この素晴らしい世界で2周目を!   作:ぴこ

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人見知りな少女

 アルダープについて調べ始めてから一週間が経過した。

 小さい隙でも、つついて大きくしてやろうかと思っていたのだが、考えが甘かったようだ。

 

 証拠が全くと言っていいほど出てこないのだ。

 

 いやいや、おかしい。

 領主が失踪した後のことではあったが、不正の証拠は山ほど出てきたのだ。

 前の時は俺の捜査力に不備があると思っていたのだが、どうにも違うようであった。

 

 しかし、考えてみても仕方ない。

 分からないものは分からないのだ。

 

 俺は復興支援のために、農村へと向かうのであった。

 

 

 

「とりあえずこれ、五億エリスだ」

「おお、ありがとうございます!」

 

 二十億は四人で均等に分けたため、取り敢えず俺が出せる最大額を持ってきた。

 一日に五億を引き出すのはさすがに無理なので、一週間かけてゆっくり引き出したのだ。

 農民の人々も、流石に即金で二十億も貰えると思ってはいなかったようで、問題の先送りにはなったようである。

 

「復興の計画とかは決めているのか?」

「まだ大まかなものですが……。こちらです」

 

 そう言って手渡された分厚い資料に、目を通していく。

 避難民の仮設住宅に食糧費など、多種多様にやることがあるようだ。

 

 そんななかで、いくつか節約できそうな項目が見つかった。

 

「この瓦礫の撤去なんだが、業者に頼まなくても、タダで済むからなしで」

「ほ、本当ですか?」

「むしろ、喜んでやってくれるまである」

 

 めぐみんに頼めば、瓦礫なんて一瞬で粉々だ。

 これでかなりの金額が浮くことだろう。

 

「あとこれ。畑とか建物の修繕費なんだが、上手くいけば抑えられるかもしれない。知り合いのニートに、こういうのが得意な奴がいるんだよ」

 

 紅魔族の魔王軍遊撃部隊とかいうふざけたニート集団を上手く焚き付けられれば、人件費を大幅に抑えられる。

 問題はどう焚き付けるかだが……。

 まあ封印がどうのとか、適当に格好いいこと言ってれば何とかなるだろう。

 

「そんな人が、なんでニートに……?」

 

 まあ真面目に生きている人からすれば、当たり前の疑問だろう。

 プロの引きこもりだった俺からすれば、あいつらはニートを舐めている。

 

 他にも細かいところを詰めていき、最終的に復興費は十億エリスくらいまでに抑えられることになった。

 半分になったはいいが、それでもまだ五億エリスも残っている。

 さて、どう稼いだものか……。

 

 やはり知的財産を有効活用するしかないと思い、俺は村を後にした。

 

 

 

 日本では当たり前のものだが、この世界では画期的で尚且ついくつか実現できそうなものに心当たりがあった俺は、ウィズの店に相談しにやってきた。

 扉に手をかけ、中に入ろうとすると、なにやら話し声が聞こえてくる。

 来客中か?

 

「ウィズ、いるかー?」

「あ、カズマさん! 丁度いいところに。この方、めぐみんさんのお友達らしいんですよ!」

「友達? ……あっ」

 

 そこにいたのは、黒いローブに身を包んだゆんゆんその人であった。

 

「あっ、いえ、友達と言いますか、ライバルと言いますか……。わ、我が名はゆんゆん! アークウィザードにして、上級魔法を操る者! やがては紅魔族の長になる者!」

 

 恥ずかしそうにしながらも、紅魔族特有の自己紹介をやり遂げるゆんゆん。

 嫌ならやらなければいいのに……。

 

「そっか。俺はカズマ。めぐみんの冒険者仲間だ。よろしくな」

「……えと、カズマさん? 私の名前、馬鹿にしないんですか?」

 

 紅魔族は名前を馬鹿にされないと気が済まないのかと、逆に問いかけたくなる。

 めぐみんもゆんゆんも、名前を馬鹿にされなかった位で驚きすぎだろ。

 

「しないよ。そんなの、本人の性格とはなんにも関係ないだろ? それより、めぐみんの友達なんだろ? 良かったら家来るか? めぐみんに会って行けよ」

「え、えええええええ!? そ、そんないきなり!? 急に訪ねるなんて失礼じゃありませんか!? もっとこう、先にお手紙を送って、お土産もいっぱい用意して……!」

「お前はどこへ行く気だ! そんなことされたら、逆に気を遣うわ!」

 

 友達が少ないとは聞いていたが、ここまで拗らせているとは……。

 前の時はウィズやバニルだけでなく、チンピラとも仲良くしていたみたいだし、少し将来が不安になってきた。悪い男に引っかからなければいいのだが……。

 

「そうだ、カズマさん。ライターの売り上げ金についてなんですけど……」

「ああ、それなら月末だろ? まだ数日あるし、今日はいいよ」

「それもそうなんですけど、売り上げの途中経過がですね……」

 

 あまり他の人に聞かせるようなものではないため、ゆんゆんに聴こえないようにウィズが耳打ちしてきた。

 その途中経過は、俺の想像を遥かに超える金額であったのだ。

 

「……それまじ? まだ月末まで数日あるだろ? あんな単価の安い物でそんなに儲かるのか?」

「それがですね、作ったそばから売れて行きまして……。職人さんとも連携しているおかげで、薄利多売を地で行く結果に……」

 

 ウィズも我がことながら驚きを隠せないでいるようだ。

 これは二十億近くで売ったとはいえ、前回は勿体無いことをしたものだ。口角が自然と釣り上がっていってしまう。

 

「あの、どうかしました?」

「ああいや、なんでもない。取り敢えず、ゆんゆんは家で飯でも食っていけよ。めぐみんも会いたがってるだろうし。ウィズ、またな。ちょっと相談したいことがあるから、また明日来るよ」

 

 ウィズに別れを告げ、俺とゆんゆんは帰路についた。

 

 

 

「ひ、久し振りねめぐみん! 約束した通り、修行の旅から帰ってきたわよ!」

「……なんであなたがここにいるんですか?」

 

 ゆんゆんに対してだけは、相変わらずきつい態度のめぐみん。

 それだけ心を許しているということだろうけど、もう少し優しくしてやれよ……。

 

「なになに? めぐみんのお知り合いかしら?」

「珍しいな、めぐみんの知り合いが訪ねてくるなんて」

 

 騒ぎを聞きつけたアクアとダクネスもやって来て、お互いに自己紹介をしている。 

 コミュ障のゆんゆんだが、頑張って自己紹介をしているところを見ていると微笑ましい。

 

 俺が三人を眺めていると、めぐみんが耳打ちしてきた。

 

「カズマ、ゆんゆんとはどこで知り合ったのです?」

「ウィズの店だよ。ウィズに紹介してもらったんだ。めぐみんの友達だって」

「別に、友達というわけでは……」

 

 そのままぶつぶつと独り言を言い始めてしまう。

 全く、どっちも素直じゃないな。

 

「そうだ、ゆんゆん。紅魔の里にテレポートってできるか? 出来たらお願いしたいんだけど……」

「すみません、実は登録してなくて……。でも、王都に紅魔の里にテレポートできる知り合いならいますよ?」

「本当か? ちょっと紹介してほしいんだが……」

 

 紅魔の里をテレポートの転送先に設定していなかったため、ゆんゆんに頼もうと思ったのだが、当てが外れた。

 でもその知り合いとやらが頼まれてくれれば、ニート集団と知り合いになって復興の手伝いを頼めるかもしれない。王都までの旅費は痛い出費だが、先行投資と考えれば悪くない。

 

「カズマ、紅魔の里になにか用事でもあるのか?」

「ちょっとな」

 

 ダクネスに素直に目的を答えるわけにいかない。

 こいつのことだ、俺が領民の復興費を肩代わりしていると知ったら、意地でも返そうとしてくるだろう。

 そうなればまたアルダープに借金することになり、ダクネスの多すぎる属性がまた一つ追加されてしまう。

 

「紅魔の里ですか……。私も久しく帰省していません。一度顔を出すのもいいかもしれませんね」

「いいじゃない、紅魔の里! たまには息抜きも必要よね!」

「お前は年がら年中息抜きしてるだろ。……ていうか、お前らも来んの?」

 

 着いてくる気満々の三人に尋ねるも、むしろなぜ着いてこないと思ったのかと聞き返されてしまった。

 一応秘密裏にやっていたのだが、こいつらのこの顔はもう何を言っても無駄であることを物語っていた。

 

「分かった分かった。じゃあ明後日、急だけど俺がウィズへの用事を済ませたら出発だ。急なことで悪いんだけど、ゆんゆん、明後日頼めるか?」

「は、はい! 任せてください!」

 

 ああ、ゆんゆんは良い子だなあ。

 癒される。

 今回の件が片付いたら、正式にパーティーに誘ってみるのも悪くないかもしれない。

 俺が使えない上級魔法をいくつも使えるし、いてくれたらかなり助かる。

 

「ありがとな、ゆんゆん。お礼と言っちゃあれだが、今日は晩飯食っていってくれよ。俺の『料理』スキルの腕前を見せてやる」

「ええ!? いいんですか!? まだ出会って一日なのに!?」

「食べていきなさいな。言っとくけど、カズマさんのご飯はそんじょそこらの店より美味しいわよ!」

「なんでお前が自慢げなんだよ」

 

 まあ悪い気はしないけども。 

 

 俺とアクアの誘いに、それでもまだ少し躊躇っているゆんゆん。

 それを側で見ていためぐみんが、ついに業を煮やし。

 

「ああもう! じれったい子ですね! 食べていきたいならいけばいいでしょう!? なにをそんなにぐじぐじ悩んでるんですか!?」

「めぐみん……」

 

 そっぽを向きながら、そんなことを口にする。

 なんだかんだ言って、ゆんゆんのことは放っておけないのだろう。

 

 それを聞いたゆんゆんは、笑顔で夕飯食べていくことを決めるのであった。


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