ドラゴンクエストⅤ~新たなる世界と新たなる者たち~   作:メソウサ

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外伝2 ベラの任務

サラボナ地方には迷いの森と呼ばれる森林地帯がある。

その森は名前の通り複雑な造りになっていて、中へ入った者たちを1人残らず迷わせ、奥への侵入を拒むのだという。

また、迷いの森にはもう1つ古くから伝えられている噂がある。

それは森の奥から妖精たちの住む世界へ行けるというもの。

噂の真相を確かめようと迷いの森に入った冒険者たちは数多くいたが、大半は気が付くと入り口付近へ戻されてしまったと証言している。

そして、残りの冒険者たちの行方は誰も知らない。

森に住む魔物にやられてしまい屍と化したか、或いは…。

 

 

「ええぇぇっ!?わ、私がですかぁ!?」

 

突如告げられたあまりのことに、ベラは思わず周囲に響き渡る程の大きな声を上げてしまっていた。

小柄な彼女のとがった耳がぴんと立つ。

ベラの目の前では村の長であるポワンが普段の朗らかな様子とは打って変わり、とても真剣な眼差しでベラのことを見つめていた。

その表情を見て、ベラはポワンの告げたことが冗談の類では無いことを瞬時に理解する。

 

「で、で、でもでも、そんな大事な任務でしたら、私よりももっと適任者がいるのでは…」

「ベラ、私はあなたこそが適任者であると考えています」

「え?本当ですか?…って、そ、そんなぁ!わ、私なんてまだまだ未熟者で…」

「ベラ、今のあなたはあなたが思っているよりも優れた力を持っています。決して未熟者などではありませんよ」

 

ポワンは優しい口調で言った。

所謂、リップサービスというわけではなく、本当にそう思っているであろうということが、彼女の裏表のない物言いから伺える。

それでもベラはまだ戸惑いを見せていた。

 

「…ベラ、私は出来得る限り、あなたの意思を尊重したいと考えています」

 

そんなベラの胸中を察したかのようにポワンは口を開いた。

 

「あなたこそ適任である…私は先程そう言いました。しかし、これはとても危険な任務となるでしょう。戸惑い悩むのも当然と言えます。無理強いはいたしません。仮に今、ここで断ったとしても私はあなたを咎めたりはいたしません。ですから、あなたの本当の心を聞かせて下さい、ベラ」

「……………………」

 

ポワンにそう言われて、ベラは少し考える。

直後、心を決めたかのような表情でウンと頷き、自身の中で決めた答えをポワンへ告げた。

 

「…行きます!」

「…よろしいのですか?私の頼みだからと遠慮せず、断ってもよろしいのですよ?」

「いえ、他ならぬポワン様からの頼みごとですから!遠慮なんてとんでもないですよ!」

「ベラ…」

 

ベラのその言葉に思わずポワンの目頭が熱くなる。

 

「ベラ…、もしも命の危険を感じたら、任務など捨てて引き返して下さい。この任務は確かに重要ですが、それよりも遥かにあなたの1つしかない命の方が大事なのですから」

「はい!」

 

 

 

「…というわけで、暫くここから離れて人間の世界へ行かなくちゃいけなくなったの」

 

ポワンに任務を告げられてから少しして、ベラは友人であるルナの部屋を訪れていた。

 

「まあまあ、大変ねベラ」

 

ルナは心配そうな顔で言った。

 

「任務に関してもそうだけれど、何よりも人間の世界へ行くことであなたが魔物に出会ってしまうことが心配だわ。私たちは非力な妖精。人間の世界の恐ろしい魔物たちにはとても太刀打ちなんか出来ないですもの」

「う~…」

 

ベラはまるで弱りきった犬のように低い唸り声を上げた。

彼女たちが今いるこの世界は妖精の世界。

そして、ベラたちはか弱き妖精であった。

妖精というのは魔力こそあっても、基本的には戦いに向いていない種族である。

この世界にも魔物たちは住んでいるが、凶悪な魔物は全くと言っていい程生息してはおらず、比較的穏やかな世界と言える。

だが、そんなこの世界の魔物たちでさえ、彼女たちにとっては脅威なのだ。

それなのに人間の世界では更に恐ろしい魔物たちがそこらを跋扈しているという。

もしもベラが1人きりの時、そんな恐ろしい魔物たちに囲まれてしまったら、彼女の命がかなり危ういことになるのは間違いない。

 

「う~ん…今思うと、何故ポワン様は私なんかをご指名になられたんだろ?私なんかどちらかと言えば落ちこぼれの部類に入ると思うんですケド」

「確かにそうだね」

「…自分で言う分にはいいけど、他人の口から言われると流石にショックなんですケド」

「あ、ゴメンね。私が言ったのは、ポワン様がベラにこの任務をお申し付けになられたことに対してであって、別にベラを落ちこぼれなんて思ってないよ。ホントだよ?」

「ううっ、念を押されると余計に悲しい…」

 

落ち込むベラをルナは少し困ったような顔で見つめた。

 

「ハァ…」

 

ベラは溜め息がてら、ポワンから告げられた任務の内容を思い出していた。

 

 

……

………

 

 

『ベラ、よく聞きなさい。今、世界は再び闇に飲まれようとしています。その脅威の前に、残念ながら我々妖精族は無力です』

『ええ!?で、ではどうするんです!?』

『ですから、今は助けが必要なのです。かつて世界をお救いになられた伝説の勇者レックス。その父親であり、エルヘブンの民の血を引くアベル。そして…』

『そ、その名はまさか…!!い、生きているというのですか!?』

『ええ、その通りです。尤も、私もそのことを知ったのはつい最近なのですが』

『…で、でも、その者は私たちを助けてくれるのでしょうか?』

『可能性は高くないでしょうね…。しかし、彼が以前までの彼では無いのであれば、ゼロではありません。その根拠もあります』

『そ、そうなんですか?』

『…今、名前を告げた者たちへ助けを求めに行く任務ですが、私はあなたにやって欲しいと考えています』

『え?えええぇぇぇ!?』

 

 

………

……

 

 

「…ううっ、改めて思い返すと、とても大変な任務を仰せつかってしまったのだと再認識させられるわ」

 

ベラはことの重大さとその責任を今更ながら痛感する。

この任務の結果如何によっては、妖精の世界だけでなく人間の世界、ひいては最近生まれ変わろうとしつつある魔界のこれからをも左右しかねない。

それら全ての未来が、今ベラの両肩に乗っかかってしまったようなものである。

ベラはあまりのプレッシャーにがっくりと肩を落としていた。

 

「でも、自分の意思で受けたんでしょ?」

 

ルナがそう尋ねると、ベラはこくりと頷く。

 

「確かにそれはそうなんだけど…ね」

「もしかして、後悔してる?」

「少し…」

 

それが偽らざるベラの本音であった。

彼女は他の妖精たちと比べて特別な力を持っているというわけではない。

自分自身がそのことを1番理解している。

だから、任務を無事にこなせる自信がイマイチ湧いてこないのだ。

 

『ベラ、今のあなたはあなたが思っているよりも優れた力を持っています。決して未熟者などではありませんよ』

 

(ううっ…そうは言って下さいましたが、自分自身そんな自覚は無いですよぉ)

 

ポワンは決してそんな悪質な嘘は言わない。

しかし、自分に自信が持てないのもまた事実。

ベラは苦悩する。

 

「…でも、せっかくポワン様が私を御指名して下さったのだから、きっちりかっちりこなさないといけないよね。ポワン様の期待を裏切るなんてしたくないし!」

 

そう言ってベラは無理にでも自身を鼓舞してみせた。

ポワンは、妖精の村の誰もが敬愛する存在である。

それは、ベラであっても例外ではない。

どんな任務だろうと、不甲斐ない仕事をしてポワンの顔に泥を塗るようなことがあってはならないのだとベラは思い直した。

 

「でも、大丈夫?人間の世界は今、色々と大変みたいよ?不思議な瘴気が発生しているとも聞くし…」

 

ルナは念を押すように尋ねた。

彼女も友人としてベラのことを本当に心配しているのだ。

ベラはそんな友人にこれ以上心配を掛けぬように精一杯の笑顔で答えてみせる。

 

「大丈夫!人間の世界へ行ったのは1度や2度じゃないし、知り合いだっているもの!」

「そう…。そう言えば、ここ最近で人間の世界に1番多く出入りしたのはベラだものね」

 

ルナのその言葉にベラはハッとなった。

 

「あ!だからポワン様は私に任務をお申し付けなさったのね!」

 

かつて、春風のフルートが何者かに盗まれ、世界中に春が来なくなるという事件が起きた時、その解決を任されたのもベラであった。

ベラは単身、人間の世界へ赴き、そこでまだ幼かった頃のアベルと出会い、彼と共に春風のフルートを取り返したのだ。

その実績があったからこそ、今回もこうしてポワン直々に任務を申し付けられたのだろう。

そう考えれば、先程までは持てなかった自信だって少しずつ湧いてくる。

 

「俄然、やる気が出て来たわ!」

 

ベラは先程までの任務の重責などすっかり忘れて1人舞い上がった。

この切り替えの早さは彼女の長所であるとも言える。

 

「よーし!任務の為に準備準備!今回もビシィッと決めて、ポワン様に褒めてもらっちゃおっと!」

「あ、ベラ…」

 

思い立ったが吉日、勢いそのままにベラはその場を去って行った。

ルナはその後ろ姿を見ながら、友人として「大丈夫かな?」と心配しつつも、彼女らしいなと少し笑ってしまっていた。

 

 

「ベラ…、あなたにはまた大変な任務を言い渡してしまいましたね」

 

ポワンは誰に言うでもなく、ポツリと呟く。

本当であれば、ベラに告げた任務は自身の手で行うべきなのであろうが、生憎妖精の村を治める者としてここを離れるわけにはいかない。

自身がいない間にこの村に魔物が攻め入ってでも来たら、誰もここを守る者がいないのだ。

ポワンとて戦いが得意というわけではない。

しかし、村を治めるだけあって、内包する魔力は他の妖精たちよりも一際高く、それ故にこの村を守れるのは実質的に彼女しかいないのである。

 

「私に出来ることは、この村を守ることとあなたの無事を祈ることだけ。…何とも無力なことですね」

「ポワン様、そのようなことは…」

 

思わず側近の妖精が答える。

 

「ポワン様は現状考え得る限りで最善の策を講じました。少なくとも私はそう思っております」

「有難う。…ふふ、あなたにまで要らぬ心配を掛けてしまっていたようですね」

「そんな…、勿体無きお言葉です」

 

側近の彼女は、ポワンの言葉に対して深々と頭を下げて返した。

 

「…ところで、妖精の女王との連絡は取れたのでしょうか?」

「…いえ、未だに返事はありません」

「そうですか…」

 

それを聞いた途端にポワンの胸へ不安の波が押し寄せてくる。

 

(やはり妖精の城、そして女王の身に何かが起きたのでしょうか?…嫌な予感がします)

 

この国の中枢である、妖精の女王が治める妖精の城。

そこと連絡が取れなくなったのは、つい1週間程前のことである。

何か大変なことが起きているのだと察したポワンは、いざという時のことを考えて今回の任務をベラに告げたのであった。

 

(今、人間の世界を覆いつつある瘴気…。あれが伝承の通り魔瘴であるならば、一刻を争うことになるでしょう。ベラ、頼みましたよ)

 

世界を包もうとする闇は既に妖精の世界にも忍び寄りつつあった。

 

 

 

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