光を纏いし少年は漆黒の闇より舞い降りし転生者~もうひとりの王~―fate and destiny―《リリカルなのは編》 作:もぬ
リニスがいなくなってから、庭園の雰囲気は少し暗くなった。
母さんは研究がうまくいってないみたいだし、アルフもこの頃少しイライラしてる。
「あいつ、まだ帰って来てないのかな」
リニスの作った杖を受け取ってから、私達は時々、母さんからおつかいを頼まれるようになった。研究の資料や実験材料……二人で別々のものを頼まれる時もある。今日はまだ、レプリは戻っていないようだ。
本当は、アルフはあの子の方について行ってあげた方が良いのに、レプリは私の言うことを全然聞いてくれない。一人ですぐに出かけてしまう。
……私は、あの子に嫌われているのかもしれない。最近は話しかけても曖昧な返事しかしてくれないし、顔を合わせること自体が減っている。私を避けているんだろうか。
「最近、なんだかここも寂しくなったね。リニスがいてくれたら……」
アルフは使い魔の契約で私とリンクしてるから、こっちの感情が伝わってしまうことがある。きっと今の言葉は、私の気持ちでもあるんだ。
でも……あの日。リニスからの伝言で部屋に行った時、レプリは一人で泣いてた。何も話してくれないけど、何となくわかる。リニスはもう――
「あ」
「ん?」
「あれっ、フェイト、アルフ。おかえり」
お風呂に向かう途中、ばったりと、私の悩みの種に対面した。なんだ、ちゃんと帰ってきてたんだ。良かった……。
それに今日は、なんだか機嫌が良さそうだ。久しぶりに笑顔で出迎えてくれた。……リニスがいなくなってから、明るい顔は初めて見る。
「今から二人はお風呂?」
「そうだよ。あんたは? まさか今からまた出かけるんじゃないだろうね」
レプリの格好は、バリアジャケット――私のそれとは違って、一見防護服には見えない簡素なデザインだ――を纏い、セットアップした杖を肩に担いでいる。これからまたおつかいを頼まれたのかな。折角帰って来たのに。
「いいや。ちょっと外で魔法の練習しようかなーって」
「そうなの? 熱心だねえ……らしくないな、熱でもある?」
「なにぃ? 失礼な、さっきまで書庫で勉強してたんですけど」
「ふふっ」
軽口を叩きあうやりとりに、つい笑ってしまう。なんだかちょっと前の私達に戻ったみたいだ。
笑い声に反応したのか、レプリが私に視線を向ける。そのままじっと見つめてきた。
「えっと、な、なに?」
「フェイト、風呂の前に一勝負どうかな」
「え……模擬戦? いいの?」
デバイスを構えて見せるレプリ。勝負というのは模擬戦のことだ。でも……レプリは魔法は得意だけど、戦うのは苦手。いつもは模擬戦もよく逃げ出したりして、あまりやりたがらない。今日はどうしたんだろう。
「へへ、負けた方が勝った方の言うことを聞くとか、どう?」
「あんたそんなこと言っちゃっていいの? じゃあ今日の晩御飯のにく、よこせ」
「アルフには言ってないから! ……で、どうする?」
うーん……これからずっと『お姉ちゃん』って呼んでもらうとか……いや、寝室を一緒にしてもらうっていうのもいいかも……
「おーい、フェイト、聞いてる?」
「えっ? あ、うん。やる。やります」
「おっ、ほんと? よし」
言うことを聞いてもらえるのも魅力的だけど、そんなことより久しぶりの一緒の時間だ。断るはずがない。
「なんか嬉しそうな顔だな……もしかしてもう勝った時のこと考えてる? そう上手くはいかないもんね」
レプリは悪戯っぽい笑みを浮かべながら、行こうぜ、と歩き出した。
そうだ。勝った時のお願いは、『言葉遣いをもっと女の子らしくしてもらう』にしよう。
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「起きて、バルディッシュ」
指示に応え、私の杖、バルディッシュが起動する。私の魔力を消費して、デバイスフレームとバリアジャケットが形を得ていく。
セットアップしたバルディッシュは、斧のような見た目のインテリジェントデバイスだ。夜を切り裂く閃光の戦斧――それが私の杖。
防護服は黒がメインカラーの高機動タイプ。私の特性に合わせて、防御が薄い分機動力を重視した設計になっている。
準備が出来たところで、対戦相手に目を向ける。
あの子のデバイスは……私のバルディッシュとは兄弟機の、ラブリュス。二機の見た目の違いは殆ど無いけど、バルディッシュが片刃の斧なのに対して、ラブリュスは両サイドに斧刃がついている。
バリアジャケットは、白いシャツの上から黒いマントを羽織り、下は黒のスカートにソックス、ブーツ。あまりそうは見えないが、私のものより少し防御力を重視している、らしい。髪は同じく二つに纏めている。どうやら姉妹そろって同じ色が好きみたいだ。
と、滅多に見られないレプリの防護服姿を観察してみたものの……見た目は普段着とあまり変わっていない。そういえば、本当は下をスカートじゃなくてズボンにしたかったけど、出来なかった――とか言っていたような。
「二人とも準備いい? じゃ……はじめっ!」
アルフから開始の号令を聞くと同時に、空を駆ける。
高速で距離を詰め、先手を取る。いつものやり方だ。
レプリの反応は……正面から応戦。結構速めに詰めたのにしっかり合わせてきた。互いにデバイスを打ち付けあい、鍔迫り合いになる。……こっちの戦法にちゃんと対策してる。今日は本当に勝つ気みたいだ。
だけど、それでも近接戦闘なら私が有利だ。
相手の杖をはじいて、その隙にバルディッシュを変形、サイズフォームで袈裟に斬りかかる――躱された。クロスレンジから離脱していくレプリ。でもこっちの攻撃はこれで終わりじゃない。
「アーク……セイバー!」
サイズフォームで形成した魔力刃を飛ばす――弱い誘導性能と、シールドに噛みついて削る性質があり、さらに爆破することも出来る、優秀な攻撃魔法だ。
相手が対応している間に、次に放つ魔法を準備する。そして……
アークセイバーに相対するレプリのデバイスは、その姿を変えていた。斧のような外見ではなく、槍のように。
《Spear Form》
「ふっ!」
アークセイバーを大きく躱したレプリは、槍の穂先を私に向けた。
「ドライブッ!」
スピアフォームでの突撃だ。危ない魔法だからあんまり使わないでって言ったのに。
身体の位置をずらすと、すぐそこをレプリが通り過ぎていく。
直線の高速移動は、軌道が読まれてしまえば大きな隙になる。動きが止まる点に砲撃を打ち込んで、それを防いだ後の隙に接近して撃墜……これでいこう。
『サンダー……!』
動きを止めたレプリに向けて魔法陣を展開。トリガーワードを発声しようとして――同じ声が、重なって聴こえた。
『スマッシャー!』
あの子が振り返りながら、こっちに手をかざしたのが見えた。
轟音と衝撃と光の奔流、スマッシャー同士のぶつかり合いだ。でもあっちの砲撃はほぼチャージ無しの抜き打ち。私のスマッシャーが押し勝つか、それとも魔力を込めて拮抗させるか……どちらにしてもあの子は動けない。それはわかっているだろうから――
砲撃の射線上から離脱する。すると思った通り、レプリも同じように動いているのが見えた。用意していたランサーで牽制しつつ接近する。有利なクロスレンジに持ち込むために距離を詰めるのが私の攻め方の基本だ。
「ブリ! 新魔法そのいち!」
《Ex Defender》
レプリは足を止め、シールドを展開した。チャンスだ、後ろにまわってしまえば――
「っ!?」
ランサーを受けたシールドが、大きな魔力スフィアに変化した。カウンター魔法……!
そのままこちらに向かってくる魔力弾を……っ、間一髪、なんとか避ける。
「避けた……!? くそッ」
どうやら今のが本命だったみたい。ここでお互い足が止まってしまって、仕切り直しだ。ところでその言葉遣いは如何なものかと思ったが、今は頭の外に置いておく。
杖を構えなおす。そのまま睨みあい――にはならず、レプリが気持ちの悪い笑い声を発しながら話しかけてきた。あの顔は、何か悪巧みをしている時のそれだ。
「ンヌフフ……フェイト、新魔法は今のだけじゃない。とっておきのがあるんだ」
「……私だって、まだ見せたことないの、あるよ」
バルディッシュを握る手に力がこもる。このくらいの会話で集中が途切れると思ったら間違いだ。今のうちにバインドを用意しようか、それとも……
「フェイト。これ、よーく見ててみ」
レプリの手に、一発の魔力弾が形成されていた。かなりの魔力が込もっているように見えるけど、高性能の貫通と誘導をつけた弾丸だろうか。基本的に、誘導弾ならそれを操っている魔導師自身を狙えばコントロールは出来なくなる。大きく回避して攻撃を――
「フラーッシュ!!」
「えっ!?」
その球が、弾けた。
瞬間、目に見える景色が全部真っ白になる。この、目を焼くような、強烈な光は。
――閃光弾だ。ズルい!
「勝ったぁあああッ!!! 無印編完!」
思いっきり勝ち誇ったレプリの声が聞こえる。こ、こんな負け方っ……イヤだ!
悔しくて、デバイスをめちゃくちゃに振り回す。
「おべっっ」
すると。
なんだか間の抜けた声と同時に、バルディッシュを持つ手に生々しい手応えを感じた。
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二人の戦いを見守っていたアルフにも、閃光弾の影響は届いてしまっていた。相変わらずの卑怯なやり方に呆れつつ、アルフは視力が回復するのを待つ。
どうもフェイトもまともに喰らっていたようだったから、今回ばかりはレプリの勝ちかもしれない。後でケンカになりそうだけど、最近は二人が元気にケンカしている場面も無かったし、たまにはいいだろう。
そんなことを考えていると、空から降りてくる二人の姿が見えてきた。
「……あれ」
どうやら、勝敗はアルフの予想とは違っていたようだ。
「もう! あんな危ない魔法使うからこんなことになるんだよっ……ごめんね、大丈夫?」
「……ふぁい。反省しましゅ」
顔をひどく腫らしたレプリと、その肩を支える無傷のフェイト。
後から聞いた話によると、目くらましに混乱したフェイトの振り回した杖が、顔にジャストミートしたとのことだった。