魔術チートを貰ったらほとんどの魔術を使えなかった件   作:☆彡.。

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やっぱりな

 拘束した天草式の男、建宮斎字が目を覚ます頃にはあたりで聞こえていたローマ正教と天草式の戦闘音もなくなっていた。

 

 建宮斎字はローマ正教にオルソラ=アクィナスの身柄を引き渡すことの危険性を説くが、インデックスちゃんやステイルは聞く耳を持たない。

 まあ、当たり前だわな。戦闘して、拘束されて、次の一声がこれだ。

 信用する方が難しい。

 しかし、俺はそうも考えていたため話をするように促す。

 建宮が話を進めると、上条は今までの戦闘を思い出したように激昂し怒鳴りつける。

 

 たしかに、その言い分も間違ってはいない。

 オルソラをあのように拘束する必要はなかったし、それ以前に廃劇場であのような挑発とも取れることは言わないでよかった。

 最初からローマ正教に戻れば殺されるっていうことを言っていればよかったのだ。

 そうなった場合、俺たちイギリス清教側はどうするか一度上と連絡を取ることになったのかもしれないのだから。

 

 そして、大前提であった法の書窃盗。

 これだっておかしい。仮に大衆に見せびらかすことがあったとしてもその警備はここにいるローマ正教側の人員とは比べ物にならないほどだったはずである。

 しかも、こことは違い完全なアウェイ。

 普通に考えれば神裂火織が抜けていて、力を欲する天草式が盗めるはずもない。

 そして、仮に盗めたとしてもこの程度の人員しか送られてこないはずがない。

 少なくとも、今の四倍、千人は来てもおかしくないのだ。

 

 そして話が進み、いよいよ『法の書』の話となる。

 法の書は正しく読み解けば教皇以上の力を誰でも扱える時代が訪れる。

 それは十字教最大宗派、世界のトップ、二十億人もの信徒を抱えるローマ正教が『十字教の時代の終わり』を望むわけがないということ。

 

 それを聞き終え上条はあっと声を漏らす。

 しかし、同時にオルソラがなぜ天草式からも逃げていたのかという疑問に行きつけば、オルソラが天草式を信じきれなかったと帰ってくる。

 あの人を知らなければ当たり前の話で、二十億人の信徒がいる宗教にただの善意で歯向かうわけが無い。

 

 ならばと、上条は問う。

 オルソラを助けようとした理由はなんなんだ?

 

 理由などない。昔の天草式は知らないが、今代の天草式は確実にそう答えるだろう。

 神裂火織の魔法名。その意味は、救われぬものに救いの手を。

 見返りなど求めず、善悪も超越し、ただひたすらに救いを求めるものへ手を差し伸べる。

 そんな神裂火織が所属していた組織が悪行に手を染めるだろうか?

 いや、ないと言ってもいいだろう。

 

 そして、遠くで声が上がる。

 オルソラの悲鳴だ。建宮はまくし立てるように上条を糾弾する。

 

 続けて建宮は俺たちのことは信じることが出来なくてもいい、敵対したままでもいいからオルソラ=アクィナスを救えと叫ぶ。

 

 上条がそれに応えると同時、頭上、屋根の上からコツンと、靴の音のような音が聞こえた。

 そちらを見ればローマ正教のシスターが二人。その手に持たれているのは攻撃に用いる礼装だ。

 

 シスターたちは建宮の身柄を引き渡すようにいうが、それに納得しない上条はシスターたちに複数の質問を浴びせかける。

 

 ダメだよ。

 ああいう規則規則ってうるさいヤツらには何を言っても無駄なんだ。

 シスターが逆ギレして攻撃して来た直後、俺は天使の力(テレズマ)を解放してシスターたちを吹き飛ばした。

 残念ながら海の時のような巨大な翼は作れないが、俺の魔術と大気中の水分で数メートル単位の翼を数本作ることが出来た。

 

 吹き飛ばされたシスターの一人、背が高い方は先程までの切れ者の秘書のような言葉遣いから一転、まるで物語の悪役のように金切り声をあげる。

 

 建宮の拘束術式を破壊し、シスターたちをあしらい続けていると、俺の相手は無謀だと感じたのか後ろの見るからに戦闘力が低いインデックスちゃんに攻撃が飛んでいく。しかし、その攻撃はインデックスちゃんの声で逸らされた。

 オルソラは言った。原典の術式を利用する形で原点を破壊できないかと。つまり、外部から新しい魔術的情報を組み込むことで術式を乗っ取ることも可能なのだ。

 その手段がインデックスちゃんの声。

 そして攻撃がそらされると同時、高い笛の音が聞こえてきた。

 退却命令かとシスターが言うと、小さい方に引きずられるように二人とも帰って言った。

 

「まったく、面倒なことをしてくれたものだね」

 

 ステイルは心底呆れたような声で。

 

「そうなんだよ! 下手したら宗教戦争の引き金を引いちゃうかもしれないんだよ!」

 

 と、インデックスちゃん。

 

「俺は後悔してないんで。イギリス清教から切り捨てられても俺は戦いますよ。俺だってあの人(神裂火織)の弟子なんだから」

 

 そういえば、と区切って

 

「上条が持っていた十字架、たしかイギリス清教の十字架は上条の手でオルソラの首にかけられたんだったか。その時真正面からかけてたせいで抱きつくような体勢になってたけど」

 

 ステイルの方を見ればフッと笑っていた。

 

「建宮斎字、俺は神裂火織の弟子としてオルソラ=アクィナスを救うよ。お前らも神裂火織を思っていて、あの人の思想に共感した人間ならばさっさと体制を整えてローマ正教に囚われた仲間ごとオルソラ=アクィナスを救って見せろ」

 

 拘束術式から解放されていた建宮は「当たり前なのよな」といって夜の闇に消えていった。

 


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