ワイちゃんはまたしても飛ぶ。
ホームランボールよりも飛ぶ。
そうしてたどり着いた場所では、村祭りの真っ最中みたいですわね。
「何でしょうかこの大きな像は?」
ワイちゃんの登場にやはり皆さんどよめきを隠せませんわね。
スター選手が、田舎のイベントに、サプライズ登場という感じでしょうか。
しかし皆さん、わたくしの方よりも、巨大なおっさんの像を見上げ会話しているではありませんか。
ワイちゃんが不思議がる可愛いポーズをしていると、何やら現地の方々に向かい白衣を着た人が、偉そうに語り始めていましたの。
「お集まりのピュルカの民の皆さん。炎の精霊は我々ロマリアが、責任をもってお預かりをしますのでご安心を」
「和平的な話し合いと聞いていたが、一方的な略奪行為がロマリアでは和平的なのか」
「とうちゃん! もっといってやれ!」
「エルクよ! 隠れていろと言ったのになぜ出てきおった!」
「じ、爺ちゃん……」
「おや? 和平の意味を取り違えているようですね。我々の力をもってすれば、あなた方など」
長話を始めそうな白衣の男を遮るように軍服の男が会話に割って入ってきましたの。
「もういいだろ。精霊を手が手に入れば、他に用はない、残さず殺せ」
ドラ1が手に入れば他は要らない。球児達の心なんて憂慮しないという、ワンマン監督のドラフト会場かしら。
割り込みには割り込みを。本気を出せば、ネクストバッターズサークルからホームランを打てるワイちゃんが颯爽とレスバトルに参加しますの。
「あなた達はスカウトの極意をしらないのですわね」
「貴様何者だ? 恰好からして、ピュルカの民ではないな」
「ワイちゃんは球界の王ですわよ。以後お見知りおきを」
わたくしのお嬢様挨拶が決まりましたわね。これで会場はワイちゃんへの歓声ばっかりやろなぁ。
「どこから来たのか知らないが、この作戦は極秘裏でね。口を動かす人間は殺しておく必要があるんだ。分かるかい?」
白衣の男が軍服へ合図を送り、銃を構えられたワイちゃんは絶体絶命。
「やめろぉ!」
叫びながら、少年がわたくしの前に出てきてしまいましたわ。元気ですわね。
そんな野球少年の声をかき消すように、銃声と金属音がこだましたのは、一瞬のうちの事でしたの――ー
「お前は……いったい何者だ!?」
「さっきも言いましてよ? 球界の王と」
「その体躯で、銃弾をすべて跳ね返しただと?」
「ただのピッチャー返しですわよ?」
軍服の兵士たちは、わたくしのピッチャー返しを喰らい、その場で倒れこむ始末。
「練習が足りませんわね。その体たらくでは
「実に興味深い。ぜひ検体として研究所に」
「しかし師団が壊滅した今アレに対抗するには……」
「シルバーノアを呼びなさい」
軍服は白衣の男に促されるまま何やら光るモノで空中に向かいサインを放っていましたの。
「その光るやつ楽しそうですわね。わたくしにも遊ばしてくださる?」
「やめろぉ!」
少年と同じセリフを軍服は言い放っていましたけど、無視をしてわたくし流のサインを上空の船に届けることにしましたの。
「ね、姉ちゃん何やってるの?」
「サインの練習ですわよ。少年もいかがかしら?」
「俺は……」
「エルク! 離れていろ。その者から禍々しい気を感じる」
「爺ちゃん! でもこの姉ちゃんは俺たちを助けてくれた」
「ロマリアの罠かもしれん。安易に気を許すな」
少年とおじいさんが口げんかしてる間に、わたくしは飛行船を呼ぶことに成功したのですわ。
「ガイストではありませんのね。まあマップ移動には便利そうですわ」
異常な信号が、どうとか言いながら、シルバーノアのクルーと兵士が降りてきましたの。サインですのに。
「わたくしをエスコトートさせてあげてもよろしくてよ?」
銃口がわたくしにメロメロのようで、皆さんわたくしにくぎ付けですの。
ドリームノックにより無効化して差し上げますと、クルーの方がナックルボールのように小刻みに震えながら、わたくしをエスコートしてくださいましたのよ。
ワイちゃんを甲〇園に連れてってという気持ちで、シルバーノアに乗り込みいざプレイボールですわ。
「エルク! 待ちなさい!」
「助けてくれた恩人が連れ去られるのを黙ってみてろってのか!」
「エルク!!!!!」
何やら少年も搭乗してきたみたいですわね。球場へ乗り込みたいという気持ちが伝わってきますわね。
震えるクルー達に連れられ、ワイちゃんは白い球場に連れていかれたのでした。
「ここが最新球場かしら」
一緒に船から降りた、軍服や白衣の方達の返事はなく何かを恐れているようで――
「ガルアーノ様!」
隣の軍服が何やら聞いたことのありそうな名前を呼び始めます。
「炎の精霊はどこだ?」
「作戦は妨害により失敗しました」
「何だと!? 役立たずがのこのこ帰ってきたのか?」
「申し訳ありません!!!」
「よし。役に立たない軍人でもキメラの材料にはなるだろう。連れていけ」
「なにとぞ。お許しを!!」
葉巻を咥えながら、ガルアーノとかいう方がイキっていましたわね。そういえばアンデルもイキっていましたし、四将軍という方々はイキるのが趣味なのかしら。
「ご所望の物ではありませんが、異常な能力の者を連れてまいりました。白い家での研究に役立てるかと」
「ほう? そこの小僧と小娘か。 ヴィルマーを呼べ」
命令を出すや否やガルアーノは一人建物奥の方へと姿をくらまします。ドームのフェンスにも突然人が消えてしまうドアがありますわね。
その場に留まっていると、白衣を着た見知った顔二人が現れましたの。
「あら? 少しお若いですけど、GPとヴィルマー博士ではなくって?」
「確かにワシはヴィルマーだが……」
「私の事でしょうか?」
まずいですわねGPの名前忘れてしまってますわ。登録名は有名だけれども、本名がわからない人気選手みたいな感じですわ
それにGPも喋り方が普通ですし、まだ変質者では無いのでしょうか。
二人に連れられ公園のような場所に連れられたワイちゃんと少年。
GPに挨拶を。と促されたので、ヒーローインタビューの如く挨拶をすることにしましたの。
「みなさま! ワイちゃんは球界の王ですわよ。一緒にやきうしませんこと?」
ワイちゃん渾身のあいさつに、子供たちは――
「やきう? どんなあそびなの?」
「おままごとのほうがいいのー」
「ワーイワーイ」
「そんなことよりサッカーしようぜ」
「こらジーン。サッカーは違う遊びでしょ」
「ミリルだってドリブルうまいじゃん」
心が場外でしたわ。この場所ではやきうが未開拓なのでしょうか。
「俺はエルク。村に帰りたい」
次回幼稚園編スタートですわ。
「なあワイ」
「なんですのエルクさん?」
「どこに向かってしゃべっているんだ?」
「全世界のやきうファンに向かってですわ」
おままごとやお砂場遊び。それと滑り台というお子様セットを満喫している皆々様に、わたくしは少々歯がゆい気持ちを抑えきる事が出来なかったようで――
「やきうしませんこと?」
わたしの問いに答える子供など居なく。
一緒に来ていたエルクさんでさえ、どうやら同じ年頃の子供たちと打ち解けているではありませんか。
「私はミリル。エルクだっけ? いきなり村に帰りたいって言ってたよね? 何かつらい事あったの?」
「爺ちゃんや父ちゃんが心配で」
「何だ、お前親が居るのか」
「お前らは居ないのか?」
「ここにいる子達はみんな親の顔も知らないわ。私や、こっちのジーンもそうよ」
「ミリル。俺たちの事はどうでもいいじゃんか。それよりサッカーしようぜ」
ふと公園を見渡すと、
これはお嬢様やきうに誘うしかありませんわ。目が合うとなんとワイちゃんの方へ話しかけてきたではありませんか。これはスカウトちゃんやね。
「君はみんなと遊ばないのかな?」
「やきう以外に興じるつもりはありませんわ。あなたはいかがかしら? 淑女も嗜むスポーツでしてよ」
「初めて聞く遊びだけど、どうやってするの?」
やはり未開の地の子供達だったようで。ワイちゃんのスパルタ指導が始まりましたの。
髪の長い少女とやきう遊びに興じていると、お子様たちも興味を持ち始め――
「このボールサッカーのボールと違うけどどう遊ぶんだ?」
「あら、あなたは確かエルクさんと遊んでいた球蹴り好きの子供達ですわね」
「な、なんで睨むんだよ」
「ジーンが何かしたんじゃない?」
「ミリルだって同じようなもんだろ。エルクも何か言ってくれよ」
「俺はやきうを知りたい!」
エルクさん達も加わり、ワイちゃんの魔球を打ってみようのコーナーがはじまったのです。
「最初のバッターは誰かしら?」
「俺だ!」
「あらジーンさん」
間髪入れずビーンボールを投げて差し上げますの。ワイちゃんの剛速球に反応しているではありませんか。
「さっき説明してたルールと違うじゃねえか!」
「あら? 手が滑りましたわ。サッカーと違って、手も使いますのよ?」
「ぜってー打ってやる」
意気込みと、反応速度は〇といったところでしょうか。
しかしワイちゃんの変化球には、ついてこれなかったみたいやね。
「もっと打たせろ!」
「三振したらバッターアウトですのよ」
「サッカーなら負けねえ!」
「あいにく、球を蹴る趣味は無くってよ」
サッカー少年のジーンさんを、三振で仕留めたわたくしは、ネクストバッターに目をやります。
「ミリル! がんばれー!」
「エルク。お前ミリルの事好きなのか?」
場外では恋バナで、盛り上がっていますわね。
「全部ストレートで、打ち取って差し上げますわ」
「私はジーンのようには、いかないから」
一球目二球目とど真ん中ストレート見逃しで、追い詰めたのです。
「バットを振らなきゃ当たらなくってよ?」
「次はバットに当てるから」
勇ましく言い放ったミリルさんは、先程とフォームを変え一本足打法を使ってきまして。
思わず完成度の高いフォームに気を取られすっぽ抜けてしまいましたの。
でもそれが功を奏したのか、球速の遅い球にタイミングが合わず球にかすっただけでした。
「ピッチャーゴロでタッチアウトですわ」
項垂れるミリルさんに代わりエルクさんがバッターボックスへ――
「俺が仇は取ってやる」
「まあ、気合十分ですわねエルクさん」
小手調べのチェンジアップ。遅めの落ちるボール。これにどう出るのかしら、と見ていたら初球からかすらせてきましたの。
「どうした? そんな遅い球じゃなく、速いのを頼むぜ」
「三者凡退と行きたいところですけれど、エルクさんは一筋縄ではいかないみたいですわね」
二球目は
緩急をつけた変化球に対応し、エルクさんはまたもや捉えるのですが、後ろにファールという結果に。
「次で最後ですわ」
「俺よりはやい!」
なにやらエルクさんも燃えてきているようで、わたくしは決め球の
通称縦スライダーと呼ばれるこの魔球。フォークボールと比べコントロールを失うことも少なく、投手経験の少ないワイちゃんでも扱いやすいのですわ。
「ちっこれまでか」
「これで三者凡退ですわね」
ワイちゃんのデモンストレーションに子供たちは沸き上がります。
歓声の中、どうやって変化球を投げるのか、など子供たちが盛んに質問をはじめ、公園は一気にやきう一色。
「ねぇ。わたしも打ってみたいけどいいかな?」
そう言って名乗り出たのは、先程の髪の長い少女でしたの。
わたくしはそのエキビションマッチを快く受けて立つのでした。
「よろしくってよ。バットの長さはそれでよろしいのかしら?」
先程まで使っていた棒は、子供用に短めのバットだったので、少々大人な少女には長いバットが良いとすすめてあげましたの。
「ちょうどこのぐらいのバットが良いと思いますわ」
「ワイちゃん。ありがと」
にっこりと笑いながらバッターボックスに立つ少女にワイちゃんは早速ビーンボールを投げるのですが――
カキーン。パリーン。
公園から見える研究施設の窓ガラスにワイちゃんが投げた渾身のボールは見事ホームランしたのでした。
「当てちゃった……」
「場外サヨナラホームランですわね」
髪の長い少女はびっくりしながらも喜んでいたのでした。
大事なのは子供が喜ぶ事なんやね。
ただ困ったことにガラスを割ってしまったのを施設の職員に階越しに叱られそうになりそうになりまして。
「これは……誰の仕業でしょうか?」
上から聞こえる声は聞き知った声でしたの。どうやら髪の長い少女も同じことを思ったようでして。
「あ! ジェフリー先生! ガラス割っちゃった誤魔化しといて!」
先程ホームランを打ったのが嬉しかったのか、大人びた表情をしていた髪の長い少女が年相応のあどけない笑顔で、GPにおねだりをしていたのです。
GPはやれやれといった表情で、ボールを白衣に付いたポケットにしまいこみ、手を振り返していました。
「ワイちゃん。内緒だよ?」
「ええ。これでホームラン打たれた記録も無効ですわね」
見事なフルスイングでホームランを放った髪の長い少女にバッティングを教えてと、子供たちが群がっています。本当はワイちゃんは打者が本職ですのに。
一通りやきうを嗜み、疲れたわたくし達はお世話になる研究所に用意されている子供部屋へと、歩みを進めるのでした。
「へぇ結構広いんだな」
「ワイちゃんは上が良い? それとも下?」
「もちろんワイちゃんはみんなの上ですわよ」
エルクさんと共に部屋に入ると、そこではジーンさん、ミリルさん、そして髪の長い少女とその傍らには、ひと際幼い色黒の少女が居たのです。
「エルク! 一緒の部屋だったなんてな! こっち来いよ!」
「ジーン。ケンカしないでよ」
「ベッドはどこにしようかな?」
髪の長い少女がベッドで寝る配置を決めてくれていますわ。
ベッドコーチと呼ぼうかしら。
部屋の中には、右側と左側の端に、二段ベッドが二つありまして、一つのベッドでは一段目にミリルさん。二段目にジーンさんとエルクさんが、仲良く寝ておりましたわ。
もう一つのベッドの方にワイちゃんが上に寝ていまして、その下に髪の長い少女と褐色の少女がすやすやと睡眠中でしたわ。
皆さんが寝静まってきたので、ワイちゃんは枕投げ大会があると思い、スタンバイしていたのですが、杞憂に終わったのでした。
ジュイン
寝息の中に混じる謎の効果音にワイちゃんは目を覚まします。
暗闇の中で、下のベッドを見てみると、髪の長い少女はおらず、褐色の少女だけが寝ていましたの。
夜中に素振りの練習でも行ったのでしょうね。
ワイちゃんも負けじと公園へと向かいます。
ですが公園で見たモノは予想とは違って――
「まるでガスの魔球ですわね」
「あっ。起こし、ちゃった、かな」
「その姿はやはりここの研究でかしら?」
「この、施設の事……知ってるの?」
ワイちゃんは、恐ろしい計画を語ります。この施設は
「ワイちゃん、私の、姿を、見て、驚かないの?」
「あら? わたくしのやきう界では、姿形でチームメイトを判断したりしませんわよ?」
ふわふわと漂うガス体が、子供のようにくるくるとワイちゃんの周りを飛んでいましたわ。
乗ってみてと、促されわたくしは、ガス体に変身している少女に乗ってみましたわ。
「これでは雲の上のおじょうさまと揶揄されそうですわね」
夜の公園で空中散歩。これはワイ散歩の究極進化系やね。
警備などもおらず、ワイちゃん達は自由な時間を満喫していましたら、窓越しに、ヴィルマーとGPの両博士を見つけましたの。
「先生たち、なにを、話してる?」
ガス体の彼女が聞いてくるのでワイちゃんは、相手チームの作戦看破用に習得していた、読唇術で、読み取ろうとするのですが――
「ワイちゃん?」
「ええ……そうですわね。研究がなかなか進まないと、お叱りを受けているようですわ」
「そっか。大変、なんだね、先生の、力に、なれたらな」
少女の表情こそわかりませんでしたが、気持ちが落ちているのか、高度も落ちていきます。
「みんなに、心配、かけちゃ、いけないから、もどろっか」
咳き込みながら、髪の長い少女は変身を解くと、帰路へ就きはじめましたの。
帰り道で、変身をすると喉が焼けてしまうので、喋るのが下手になると、笑顔で仰っていた姿が、闇夜に映えて印象的でしたわ。
翌日も公園で素振りやシャドウピッチング等軽いトレーニングで子供たちを鍛えていましたの。
夕方には公園に集合しろと、GPが呼ぶので子供達を連れて集まると、なにやらお別れの挨拶というではありませんか。
白い家の屋外業務を担うのだと語ります。子供たちはGPを慕う気持ちからか、先生先生と涙ながらに別れを惜しむ様子でしたわ。
髪の長い少女は年長者の意地なのでしょうか、引退試合の選手を笑顔で見送ろうとするファンのように作り笑いをして、見ているこちらが悲しくなりそうですわ。
「ジェフリー先生……元気で」
「今日は昨日のように元気がないのですね」
GPは何かを思い出したかのように白衣のポッケから白い球を出し始めます。
「これをどうぞ。もうガラスを割ってはいけませんよ」
受け取った髪の長い少女は、球のような大粒の涙を流しておりましたわ。
「ジェフリー先生は子供たちに大人気のようだな」
「ガルアーノ……さん」
「研究に力を貸すというのなら今からでも、配置転換を取りやめてもいいぞ?」
ガルアーノの甘言に惑わされたのはGP本人ではなく、髪の長い少女の方でしたの。
「先生居なくならなくて済むんですか!?」
「そうだな。誰か子供の協力も必要だが。研究の結果次第では取り消すことも可能だ」
GPは暗い顔をしておりワイちゃんは空気を読まずバットでガルアーノをフルスイングしようと思ったのですけど、ガルアーノは小さな子供を抱きかかえてり、過激な行動が制限されてしまったのです。
そのままGPや髪の長い少女たちはガルアーノに連れられ研究施設の中へと入っていったのですわ。
ヴィルマーに促され、ワイちゃんを含めた子供たちは、部屋へと帰らされる事に。ヴィルマー博士は終始拳を握りしめ、その握りしめた拳からは、赤い雫が垂れていましたのでした。
「おじいちゃん血が出てる」
「リア……部屋に戻って休んでなさい」
同室の褐色の少女はリアさんというのですね。そういえば、ヴィルマー博士と一緒に居たお孫さんも、いいえ今はやめておきますわ。
「ヴィルマーさん。この施設はシルバーノア以外の交通の手段はありまして?」
「そんなものは無い。この白い家は天然の要害。大人でも簡単に外には出られない。ましてや子供を連れてなど……」
ヴィルマーさんが言うには、施設の外は森が広がっており、その先は砂漠。
とても子供を連れてはいけないと言うのです。
ただ例外があり、緊急マニュアルというのが存在し、施設に何らかの危機が及べば、ロマリア本国からの支援という名の殲滅部隊が飛来するとの事。
部屋に戻るとリアさんが一人で寝るのは寂しい、というのでワイちゃんが一緒に寝て差し上げますと言うと、安心して眠ってくれましたわ。ワイちゃんの人徳やね。
空になった上の段にエルクさんが寝ていましたので声をかけてみたのです。
「エルクさん起きてまして?」
「村の事を思い出して眠れなかった」
「ホームシックですのね、でしたらまたシルバーノアに乗って帰りませんこと?」
「も、戻れるのか!?」
「大きい声で、はしたないですわよ? 危険な業務はわたくしが担いますので、警報がなったら、エルクさんは子供たちを連れて、公園で待機してくださいまし」
そう言い残し、ワイちゃんは単独でホームスチールをするかの如く公園へと向かうのでした。
幸い昨日ボールが飛んでいって割れてしまった窓から侵入が可能なので、わたくしは勢いをつけて飛ぶことにしたのですが――
「ワイちゃん。危ない、事は、駄目だよ」
「よければワイちゃんを連れて行ってほしいのですけど」
「ごめんね。これから、大事な、用事が、あるから……」
物憂げな表情の髪の長い少女が割れた窓ガラスから顔を出していましたわ。
「ワイちゃん……これ、受け取って、ほしいな」
髪の長い少女の握りしめた手の中には白いボールがありまして、わたくしは癖で、捕球する構えになってしまいまして。
少女の手から投げ出されたボールは風に乗りながら、ゆっくりと舞い降りるかの如く、白球がゆらりと、ワイちゃんの方へと向かってきます。
頬を撫でるような風が、
◇
研究所内のある一室。
「ジェフリー。貴様は研究者だろう? 最新の研究に携われる事を幸運に思うべきだと思うがな」
「ガルアーノ……」
「あまり妙な事は思わない事だ。いつでも
ガルアーノは部下の黒服達を引き連れ、極秘裏の研究を進めていた。
被験者となる人物は、子供を扱ったキメラ研究チームの主任ジェフリー。
そして被検体で、ガス状のモンスターに変身できる少女の二名。
「わたし、先生の、為なら、何だって、するよ」
「ハハハ。子供の方が理解が良いようだな。キメラ研究の試金石にせいぜいなってくれたまえ」
大人である人間へのキメラ細胞定着率の低さをカバーするため、人間と、キメラ化した子供を合わせたキメラを作るという研究を、ガルアーノは力を注いでいたのであった。
主任であるジェフリーは、子供の命が必ず失われてしまう、当研究を止めていたのだが――
「ガルアーノ! 機械を壊せばこの計画自体も……」
機械の操作盤に付いた非常ボタンを押そうとするも、それはダミーで、滑稽な姿を確認すると、ガルアーノは部下に命じ、黒服によってジェフリーは捕らえられてしまう。
「利口さが無いのなら、例えこの研究においての第一人者といえど殺すしかないな」
「先生に、酷い事、しないで!」
鋭い風が部屋に舞い込む。ジェフリーを羽交い絞めにしていた黒服もろとも眠らせ、少女は機械の装置に身をゆだねる。
「きっと、目が、覚めたら……」
少女は口を最後まで動かすことなく、機械だけが無情に動き、心を置き去りにした悲しきキメラという
【デスを覚えた】
LV11 HP45 MP22
攻撃力:8
防御 :7
魔力 :12
敏捷度:4
武器熟練レベル:体当たりLV3
特殊能力
スリープウィンドLV3・デスLV2