おかしい。
本来であればとっくにベルディアが来てもおかしくはないというのに、一向に街へとやって来る気配がない。
丘の古城に住み着いてはいるらしいんだが……。
「カズマカズマ、今日はクエストをお休みにするんですよね? でしたら、付き合ってほしい場所があるのですが……」
「なんだ? 爆裂散歩にでも……あっ」
そういえば、城に爆裂魔法を撃ちに行くのを忘れていた。
「ねえねえカズマさん。そろそろ本当にお金がまずいんですけど……」
「わ、分かってるって」
俺の中で魔王軍幹部最弱と名高いベルディアを、借金を作らないように倒して賞金をゲットする予定であったのだが……。
俺のど忘れで未だにベルディアが襲来しない事態に陥ってしまった。
「これなんてどうかしら? 湖の浄化クエスト! 水の女神である私に打って付けじゃないかしら!」
「止めとけ、後悔するぞ」
「ならどうするというのだ? 他はベルディアが街の近くに住み着いてしまったせいで、簡単なクエストなど残ってないぞ。こ、この一撃熊の討伐クエストなんかどうだ? こいつの一撃と私の耐久力、どっちが上か確かめてみようじゃないか!」
「一撃熊ねえ……」
賞金も悪くないし、今の俺たちならやってやれないことはないだろう。
だけど……。
「……なあ、みんな。ベルディアを討伐しにいかないか?」
「……ちょっと、正気なのカズマ。相手は魔王軍幹部なのよ? 序盤の敵にしては強すぎるんじゃないかしら?」
「そうだぞ。流石にあれとやっては、私たちも無事では済まないだろう。せめて、この街の冒険者全員を引き連れるくらいしないと……」
「それに、あの廃城にはベルディアの手下のアンデッドナイトが大量にいると聞きます。流石の私でも、あの数をいっぺんに葬るのは厳しいのです」
「……俺があいつの弱点を知ってるって言ったらどうする?」
そう言って俺はベルディアの弱点を踏まえたうえで作戦を伝える。
俺の話を聞いていた三人の目には、だんだんと希望の光が宿ってきていた。
しかし、そんな中でもアクアは。
「えー? でも、その話を他の冒険者にも話して、討伐してもらうのはどうかしら? 上手くいったら私たちにもアドバイス料を払ってもらうの!」
いけそうだと思っているのだろうが、びびって及び腰だった。
こいつは本当に、普段は調子のいいことを言っているくせに、いざ戦いになるとすぐヘタレやがって……。
仕方ない。
俺はアクアに向かって、魔法の言葉を唱えた。
「三億」
「え?」
「ベルディアにかかってる報酬の額だよ。俺たちだけで倒せば、全部丸ごと俺たちのものに……」
「さあ、準備をしましょう! なにしてるの、ぐずぐずしてたら他の人に討伐されちゃうじゃない!」
こいつ張り倒してやろうか。
「おお、いるいる」
丘の古城から若干離れた位置までやってきた俺たち。
俺の『千里眼』スキルで確認したところ、城の一番上の階にベルディアらしき人物を発見した。
「ねえ、やっぱり帰りましょう? 帰って土木工事のバイトでもして地道にお金を稼ぎましょうよ! 楽することばかり考えていたら、罰が当たると思うの」
「今更なに怖気づいてんだよ。いざとなったら俺がテレポートで皆を脱出させるから、心配すんなって」
ここにきてまたもやぐずり始めるアクアを尻目に、作戦の最終確認を行う。
「いいか? まずはめぐみんがあの廃城に向かって爆裂魔法を放つ。そしたらベルディアも何事かと思って、外に出てくるはずだ。そこにすかさずアクアが『セイクリッド・クリエイトウォーター』で水攻めにしてやれ」
「ふっふっふ、ついに私も魔王軍幹部の討伐に加担することになろうとは……。将来書かれるであろう、私の英雄伝説のページ数がまた一つ増えてしまいましたね」
「気が早いっつーの。いいか? 無理そうならすぐに逃げるからな? 絶対に余計なことはすんなよ? 特にアクア」
「ちょっと、私が何するっていうのよ!」
ぎゃあぎゃあ騒がしいアクアをなだめていると、ダクネスがおずおずといった感じに尋ねてきた。
「カ、カズマ? 私は? 私はなにをすればいのだろうか……?」
「あっ」
「……おい、まさか忘れていたわけではないだろうな?」
「そ、そんなわけないだろう? ダクネスはそうだな……そうだ! 帰りにめぐみんのことをおぶってやってくれないか?」
それを聞いたダクネスが、俺につかみかかってきた!
「『エクスプロージョン』っ!」
めぐみんの爆裂魔法が、廃城へと放たれる。
今の爆裂魔法はなかなかの威力だな。
「腹にずしんとくる感覚に、遅れてやってくる空気の振動。今のはなかなかな威力だったな。九十六点」
「満点はもらえませんでしたか……。それにしても、カズマは爆裂魔法についてやたらと詳しいですね……。そんなあなたには、爆裂ソムリエの称号を授与しましょう」
「いらんわ」
「お、おい! 何暢気なことを言っている! ベルディアのやつが出てきたぞ!」
ダクネスの悲鳴のような声に廃城へと目を向けると、ベルディアが手下をぞろぞろと引き連れて出てきた。
いきなりのことに驚いているのが良く伝わってくるようだ。
「いよっし、アクア。ぶちかませ!」
「まっかせなさい! この世に在る我が眷属よ……」
アクアが詠唱を始めると、魔力を凝集した水滴が周囲に浮かぶ。
こういう光景を見ていると、こいつが本当の女神だということを思い出す。
普段の言動からでは、想像もつかないが。
やがて詠唱が終わり、アクアが叫んだ。
「『セイクリッド・クリエイトウォーター』っ!」
街一つ呑み込んでしまえそうな大量の聖なる水が、ベルディアとアンデッドナイトたちに降り注ぐ。
街から離れたこの場所だからこそできる戦法だ。
「な、なんなのだ、これは……」
「アクアは本当に駆け出し冒険者なのですか? こんな芸当ができる冒険者など、駆け出しどころか世界中どこ探したっていませんよ……」
「そうでしょうそうでしょう! なんてったって私は、アクシズ教団が崇拝する、水の女神アクア、その人なんですもの!」
「「そうなんだすごいね」」
「なんでよー!」
最初はあまりの威力に驚いていためぐみんとダクネスだが、いつも通りな様子のアクアに、気のせいだと気づいたようだ。
こいつは……。
先ほどまでの、女神然とした雰囲気はどこへ行ってしまったのだろうか。
まあいい、今はそんなことよりベルディアだ。
視線を向けると、いきなりの攻撃に立ち上がることすらままならないようだ。
これならば近づいても大丈夫だろう。
「な! 何なんだ貴様ら! 不意打ちとは卑怯だぞ!」
「うるさい。スカートの下にわざと頭を転がすような変態に言われたくない」
「「「うわぁ……」」」
「な!? デ、デタラメを言うんじゃない!」
俺の言葉に心底引いたような三人。
ベルディアは必死に抗議しているようであったが、その態度がかえって事実を物語っていた。
俺はそんな様子のベルディアに――。
「『スティール』っ!」
いくら高レベルの魔王軍の幹部とはいえ、めぐみんの爆裂魔法と、アクアの水攻めで弱ったベルディア相手ならば通じるはずだ。
案の定、手にはずしりとした重い感触が。
「あ、あの……。頭は勘弁してくれませんか……?」
「やなこった」
俺はベルディアの要求をバッサリと切り捨てると遠くの森へと頭を放り投げた。
「さ、流石にやりすぎでは……?」
「良いんだよ。相手は魔王軍の幹部なんだ。このくらいしないとな」
ダクネスに背負われたまま、苦い顔をするめぐみん。
流石に良心が痛んだのだろう。
「まあでも、これで後は浄化するだけだ。頼んだぞアクア」
「『セイクリッド・ターンアンデッド』っ!」
遠くの森から「ああああああああああっ!」という悲鳴が聞こえたかと思うと、ベルディアの身体は光の粒となって消滅した。
「アクア、念のため冒険者カードを見せてくれるか?」
アクアの冒険者カードには、ベルディア討伐の文字が浮かび上がっている。
「おし! 魔王軍の幹部撃破だ!」
「こんなあっさりとした感じでよかったのだろうか……? ベルディアのやつ、口上すら述べてなかったぞ」
「楽に越したことはないだろ? ほら、早く街に帰って報告しようぜ。俺たちは、魔王軍幹部を倒した英雄になったんだからな!」
「英雄……! 良い響きです!」
その後俺たち三人は、テレポートで街へと帰還した。
結局、あいつはなにしに来たのだろうか?
二周目だというのに終始分からないままだった。
「ほら見なさい! ベルディアはこの私が! わ・た・し・が! 退治してあげたわ!」
ギルド全体に響き渡るような大声でアクアが報告をする。
……行く前はあんなに渋っていたくせに、現金なやつめ。
「……本当ですね、ベルディア討伐と出てます。し、少々お待ちを!」
受付のお姉さんは、慌てたように奥へと消えていった。
「これで、私たちも一躍有名人ですね!」
「ああ、そうだな! これで人類の悲願達成に一歩近づいた!」
めぐみんはともかく、ダクネスまでもが興奮気味だ。
まあ無理もない。
長らく停滞していた魔王討伐に貢献したんだ。
しかも、今回は借金もない。
「お待たせしました! こちら、ベルディア討伐報酬、金三億エリスとなります!」
「「「うおおおおおおおおおおおおおおっ!?」」」
俺たちの会話を聞いていた周りの冒険者たちからも歓声が上がる。
周りの冒険者たちからは奢れコールがあがる。
俺はその声に応えるように――。
「いよおおおおおし、お前ら! 今日は俺のおごりだ! 朝まで飲もうぜええええええ!!」
歓声はさらに大きくなり、宴は文字通り、朝まで続いたのであった。
すいません、急いでたもので、文章がかなり雑になってしまいました……。
後で暇を見て修正したいと思います。