1
「私ね、色々あって学園都市の裏組織……暗部に入ってるの。裏の組織なだけあってたくさんの怖い仕事や辛い仕事ばっかりなんだけど、最近になってそれがどんどんエスカレートしていって。とうとう耐えられなくなっちゃった……。だから私は逃げた。任務を途中で放棄したの。そしたらこの有様」
涙をボロボロと流しながら、彼女は語ってくれた。
「私が悪いのは分かってる。でもまさか、あんな血相を変えてメンバーの人達が襲いかかってくるとは思わなかった……」
昨晩彼女を追いかけていた髑髏の仮面の集団は、彼女が所属する暗部のメンバー達だった。彼らは、任務を途中で放棄し逃げようとした彼女を捕らえてキツい罰でも与えようとしたのだろう。
「事情はだいたい分かった」
一呼吸置き、
「きみはこれからどうしたい?」
上里は優しい声色で問う。まるで救いを差しのべる天使かのように、柔和な表情を見せた。
「私は……もう、手を引きたい。暗部から手を引きたい」
俯きながら声を震わせる少女。
「人殺しなんて見たくない……したくない。訳の分からない兵器の売買……。それを手伝ったことによってどれだけの人間が死んでしまったんだろう……。全部お金のためだって、自分に言い聞かせてきて、これまで耐えてきたけれど……。もう、無理。心が押し潰されそう」
ぐすん、唾を飲み込む音が何度も聞こえる。流れた涙はしたたり、床へとポツリと落ちていく。
「もういっそ、死んじゃいたい……」
「それは良くない」
言葉の途中で上里が遮った。つい数秒前まで温和だった顔が一変し、張り詰めた空気が流れる。
「死ぬことは簡単だ。だけど、『死ぬこと』はあらゆることを全て終わらせてしまう。何もかも全部だ。そうだね、きみの今の悩みも確かに『死ねば』解決すると思う。なんせ死んだら考えることも無くなるからね、当たり前のことだ。同時に、『死ぬ』ってことは今までの全て、きみが背負ってきたことが終わってしまうことでもある。ぼくは君が暗部で酷い目にあったということしか知らない。でもそれはしっかりとした理由があったからなんだろう?だからこそ、きみは嫌々思いながらも続けてこれた。だけど『死ぬ』ということは、その努力を全て無かったことにする。無意味。生きた意味すら無くなる」
淡々と、ただ淡々と少年は語り、最後に問う。
「きみはただ死にたいの?それとも、組織から抜け出して生きたいの?」
男らしい両手をそっと透眼の頬にあてた。そして水をすくい上げるように、優しく顔をあげる。
「どちらの答えだとしても、ぼくはきみの『
「私は……まだ、生きたい」
分かった、その一言を聞き上里の表情は柔らかくなった。
2
泣き疲れたのか、はたまた緊張が解けたのか、透眼は再び眠りについてしまった。
「どうするんだい、兄貴?」
そして、タイミングを見計らったかのように家に突如上がり込んできた赫裏に先程までの会話を簡単に話した上里。
「どうするも何も、彼女を助ける。それだけだ」
「そんなんいつものことじゃーん!そうじゃなくて、どうやって助けるのかって聞いてんのー」
確かに、助けるといっても方法はいくつかある。何をもって助けたことになるのか、そこに重点を置いて話を進めていかなければならない。
「あの子は『組織から手を引きたい』と言っていた。なら、組織を壊滅させる他手は無い気がする」
「一番手っ取り早いな!好きだよそーゆーの!」
「なんせ暗部だ。話し合いで解決するとは思えない」
たった今いれた温かいお茶をすすりながら、考えを述べていく。
「でも、あの子は『潰してくれ』やら『壊滅させてくれ』なんて物騒なことは一言も言っていなかった」
「ちょっとお嬢様気質なだけなんじゃん?ほら、汚い言葉は私使えないのですわおーほっほっほっ、みたいな」
「ぼくが見た限りではそんなタイプではないね。散々な目に遭ってもなお、『手を引きたい』ってだけか。……まだ組織に想い入れがあるのかもしれない」
「えぇー?辛い辛い死にたーいとか言ってたのに?」
「そんなメンヘラみたいな感じじゃない。……人には手を出さないで欲しい、のか」
「うわ、めんど。暗部なんでしょ?そんで人殺しとかもしてるんでしょ?なら殺した方が早いってのに、なに、手を出さないで穏便に組織でぶっ潰せっての?!はぁーー面倒っちーーー!!」
「そこは改めて聞いてみよう。彼女は人殺しはしたくない、と言っていた。だったらぼく達にも手を染めてほしくないはずだ。極力穏便に、平和的解決を求めているんだよきっと」
「……暗部舐め過ぎだっつーの」
軽く舌打ちをすると、赫裏はその場で立ち上がり背伸びをした。
「面倒かと思うけど何かあったら協力してくれ」
「……分かってるよん。言われなくてもいつだって兄貴の味方だ」
そう言い残して赫裏は部屋を立ち去った。