「ようウィズ。ライターの売り上げはどうだ?」
「カズマさん! 見ての通り、順調ですよ!」
初日にわずか一時間で売り切れてしまったライターだったが、街の鍛冶師と連携することで、安定した大量生産が見込めるようになった。
ちゃんとした特許もとったため、販売はウィズの魔法具店でしか行われていない。
今では、作ったそばから売り切れてしまう人気商品である。
安定した収入を得たおかげか、ウィズも心なしか前より元気そうに見えた。
「今日はどうしたんですか? そうだ、実は今回の売り上げでいいものを仕入れたんですよ! これ、高純度のマナタイトです! こんな質の高いものは、なかなかお目にかかれません!」
「……ほうほう。ちなみにお幾らなんですか?」
「一個二千万エリスです! とってもお得でしょう?」
こんな駆け出しの街で、誰がそんなもの買うのだろう。
ウィズの顔色が良かったのは、こういう訳か。
いずれ必要になるだろうが、今はまだ使う予定もないため、遠慮しておいた。
「それよりさ、杖を探してるんだけど、なんか良いのないかな?」
「杖、ですか?」
「ああ。実は今日、めぐみんが誕生日でな。プレゼントは杖にしようかと思って……」
前の時は知らなかったため、何もしてやれなかったが、今回は違う。
正確な日にちは知らなったから、こっそり冒険者カードを拝借して確認しておいた。
今頃は、アクアとダクネスもプレゼント選びに奔走していることだろう。
「では、これなんかどうでしょう? 魔力を攻撃力に変換する杖です。持っていると、無限に魔力を吸い続けてしまうのが難点ですが……」
どこかで聞いたことのある杖だ。
めぐみんの魔力ならば、さぞかし重い攻撃となるだろう。
だが、爆裂魔法以外の攻撃をしたがらないめぐみんでは、貰っても困るのがオチだ。
他にもいろいろな杖について説明を受けたが、どれも難点があったり、高かったりと微妙な感じであった。
「今のが最後ですね……。他には、ウィザード用のマジックアイテムがありますが……あっ! そういえばいいものがありました!」
ウィズは「少し待っててくださいね」と告げると、店の奥へと消えていった。
……ウィズが『いいもの』と言うものには、嫌な予感しかしないが、一応見させてもらおう。
杖だけで決めるならば、あの五個目の歌が上手くなる杖が最有力だ。
まあ、実用性重視のめぐみんが喜ぶかどうかを聞かれたら、疑問ではあるが。
プレゼントのことで頭を悩ませていると、ウィズが商品を携えて戻ってきた。
「こちらになります」
「これ、指輪か?」
少し古いように見えるが、それが却ってアンティークな雰囲気を醸し出していて、中二心をくすぐられる。
めぐみんがいかにも好きそうなデザインであった。
だが、ここで一つ気になることが……。
「……この指輪、どんな効果なんだ?」
「ある特定の魔法の攻撃力のみを上げてくれるんです。副作用とか、着けると一生取れない、みたいなことはありませんから安心してください」
「へえ。それだけ聞くと、結構よさそうに感じるんだが……。なんで売れなかったんだ?」
「その特定の魔法というのが、爆裂魔法でして……」
「あー……」
なるほど、そういうことか。
めぐみんだけでなく、ウィズや俺も使えるから忘れがちだが、この世界で爆裂魔法を使える人なんて滅多にいないのだ。
只でさえオーバーキル気味なのに、更に火力をかさ増しさせるような魔道具が売れるわけがない。
ただ一人を除いては。
「ウィズ、これいくらだ? 俺が買うよ」
「こちら、一個五十万エリスとなります」
結構高いが、手が出ない値段というわけでもない。
金ならば、また稼げばいいのだ。
「あっ、そういえば指輪のサイズ大丈夫か?」
「それなら問題ありませんよ。指輪が自動的にサイズを調整してくれますから」
なるほど、そいつは便利だ。
これに決まりだな。
俺は買い取った後、ウィズに綺麗にラッピングしてもらってから店を後にした。
「よく考えたら、出会って一ヶ月程度の仲間に指輪をプレゼントするってどうなんだ? 少し重たいんじゃないか……?」
屋敷へと帰る途中、ふとそんなことを思ってしまった。
だ、大丈夫だよな?
引かれたりしないよな?
真面目に選んだプレゼントで引かれたら、ちょっと立ち直る自信がない。
そんなことを考えながら屋敷へと帰ると、プレゼント選びを終えたであろうダクネスがパーティーの準備をしていた。
「お帰り、カズマ。少し遅かったな。プレゼントは選び終えたのか?」
「悪い、少し手間取ってな。その分、プレゼントの方はばっちりだ。アクアとめぐみんは?」
「二人なら爆裂魔法を撃ちに出かけている。アクアがたっぷり時間を稼ぐと豪語していたからな、まだ時間には余裕があるはずだ」
ダクネスの言葉に取り敢えず安心する。
念のため『千里眼』スキルで周囲を確認してみたが、近くにアクアとめぐみんは見つからなかった。
パーティーの準備を手伝いつつ、ダクネスになにを買ったか尋ねたところ。
「私は櫛にした。めぐみんは素材はいいのに、少し女としての自覚が足りないからな」
とのことだった。
ちなみにアクアは、手作りの機動要塞デストロイヤー人形だそうだ。
あいつは本当に、芸術の道に進んだ方が大成するのではなかろうか。
準備も終わり、待つこと三十分。
ようやくアクアとめぐみんが帰ってきた。
「ただまー! 寄り道してたら遅くなっちゃった」
「いやあ、あの鉱石を破壊されたときの店員の顔は見ものでした! 明日もやりたいものです」
こいつら、まさか街中で爆裂魔法をぶっ放したんじゃないだろうな?
めぐみんの言葉に一抹の不安を抱きながらも、当初の予定通りサプライズを決行することにした。
「えー、んんっ。めぐみん、今日が何の日か分かるか? そうだ、お前の誕生日だ。というわけで、ささやかながら俺たちからプレゼントを用意した」
あまりの気恥ずかしさに口早になってしまう。
慣れないことはするものじゃないな。
ちらりとめぐみんの方を見ると、驚きのあまり言葉を失っているようである。
「カズマ、もう少し言い方はなかったのか? ……まあでも、そういうわけだ。めぐみん、誕生日おめでとう」
「私からはこれよ、機動要塞デストロイヤー! どう? なかなか上手く出来てるでしょ!」
「……ありがとうございます」
呆然としながらも、二人から受け取ったプレゼントを大事そうに抱えるめぐみん。
展開の速さについていけてない様子であったが、俺も構わずプレゼントを手渡した。
「俺からはこれだ。べ、別に深い意味はないからな! 勘違いすんなよな!!」
「なあに、今の。カズマ、ツンデレのつもり? 気持ち悪いだけだから、やめときなさい」
「違うわ!」
良い雰囲気なんだから、こういう時位気付いても見逃してほしい。
確かに気持ち悪いけど。
「開けてみてもいいですか?」
「ああ」
俺のだけラッピングされていたため、許可を取ってから、割れ物にでも触るかのように丁寧に開封していく。
出てきた小洒落た箱を開けると、当たり前だが例の指輪が出てきた。
「「…………」」
「引くな! これはあれだ、爆裂魔法の威力を上げてくれるんだ!」
無言で俺を見つめるアクアとダクネス。
くそっ、やっぱりやめときゃよかった。
そう思ったが、貰った本人はというと。
「ありがとうございます。思えば家族以外の人からこうやって誕生日を祝ってもらうのは初めてのことで、気恥ずかしい反面、こう、なんて言ったらいいか……」
帽子のつばで顔を隠し、尻すぼみに言葉を失っていくめぐみん。
その様子を見た俺たちは、顔を見合わせ、サプライズが上手くいったことを喜び合った。
「さあ、今日は無礼講よ! ケーキも用意したから、朝まで飲むわよ!」
「おい、お前無礼講の意味を知ってて言ってるのか? 自分の地位が上だって言いたいのか?」
「まあまあ、カズマ。今日は目出度い日だ。ほら、めぐみんも突っ立ってないでこっちへ来い」
こんな日でも変わらず、ぎゃあぎゃあと騒がしい俺たちだが、めぐみんは顔を上げると――。
「はい!」
と満面の笑みを浮かべるのであった。
酔いつぶれたアクアを部屋へと運び、片付けもし終えた俺が、部屋で寝ようとしていると。
めぐみんが訪ねてきた。
「カズマ、今日はありがとうございました。ダクネスに聞きましたよ。今日のパーティーはカズマが企画してくれたんだって」
「まあパーティーメンバーだからな。別にお前だけ特別にってわけじゃないぞ? ダクネスだって春頃に誕生日らしいからな、その時はお前も協力してくれよな」
「それはもちろんですが、やっぱりちゃんとお礼を言っておきたくて」
そういって微笑むめぐみんは、思わず抱きしめたくなるほどに可愛かった。
一周目の時は、結局『仲間以上恋人未満』の関係で終わった俺とめぐみん。
今も信頼されてきてはいるだろうけど、そのことを思い出すと切なくなってくる。
「礼なんかいいから、早く寝ろよな。明日からまたクエストに行くんだから」
「分かってます。ですから……」
そう言って軽く手招きするめぐみん。
俺は深く考えずに近づくと。
「んっ……」
「!!??」
直ぐ近くにある顔。
頬には、柔らかい感触を感じる。
あまりの衝撃に呆然としていると、めぐみんは顔を離し、赤く染まった顔で言った。
「今のは、ほんのお礼です。それではカズマ、おやすみなさい」
ばたん、と扉が閉まる音がどこか遠くから聞こえてくるように感じる。
その後、めぐみんが出て行ってから数分が経っても、俺はその場に動けずにいるのだった。
戦闘シーンを書くのに疲れてしまい、二話連続で日常回にしました。
次回は、あの大物賞金首との戦闘です。