ドラゴンクエストⅤ~新たなる世界と新たなる者たち~   作:メソウサ

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プロローグ

魔王ミルドラースは伝説の勇者たちに倒され、世界に平和が訪れた。

 

相変わらず魔物たちは出現していたが、かつての凶暴さは鳴りを潜め、無闇に人や町を襲うようなことは無くなっていた。

 

それから6年の月日が経った。

平和になった世界は加速度的にその様相を変えていく。

新たな村や町、更には国までが誕生し、世界地図は一変した。

 

誰もがこの平和と繁栄は続いていくものだと信じていた。

しかし、形あるものはいずれ壊れてしまう。

それは今の世界も同様であった。

 

 

「やはり、聞き入れてはくれないのか…」

 

まるで黒曜石のように黒々とした髪と目の青年が残念そうに呟いた。

彼こそは大国グランバニアの王、アベルその人である。

柔和そうな見た目通り、とても心の優しい王であり、臣下や国民からはとても慕われていた。

 

「先程入った報告によると我が国の使者は城内に入ることすら叶わず…とのこと」

 

アベルの側では、前国王で現在の大臣であるオジロンが眉を顰めている。

 

「文字通り門前払いですな、王」

「僕たちを警戒しているのだろうか?」

「ただ警戒しているだけならばいいのですが、何か良からぬことを考えているのではないかと否が応にも邪推してしまいますな」

「いけないよ、オジロン。相手を最初から疑ってかかっちゃ」

 

アベルは窘めるように言う。

尤も、オジロンがそう思ってしまうのも仕方が無い。

北西の大陸、ルラフェンの西に新たな国ガレオンが誕生したのは、今から2年前のことであった。

元々この大陸は港町ポートセルミから大富豪ルドマンのいるサラボナの町にかけて人の往来がとても多かった。

その多くは商売を目的とする商人であったが、中にはそのまま留まり、暮らす者たちもいた。

そういった人々が集まり、独立したのが新国家ガレオンであった。

現在、グランバニアはこのガレオンと新たに国交を築こうと再三使者を送っていたのだが、どれも不発に終わっている。

内外からの商人が他よりも多くやって来るガレオンは発展目覚しく、建国から僅か2年で他の国にも負けない程の強大な武力を手に入れていた。

ガレオンは新興国家故に得体の知れないところも多く、国交を築くことでその動向を探る意味合いもあったのだが、こうして何度も失敗を重ねているとオジロンの想像が正しいのではないかと不安になる。

 

(そう思いたくは無いけれども、もしも彼らが他国への侵攻を考えていたとしたら…)

 

人として相手を信じること。

一国の王として最悪の事態を想定すること。

相反する思いを抱え、アベルは思い悩む。

 

現在の勢力図としては、古くからの大国グランバニアを初めとし、武の国ラインハット、神秘の国テルパドール。

そして新興国家であるガレオンとセントベレス山に出来た宗教国家ニルヴェインの5つの国が存在している。

この内、グランバニア、ラインハット、テルパドールの3国は同盟を結んでいる為、問題となるのはガレオンとニルヴェインであった。

特にガレオンは他国との国交を拒んでいることがネックであった。

急激に力をつけて台頭してきたことといい、勢いそのままに他国へ攻め入る可能性が否定出来ない為、頭痛の種となっている。

もう一方の『光の信徒』という宗教から発足されたニルヴェインもまた気になる国ではあるが、その思想や教えはかつて世界を席巻した過激な宗教団体『光の教団』とは異なり、穏健的なものであったこと。

国交こそ築けてはいないものの、それはセントベレス山の上という交通の便が悪く、そう易々と使者が送れないといった事情もあり、ガレオンのように明確な拒絶を受けてはいないということ。

また、ガレオンとは異なり、武力という面においては他の4国に比べて明らかに乏しいということ。

それらのこともあって、ニルヴェインはそこまで問題視されてはいなかった。

 

兎にも角にも、世界は新たな国の誕生と共に情勢が刻々と変化しつつある。

それは今、この時もである。

 

 

「…それに最近は魔物たちも再び凶暴になり始めていると聞きますからなあ」

「今でもそのことが信じられないよ、オジロン。ついこの間まで、あんなに大人しくなっていたのに」

「しかし、事実として魔物たちの凶暴化は相次いでおりますぞ、アベル様」

 

オジロンの隣にいたローブを被った老人のような者が口を開いた。

彼は魔法使いのマーリン。

とても賢く、魔法使いの名に恥じぬ程の知識を蓄えている為、現在は王宮仕えの魔導師として、時にはこうして国政にも携わったりしている。

実は彼は人間ではなく魔物である。

何故、魔物がこんなところにいるのか。

それはアベルが世にも珍しい魔物使いだからである。

アベルには凶暴な魔物を大人しくさせ、時には仲間に引き入れてしまうことを可能とする力があった。

そうして仲間となった魔物たちは今もこのマーリンのようにグランバニア城内で仕事をしたり、彼らの面倒を見てくれるモンスターじいさんと呼ばれる老人の元に預けられたりしている。

 

「マーリン、原因は分かるかい?」

「ふぅむ…何やら良からぬ瘴気が世界に蔓延しつつあるようですなぁ」

「瘴気?」

「はい。何かこう…魔物としての本能を刺激するような、そんな瘴気です」

「そんなものがどうして…」

「私にも分かりません。ただ、世界の何処かからその瘴気が湧き起こっているのは事実です。私たちみたいにアベル様に従っている者たちには大きな影響は出ていないみたいですが、そうでない魔物は理性を失い凶暴化しているようですな」

「そうか…」

 

アベルは思わず眉間に皺を寄せた。

ただでさえガレオンの件で頭を抱えているのに、それに加えて魔物まで暴れているとなると、状況は更に悪化の一途を辿る。

 

「あなた…」

 

思い悩むアベルに優しげな声を掛ける青い髪の美しい女性。

清楚で可憐な雰囲気と何処か儚げな印象を持っている。

彼女の名はフローラ。

アベルの妻であり、グランバニアの王妃でもある。

普段は国政に大きく携わることをしない彼女であったが、ここ何ヶ月、国の為民の為と気の休まることのない夫をずっと心配しており、とうとうこうしてアベルの元へやって来たのであった。

 

「フローラ…」

 

アベルはフローラのそんな気持ちをすぐに察すると、咎めるようなことはせずに人目も憚らず彼女を抱き寄せ、軽く口づけをした。

 

「有難う。…ダメな夫だな、僕は。妻にこんな心配かけて」

「いいえ、あなたはとても立派です。私の方こそ、こうしてあなたを心配することしか出来なくてごめんなさい」

「ううん。そんなことはないよ。君がこうして側にいてくれるだけでどんなに僕の力になるか。愛してるよ、フローラ」

「私こそ愛していますわ、あなた」

「…どうやらワシらはお邪魔のようですな」

 

オジロンとマーリンが空気を読んでその場から下がっていく。

結婚してから10年以上も経つというのに、アベルとフローラはまるで新婚のように初々しく熱い関係を保っていた。

尤も、彼らは結婚してから1年も経たずに長い間離れ離れになってしまい、アベルは8年、フローラは10年もの間、敵の呪いで石像と化してしまっていた。

逢えない時間が愛を育てるとは言ったもので、時を経て再会した2人の愛はとても大きいものになっていたのであった。

石像にされたおかげで2人は実際の年齢の割りに肉体年齢も精神年齢も若々しく、それが今も愛を燃え上がらせている要因の1つなのかも知れない。

日頃の激務もあり、こうして夫婦で愛を交わす時間は中々取れない。

アベルはせめてこの少しの時間だけでも、2人だけの世界に浸ることにした。

 

 

「…お父さん、お母さん」

 

抱き合う2人へ声を掛け、現実に引き戻したのは、フローラと同じ濁り1つない海のような青い髪の美しい少女であった。

彼女はアベルとフローラの娘のタバサである。

2人の娘ということは、当然彼女はグランバニアの王女ということになる。

 

「タバサ、どうしたんだい?」

 

アベルが優しく尋ねる。

 

「鳥さんたちや動物さんたちが怯えているの。それに、魔物さんたちも…」

 

悲しげな顔をしながらタバサは言った。

タバサは人間以外の生き物と心を通わすことが出来る。

これは彼女が父親であるアベルの魔物使いの血を色濃く受け継いでいるからだ。

彼女もまた、魔物たちの様子がおかしいことを感じていた。

 

「ミニモンちゃんも、クックルも、ブラウンも、皆不安がっているの…」

 

彼女が口にしたミニモン、クックル、ブラウンとは、順にミニデーモン、クックルー、ブラウニーという魔物である。

アベルが仲間にした魔物たちの中でも、特にタバサが可愛がり、また彼女に懐いてるのがその3体であった。

 

「私…怖い。何か、良くないことが起こりそうで…」

 

昔から彼女には、第六感とも言うべき予知的な能力が備わっているようであった。

だからこそ、いつもこうして怯えたような表情を見せていて、アベルはそのことをとても不憫に感じていた。

 

「…大丈夫。何も怖くない。父さんがタバサやみんなを守るから」

「お父さん…」

 

アベルはタバサの不安を払うようにギュッと抱き締める。

16歳にしては精神的にまだ幼さを残す彼女ではあったが、昔から怖がりであっても、芯の弱い子では無かった。

そんな彼女がこれだけ怯えを見せているのだから、ただごとじゃないことが現在進行形で起きているのは間違いない。

 

「…お兄ちゃん、大丈夫かな?」

 

タバサがポツリと呟いた。

彼女の兄であり、グランバニアの王子であるレックスは現在魔物たちの動向調査の為に、グランバニアから離れていた。

 

「レックスなら大丈夫。タバサのお兄ちゃんなんだから。それに…」

 

アベルはタバサの髪を優しく撫でる。

彼女の不安を少しずつ少しずつ、拭い取ろうとしているかのように。

 

「レックスは伝説の勇者なんだから」

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