ドラゴンクエストⅤ~新たなる世界と新たなる者たち~   作:メソウサ

2 / 24
第1話 出会い

「ふー、今日も終わりっと」

 

リーヴは最後の薪を割り終えると、額から滝のように流れる汗を拭いながら一息ついた。

水筒に入った冷たい水をこくこくと飲んで喉を潤す。

今日も日差しが強くとても暑かった。

 

「やれやれ…、早く涼しくなって欲しいよ」

 

元来、暑がりなリーヴは夏という季節があまり好きではなかった。

冬の寒さは着込んだり、暖をとれば凌げるが、夏の暑さは服を脱いでもなかなか凌げない。

体を動かす仕事の関係上、汗をかかざるを得ないリーヴにとって夏は天敵と言っても過言では無かった。

 

「はー、明日も暑そうだ」

 

燦々と照りつける太陽を睨みながらリーヴは恨めしそうに言った。

 

リーヴは、この名も無き大森林の中で木こりをやっている。

木を伐り、薪を割り、それらを近くの町や村へ売って生計を立てているのだ。

今日もいつも通り、日中は仕事であった。

一日分のノルマをこなしたところで、ちょうど日も傾き始めたようであった。

頃合を見計らったようにリーヴの腹の虫が鳴く。

 

「へへ…さーて、飯だ飯!」

 

リーヴはそう言うと、寝床にしている小屋へ戻ろうとする。

家と仕事場までには少し距離はあるが、鼻歌でも歌っていればすぐに着く。

リーヴは適当なメロディーを作り、それを軽快に鼻で奏でながら半ばスキップ気味に歩いていた。

いつもであれば、このまま小屋に帰り、食事をし、寝て、明日を迎えたらまた仕事…となる筈であった。

しかし、この日は違っていた。

 

「グルルルル…」

「え?」

 

明らかな獣の唸り声。

それも、餌を見つけたぞ!とでも言いたげな薄気味悪さを感じる。

日が傾き始めているとはいえ、まだ夜行性の動物が活動するには少し早い時間だ。

 

「ま、まさか、魔物!?」

 

その“まさか”は的中してしまった。

リーヴの元へ1体の獰猛なテラノライナーが現れたのだ。

テラノライナーは人間より少し大きいサイズの恐竜のような外見で、ここ最近出没するようになった魔物である。

とても足が速く、人間の足では逃げ切ることはおおよそ不可能な為、何も準備をしていない状態で出会ったら最後、あっという間に噛み殺されてしまう。

 

「あ、あわわわわわわ」

 

リーヴはただの木こりである。

小柄な上、戦闘経験など全くない。

スライム程度なら追い払うことも出来るが、このくらいの魔物になると為す術もない。

一応、薪割り用の鉈を構えるものの、そんな程度で怯んでくれる相手ではなく、寧ろ相手に敵対心ありと余計に眼光を鋭くしている。

このままでは、あと数秒もしない内に頭から噛みつかれてお陀仏となってしまうだろう。

 

(ああ、お父さん。お母さん…。誰か…、誰か助けてぇ!)

 

リーヴはガクガクと震えながら後ずさっていく。

テラノライナーは小さく「グルル…」と唸ると、片足でその場で地面を何度も何度も蹴り始めた。

間違いなく突進してくる構えである。

 

(ああ…、誰か…誰かぁ!!)

 

「助けてえええ!!」

 

恐怖から目を閉じた後、リーヴが叫んだ。

と、その時であった。

 

ヒュッ

 

「ギャアアアアアア!!」

 

風を切る音と同時にテラノライナーが痛々しい声を上げた。

何事かと、リーヴがうっすらと目を開いてみると、テラノライナーの軸足に鋼の剣が突き刺さっているのが目に入る。

 

「えっ?えっ?えぇっ!?」

 

何がなんだか分からないリーヴはただ目を丸くする。

その直後、背後から大きな黒い影がテラノライナーに向かって飛びかかっていくのが見えた。

 

「ガルルルルル!!」

「えっ!?き、キラーパンサー!?」

 

テラノライナーへ飛び掛ったのは紛れも無くキラーパンサーであった。

キラーパンサーは巨大な豹のような魔物で、鋭い牙と爪を持っていることで有名である。

地獄の殺し屋の異名通り、テラノライナーに負けず劣らず危険な魔物であることには変わりない。

そんなキラーパンサーが今、目の前でテラノライナーと戦っているのだ。

まるで自分を助けてくれているかのようである。

 

「い、一体、どうなってんだぁ!?」

 

あまりの出来事にリーヴはポカンとしていた。

魔物が人間を助けるなんて聞いたことがない。

それとも、餌である自分を相手に取られまいとしているのだろうか。

 

「プックル!離れて!」

 

背後から今度は少年の声がした。

キラーパンサーは少年の声に反応し、すぐにテラノライナーから離れる。

 

「ベキラマ!」

 

再び少年の声が聞こえたのと同時に、テラノライナーの体を閃光が貫いた。

 

「グゥアアアアアアア!!!!」

 

テラノライナーは苦しげな声を上げると、軸足に鋼の剣を突き刺したままこの場から逃げ去ってしまった。

 

「……………………」

 

絶体絶命の状況から奇跡の生還を果たしたリーヴであったが、相変わらず頭の中がハテナマークで埋め尽くされたままである。

何が何だか分からないといった感じで、文字通り開いた口が塞がらない。

 

「ガウゥゥゥ…」

 

と、その時、キラーパンサーが低い唸り声を上げながらリーヴの方を向いた。

 

「ひっ!!」

 

一難去って、また一難。

よくよく考えれば、目の前のキラーパンサーが味方である保証など無いのだ。

邪魔者がいなくなったので、次は餌である自分をゆっくりと平らげる算段なのかも知れない。

そのことに気付くと、リーヴは再び固まってしまう。

キラーパンサーはゆっくりとリーヴに近付いてくる。

 

(た、食べられる…!!)

 

リーヴはガタガタと震えながら覚悟を決めた。

こうなったら自棄だ。

刺し違えてでも一矢報いてやる…と、鉈を構える。

だが、キラーパンサーはリーヴには目もくれず、すぐ脇を通り抜けて行く。

 

(へ…?)

 

拍子抜けしたリーヴは、素通りしていったキラーパンサーを目で追った。

すると、キラーパンサーの向かう先に1人の少年が立っているのが見えた。

透き通る空のような青い髪の少年である。

このままだと少年が危ない。

リーヴは思わず大きな声を上げた。

 

「お、おい、お前!あぶな…」

「よしよし、よくやったぞプックル!」

「ガウガウ」

 

リーヴの心配を余所に、少年は笑顔でキラーパンサーの頭を撫でていた。

一方、キラーパンサーの方はとても気持ち良さそうな表情で、その顔を少年の胸にこすりつけている。

つい先程まで悪鬼のような顔つきをしていたキラーパンサーとはとても思えない。

まるで飼い猫のように少年へじゃれついている。

キラーパンサーはとにかく人間には懐かないことで有名なだけに、またしてもリーヴはポカンとしていた。

 

「アハハハ、くすぐったいよプックル!」

 

“プックル”というのは、どうやらこのキラーパンサーの名前らしい。

キラーパンサーを飼い慣らすなんて、この少年は一体何者なのだろうか?

年は10代半ば頃で、リーヴとそう変わらなさそうではあるが。

 

「君、大丈夫かい?」

「え?俺?」

「うん。君以外にはいないと思うけど」

「あ、ああ。大丈夫。その…助けてくれてありがとな」

「いえいえ、どういたしまして」

 

そう言って少年は礼儀正しく頭を下げた。

如何にも旅人といったような格好をしているが、その佇まいには何処か気品のようなものを感じる。

顔つきも幼さは残っているが、非常に端正であった。

とてもただの旅人には思えない。

 

「ピキー!」

「やっと追いついたヨォ」

 

リーヴは声のした方を振り向いた。

すると、1匹のスライムと1匹のドラキーがこちらに向かってくるのが見える。

 

「ええ!?また魔物!?」

 

先程のテラノライナーに比べれば大分落ちるものの、それでも魔物がこちらに来たことには違いない。

今日はえらく魔物に出会う日だと皮肉りながら、リーヴは再び震える手で鉈を構えた。

 

「う、うわわわわ!く、く、来るなぁ!!」

「スラリン、ドラきち!」

 

怯えるリーヴとは対照的に少年はにこやかにスライムとドラキーを歓迎している。

スライムとドラキーは嬉々として少年の元へと飛び込んでいった。

 

「え?そいつらもお前の…?」

 

キラーパンサーだけじゃなく、スライムやドラキーまで手懐けているなんて、何て奴なんだろうか。

リーヴはまるで得体の知れないものを見るような目で少年のことを見つめていた。

その視線に気付いたのか、少年はばつの悪そうな顔になった。

 

「まあ、初めて見たらそういう風になっちゃうよね…。うん」

 

リーヴのような反応は初めてでは無いのだろう。

少し悲しそうな響きを含むような言い方に、リーヴもまた後ろめたい気持ちになっていた。

 

「あ、べ、別に嫌とかそういうんじゃねえぞ!その…色々衝撃が大き過ぎて整理が付かないだけだ。ほ、本当だかんな!」

「ハハハ、有難うね」

「お、お前がお礼を言ってどうすんだよ!俺を助けたのはお前だろ!?」

「あ、それもそうか。アハハハ」

「ったく、変な奴…」

 

あどけなく笑う少年を見てリーヴは言った。

少年は何か色々背負っていそうな雰囲気を醸し出しているが、決して陰な感じはせず、寧ろ太陽のように明るく輝いているような印象を受けた。

一体、何者なんだろうか。

 

「あ!」

 

そう言えば、まだ自分の名前さえ言っていない。

自分の名前も告げていないのに、相手のことを探ろうだなんてとても失礼なことである。

 

「お、俺!!」

「?」

「俺の名前!!俺はリーヴ!!この森で木こりをやってんだ!!」

「へえ、そうなんだ!」

「俺は名乗った!だから、聞くぞ!お前は一体…?」

「あ、僕の名前か!」

 

少年は嫌な顔一つせず、答えた。

 

「僕はレックス。よろしくね、リーヴ!」

「レックスか…。何か勇ましい名前だな」

「でしょ?僕もこの名前好きなんだ」

「よろしくな、レックス」

「うん!」

 

2人はガッチリと握手した。

レックスと聞いて、リーヴはふと何処かの国の王子がそんな名前だったことを思い出した。

だが、さほど珍しい名前じゃないし、まさか一国の王子がこんなところには来ないだろうとすぐに思い直す。

第一、魔物を飼い慣らす王子様なんて聞いたことがない。

 

「そういえば…」

 

リーヴは視線をレックスの連れている魔物たちへと向けた。

 

「そいつら…レックスの仲間なのか?」

「うん、勿論」

「魔物…だよな?」

「そうだよ」

「もう一度聞くけど…魔物だよな?」

「そうだって言ってるじゃないか」

 

何当たり前なこと聞いてるのか、とでも言いたげな表情のレックスを見て、リーヴは彼が色んな意味で浮き世離れしていることを思い知る。

 

「いや、普通は魔物なんか仲間にしないだろ…っていうか出来ないだろ!」

「まあ、確かに…」

「だろ!?」

「でも、父さんは出来るよ」

「お前の父さん何者だよ?」

「魔物使いらしいよ」

「魔物使い…お前の父さん、まさか魔物じゃないよな?」

「まさか!」

 

レックスは笑った。

よく笑う奴だな、とリーヴは思った。

しかし、見ていても不快になるような笑顔ではない。

寧ろ、こっちも明るくなるような、そんないい笑顔をしている。

天真爛漫というか、とにかく根が明るいのだろう。

 

「…んじゃ、俺はそろそろ行くわ」

「1人で大丈夫かい?」

「ああ、大丈…」

 

その時、狼の遠吠えのような声がリーヴの耳に入った。

よく見ると辺りも大分暗くなり始め、薄気味悪さをこれでもかと醸し出している。

夜の森は危険だ。

何時夜行性の獣に襲われるか、分かったものじゃない。

下手をすれば先程みたいに魔物だって出て来るかも知れない。

通常であれば、余程のことがない限りは、夜間の外出など絶対にしないのだ。

自分の置かれた状況を認識して、リーヴは改めて身震いする。

それを見たレックスがリーヴに優しく声を掛けた。

 

「何なら、君の家まで僕が一緒に付いていってあげようか?」

「ほ、本当か!?」

 

レックスが何者かは知らないが、腕の立つ人間であることは先程の戦いから見ても間違いないだろう。

リーヴは初めて見たが、テラノライナーを追い払った時には呪文まで使っていた。

更にキラーパンサーなどの魔物まで飼い慣らしている…とくれば、用心棒として心強いことこの上ない。

迷うことなくリーヴはレックスの提案を受け入れた。

 

「す、すまねえ。頼まれてくれるか?」

「お安い御用!」

「そ、そうか!恩に着るぜ、レックス!」

 

リーヴはホッと胸を撫で下ろす。

しかし、レックスとは対照的に魔物たちはあまり乗り気では無いようだ。

代表してドラきちと呼ばれていたドラキーが不満げに言った。

 

「えーっ!?そんな奴、放っておこうヨォ」

「こら、ドラきち!困っている人を見過ごしちゃダメだろ!」

「でもヨォ、オイラたちには大切な任務が…」

「それはそれ。これはこれだよ」

「でもぉ…」

 

ドラきちはなかなか納得しない。

 

「…じゃあ、ドラきちたちは先に行っててよ。リーヴは僕だけで送って行くからさ」

「えぇっ!?それは…」

「大丈夫。リーヴを送り届けたらすぐに追い掛けるからさ!」

「そういう問題じゃ…」

 

何か言おうとしていたドラきちに構わず、レックスはリーヴの方を向いた。

 

「じゃ、行こうか」

「い、いいのか?何か用事があるんじゃ?あのドラキーも何か言ってるし…」

「君を家まで送るくらいなら問題ないさ。ドラきちの言ったことは気にしなくていいよ。家はどっちの方向?」

「え?あ、あっちだけど」

「オッケー!」

 

そう言ってレックスはリーブが指し示した方へ向かって歩き始めた。

リーヴは取り敢えずレックスの後を追うことにする。

ここから家までは大した時間も掛からないし、それならば彼の言葉に甘えても罰は当たらないだろう。

どの道、家まで戻ればそこでお別れなのだから。

困惑した様子のドラきちたちを尻目に2人はリーヴの家を目指して森の奥へと入っていった。

 

 

「…ねえ、さっきの魔物だけど」

 

途中、レックスがふと口を開いた。

 

「あいつは何時からここにいるの?」

「ん?…あ、ああ、あの恐竜みたい奴か。何時って言われても…この森に住み始めてから10数年、見るのも会うのも今日が初めてだよ。っていうか、あんなのがこの森にいるなんて知らなかった」

「そう…」

 

レックスは何やら考え込むような顔をしている。

そのまま少し歩くと、リーヴの家である小屋が見えてきた。

道中、思っていたよりも何も起きなかったのが少し拍子抜けではあったが、何か起きてしまうよりはマシだとリーヴは思い直した。

 

「お、あそこだあそこ!ここまで来れば、もう大丈夫だよ」

「ダメダメ、気を抜いちゃ。最後まで何が起きるか分からないでしょ?君が無事に家に帰るのを見届けるまでは一緒にいるよ」

「そ、そうか。随分律儀なんだな、お前」

「当然だよ。ここで会ったのも何かの縁って奴だしね」

 

多少強引ではあるものの、今時ここまで親切なのも珍しい。

ここ最近、世界情勢の不安や魔物たちの凶暴化で人々の心に余裕が無くなっているのをリーヴは何となく感じていた。

町へ品物を卸しに行った時も、町人の様子が2~3年前に比べると何処か冷たかったり、淡白だったりする。

こんな森の中にいるからこそ、リーヴは人々のそういった変化に対して敏感になっていた。

だから、レックスみたいに底抜けに明るく、そして親身になってくれるような人に会うのは、かなり久し振りであったのだ。

人里離れた所に住んでいるというのもあって、あまり他者との交流が多くないリーヴには十分過ぎる程の厚意である。

こういうのも意外と悪くないとリーヴは思った。

だが、それも長くは続かない。

リーヴはもうすぐ来るであろう別れに少しだけ寂しさを感じていた。

 

 

家の前まで辿り着いた時、リーヴは信じられない光景を目の当たりにする。

 

「う…そ…?」

 

リーヴの視線の先。

そこには、ある筈の家が無かった。

代わりに、バラバラになった木片や見覚えのある食器や道具の残骸があちらこちらに散らばっている。

そしてその上には3体のテラノライナーたち。

内、1体の足には鋼の剣が突き刺さっていた。

 

「あいつら、さっきの!」

 

それを見つけると、レックスが先程までとは一転、険しい表情となった。

テラノライナーたちはとても興奮しているようで、ドスンドスンと地面を揺らしている。

先程、レックスにやられたことへの報復に来たとでもいうのだろうか。

 

「俺の…、爺ちゃんの…家が…」

 

リーヴは呆然と瓦礫と化した自分の家を見つめていた。

物心付いた時からずっと暮らしてきた家。

言うまでも無く色々な思い出がたくさん詰まっている。

そして、様々な仕事道具を置いている小屋までが無残に壊され、跡形も無くなっていた。

このことは流石にショックが大きい。

気が付くと、大粒の涙を流していることに気が付く。

 

「うわあああああああああああ」

 

リーヴは何時の間にか側にレックスがいることなどお構い無しに泣き叫んでいた。

しかし、テラノライナーたちはそんなリーヴを黙って見守ることはしない。

 

「グルルルルル…ガオオオオオン!!」

 

獲物を見つけた、とでも言いたげな唸り声を上げながら、テラノライナーたちが一斉にリーヴたちへと突進して来た。

その快速ぶりに距離がぐんぐんと詰まっていっている。

このままだと、数刻もしない内にリーヴたちはテラノライナーたちの体当たりを食らってしまうだろう。

 

「…………」

 

レックスはリーヴを庇うようにスッと前へ出ると、目を閉じて右手を空へ翳す。

すると、その手の平にバチバチとエネルギーが集まり始め、瞬時に強大なエネルギーと化した。

直後、レックスは目をカッと見開いた。

 

「ライデイン!!」

 

そう叫び、右手を振り下ろす。

すると、手の平に集めたエネルギーが雷のように放射状に放たれ、テラノライナーたちへと直撃した。

 

「ギィヤアアアアアアアア!!」

 

テラノライナーたちは一斉に悲鳴のような鳴き声を上げ、動きを止めた。

次の瞬間、3体は同時にその場へバタバタと倒れていく。

見ると、全員が白目を向き、ピクピクと痙攣しながら口から泡を吹いていた。

その光景が、今の呪文の威力が先程の閃光とは桁違いであることを十二分に物語っている。

 

「大丈夫!?」

 

肉の焦げたような臭いが辺りに漂い始める中、レックスがリーヴの元へ駆け寄った。

リーヴは溢れ出る涙を服の袖で拭っていたが、それでも涙は止まらないようであった。

 

「ヒィク、家が…家があ…」

「リーヴ…ゴメン」

「何で…ヒック、お前が謝るんだよ?」

「僕があの時ちゃんとあいつを倒していれば、こんなことには…」

「別に…お前のせいじゃ…ヒック、うわああああああああ」

 

リーヴは慟哭する。

悔しさ、悲しさ、怒り、様々な感情が綯い交ぜになり、リーヴの胸中でぐるぐると渦巻いていた。

言い表せぬ複雑な感情を吐き出す為に、リーヴは泣き、そして叫ぶ。

レックスはそんなリーヴをただ見つめることしか出来なかった。

 

 

「……………………」

「…落ち着いた?」

「うん」

 

暫くして、ようやくリーヴの涙は止まった。

涙が枯れてしまったのか、レックスの言う通り落ち着いたのかは分からない。

だが、先程よりは冷静にものを考えられるくらいにはなっていた。

 

「…俺、これからどうしよう?」

 

思い出も大事だが、住む場所も仕事道具の殆ども無くなってしまったことは今目の前にある大きな問題である。

夜の帳が下り、辺りは大分暗くなってきた。

夜行性の獣は勿論、魔物たちの危険も存在する。

この状況下で1人で野宿しろというのは、些か厳しいだろう。

 

「もし良かったら、僕が近くの町まで連れて行くよ」

 

レックスがそう提案する。

 

「…そう、だな」

 

こくりと頷きながらリーヴは答えた。

現実的に考えて、今のリーヴにはそれ以外に選択肢は無い。

この辺に危険覚悟で野宿する程、リーヴは命を捨ててはいないし、自暴自棄にもなってはいないのだ。

 

「すまないが、頼むよレックス」

「うん、こんなことしか僕には出来ないけど…」

「だからお前のせいじゃないって。悪いのは、あいつらだ」

 

そう言って、リーヴは視線を未だ地面に倒れたままのテラノライナーたちへと向けた。

テラノライナーたちはまだ辛うじて生きているらしく、時折小さな声で「グルルゥ…」と鳴くのが聞こえる。

 

「俺にもっと力があれば、あいつらに止めを刺してやれるのに…」

「……………………」

 

非力な自分に歯噛みするリーヴをレックスは何処か悲しそうな顔で見つめていた。

その後、レックスは無言でテラノライナーたちへ近づいていく。

 

「…ごめんね」

 

レックスは申し訳なさそうな表情でそう呟くと、その内の1匹の前に立ち、その脚に突き刺さっていた鋼の剣を抜き、血を軽く振り払った後に鞘へと収めた。

 

「…じゃあ、行こう。ぼやぼやしているともっと暗くなっちゃう」

「…ああ、分かった」

 

それぞれに思いを抱きながら、リーヴとレックスはその場を後にした。

 

空には夜闇を優しく照らす月が浮かんでいる。

その横で3つの星が瞬いていた。

まるで、何かを主張しているかのように。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。