すやすや寝息のワイちゃん。
これはおじょうさま度高いですわね。
夢の世界でワイちゃんは、ついに誰も成し得なかった、宇宙リーグでサヨナラホームランを放ちましたの。
勝利をもぎ取ったヒーローなので、もちろん胴上げが始まります。
歓喜の瞬間。チームメイトの祝福。対戦相手からの拍手。
幸福の頂へと、皆がワイちゃんを押し上げてくれています。
心地よいのに、しかし何かが欠けてしまってるような。
大事なことを忘れているように感じてふと辺りを見ると、周りの景色が歪んで見えてきて。
黒い影が話しかけて居ていましたの。
お前は違う
ぼやけて、聞こえないフリをしていたら。
俺は
身動きができない。
息をすることさえできず。
わたくしを持ち上げてくれていた手は真っ黒に見え。
輝かしいドーム球場もナイターが終わり、誰も居なくなったかのように真っ暗。
どうしてでしょうか。
握っていたボールだけが白くて。
「これはわたくしの夢?」
気が付けば、公園で寝ているワイちゃん。
手にしているボールには文字が書かれていましたの。
サインとはまた違う。それでも想いだけは誰にも負けていない、
渡さなくては、繋がなければ。
ここで途切れさせては、悔いが残ってしまう。
夏が終わってしまった、高校球児の忸怩たる思いに似た感情は、わたくしを奮い立たせ、昏倒状態の身体を酷使し、バットを杖代わりに、研究所内へと突入。
そこでワイちゃんが目の当たりにしたモノは。
「素晴らしい。成人の肉体へのキメラ融合が、これほどうまくいくとは」
黒服を従えた、歓喜のガルアーノでした。
そしてガルアーノと対峙していた人物に、わたくしは
「かみの長い女をよこせ」
「精神がイカれて使い物にならないな、破棄しておけ」
ガルアーノの命令で黒服達がGPを取り囲むと、突如身の毛もよだつ空気へと様変わりし、黒服達の姿が消えたのでした。
「ほう……黒服どもを一瞬にして消すとは、なかなか見所があるな」
デスと呼ばれる禁忌の魔術。対象者のレベル差によって、成功の有無が決まるという魔法。
成功したかどうかは、対象者がザビエルみたいなのが、見えたらアウトという。
徐々に周りの黒服達が、もがき苦しみながら消えていき、追い詰められるガルアーノだったが。
「ガルアーノ……お前、だけは、許さない」
「ジェフリー。ここが誰の研究所かわかってないようだな」
ガルアーノがスイッチを押すと、室内に備えられていた画面が映り、広場が映し出され、そこにはワイちゃんが、エルクさんに指示したために、公園に集まっていた子供たちが。
先程まではもぬけの殻の
リリーフ失敗。ワイちゃんの脳裏に過る不穏なフレーズ。
音声は入っていなかったものの、黒服達に銃を向けられ、泣いている子供たちの悲痛な叫び声が伝わってきましたの。
GPは子供たちを見て、苦しみながらも自我を保とうと必死でしたの。
ワイちゃんは状態異常の中で、もつれる足が引っかかり、ボールを落としてしまいました。
転がってゆく白い球。追いかける事すらできず、GPの元へコロコロと。
「これは……」
ボールに込められた想い。
ガルアーノはあえてGPに近づいて、傍にあるボールを踏みにじり、嘲笑する。
「実験の前に何かしていたとは思ったが、まさか貴様への最後の言葉とはな。よほど好かれていたんだな。良かったじゃないかジェフリー。一つになれて」
ガルアーノの尖った靴の下にあるボールに、GPは泣き縋るかのように嗚咽を漏らす。
しかし嗚咽に聞こえたその声は呪詛で、その事にワイちゃんが気付くころには、巨大なザビエルが頭上へと現れ――
「なぜ……ですの効果範囲にワイちゃんは居ないはずですのに」
部屋に設置された画面の方に目をやってみると、そこでもザビエルが。
気分は、野球盤ゲームの登場人物になって、一挙手一投足を覗かれているみたいですわね。
デスの効果と、状態異常の重ね合わせにより、ワイちゃんは先発ピッチャーなのに、18回裏まで投げているような感覚に襲われますの。
意識をなくしてしまえば、恐らくザビエルに命を持っていかれる奴ですわ。
「ジェフリー! 貴様何をした!?」
ガルアーノは立っていられないようで、地面に這いつくばるような形でGPを睨みつけていましたの。
GPはうわ言の様に、髪の長い女をよこせと、ただひたすらつぶやいています。
これはアカン奴ですわ。
手も足も出ない。悲壮感漂う試合会場には、もはや誰も声をあげず、
HPMPバグチートすらも貫通する。特殊能力の前にワイちゃんは、惨めったらしくお亡くなりになるのでしょうね。
最後の頼みの綱である、形見を握りしめても飛ぶこともできません。
肝心な時に電池切れかしら。
目の前が真っ暗になる夢は、正夢でしたの。走馬灯のように、この世界に来た当初の記憶が流れていきますわ。溢れる思い出に触れると、アークデーモンおじさんとグレーターデーモンおばさんの
「わたくしが死んだら、ワイちゃん賞の設立頼みましたわよ」
この世界の球界を憂いながら、ワイちゃんの意識は消えてしまったテレビのように、真っ暗になったはずなのですけど、音だけが聞こえてきます。画面に繋いだ黄色い線だけが抜けてしまったのでしょうか。
「お前は俺。俺はお前」
「あなたは誰ですの?」
「
「もしあなたの言っている事が正しいのでしたら、あなたも死んでいる事になりますわよ?」
「違う! 我らが母。蘇らせてくれた!」
我らが母という聞き覚えのある言葉。あの黒人が語り掛けているのでしょうか。
「世界に拒絶された者が、どんな末路を辿るか、お前はわかっていない」
この世界に来てからの生への執着。バッドエンドへの異様な忌避感。
わかってたのでしょうね。わかっていたからこそ、あらがったのでしょうね。
真っ暗な中ワイちゃんの目にはステータスだけが表示されていましたの。
存在という、この世にたった一つしかないモノを争う。
バッターボックスは二つあっても、一度に一人しか入れないのですから。
「例え俺が、お前の影であっても。お前を正しい場所へと、俺は連れていく」
「正道など邪道ですわ。真のやきう道とは楽しむことですわ!」
勢いのある言葉とは裏腹に、こちらの攻撃は空を切るだけで、視界の無い場では、相手の動きすら読めなくて。
黒く塗装されたボールを、明かりの無い真夜中に、放り投げられているかのようで、ボールを取る余裕など皆無でして、油断すれば命とりという劣悪な環境ですの。
力量の拮抗した戦いは、
「お前の行いが歪みを大きくし、歪みが大きくなればなるほど、不幸は増える」
「わたくしの戦いは、無意味だったと仰りたいのかしら?」
「お前を消さなければ、この世界は壊れる! だから俺は……」
暗闇の中。自らの手すら見えぬ戦い。
ワイちゃんのバットに衝撃が伝わります。手ごたえありですわ。
すると、どうでしょう。
光が突如差し込み、目の前が明るくなりましたの。
しかし辺りを見渡しても黒人など居らず、わたくしがただ一人佇んでいただけで――
「おやおや。お前さん……変わっちまったみたいだねぇ」
「あなたはまさか!? それに変わったというのはどういう意味ですの?」
光そのものに、声を掛けられたワイちゃんは、驚きを隠せませんでしたの。
「話し合いをして、愛しいつくしむ力を得られたかい?」
「そんなこと言われずとも、わたくしは球界を愛していますわ」
「
「ごちゃごちゃとうるさいですわよ!」
はしたなく怒鳴るワイちゃん。一瞬の静寂の後、光は輝きを増していましたのです。
「ところであんたの
光る存在の問いに含まれた名前は、ワイちゃんの良く知っている名前で。
「相変わらずアークデーモンの野郎はグレーターデーモンの尻に敷かれてるのかねぇ?」
なぜという言葉の猛虎打線が爆発し。飲み込む事すらできない不安の塊が活きの良い代走選手の如く、口の中をぐるぐると駆け回ります。
「あなたいったい何者ですの? おじさんとおばさんとはどういう」
「あんたは自分が何者か知ってるのかい?」
光る何者かに村のみんなとの関係を尋ねようとした矢先遮られるのでした。
名キャッチャーのブロックレベルですわね。
「わたくしは魔族のお嬢様で、球界の王になる者ですわよ」
「なるほどねぇ……あんたのその格好は、アークデーモンの野郎の趣味といったところかねぇ」
それは年俸査定の人間が観戦に来ているかのような、冷たい視線に晒された気持になり、わたくしは震えましたの。
「別に取って食おうってわけじゃないよ。あんたに忠告しに来ただけだよ」
「わたくしに忠告ですって?」
「そうだねぇ……今のあんたは、あんたの遊びで言うところの、
退場。それ即ち、選手や監督が、現在進行中のゲームに参加できなくなることであり、選手の場合ですと。
退場させられた人物が、出番中もしくは、出番が回ってきた時に、強制的に交代させられるという状態ですわ。
「待ってくださいまし。向こうにわたくしの救いを求めてる人たちが、まだ居るのですわ! 戻らなければなりませんの!」
「今のあんたが戻ったところで結果は変わらないよ。どうやら少し頭を冷やさないと駄目だねぇ」
呆れたような、しゃがれ声が、わたくしに語り掛けた瞬間。
わたくしの手に持っていた形見が輝きはじめましたの。何かしらの強制的な力でしょうか。
光の中にワイちゃんは溶けていって――
「その救うという言葉。口先だけじゃないことを祈ってるよ」
◇
ワイちゃん山で高地トレーニングの巻きですわ。
光る謎の存在に飛ばされたワイちゃんは、山に囲まれた田舎に居たのです。
謎の存在はわたくしに何をさせようとしているのでしょうか。
状況を理解する事が出来ず、止まってしまった思考回路を、押し殺すかのように、体は反比例するように動いておりますの。
朝露が滴る山を二塁から三塁を盗むが如く速さで駆け、とりあえず街に行ってスカウト活動ですわね。
颯爽と現れるお嬢様スカウトマンに、田舎の野球少年たちは驚きですわ。
なんか看板にラムールとか書かれてる街に到着し、さっそく子供たちに声をかけるのです。
「またホルンの魔女が出たんだって」
「怖いなー。連れてかれて化け物にされるんでしょ?」
「わたくしと一緒にやきうしませんこと?」
「早く帰って戸締りしなきゃ」
なぜか無視されます。
すでに地元には
それにしても、わたくしへの扱いは、まるで高額トレードでやってきた選手への、球団内いじめのようですが、そんなものに負けませんわ。
言葉の壁にぶち当たった、助っ人外国人の気持ちでしょうか。それでも陽気なキャラで接すれば、そんな壁なんて壊せるのは、知っていますのよ。
「今日は満月の夜じゃのう」
「わたくしと一緒にやきうしませんこと?」
「満月の夜は魔女の行軍があるみたいだよ」
「満月っぽいやきうのボールもありますわ」
「おじいちゃんは魔女見たことあるの?」
「見ていたらもうこの世にはおらんよ。魔女に連れていかれてしまうからな」
日が暮れ、ナイターゲームが始まろうとしている時間になっても、ワイちゃんの声が届くことはありませんでしたの。
とぼとぼ。わたくしはコールド負けしたチームのファンみたいに、惨めに歩いていましたら、目の前に百鬼夜行と言い表すほかない、奇妙な集団と出くわしてしまったのです。
よく見るとその集団は、モンスターの大群で、各種族の様々なモンスターが仲良さげに共に歩いているではありませんか。
更に目を凝らすと先頭を歩いているのは、一人の少女だったのです。
間違いなく逸材と、瞬時に判断したワイちゃんは、早速スカウト活動に――
「わたくしと一緒にやきうしませんこと?」
「やきう? それはなんだい?」
「あら、あなた言葉が通じますのね!」
「言葉が通じない? もしかしてあんた精霊の加護がないのかい?」
「精霊の加護?」
わたくしは突然言われた、精霊という単語に困惑していると、少女が付いてきなとハンドサインをするので、ついていくことに――
「ようこそホルンの村へ」
少女に案内された村はホルンという名前で、自然豊かで人のよさそうな住民が少女を出迎えますの。
「またモンスターを連れて村を出たのか」
「運動不足の子もいるし、しょうがないだろ?」
小言いわれてますわね。どうやらモンスターを連れていたのは、動物の世話感覚のようでしたのね。
「みなさんでやきうして運動すればよろしくてよ!」
「あんたが言ってた、やきうというのは、運動だったのかい」
少女は笑いながら、手を差し伸べてきます。有名選手だと気付いて握手の要求でしょうか。
ワイちゃんは気さくに応じます。
「自己紹介がまだだったね。私はクレア。街の奴らからは、ホルンの魔女と呼ばれてるねぇ」
LV80 HP2S MP3B
攻撃力:H+37
防御率:-
魔力 :153
敏捷度:A
武器熟練レベル:棒LV14・キックLV3
特殊能力
ドリームノックLV3・乱れ打ちLV3・ストライクパワーLV3・スピードアップLV3・パワーシュートLV2・ナイスキャッチLV2・ミスキャッチLV2
LV80 HP2S MP3B
攻撃力:H+55
防御率:-
魔力 :137
敏捷度:C
武器熟練レベル:棒LV14・キックLV3
特殊能力
ドリームノックLV3・乱れ打ちLV3・ストライクパワーLV3・スピードアップLV3・パワーシュートLV2・ナイスキャッチLV2・ミスキャッチLV2