申し訳ありません。
「『クリエイト・アースゴーレム』っ!」
魔力に物を言わせ、俺は巨大な砂のゴーレムを作った。
この街にもクリエイターは多数いるが、全員駆け出しばかりだ。そのため、魔力総量が圧倒的に多い俺がゴーレムを作った方が大きくて強いゴーレムを作ることが出来る。要は量より質を取った作戦である。
大きさだけで言えば、機動要塞デストロイヤーにも引けを取らない。
真っ直ぐ向かって来るデストロイヤーに、立ちはだかるゴーレム。
今、大きな音を立ててぶつかり合った。
「おお! 動きが止まったぞ!」
バリケードの内側からは冒険者たちの歓声が上がるが、これも長くは保たない。
ゴーレムが足を止めているうちに、俺はアクアに指示を出した。
「アクア! やっちまえ!」
「『セイクリッド・スペルブレイク』ーっ!!」
アクアの周りに魔法陣が浮かんだかと思うと、そこから光の柱が放出される。
光は真っ直ぐにデストロイヤーへと向かうと、一瞬、薄い空気の膜のようなものの抵抗を受けるが、乾いた音を響かせながら粉々に砕け散った。
デストロイヤーの結界は破った。
後は動きを止めるだけである。
「『エクスプロージョン』っ!!」
めぐみんによって放たれた爆裂魔法は、以前の倍近い威力であった。
指には、俺が贈った指輪がはめられている。
デストロイヤーへと放たれた爆裂魔法は、脚だけでなく機体本体にもダメージを与え、デストロイヤーは完全に停止した。
「どうですカズマ……。我が渾身の爆裂魔法の威力は……?」
「ああ、二百点をくれてやる」
ウィズの力を借りることなく、一人でデストロイヤーの動きを止めためぐみんは、倒れたまま誇らしげに言った。
いかにもやり切った顔をしているめぐみんには申し訳ないのだが、まだ終わりではない。
そう、俺は二度目だから知っている。
知っているのだが。
「やったか!?」
「俺、この戦いが終わったら結婚するんだ……」
こういかにもな死亡フラグを建てるやつを見ると、腹立たしくなる。
ご期待通り、デストロイヤーからは機械的な声が流れてきた。
『この機体は、機動を停止しました。排熱、及び機動エネルギーの消費ができなくなっています。搭乗員は速やかに、この機体からはなれ、避難して下さい。繰り返します』
「カ、カズマ。これはどういうことなのだ?」
「どういうこともなにも、まだ終わってないってことだよ……ほいっと」
不穏な様子に駆けつけてきたダクネスに返事をしながら、フック状になった矢をデストロイヤーの甲板へと放った。矢は、『狙撃』スキルの補助を受けて甲板に引っかかった。
「アクアとめぐみんは危ないから待機してろ。ダクネスは俺と来い。中に警備用のロボットとかもいるかもしれないからな」
「あ、ああ。分かった」
めぐみんはデストロイヤーの中身を見たがったが、渋々といった様子であきらめた。
アクアは態々危険を冒してでも街を救おうという根性は持ち合わせていないため、むしろ喜んでいるようにも見える。
俺はダクネスを伴い、デストロイヤーへと乗り込んだ。
「ダクネス! そこの扉だ! お前の怪力でぶち壊せ!」
「……カズマ、私だって女の端くれだ。そんな面と向かって怪力とか言われると傷つくのだが……」
「だったら先に普段の言動改めろ!」
デストロイヤーの内部に乗り込んだのは俺とダクネスの二人だけだ。
コロナタイトのある場所はすでに把握しているため、テレポートですぐに帰ってこれる俺が乗り込むというのは、すでに作戦会議の時点で提案していた。
途中のゴーレムはすべて無視し、真っ直ぐに動力部へと向かうと。
「これは……」
絶句するダクネスが見つめるのは、白骨化した死体であった。
側には日記が置いてある。
「デストロイヤーから降りれず、一人寂しく死んだのだろうな……。せめて、遺骨を持ち帰って供養してやらねば……」
「うんそーだね」
真相を知っている俺からすれば、傍迷惑なだけの話であるが、態々言う必要もあるまい。
ダクネスが遺骨をまとめている間におれは動力源であるコロナタイトを取り出すことにした。
「『スティール』っ! ぅあぢゃあああああああああああああああっ!!」
「カ、カズマ!? どうしたのだ!?」
「『ヒール』! 『ヒール』! だ、大丈夫。問題ない」
問題なくはないが、他にコロナタイトを取り出す方法も思いつかなかったため、仕方なしにやったのだ。
別に何度やっても学習しない馬鹿なわけではない。そこだけははっきりと真実を伝えたかった。
取り出したコロナタイトであるが、転送先はすでに決めていた。
ベルディアが根城にしていた廃城である。
ベルディアを討伐した際にテレポートの転送先に設定しておいたのだ。
あそこならめぐみんの爆裂魔法ですら壊れないし、人もいない。
「『テレポート』」
コロナタイトを無事転送させた俺は、無事ダクネスと二人で脱出した。
「あ、カズマさん。おかえりなさい」
「……お前、くつろぎすぎだろ」
戻ってくると、アクアは退屈そうにお茶を飲んでくつろいでいた。
確かに一番大事な役目は終えたけど……。
まあいいか、大目に見てやろう。
「カズマさん、お疲れ様です」
「ありがとな、ウィズ。後は、手はず通り頼むよ」
「はい」
ウィズには最後の仕上げのために、待機してもらっていた。
別に魔力を分けてもよかったが、アンデッド専用スキルである『ドレインタッチ』を使っているところを見られて、あらぬ容疑を掛けられるのも面白くない。
そのため、デストロイヤーの動きを止めるのは、指輪で爆裂魔法の威力が上がっためぐみんに任せたのだ。
ウィズの爆裂魔法は、指輪で威力の上がっためぐみんの爆裂魔法には及ばずとも、満身創痍のデストロイヤーを破壊しきるのには十分な威力であった。
デストロイヤー討伐も無事終わり、街へと戻ってきた。
討伐の報告はすでに行われているだろうが、念のために俺たちもギルドへ報告にやってきたのだが……。
「サトウさん、お見事でした! デストロイヤー討伐の中心となったあなた達には、特別報酬が与えられることとなりました!」
帰っていきなり奥の部屋へと通され、賞金の話になった。
ベルディア戦の時は受付で普通に行われたというのに、慌てた様子で手を引っ張られたときはひやひやしたものだ。ないとは思うが、また逮捕されたりしたら立ち直れない。
奥に通されたのは他でもなく、賞金総額が大きかったからだ。
その額なんと。
「「「二十億!?」」」
「しー! 声が大きいですよ!」
デストロイヤーってそんなに賞金がかかってたのか。
しかし、考えてみれば無理もないのかもしれない。
デストロイヤーの制作者は、確か紅魔族の生みの親でもある。
となると、めぐみんの祖先の代からデストロイヤーはいたということだ。
そんな長い間、誰にも討伐されることなく世界中で破壊の限りを尽くしていたのだ。
これ、魔王軍より厄介な相手だったんじゃないか?
倒せたからよかったけど……。
しかし、貰えるものなら貰っておこう。
「なあダクネス。このお金銀行に直接預けに行っててくれないか?」
「それは構わないが……。カズマは行かないのか?」
「俺はちょっと、用事があるからな」
ダクネスならば信用できるため、二十億を預けてギルドを後にした。
これで本当に最後だ。
デストロイヤーが通った道を引き返していくと、蹂躙された農村が見えてきた。
村人たちは必死に復興作業に勤しんでいたが、顔には覇気がなかった。
「すいません、ちょっといいですか?」
「……なんだ」
そこらにいる村人に適当に声を掛けたが、態度があからさまであった。
「この農村の代表者の方ってどこにいます?」
「……なんでそんなことを?」
「いえ、実はダスティネス家の方がデストロイヤーに蹂躙された村々に復興資金を出してくれるとのことでして……。俺はその使者としてきたんですよ」
「! 今、村長を呼んでくる!」
男は顔色を変えると、走ってどこかへと消えていった。
これが最後の大仕上げであった。
この地域の領主であるアルダープは、その義務を放棄し、復興資金を一円たりとも出さない。
代わりに頼ったのが、ダクネスの実家でもあるダスティネス家だ。
しかし、前回のベルディア戦の際に起こした大洪水によって、資金が底をついていた。
そこで、ダクネスが自身を担保にアルダープに借金をしたのだ。
どこからどうみても筋が通っていないが、あの時のダクネスはそれが正しい行いだと信じて止まなかった。
意外なところで頑固なダクネスを説得するのは骨が折れるため、借金自体をさせないように先回りしたのだ。
数分後、先ほどの男が初老の男性を伴って戻ってきた。
「私がこの村の村長です。復興資金を、ダスティネス家の方々が出してくれるというのは、本当ですか?」
「はい。詳しくは、近隣の村の被害状況を確認してからとなりますが……」
「分かりました、他の村にもすぐに連絡します!」
取り敢えず、後日話し合いの場を設けることとなり、その日は解散となった。
村長のおおよその見積もりでは、やはり二十億近くかかるらしい。
俺は、その日からアルダープをさっさと失脚させ、国からの返金を求めるための行動に移るのであった。