ドラゴンクエストⅤ~新たなる世界と新たなる者たち~   作:メソウサ

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第5話 王たちの集い その1

「ホホホホ、集まってますねえ。生け贄たちが、次々とこの場所へ…」

「ああ、こちらの目論見通りだ。だが、ニルヴェインの女教皇の姿はまだ確認出来ていないようだがな」

「ホホホホ、それはそれはどうしたのでしょうねえ?」

「…この時間に姿を見せないということは、恐らく来ない可能性が高いだろうな」

「なるほど…。新たな教主は随分と慎重な方のようですねえ」

「アンタがいた時と比べれば、今の教団は全くの別物だって聞くが?」

「ええ、そのようですねえ。尤も、私はあの教団に執心していたわけではありません。あくまで利用していただけですよ。当時の教祖を含めて、ね」

「ほほう」

「まあ、私もあの地で新たな教団が興され、国にまで発展するとは思ってもみませんでしたが」

「ククク、どうだ?人間というのも素晴らしいものだろう?」

「ええ。今は認めていますよ。あなたも含めてね」

「人間は欲深い。その欲望は尽きることを知らない。かつて、魔族の長が進化の秘法を求めたのと同じようにな」

「皮肉なものですねえ。魔王ミルドラースを退け、平和を手に入れた筈のこの世界を再び脅かそうとしているのが、同じ人間だなんて」

「ククク、我輩は人間の世界だけじゃない。魔界も全て手に入れてみせる。この手の中になあ」

「それは素晴らしい!」

「差し当たっては、各国の王たちを我輩の意のままに動く人形へと変えてやろう。用意はいいな、ゲマ?」

「ホホホホホホホ」

「世界を統べるのは、この…我輩だ!」

 

(…人間風情が。精々、今は夢を見ているがいいでしょう。世界が魔瘴に包まれる、その時までは、ね)

 

 

 

「お待ちしておりました。アベル国王殿」

 

アベルがガレオン城(城と言っても、実質巨大な屋敷である)へ到着すると、ガレオン王の使いと思わしき男が出迎えた。

男はまるで仮面でも被っているかのように無表情で血の気も無く、ただ不気味な印象だけをアベルたちに植え付ける。

 

「…どうぞこちらへ」

 

最低限の言葉と無駄の無い動きで男はアベルたちを中へと案内した。

城内へ入る前にアベルはピエールに外で待機するように告げる。

万が一、本日の会談が罠だった場合に全員が中へいたら、その時点で全滅の可能性は極めて高くなる。

誰か1人は外に置き、中へ入った者たちに何かあった時に対処して貰うというわけだ。

この役目には、単独での戦闘力の高いピエールがうってつけなのである。

また、いくら仲間とはいえ、魔物を町や城内へ入れるのが躊躇われるといった事情もある。

アベルたちが旅をしていた頃も、決して魔物たちを連れて大っぴらに町の中を歩けたわけでは無く、基本的に町の中は人間の仲間だけで散策することが多かった。

昨今、魔物たちの凶暴化によって人々が再び不安に駆られていることに加えて、ガレオンは新興国家だけあって未知の部分も多い。

その中で魔物を引き連れて練り歩くというのは余り得策では無いだろうというのがアベルの考えである。

グランバニアからあまり多くの魔物たちを連れて来られなかったのは、そういった要因もあったのだ。

ピエールもここまでは身を隠しつつアベルたちに付いて来ていた。

 

「…分かりました。ご無事を祈ります、アベル様」

「うん。ピエールも気を付けてね」

「承知しました」

 

それだけ言うとピエールはアベルの元からさっと離れていった。

ピエールであれば、最悪アベルたちと合流出来なかったとしても、自力でグランバニアへ帰還することは可能であろう。

アベルはそれ程までに彼へ信頼を置いていた。

ピエールとは、アベルが魔物たちを仲間にすることが出来るようになった頃からの長い付き合いである。

グランバニアやその他各地にいる魔物の仲間たちの中でも、彼はとても古株なのである。

まだ色々な意味で未熟だったアベルと共に成長していった、言わば種族を超えた友人のような存在とも言えた。

無論、アベルにとっての魔物の仲間たちは、全員が部下や手下などではなく、友人であり家族のような存在であることには違いない。

ピエールはその中でもよりアベルとの関係が濃い存在の1体なのである。

他にも、同時期にアベルの仲間になったスラリンやドラきち、アベルが幼い頃に出会い共に絆を作り上げてきたプックルなどはピエールと同様に仲間の魔物たちの中でも特別な存在であると言えた。

 

「行ってしまいましたな」

 

アベルの側に付いていた恰幅の良い壮年の男が言った。

彼の名はサンチョ。

長年グランバニアに尽くしてきた召使いで、アベルが子供の頃からの付き合いである。

尤も、当時はアベルも自身がグランバニアの王族であることは知らず、サンチョのことも父パパスの古くからの知り合いという認識であった。

召使いの中でも古株であるサンチョは、後進の育成を行いつつ、公私に渡りアベルの良き相談相手になっている。

一応、戦闘の心得はあるのだが、高齢の為か体力の衰えを実感しており、そろそろ隠居を考えていたりもしているようだ。

 

「我々も行きましょう。案内人を待たせてしまいます」

「うん、分かった」

 

(ピエール…頼んだよ)

 

アベルはピエールが向かって行った先をチラリと見やった後、城の中に入っていった。

一方、アベルたちから離れたピエールは言い付け通りに城の付近へと既に身を隠していた。

何時も乗っている緑色のスライムからは降り、身を低くして、そこから城の様子を伺う。

 

「プルプルプル…」

「案ずるな、相棒」

 

嫌な予感でもしたのか、やや興奮気味のスライムをそう言って宥める。

ピエール自身も何か虫の知らせとでも言うべきか、辺りに漂う異様な雰囲気に何時の間にか強い警戒心を抱いていた。

 

(何なんだ?この嫌な感じは…?まるで、ミルドラースがいた頃の魔界のような…。一体、この場所で何が起ころうとしているというのだろうか?)

 

そう心の中で呟くピエールの剣を持つ手は、恐怖とは異なる得体の知れない奇妙な感情によって小刻みに震えていた。

武者震いとも違い、何とも心地悪い。

ピエールは視線をガレオン城の方へと移す。

 

(アベル様…どうかご無事で…!)

 

ただの思い過ごしであればいい。

そう願うピエールの心の中には、半ば確信めいた不安が芽生え始めていた。

 

 

 

「よぉ、アベルじゃないか!」

 

ガレオン王から遣わされた案内人により貴賓室へ通されたアベルたちに向かって気さくな感じでそう声を掛けたのは、グランバニアとも親交の深いラインハット王国のヘンリーであった。

彼とは共に長い間困難を乗り越えてきた間柄で、アベルにとっては無二の親友である。

ヘンリーは王族であり、元はラインハット王国の第1王子という立場でもあったが、国王にはなっていない。

 

「お久し振りです、アベル王」

 

そう言ってヘンリーに次いでアベルへ声を掛け、丁寧に頭を下げた人物こそ、現ラインハット王国の若き王であるデールであった。

ヘンリーの腹違いの弟であり、髭を生やしていても顔立ちにはまだ若さが残っている。

 

「やあ、ヘンリー。それにデール王も」

「サンチョさんもお久し振りです」

「おおっ、私めのような者にまでお声を掛けてくださるとは、有り難き幸せ!」

 

デールに声を掛けられたサンチョは膝をつき、敬うように礼儀正しく言った。

その様子を見てアベルは少し感慨深くなる。

かつて、ラインハット王国はとある魔物の手に墜ちてしまったことがあった。

魔物はデールの母、つまり太后に化けてラインハット王国を裏から操っており、その時にサンタローズの町というアベルが幼少期を過ごした町を焼き払ったのであった。

その暴虐により町を出て行かざるを得なくなったサンチョはラインハットに対して良い感情を抱いてはいなかった。

だが、ここ数年の交流を経て、ようやくその蟠りも氷解しつつある。

今ではこうしてラインハットの王族たちとも心より談笑出来るようにさえなっていた。

 

「ヘンリー様も昔とお変わり無いようで何よりです」

「まあな。俺、結構若く見られるんだぜ?…逆に、サンチョさんは白髪が増えたな。さてはアベルがまた苦労でもかけてんのか?」

「い、いえいえ、そのようなことは…」

「ハハハ、ヘンリーにはかなわないなあ」

 

アベルはそう言って笑ってみせた。

 

「アベル王、兄上が失礼なことを言って申し訳ございません…」

「別に気にしていませんよ、デール王。寧ろ、いつも通りのヘンリーで安心しました」

「そうだぞ、デール。これがいつもの俺とアベルの会話だ。ったく、お前は何時まで経っても小心者だな!」

「す、すみません、兄上」

「大体、その髭はなんだよ?全然似合ってないぞ」

「あ、兄上が仰られたのではないですか!『お前は若僧なんだからせめて見た目くらい威厳が出るようにしろ』と!」

「にしても、なあ…?」

 

ヘンリーが笑いを堪えながらデールの髭を指差すと、アベルも思わず苦笑してしまった。

そんな2人を見て、デールはハァと溜め息を吐く。

と、その時、ヘンリーがふと何かを思い出したかのように手を叩いた。

 

「…お、そうだそうだ。お前に会ったら言っておこうと思ってたことがあったんだよ。お前のところのタバサちゃんとうちのコリンズをそろそろ婚約させたいんだが」

「その話だったら、答えは以前と変わらないよ」

「えー、マジか。そろそろ心変わりしてくれてるかと思ったんだがなあ。そんなにうちのコリンズが嫌いなのか?」

「うーん、コリンズくんが悪いというより、タバサ自身の問題かもね。あの子は大人しいし、少々潔癖なところがあるから、コリンズくんとは水が合わないみたいで…。それに未だにレックスを慕い過ぎてる部分もあるし…」

「相変わらずのお兄ちゃん子ってワケか」

「兄妹仲がいいのはいいことなんだけど、ね」

「コリンズのライバルがレックスってのはデカいなあ。何たって相手は伝説の勇者様だしな」

「それは関係ないと思うけれど…」

「うちのコリンズだって、もう16歳だからな。流石に昔みたいなガキのイタズラは卒業してるし、親だから言うわけじゃないが次期ラインハット王としての風格も漂い始めてるぞ。後は、お前のとこのタバサちゃんとくっ付けば、ラインハットは向こう100年は安泰なんだがな」

「兄上、アベル王が困るようなことは言わないで下さい」

 

2人の会話にデールが割り込んだ。

 

「そういった男女の恋愛というものは、当人同士で育むものであって、他人がアレコレ言うものではありません!」

「うるせえなあ!お前は俺のお袋か?大体、独身のお前に言われたくねえよ!」

「兄上!私がどんな気持ちで独身を貫いているか、兄上自身が一番お分かりなのでは!?」

「うっ…!そ、それを言われると何も言えないけどさ…」

 

デールの言葉にたじろぐヘンリー。

かつてラインハット王国で起きた、前国王の跡目争い。

それに巻き込まれたヘンリーは悪漢たちに誘拐され、結果的に10年以上も国を離れてしまう派目になった。

そんな悲劇を繰り返さぬようにデールは敢えて自分は子供を作らず、ヘンリーの息子であり現第1王子であるコリンズへ王位を継がせようとしているのだ。

 

「ハハハ、何時の間にかヘンリーもデール王に頭が上がらなくなっているじゃないか」

「るせー!」

 

アベルにそう言われて、ヘンリーはまるで悪戯を咎められた子供のように唇を尖らせた。

 

「…ったく、昔はすぐにピーピー泣きながら『兄上、兄上』って言ってた泣き虫だったのによ。何時の間にか立派な国王様になっちまってよ」

「兄上。私は確かにラインハットの国王という立場にいますが、自分が立派などと自惚れたことはありません。寧ろ、いつも兄上には陰で支えてもらい、感謝してもし足りないと思っているのですよ」

「…な、コイツはこういうことを恥ずかしげもなく言えるんだよ」

「兄上!私は本気で…」

「あーあー、分かった分かった!あんまりそういうこと言われると本気で恥ずかしくなるからもうやめて下さいませ国王様!」

「もう!兄上はいつも…」

「フフ、とても楽しそうですね」

 

ヘンリーとデールの会話に割って入ってきたのは、とても煌びやかな女性であった。

年齢を重ねてはいるが、それをマイナスに感じさせない程の美貌。

思わず見惚れてしまいそうになる。

 

「アイシス王女!お久し振りでございます!」

 

アベル、サンチョ、ヘンリー、デールの4人は彼女の姿を見とめるなり、略式ではあるが王族への挨拶を行った。

彼女こそテルパドールの女王であるアイシスその人であった。

テルパドールは砂漠の大陸にその城を築いた王国である。

その過酷な環境からか昔はあまり他国と国交を持ってはいなかったが、現在はグランバニアやラインハットと手を結び、半ば同盟国のようになっている。

 

「皆様、ご機嫌麗しゅう…。どなたもお変わりないようで何よりでございます」

 

アイシスはそう言って恭しく頭を下げた。

彼女の側にはお付きの侍女たちが何が起きても大丈夫なように待機している。

 

「さて、あとは噂のニルヴェインの教主様が来れば、王様たちの全員集合ってわけか」

 

そう言ってヘンリーは腕を組んだ。

 

「ニルヴェインの教主…女性、ということだけは分かっているのですが、どういった人物なのかは全く分かりませんね」

 

デールが顎に手を当てながら言う。

すると、アイシスも彼に同意するようにこくりと頷いた。

 

「私も、彼女のことは何も知りません。ここまで情報が無いというのも逆に不自然に感じます」

「来る…のかな?」

 

そう疑問を投げ掛けたのはアベルであった。

 

「来ないでしょうなあ」

 

アベルの言葉に答えたのは、その場にいた誰でもなかった。

勢いよく開かれる扉。

そこに立っていたのは、頭頂部がやや禿げ上がった目付きの悪い中年の男であった。

 

「…あなたは?」

 

男へアベルが尋ねる。

すると、男はオッホンと大げさに咳をした後、勿体ぶったような言い方でアベルたちにこう告げた。

 

「我輩は…この、ガレオンの国王。ガラハッド、である」

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