ドラゴンクエストⅤ~新たなる世界と新たなる者たち~   作:メソウサ

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第7話 グランバニアの危機 その2

「ふぅぅむ…」

 

オジロンはとても深刻な表情で眉間に今までに無い程の皺を寄せている。

そうなったのは、つい先程青ざめた顔で駆けつけてきたタバサの話が原因であった。

 

 

『大変です!もうすぐ邪悪な者たちがここへ攻めてきます!』

 

 

タバサがそう伝えてきたのが数刻前のこと。

時を同じくして、自身の研究室に篭もっていた筈のマーリンが、見張りの兵士たちが凶悪な魔物に襲撃され命を落としたと報告をしてきた。

これらのことから、オジロンは生涯で1、2を争う程に頭の中をフル回転させて状況の整理と対策について考えていた。

 

「う~む…、何にせよ我がグランバニアへ未曽有の危機が迫っていることは確かのようですな。あまり認めたくはありませんが…」

 

そう言ってため息を吐くオジロンをタバサは何処か申し訳なさそうに見つめていた。

 

「ごめんなさい。私…」

 

か細い声でタバサが謝罪する。

それを聞いたオジロンはハッとすぐに顔を上げ、タバサに向かって折れんばかりに首を横に振ってみせる。

 

「い、いえいえいえいえ、とんでもございません!!タバサ様が気に病むことでは、決してございませぬぞ!!寧ろ、我が国に迫る危機をいち早く察知して下さったことには感謝している次第でございます!!」

「でも…」

「そうよ、タバサ」

 

静かに動向を見守っていたフローラが2人の間へ割って入る。

 

「あなたがこうして勇気を出して教えてくれなかったら、事態はもっと悪い方向へ進み始めていたかも知れません。でも、そうならない可能性がこうして生まれたのです。だから、胸を張りなさい。タバサ」

「お母さん…」

 

フローラの掛けてくれた言葉にタバサは強い安心感を覚える。

まるで、神様からの許しを得たかのようであった。

 

「…はい!」

 

タバサはフローラに向かってそう力強く頷いてみせた。

それを見たフローラはにっこりと優しく微笑み、タバサをそっと抱き寄せる。

母の胸の中で、タバサは僅かながら不安が和らいでいくのを感じた。

 

「…お母さん。もう大丈夫です。有難うございます」

「お礼なんていりませんよ、タバサ。私たちは親子なのですから」

「はい!」

 

フローラのお陰でタバサはどうにか立ち向かう為の勇気を得たようであった。

彼女の表情からも、どことなく不安の陰が消えたように見える。

 

「…しかし、アベル王のいないこんな時に、またどうしてこんな都合良く。いや、こんな時だからこそ、なのか?」

 

オジロンが苛ただしげに呟くと、側にいたマーリンがその呟きに答えた。

 

「つまり、オジロン殿はこの度のアベル様の遠征は仕組まれていた、とお考えで?」

「というか、それ以外には考えられまい。…最初から怪しいとは思っていたのだ。アベル王を手に掛けただけじゃ飽き足らず、その留守まで狙ってくるとはな。やはり、あの時にアベル王を無理にでも止めるべきだったのだ。そうすればアベル王やサンチョ殿も消息を絶つことは無かったろうに」

「過ぎたことを悔やんでも仕方ありますまい。兎にも角にも、このまま何もしないでいれば、アベル様に手を出し、我が国を襲おうと企む者の思う通りになってしまいますぞ。今は目の前に迫るこの危機をどうにかしなければ、アベル様の救出すらままなりませぬぞ」

「そ、そうですな。一言一句、マーリン殿の言う通りでありますぞ!」

 

マーリンの正論にオジロンも納得せざるを得なかった。

 

「…それにしても、気になるのは何故こうも容易く攻め込まれそうになるのか。天空の剣の聖なる力が今もグランバニアを守ってくれているというのに」

「ふぅむ、やはり最近世界のあちこちで確認される謎の瘴気。それが天空の剣の効果を弱めているのかも知れませぬな。ここいら一帯があまり匠気の影響を受けないのは天空の剣のお陰だと考えられますが、その分魔物を遠ざける力が弱まってしまったのでしょう」

「なんと…忌々しいものですな」

「或いは、それすらも敵の策略か…。まあ、それを考えるのは今を乗り切ってからにいたしましょうかオジロン殿」

「そうですな。さし当たっては兵士たち、そしてアベル王の魔物たちも集め、グランバニア防衛の手筈を整えねば…。マーリン殿、アベル王の魔物たちはどうなっておりますかな?」

「…うーむ。彼らに関しては大半が魔界へ行っておりますからなあ。今、城に残っているのは私めみたいな変わり者やアベル様と旧い付き合いの者ばかり…。戦力になりそうな者もアベル様やレックス様に同行しておりますし、あまり期待はされない方がよろしいですぞ。無論、私は全力を尽くしますがね」

「マーリン!僕らが戦力にならないとか聞き捨てなら無いな!」

 

マーリンとオジロンが話し合う横からそう文句を言ってきたのは、タバサを追いかけてきたミニモンであった。

 

「…何だ、誰かと思ったらミニモンの坊主でしたか」

 

マーリンは少しだけ嫌みったらしく言った。

その物言いにミニモンは少しムッとする。

 

「そんな言い方無いだろマーリン。それに僕の方がマーリンよりも強力な呪文を使えるんだからね!」

「フムフム。確かにお前の方が私より強力な呪文を使うことは出来ますなあ。使うことは…ですが」

「…あ、何だよその引っ掛かる言い方!いっつも僕を下に見てさ!」

「強力な呪文を覚えることよりも、すぐに魔力を使い果たして足手纏いになるのを何とかしてくれないかと思いましてねえ。それに、お前のメラゾーマと私のメラミはあまり威力が変わらないように思えますが?」

「うっ!た、確かに魔力の量も呪文の威力もマーリンのが上だけどさあ…」

「強力な呪文もすぐに使えなくなってはあまり意味があるとは言えませんなあ。もっと精進しないと。お前はまだまだ未熟者だということを自覚するのですな」

「で、でも!それでも僕だって守りたいんだ!この城も、みんなも、そしてタバサも!」

「ミニモンちゃん…」

 

勇ましいミニモンの言葉にタバサは思わず心打たれる。

よくよく考えれば、ミニモンは見た目は子供のようでも、実際はタバサの何倍も生きているのだ。

それに、タバサが産まれる前からアベルと共に戦っており、修羅場を潜り抜けてきてのも1度や2度ではない。

未熟者、とマーリンからは言われていても、タバサから見れば彼は1流の戦士なのである。

 

「有難う、ミニモンちゃん。でも、私だって守られるだけじゃないよ。一緒に戦いましょ!」

「タバサ…。うん、一緒に戦おう!」

 

タバサとミニモンは互いに意気投合する。

それを見ながらマーリンは少しだけ頬を緩ませた。

 

「…はてさて。先程はああ言いましたが、ミニモンも貴重な戦力には違いありますまい。これでも期待はしているのですよ?」

「…そんな風には聞こえないけどね」

「未熟者とはまだ熟していない者…熟し切った私と違って、まだまだ先があるということですからなあ」

「本当にそう思ってるの?」

 

ミニモンは懐疑的な眼差しでマーリンのことを見つめた。

 

「キュルル!」

 

と、その時、そう鳴きながら何かとても素早いものがこの場を通り過ぎていった。

あまりに一瞬のことであったが、その場にいた者たちにはその正体について心当たりがあった。

 

「はぐりんちゃん?」

 

タバサがその者の名を口にする。

はぐりんとは、アベルの仲間のはぐれメタルのことである。

はぐれメタルはスライム系の魔物ではあるが、普通のスライムとは異なり、やや液状化した形態をしている。

全身が金属で出来ている為、見た目とは違ってとても堅いのが特徴的である。

そして、とても素早い。

冒険者たちの間では、はぐれメタルを倒すことが出来ると、とてもいいことが起こる。というのが常識となっているのだが、前述通りの特徴から、よっぽど運が良くないとすぐに逃げられてしまい、倒すことは疎か遭遇することさえ難しいと言われているのだ。

そんな彼らは一説には臆病者であるとも言われているが、実際はとても気紛れなだけである。

はぐりんにしても、基本的にはアベルやその仲間たちに懐いてはいるし、だからこうして彼らのいる場所に留まっているのだが、彼が何を思い行動しているかを完全に把握するのは、例え魔物たちを生み出した大魔王ですら難しいのである。

 

「…相変わらず、はぐりんは何を考えてるか分かんないなあ」

 

ミニモンは今はもう姿を見せないはぐりんに向かってそう言った。

はぐりんはいつもこうして忙しなく城内を駆け回っている為、主人であるアベルですら城内ではあまり遭遇しないという。

名前の通り、正にはぐれ者なのである。

 

「コホン。…取り敢えず彼のことは置いておきましょう」

 

マーリンはそう言って軽く咳払いをした。

 

「…魔界へは私の方から連絡を取ってみましょう。とは言え、時間がありません。援軍としての期待はあまりせん方がよろしいかも知れませぬな」

「かたじけない、マーリン殿。我々も急いで準備をせねばな。…おい、ピピン!ピピンはいるか!?」

「ハッ!ここに!」

 

オジロンが呼ぶと、ピピンがサッと現れた。

今やアベル直属の近衛隊の隊長である彼は、何時でもすぐに駆けつけられるように訓練以外の時間は王の間の側で待機しているのである。

 

「な、何でしょうかぁあ!?」

 

ピピンは少し上擦り気味な声で答える。

彼が近衛隊長になってから、その立場でこういった城塞防衛の修羅場を経験したことは殆ど無い。

それだけ世界が平和だったということもあるが、天空の剣の聖なる力が邪を退けていたということもあって、魔物たちが組織的に城を襲ってくるなどということはまず考えられなかったからだ。

緊張した面持ちのピピンにオジロンは命じた。

 

「ピピン。お前と兵長を中心にグランバニア防衛の為の布陣を敷くのだ。時間は無いぞ!」

「は、はいぃ!」

 

そう返答するピピンの目は明らかに泳いでいた。

経験の少なさと事態の深刻さからピピンの顔には焦りと不安が色濃く浮かんでいる。

それを見たフローラはピピンに向かって、にっこりと微笑んだ。

 

「ピピン隊長。あなたが全てを背負う必要はありませんよ」

「フ、フローラ王妃…」

「私たちも一緒に戦うのです。そのことを忘れないで下さい」

「あ、ありがとうございます!」

 

フローラの言葉にピピンはそう謝意を述べた。

心なしか緊張も和らいだようである。

そんなピピンを見て、フローラはクスっと笑った。

 

「フフ…。ピピンさんと私は一緒に冒険をした仲じゃないですか。それに、アベルさんはあなたを信頼してこのお城を任せてくれたのです。自信を持って下さい」

「は…ハイ!」

 

ピピンはビシッと敬礼した。

今度の「ハイ」はとても力強いものであった。

その様子を見て、オジロンは肩をすくめる。

 

「やれやれ…、近衛隊長がこの様子じゃ、先が思いやられるぞ。王妃に励まされなくても、しっかりとして貰いたいものだ」

 

オジロンはフローラに励まされ上機嫌のピピンに聞こえないよう、小声で愚痴った。

 

「…さあ、ピピン!時間はあまり無い!早く行くのだ!」

「ハッ!」

 

オジロンにそう言われ、ピピンは急いで王の間を後にする。

何時の間にかマーリンも魔界にいる仲間たちへ連絡を取る為にいなくなっていた。

 

「ふぅ…」

 

そう息を吐くオジロンは今日だけでかなりの疲れを感じていた。

兄パパスに代わって王を務めていた時ですら、ここまで疲れたことは無い。

それだけグランバニアには事件が起きているということになる。

老齢と言うにはまだ少し早いが、もう若くはないオジロンにとって、この絶えぬ気苦労は少々どころではないくらいに堪えている。

オジロンはふと窓から空を見上げた。

 

「…本来であればこういった役割は私ではなく、王であるアベルの役割なのだがな。つくづく望まぬ王の代役を務めさせられるものだ。なあ、兄上?」

 

オジロンは今は空の上にいる兄に向け、愚痴を言った。

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