光を纏いし少年は漆黒の闇より舞い降りし転生者~もうひとりの王~―fate and destiny―《リリカルなのは編》 作:もぬ
「だからさ、俺がセットアップする時に『変身!』って言ったら、『ターンアップ』って発声するとかどう? うへへ、かっこよくない?」
《音声コマンドの設定でしたら機体が完成した後に》
機械類と資料の山のみで構成されていたこの部屋に、無邪気な声が加わったのはいつからだったか。
先ほどから作業を進める私の耳に入るこの幼い声は、私の主の娘、の妹の方――レプリのものだ。大きく透明なシリンダーに向かって一生懸命話しかけている。正確にはシリンダーの中の、きらりと光を反射するクリスタル……デバイスコアに向かって、だ。
先日、以前から制作に取り組んでいたフェイトとレプリのための専用デバイスを見せる機会があった。
当初はフェイトの専用機――インテリジェントデバイスである、バルディッシュのみを開発していたため、あの子たちの卒業までに二機を完成させることが出来るかどうか不安だったのだが、使い手二人の魔力資質が似ていたためバルディッシュの設計データを流用することで完成の目途が立ったのは幸いだった。結果として、バルディッシュだけを作っていた頃には資金はいくらかけても構わないと言っていたプレシアの顔が少し引きつる程度の金額がかかってしまったのは、小さな子供には言わなくても良いことだろう。
二人の訓練もデバイスを利用したものへと進んでいるので、モチベーションを上げるためにもと開発途中の二機を披露したのである。
それからすぐのことだったか、レプリはよほど自分のデバイスが貰えることが嬉しかったのか、よく自由時間にこの作業室を訪れるようになり、それからAIとの会話を楽しむようになった。今ではこの子の日課になっているようだ。
母親であるプレシアとの関係やその歳ではあり得ないレベルの魔法知識、ここに来るまでの暮らしなど、何かと不明瞭な点がある子だが、私たちに心を許してくれたのかこの頃はこうして年相応な様子を見せることも多い。デバイスにあれこれと声をかける様子はなんとも無垢なもので、山猫が素体である私の母性に訴えてくるものがある。
キリの良い所で手を止めディスプレイの隅に表示された時計に目を移すと、もう子供たちは寝る頃だ。プレシアにコーヒーを届けるのに良い時間でもある。
「そろそろ夜も遅いですから、今夜はここまで」
「あれ……ちょっと早くない?」
「ほら、いい子だから」
この子は頭を撫でられたり子ども扱いされることが苦手だ。そうされるとどこかに逃げていくというこの子の習性は、言うことを聞かない時によく利用させてもらっている。
「ん、わかった、わかったから」
「それと言葉遣いを直すこと。椅子に座るときは足を閉じて背筋を伸ばすこと」
「んんん……じゃあまた明日、ラブリュス」
《おやすみなさい、マイマスター》
「ハァ……あなたって子は」
普段は良い子なのだが、ことマナーに関しては中々言うことを聞いてくれない。自分に干渉されるのを嫌っているのだろうか……。
今までどのような教育を受けてきたのか、レプリはどこか男の子のような振る舞いが目立つ。おかげで瓜二つの姉妹であるフェイトと見分けるのは容易だ。しかし私にはこの子を立派な人間に育てる義務がある……そろそろ、うんと厳しく躾ける必要があるだろう。
「バルディッシュ、リニスも。おやすみ」
悪戯っぽく笑いながらそう言い残し、逃げるように出ていった。まったく、母親に似て人の話を聞かない子だ。先行きが心配で仕方がない。
そう、あの子たちと私の主の――未来が、心配で。
ああして言葉を交わすのも、あと何度出来るだろう。私に許された時間はもう終わりに近づいている。あの子たちにしてあげられることは、何があっても強く生きるための力を教えてあげることだけ。
「……バルディッシュ、そしてラブリュス。あの二人を……どうか、守ってあげて」
二つの閃光の戦斧は静かに、淡い光を点滅させて応えた。
さぁ、今夜も私のいじわるなご主人様に会いに行こう。
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人間の慣れとは素晴らしくも恐ろしいもので、股間にあった違和感も今では小さなものになっている。ただやはり風呂やトイレでは、ついつい男だった時を思い返しては渋い顔になる。小の方をする度に尻にかかるのが気持ち悪いし、拭くのが面倒だ。しかし下半身への力の入れ具合を覚え、漏らさなく……あ、いや、我慢出来る時間が伸びたのは、大きな成長と言っていいだろう。心からそう思う。
しかし成長したものがあれば全く進歩しないものもあった。リニスにうるさく言われていること……普段の立ち振る舞いだ。
股間にモノが無くなったことで、脚は男より閉じやすい。しかし何年もの習慣はほんの一年ほどでは抜けないもので、気付けば座るとき、脚は思い切り開いている。歩くのもがに股、一人称は俺……確かにリニスの言う通り、そんな女性はみっともない。たとえ美少女だとしてもマイナスポイントになり得る。だがこれは簡単には直せないのだ。
もしかしたら突然この世界で目を覚ましたように、いつか元の身体で目覚める時がくるかもしれない。もし女性の振る舞いを身に着けた上でそうなったらオカマの爆誕である。確か恋人はいなかったから、おそらく元の両親は涙を流すことになるだろう。
……というのは建前だ。もうその両親の顔も、元の自分の顔も、はっきりとは思い出せない。とりあえずイケメンだったと思うことにしておく。
男のしぐさを直さないのは、元の自分と今の自分が、全くの別人になってしまうのが怖いからだ。
こんな、誰も自分のことを知らない世界で、記憶が混じりに混じって。元の人格が徐々に無くなって、今まで生きてきたはずの時間が無になっていくのが、怖くて――
「れ、レプリ~! まだ!? 早く出てきてってば!」
「あ……ごめん」
便器に腰かけシリアスに考え込んでいたのを、切羽詰まったフェイトの声が中断させた。
扉を叩く音から必死さが伝わってくる、恐らく臨界点ぎりぎりなのだろう。私がトイレから出るのと入れ替わりに、フェイトはソニックムーブもかくやといった勢いで突入していった。
「別のとこ使えばいいのに」
「最初にノックしたら、もう出ますって言ったっ」
こんな広い建造物に便所が一つということも無い――と思ったことが口をついて出たのだが、扉越しでも聞こえてしまったようだ。
「いやーあはは……ごめんフェイト」
「別に、いいけど」
声色から察するに少しだけ怒らせてしまったらしい、完全にこちらのせいだが、なんとか機嫌を直してもらうことにする。
「ごめんなさいお姉ちゃん……許して?」
「あ……うん、いいよ、全然気にしてない」
フェイトの弱点その1……事あるごとにお姉ちゃん呼びを要求するくせに、いざ呼ばれると照れる。
この子の機嫌を損ねた時には大体これで切り抜けられる。ふ、私にお姉さん風を吹かせるにはまだまだ年季が足りないのだ。
「ちょろいな」
「……! 今の聞こえたよ!」
「あははッ、逃げろー! おやすみなさい、フェイトお姉ちゃんっ」
小声のつもりだったんだけど、この扉は見た目より薄いらしい。報復が怖いのでさっさと退散しよう。
ここで暮らし始めてもうすぐ1年、こんな風に他愛もない会話が出来る程度には打ち解けられた。今の一幕は傍から見ても仲の良い姉妹にしか見えないだろう。
「……って、なんだ今のやりとり。気持ち悪っ」
フェイトお姉ちゃんて。女の子みたいな声出しちゃって。キモい。自分はこんな喋り方だったか?
私は――俺は、男だ。
「なんかおかしいな、最近」
なんだかんだ言ってリニスの淑女教育に女性意識を刷り込まれてしまっているのかもしれない。これ以上自分を無くさないためにも、しっかりと男だという自覚を持っていなければ。
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「ふっ! く、よっ!」
魔法弾が一つ、脇腹の辺りを抜けていく――危なかった、今のでちょうど50発目だ。しかし難しいのはここから。
一度に向かってくる弾が一発ではなくなり、回避の難易度は一気に上がる。空中での弾丸回避訓練は全方位からの攻撃を避けなくてはならない。基本の空戦軌道をマスターしていればこのテストには合格出来るとのことだが……そこはいまいち自信が無い。
だけど今日この時のために、フェイトにも練習に付き合ってもらったんだ。全弾避けきって見せる。
「……うっ! あぶ、あぶ」
150発目、全てのスフィアを視界に収める余裕が無くなった。
203発目、しっかり飛び続けなければ逃げ場が無くなる。止まれば死角からも弾が飛んでくる。
264発目、完全に囲まれた。ブリッツアクションで辛くも逃げる。遅かったらやられていた。
「……299! ラスト!」
後ろから一発、こちらに飛んでくるのは確認済み。振り向かずに手をかざしシールドを張って受け止める――そう、ノールックガードである。
「……フ、決まった――あいたっ!?」
被弾した。そんな、どこから? 完璧に決まったと思ったのに――まさか、一発多くカウントしていた?
ここまでやれたのに、最後の最後で……うう。
「ふ、不合格……」
下に降りるとすぐそばまでリニスが近寄って来た。試験を見守っていた彼女の表情からは、何を考えているのか窺い知れない。怒っているのかもしれない。
今の訓練は――リニスの授業からの卒業課題だ。これをクリアすることが当面の目標、だったのだが……
「リニス、あの……」
「最後、調子に乗って被弾しちゃいましたね。減点です」
「う……ごめんなさい」
「他にも危ない場面が多々見受けられ、魔法の練度も一流というにはまだ未熟です」
またみっちり訓練のやり直しだ。フェイトは最後の課題――サンダーレイジの習得をもう済ませているというのに、情けない。
「以上のことから、結果は――合格です」
「うん……うん?」
「ですから、合格です」
ごうかく……? というと、それは。
「おめでとう。今までよく頑張りました」
「……!! リニス、あ、あの、ありがとう!」
なんだろうこの達成感。ここに来てからずっと、魔法の勉強や訓練が生活の中心だった。あれだけ一つの事に取り組んだのは久しぶり……いやもしかしたら初めてかもしれない。まだまだ未熟とは言われたけれど、リニスから合格を貰えたんだ。それは、つまり――
「本当はもっと、教えてあげたいことが沢山あったのだけど」
「……リニス?」
一瞬だけ、リニスの笑顔に翳りがさしたように見えた。
「ほら、戻って休んでいて。フェイトとアルフもあなたの報告を待っているんですから、早く行かないとあの子がドキドキで死んじゃいます。あなたのお姉さんは心配性ですからね」
「……あの、リニス、さっき何か……」
あまり嬉しそうじゃなかった、ような。
そんな不安を察したのか、苦笑しながらごめんなさい、と呟くリニス。
「私はあなた達の成長していく姿が……何よりも愛しくて、誇らしいんです。これは本当の気持ち」
そう言うとリニスは屈んで、頭を優しく撫でてきた。そんなことを言ってもらえるのは生徒として嬉しい限りなのだが……話を逸らされた気がする。
……なんか変な気分だ、これがナデポというやつか。あまりにも恥ずかしい仕打ちなので離脱する。
「えっと、じゃあリニス、後でっ」
視線を外すまで、リニスは笑顔のままだった。さっきの――酷く悲しそうな顔は、見間違えだったのかもしれない。
気分を変えよう。今日から俺は立派な魔導師なわけだし、もっと胸張って行こうかな。まずはフェイトとアルフにドヤ顔で報告してやろう。
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夕食の時間。今夜はちょっとびっくりな趣向を用意してありますというリニスの言葉通り、いや、かなりびっくりな食卓が待っていた。
二人が課題をクリアしたお祝いだ、と、プレシアさんが夕食に同席してくれるというのだ。この人がこんな家族らしい光景を見せるのは初めてだ。ぎこちないながらも会話をしているフェイトとプレシアさんを見ているとなんだか、つい嬉しくなってしまうわけで。
『なにを笑っているの、気色の悪い』
『ね、ねぇ。母さんってどんな話題が好きなのかな?』
食事中の念話はマナー違反だとリニスに習ったので、会話の種に困っている母娘の訴えはスルーしようと思う。
とはいえここが親子関係修復計画の第一歩だ……うまいこと良い雰囲気にしたい、とは思っているのだが。
と、先ほどまでアルフと食事を見守っていたリニスが、部屋から出ようとしているのが見えた。何か用事があるのだろう。
「あ、リニス! ちょっと待って!」
ついなんとなく、呼び止めてしまった。
「……はい、なんでしょう?」
「ええと……あ」
その時、俺に電流走る――
「今のうちに写真、撮らない? 皆で。お祝い記念に」
皆で写真。なんと家族っぽい言葉だろうか。ここでこう、楽しそうな写真を撮っておけば、後にクライマックスでその写真を見たプレシアさんが急に改心して和解しちゃったりして。ウフフフ、無いか。
「それは良い提案ですね」
「あたしカメラ取って来るよ」
使い魔二人が気を利かせてくれる一方、この家の主たる母娘二人は突然の提案に反応出来ず、席に座ったままである。
ヘイマイシスター、カモン! と念じながら手招き。すぐにアルフがカメラを持って帰って来た。
「カメラ貸して。はーい皆さん並んで下さーい撮りまーす……プレシアさんもですよ」
あからさまに嫌そうな顔をするプレシアさんを、リニスが力づくで引っ張って来る。流石エリート使い魔、良い仕事しかしない。
「フェイト、お母さんの隣に。あ、リニスはそこ良い位置、うん……」
「あれ、レプリは入らないの?」
「え? いや俺……私は……」
言われてみてハッとする。なんというか、皆とは、その……本当の家族じゃない。この物語にはいないはずの人物だし、
「そのカメラ勝手に浮いて撮ってくれるから。貸しなよ、遠隔操作できるんだ」
「あ、ちょっと、アルフ」
カメラをひったくられ、無理やりアルフに引っ張られて並ばされる。なんだか複雑な気分だけど……じゃあ、一緒に写らせてもらおう。近くまで行くとプレシアさんが睨んで来たのでとりあえず満面の笑みをくれてやった。
「フェイト、笑えっ」
「う、うん」
「じゃ、撮るよー。3、2、1」
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夕食が終わり、フェイトと一緒に片付けをしていた所に、アルフが撮れた写真を持ってきた。現像早っ。ミッドチルダのかがくってすごい。
真ん中のプレシアさんを逃がさないように使い魔二人と姉妹で挟むという位置取りが、なんとも今のテスタロッサ家らしいけど、実際に見てみると……うん、中々良い絵が撮れたんじゃなかろうか。大事にとっておこう。
まるであの時の、家族に戻れたみたいで――この写真みたいに、ずっと皆でいられたら、どんなに――
「あれ、ねぇアルフ、リニスは?」
「リニスなら、どっか遠くに出掛けるって」
ドキリ、と心臓が跳ねた。
遠出? そんな急に、俺達に声もかけずに?
「あ、ちょっとレプリ、どこ行くの? もうっ」
リニスが出かけるなんてのは、今までに何回かあったことだ。でも、今回のは嫌なタイミング……リニスは、リニスは『魔法少女リリカルなのは』で、どうなるんだっけ?
その先を考えるのが怖い、という気持ちと裏腹に脚は全速力でリニスの部屋に向かう。
そうして、その部屋の扉を開けた。
「リニス!」
「あ……見つかってしまいましたね」
そこにいたのは、身体から光の粒子が漏れ、今にも消えてしまいそうな彼女だ。
「もう、やっぱり思うようにはいかない子ですね。困りました。フェイトとアルフには内緒ですよ?」
消えかけているというのに、リニスはいつものように落ち着いた物腰のままだ。どう見ても緊急事態だというのに、調子が狂う。
そんな場合ではない。使い魔が消滅するという事態――契約者に異常、魔力供給不足、契約内容の完了。それらへの対策を頭の中で探す。
「今から俺と新しく契約すれば! じゃなかったら、ディバイドエナジーでも」
「いえ……残念だけど、もう時間切れです。使い魔契約の術式には、主以外の魔導師と再契約出来ないように制限を織り込む場合もあるんですよ。情報の漏えい等を防ぐためです。一つ勉強になりましたね」
「リニス! こんな時に何言って!」
「だから……私の最後のお願い、聞いてくれますか?」
そんなことを口にするリニスの身体はもう、殆どが粒子になってしまっていた。……本当に、時間切れみたいだ。
だったら、もう俺に出来ることは。
「……うん……なんでも言って。今までのお礼だから。なんでも聞いちゃうからっ」
そうか。これでこの人と話せるのは、最後なんだ。少し声が震えたけど、なんとか笑顔で言えたと思う。それを聞くと、リニスはいつものように微笑んで。
「プレシアが、フェイトが、アルフが……そして、あなたが。ずっと幸せでありますように」
そう残して、光の粒に変わってしまった。逃がさないように手で掴もうとしても、光は零れてどこかへ行ってしまう。
これが、ここに来て初めて味わった、別れ、なんていうやつだった。
リニスが今日ここで消えてしまうなんて、知らなかった。いや、知っていたけど忘れてしまったのかもしれない。
いつからか、この日常が終わってしまうのを、ずっと考えないようにしていたから。
主人公の視点が一番書くの難しいことに気付きました。どうにもキャラが定まらないのを人格がブレ気味ってことで表現できたらいいなって思ってたけども難しい。次回から三人称になるかもしれません。それと後で文章修正したい!