力刃である。デバイスに纏わせて攻撃力を上げたり、手から光の剣を伸ばしたりすることが出来るのだが、この魔法が我が少年心を刺激してやまない。傘や箒を振り回してなんたらストラッシュと叫んでいた時代を思い出しながら一人光刃を振り回してニヤニヤしていたところ、意外にもフェイトがノリノリでのって来た結果が先の一幕だ。ミッドチルダの子供たちにもそういう文化はあるらしい。この世界では就業可年齢が低く子供たちの精神年齢が高そうなので、ちょうど7歳くらいが日本でいう中二病の時期なのかもしれない。
――などと、訓練中に余計なことを考えていたのが悪かったのだろうか、気付けばこちらのガードを抜けたアルフの拳が懐に入り込んでいた。
「おごぉっ!?」
「あ……ごめん、隙だらけだったもんだからつい」
女児のものとは思えない野太い声が口から出た。いや、今のはお前、痛いぞ。おごご……手加減されていなければおそらくゲロゲロなことになっていただろう、かなりいいのをもらった。うっぷ。
現在、アルフとチャンバラばりの組手をしていたところだ。こちらは長めの棒を使い、アルフは素手という一見ハンデありのような対戦だがそうではない……出会ってたったの数か月で、大人の女性へと外見を成長させたアルフの得意とする武器は、拳だ。人間形態での彼女は、普通の人間より頑強な身体と長い手足を駆使するインファイターなのである。こっちが全く棒術を使いこなせないのも加えて、接近戦では全くかなわない。ちなみに、バリアを張っても全部ちぎられるので、魔法を使っても勝てない。
「あー、大丈夫かい?」
腹を抱えてうずくまる俺に、アルフが手を差し伸べてくる。……ヌフフ、その甘さが命取りだ。今日こそ一本貰うぞ!
素早く身体を起こしつつ、横薙ぎに棒を振るう――!
「隙ありぃーっ!」
「隙なし」
が、渾身のだまし討ちはアルフの逞しい腕によってあっさり防がれてしまった。馬鹿な! お見通しだというのか!?
「はい、あたしの勝ち」
「あいた!」
呆れ顔で頭にチョップされた。アルフの馬鹿力だと脳天が凹みそうなのでもう少し加減してほしいものだ……くらくらする頭をおさえる。涙が少し出たのはきっとこの幼い身体のせいだ。
「くそ……アルフめ……」
「卑怯なことするからさ、鉄拳制裁」
「じっ、実戦では卑怯などと甘ったれたことはだな……」
「おーおー、そんな大層なことはまずあたしに勝ってから言いな」
ついこの前までちびっこだったくせに、使い魔は精神的にも成長が早いらしく、今ではこの通りすっかり姉御なカンジだ。いつの間にか身長を抜かれて「あれ……?」と呟いたのは記憶に新しい。その成長具合を少しだけ分けてほしいと思う。子供の身体は不便なんだ。
アルフを見ながらそんなことを考えていると、彼女は思い出したように手を叩き、そういえば、と切り出した。
「あんた今日新しい訓練やるんだって? 内容はもうリニスから聞いてる?」
「ううん、まだだよ」
「そう、だったら楽しみにしてるといいよ。フェイトも好きな魔法なんだ」
「ふーん……射撃ならもう一通りやったけどな」
「ランサーの練習じゃないよ、もっと……ま、お楽しみは後で」
「え、そんなに期待させる?」
アルフと軽口を叩きながら庭園へと歩き出す。午前中の訓練は終わり、昼食の時間だ。
リニス先生によると、今日からまた一段階上の訓練に入るらしい。自分ではもう傀儡兵にも挑めるんじゃねというくらい成長しているのだが、まだあなたは道半ばで教えることは沢山あるんだとか。バク転だって十回に一回は成功するほどの魔導師になったというのに……その程度では卒業はまだ先です! とのこと。
ちなみにフェイトに比べて、こちらのスケジュールは座学の時間が少なく、屋外で訓練することが多い。リニスによるテストを受けたところ、プロジェクトFの技術によって様々な魔法理論が既に頭にあるので座学だけは好成績、ただし模擬戦では足が動かず何も出来なかったので、このような訓練メニューになった。これがまた根性無しの身には結構キツイのである。座学の方が楽だし。
とはいえ魔法を習うのは楽しい。正確には怖いのが3割、楽しいのが7割といったところだが……おそらく今日は新しい魔法、それが何か知っているらしいアルフの言葉にはテンションが上がってしまう。
空を見る。雲一つ無い快晴だ。午後はいつも通り屋外だし、今日もばっちり励めそう。昼の訓練が楽しみだ。
「今日も、いい天気~」
「それ、何の歌?」
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昼下がり。青く澄んだ空の下、本日もリニス先生に教えを請う。
今日は皆で同じ訓練なのか、フェイトとアルフも一緒だ。
「さてレプリ。昨日の時点で陸戦の基礎を教え終わりましたが……では今日は何をするでしょうか?」
「ええっと……二人との連携とか?」
「いいえ、それはまだ先です」
えっと……わからん。基礎が終わったということは応用のはずだけど。両サイドに立つ二人もリニスも、機嫌が良いのかやたらニコニコしているのは何故なのか。
「あら、わからない? 答えは……飛行。今日からは魔導師の花形、空戦の訓練に入ります」
「……それ本当!?」
空戦、つまり空を飛ぶ。
全国の子供達が願って止まない魔法だ、もちろん俺も、空を自由に飛びたいな、と思ったことはある。
この世界は素晴らしい、空を飛びたいなんて荒唐無稽な夢を叶えられるのだから。これには普段は超クールな俺でも喜びを隠せない。
「初めては少し大変だと思うけど……私たち三人がフォローしますから心配しないで。飛行魔法、使ってみて」
飛行魔法のあるこの世界でも、魔法無しでは空を飛べない人間たちにとって空を飛ぶというのは特別なことなのだろう。だからきっと、この胸のワクワクは空を飛ぶ魔導師皆が通る道なのだ。それを知っている三人がやたら嬉しそうな顔をしていたのも頷ける。
聞けば空戦に関しては二人とも既に習っているらしい。またしてもこっちが後輩というわけだ。おかげで名実ともにフェイトの方が姉っぷりを発揮し、妹扱いが加速していくことになりそうだが……まぁいい、今はそれは置いておくとして。
「よっしゃ、飛ぶぞー!」
勿論飛行魔法の式はしっかり習得済みだ。三人が見守る中、ドキドキする心臓とリンカーコアの鼓動を感じながら、慎重に魔法を発動させた。
子供の頃の夢、大空へと羽ばたく時だ。
そして俺は往く――蒼穹の果てへ。
「あ、ちょっと待って! 怖い! 無理無理無理」
「だ、大丈夫だよ、わたしもアルフもついてるから」
「これじゃ先が思いやられるね」
両サイドから俺の手を取り、初の飛行をアシストしてくれるアルフとフェイトの二人は何やら苦笑しているようだが、こちとらそれどころではない。
足が地面から離れていることの恐怖、母なる大地がいかに頼れるものだったのかを今、絶賛体感中だ。踏みしめる足場が無ければ動けないじゃないか。先の回避訓練なんか空じゃ役に立たない、空戦と陸戦、根本から違いすぎる。
「ちょっと降ろして、一旦降りよう! 手ぇ放すなよ!」
「まだ1メートルと少ししか浮いてないんだけど……」
1メートルとはいえ浮いているのには違いない、この何とも言えない……浮遊感というか。高度を下げるとタマがヒュンってする。もう無いのに。話に聞くファントムペインとかいうやつに違いない。
「ね、絶対大丈夫だから、もっと上がろう?」
齢七つにしてこの姉的態度である。これ以上姉ポイントを稼ぐのはやめてほしいので、仕方なく恐怖をおして飛ぶことにする。
「わかった、わかったから少し落ち着かせて下さい」
「あぁもう、おじおじしてないで行くよ!」
「ノー! やめろアルフばか!」
痺れを切らした様子のアルフに思い切り引っ張られた。既に飛行魔法は発動しているので、手を引かれるがままに上へ上へと身体は進んでしまう。もう片方の手を取ってくれているフェイトも、困ったように笑いながらもそれを止めることなく一緒に飛行している。そこは俺の意思を汲んで地面に留まらせて欲しかったな!
「おわわわ……」
下を見ると、ぐんぐん地面が遠くなるのが分かった。これは流石に怖い、ちびりそうだ。この身体になってからトイレの我慢が効かないので、こういう恐怖体験はいけない。酷い時はくしゃみしただけでアレだというのに、こんな下半身に踏ん張りが効かない状況……
「あかん……これあかん……」
「ほらレプリ、周り見てみなよ」
「え?」
言うとおりにして顔を上げる。
眼下には――自然の豊かなアルトセイムが作り出した、絶景が広がっていた。
「……凄い」
訓練でよく行く森の泉や大平原が見渡せ、更に遠くには街まで見える。下で待ってるリニスがあんなに小さい、振り向けば時の庭園の全景が見えた。そして、果ての見えない青い空。
「こうやって色んなものが見えるから、空は好きなんだ」
背後からフェイトが話しかけてくる。気付けば、いつの間にか二人の手を放していたみたいだ。
「まだまだ沢山いいところあるんだよ。さ、行こう」
「……うん」
慣れない姿勢制御やらに苦戦しつつ、ゆっくりとフェイトの後をついていく。
空では何も頼れるものが無い……だけど、不思議と恐怖は消えていた。
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「寒い」
季節は冬。ミッドチルダにも四季はあるのか、外は雪景色だ。
超絶寒い。こんな日は暖かい室内で読書に限る。ミッドの本は何を読んでも大体楽しいし、魔法の復習なんかも割と好きだ。
『レプリ、訓練の時間ですよ。早く出て来なさい』
正気かしら。今外に出たら死んでしまう。確かに雨の日や風の日といった悪天候の時も、こんな状況で戦う日が来るかもしれないと訓練を受けてきたが……雪の日は勘弁。
この寒さだというのに、リニスとアルフは気温が暖かい時と服装が殆ど変わらない。やはり使い魔は人間とは作りが違うのか。毛皮か、毛皮なのか。
いや使い魔二人だけでなく、フェイトも外ではあまり厚着をしていない。絶対おかしい、子供は風の子とは言うが……俺が特別寒がりなのだろうか?
『こんな寒いのに外で訓練するの?』
『……? もしかして……ああ、なるほどわかりました。今から私がそっちに行きます』
今の質問にリニスは何か思うところがあったのだろうか、そんな言い回しだった。
数分後、書庫にてリニスの授業。
そこで明かされたのは衝撃の事実だった。
「何故この寒い中私が平気でいられるのか。それは魔法を使っているからです」
「そうだったんだ……」
「ごめんなさい、あなたの知識は並の魔導師以上だから、てっきり知っているものだと……」
「毛皮じゃなかったんだ」
「私を猫扱いするつもりなら、怒りますよ」
皆が寒がらない秘密――それは、気温調節のフィールド魔法にあった。
防護膜により外気温に影響されない快適な環境を保つ魔法だ。バリアジャケットにも応用されている。
早速、魔法を発動してみた。すごい。考えた人は天才だ。
「あなたは変わった子ですね……どうも、知識はあるのに常識が足りてないというか」
魔法戦以外で魔法を使うという発想が無かっただけだ。それに頭の中に術の知識はあっても、問題形式や、この魔法を使いなさいと提示されない限りは、使ったことの無い魔法の知識には思い当たらないのである。つまり、リニスの言う通り常識――常用例も学んで実際に使用し『習得』しなければダメなのだ……などと言い訳してみる。
中身は魔法の無い世界で育ったのだから仕方ない。ので、そんなアホの子みたいに言わないで欲しい。
「うん、折角ですから、今日はフェイトも交えてバリアジャケット等のフィールド系についての講習としましょうか」
そうして今日も一日が終わる。
リニスに教えてもらって、フェイトやアルフと笑って、たまにプレシアさんと顔をあわせたりして。
そんな日々が、いつからか心地よいものになっていた。
没ネタ
「今日も、いい天気~」
「それ何の歌?」
「小夜の歌だけど?」
「沙耶の唄?」
「うん」
「医大生男女4人と謎の美少女が繰り広げるハートフル純愛ストーリーの?」
「いやそんなストーリーは知らんなぁ……」