ドラゴンクエストⅤ~新たなる世界と新たなる者たち~ 作:メソウサ
「うぉーーーん!」
城門前。
城内への侵入を防ぐ為に集められた兵士たちの中に、一際目立つ形で魔物たちが混じっていた。
彼らこそ、グランバニアに残っていたアベルの仲間である。
その中の雪男のような外見の魔物が唸るように声を上げている。
「うぉーーーーん!アベル様のお城、守らなきゃ!」
彼はイエティのイエッタ。
巨大な体格から繰り出される見た目通りの強烈なパワー攻撃と、呪文や吹雪といったあらゆる冷気の攻撃を得意としている。
アベルの仲間の魔物たちの中では古参の方で、アベルたちとの付き合いも長い。
愛する主人の城を守るという強い意志を全身から感じる。
「……………………」
一方、そのイエッタの隣で対照的に静かに佇む人形のような魔物がいた。
彼はパペットマンのパペック。
無表情で時折体をくねらせており、彼が何を考えているか推し測るのは難しい。
しかし、彼もまたこの城を守ろうとしていることには違いなかった。
そんな彼と同様に無言で佇んでいる魔物がもう1体いた。
「……………………」
彼はゴーレムのゴレムスと言う。
ゴーレムとは石造りの巨大な人形のことで、その大きさは軽く人間の2~3倍はある。
人形とは言っても、パペックとは違い、どちらかと言えばロボットに近いタイプがゴーレムなのだ。
その巨大さはイエッタを遥かに凌ぎ、それ故に彼が室内にいる時は身を屈めても天井に頭がくっ付いてしまうくらいであった。
パペック同様に物静かな彼ではあるが、その立ち振る舞いまでポーカーフェイスなパペックとは異なり、全身から闘志のようなものを感じさせている。
「や、奴らを、い、一匹残らず、た、倒してやるんだな!」
そうたどたどしい口調で言ったのは、腐った死体のスミス。
スミスは元は人間であったのだが、死後時間が経ってから甦らせられた、言わばゾンビ系の魔物である。
その為、体の大部分が朽ちかけしまい、脳の働きも鈍い。
しかし、その心は使命感と主人への忠誠に満ちていた。
「メッキッキ!」
甲高い声でそう鳴いたのは、キメラのメッキー。
バッサバサと翼をはためかせ、宙に浮いている。
キメラとは蛇や鳥など様々な生物が合成されて生み出された魔物である。
外見は鳥にかなり近い。
その飛行能力の高さから、マーリンに頼まれてよく世界中を飛び回ることが多い。
今もマーリンに依頼された調査を終えて、帰ってきたばかりであった。
だが、疲れたといった表情は見せない。
彼らに加え、王の間にいるマーリン。
タバサと一緒のミニモン、クックルー。
そして、アベルやレックスに付いていった者たちを除く以上のメンバーが、現在グランバニアに残っていた魔物たちである。
その他、この場に姿を見せてはいないはぐれメタルのはぐりんもいるのだが、流石に気紛れで行動の予測がつかない彼を当てにすることは出来ない。
現状はこの戦力でグランバニアを襲撃してきた魔物たちを撃退せねばならない。
百戦錬磨、一騎当千の彼らではあるものの、数の差というものは、やはり如何ともし難い。
しかし、やるしかない。
そんな中、遂にその時は訪れる。
「…!!魔物たちが来たぞ!」
「守備を固めろ!魔物どもを城の中に入れるな!」
「出会え出会え!」
兵士たちの怒号が周囲に響き渡る。
つい先程まで静けさに包まれていた平和な大国に、突如として戦場の風が吹き荒れ始めた。
「…いよいよ来ましたな、この時が」
「ですな。取り敢えず城内に残っていた魔物たちは城の警護に就かせましたぞオジロン殿」
「うむ。流石はマーリン殿。仕事が早くて助かる」
「はてさて、何処まで持ち堪えられますかな?」
「持ち堪えるのではなく、勝たねばならぬ。これは、そういう戦いですぞ」
「そうでしたな。いやはや…」
オジロンとマーリンは、フローラやタバサと共に王の間に待機していた。
窓から城の外を覗くと、かなりの数の魔物たちがこちらへ向かっているのが見える。
これら全てを撃退し、この城と民の命を守り抜かねばならない。
城内の住人たちは、全員が2階へと避難していた。
もしも、魔物たちに城門を突破された時、居住区である1階に留まっていたら、真っ先にやられてしまうからである。
「パパ、住人の避難は完了したわ」
そう報告に来たのは、オジロンの娘のドリスであった。
ラフで動き易そうな衣服に身を包み、ざっくばらんな口調である。
前王オジロンの娘ということで彼女もまた王の血筋ではあるのだが、そういった雰囲気あまり見られない。
そういった元々の性格に加え、本人が王位に興味が無いこと、父オジロンが王位を退いたことが合わさり、かなり自由な立ち位置にいるのである。
その奔放さはかつてアベルが失踪し、レックスとタバサがサンチョを連れてその捜索を行っていた時に、その旅に同行したことさえあるくらいだ。
普段はとても人見知りであるタバサもそんな彼女には心を許している。
本来であれば、要人として避難すべき人物の1人ではあるが、今回の一大事に、こうして自ら率先して動いていた。
「ご苦労だったな、ドリス。お前も一緒に避難していなさい」
「避難したところで安全が確保されるわけじゃないわ。それなら、こうして動いていた方が気も紛れるし、何より私はじっとしてるのが性分じゃないのよ」
「しかしだな…」
流石のオジロンも娘の前では、1人の父親に戻るようで、必死に避難区域に行くように説得する。
国のことと同様にたった1人の娘も大事に思っていて、彼女をなるべく危険な目には遭わせたく無いのだ。
「大丈夫です、オジロン叔父さん。ドリスお姉ちゃんは私が守ります」
そう言ったのは、タバサであった。
久々に装備を整え、非力な女性でも軽々と振り回せる妖精の剣を手にしている。
そんなタバサを見て、ドリスは目を細くした。
「あらあら、さっきまでしおらしかった子が、随分と勇ましくなったじゃない」
「…守るって決めましたから。それに私も伝説の勇者の妹です」
「そ。でも、私だって守られるだけの女じゃないよ。それに可愛い姪っ子を守るのは年上である私の役目だしね」
「ドリスお姉ちゃん…」
ドリスはタバサの頭を撫でた。
こうして見ると2人は実の姉妹のようである。
「…でも、私がタバサの足手まといになるなんてのは流石にゴメンだわね。一先ずはパパの言うことを聞いておくわ」
少し間を置いてからドリスは寂しそうに言った。
戦場では、激しい争いが展開されていた。
グランバニアの勇敢なる兵士たちも、近年凶暴化の一途を辿る魔物たちの物量とその強さに押されつつあった。
「命に代えても魔物たちをここから通すな!」
前線へ赴いたピピンが叫ぶ。
本来であれば、近衛隊の一員である彼だが、単身での戦闘能力がずば抜けて高いこと、また守るべきフローラやタバサ自身も魔物たちにそう易々とはやられない程に能力が高いこと、またオジロンの進言もあり、こうして最前線の先頭に立つこととなった。
守りよりも攻めに重点を置いた、言わば攻撃は最大の防御といった布陣である。
兵長であるザトゥを連れ、少しでも敵の進行を食い止めに掛かっている。
「ピピン!どのくらい倒した!?」
「お、覚えて無いです!」
向かってくる魔物たちを斬り伏せながら、ザトゥとピピンは互いに声を掛け合った。
兵長であるザトゥはピピンの先輩で、グランバニア兵としての心得を教えてくれた1人である。
グランバニア兵の中でも戦闘力は高く、ピピン共々最前線に立っている。
「あと何百匹倒せばいいんでしょう!?」
「あと何千匹かも知れんぞ?」
「ひええええ!」
時折、2人でそんな会話をしている。
これは互いの無事と戦況を確認する為であり、余裕から来るものではない。
2人共、いくら戦闘力が高いからとは言え、この終わりの見えない戦いの中では余裕なぞ持てる筈もない。
そんな現状を乗り切る為に、こうして声を掛け合うことで互いに鼓舞し合っているのだ。
とは言え、やはり実力のある2人。
特にピピンはアベルと共に魔王と戦っただけあって、その強さはグランバニア兵の中では群を抜いている。
いくら凶暴化している魔物たちが相手でも、そう易々と形勢は崩されない。
あっという間に魔物たちの屍の山が築かれていく。
しかし、それでも魔物たちの進行は止まることを知らない。
「クソ!一体こいつらは何匹いやがるんだ!?」
「ザトゥさん。そろそろ下がって武器の交換を!その剣はもう使い物にならないのでは!?」
「そうさせて貰う!」
そう言ってザトゥがサイのような魔物に一太刀を浴びせたところで彼の持っていた剣は真っ二つに折れてしまった。
魔物たちの堅い皮や肉を斬り続け、その血を浴び続けた刀身は脆くなっていたのだ。
「ここは頼んだぞピピン!」
「はいぃっ!」
上擦ったような声で返事をするピピン。
その様子とは裏腹に、自慢の隼の剣をブンブンと振るっている。
隼の剣の軽く細い刀身は見た目とは異なり簡単に折れることはなく、寧ろ風に靡く柳の如く衝撃を受け流し、また飛び散る魔物の血を交わしていた。
その剣の特性とピピンの剣技を持って、未だに刀身は美しいままである。
ザトゥの剣と違って、まだまだ敵を斬れそうであった。
「いぃやああああ!」
ピピンが周囲を取り囲む魔物たちを一気に斬り払った。
しかし、それで倒れたのは1~2体で、他は少し怯んで下がっただけであった。
そいつらは殺意を持ったギラギラとした目をピピンへ向けている。
「ハァハァ…」
隼の剣の特徴はその軽さによる俊敏性であり、だからこそこうして単身でも対多数の戦闘においても別の敵に瞬時に対応することが出来るのだが、その分威力は通常の剣よりも下がってしまう。
普通の剣であれば仕留められた相手でも、こうして倒しきれないことがある、実に扱いの難しい剣なのである。
「ハァハァ…」
「グゥルルル…」
今回はその剣の特性があまり役に立ってはいないようだ。
攻撃回数が増えるということはその分ピピンへの負担も大きいということである。
事実、倒した敵の数以上にピピンは疲弊していた。
そんなピピンへ仕留め損ねた魔物たちの魔の手が今、迫ろうとしている。
前線部隊はそれぞれ手一杯で魔物たちの進行を食い止めるのに精一杯で、ピピンをフォローする余裕も無い。
「うおおーん!」
と、その時、背後からピピンへ襲いかかろうとした魔物の1体が横に飛んで行った。
ピピンを助けた者は更に雄叫びを上げ、周囲の魔物たちを怯ませる。
その声にピピンは聞き覚えがあった。
すぐに後ろを振り返る。
「い、イエッタさん!」
「うおーん!ピピン助けに来た!うおーーーーーん!」
そこにいたのはイエッタであった。
辿々しい言葉遣いでそう告げる。
「メッキッキ!」
「だ、だ、大丈夫か?ピピン?」
彼の出現を皮切りに、メッキーやスミスらもこの場に駆けつけてくる。
更に重い足音が鳴り響いて来た。
チラッと確認すると、一際大きいゴレムスが魔物たちを殴り飛ばしている姿が見えた。
「皆さん!これは心強い!」
ピピンは勢いを取り戻し、アベルの魔物たちと共に一気呵成に攻め立てた。
彼らの加勢は、この戦場において非常に大きかったと言える。
だが、それでも数の暴力とは恐ろしいものだ。
流れをなかなか掴ませてはくれない。
まだ、何かワンポイント足りないように思える。
「うおおおーーーーん…ハァハァ」
「メッキキー!」
「ハァハァ、て、て、敵多い」
救援に来た者たちも敵の数に押されつつあった。
1体が倒せる数にはやはり限りがある。
多くの敵に有効な呪文を持っていたとしても、それを素早く唱えられる程魔力が高い者がこの場にはいない。
イエッタもヒャダルコを使うよりメッキーと共に凍える吹雪で何とか応戦するのが精一杯であった。
「ハァハァ…、数が多過ぎる…!!」
持久戦になれば不利なのは敵より数の少ないこちら側である。
時間は多く掛けられない。
だが、これだけの数の敵を殲滅する術もない。
やがて戦線を維持するのも難しくなり、グランバニア軍はじりじりと後退を余儀なくされていた。
「くっ…!このままじゃ…」
と、その時であった。
「ベギラマ!」
その言葉と共に、ピピンたちを囲んでいた敵の魔物たちは強力な熱線によって一掃される。
とてもただのベギラマとは思えない破壊力であった。
呪文を唱えた時の聞き覚えのある声。
ピピンは声のした方へ視線を向けた。
そこにいたのは、マーリンであった。
「ま、マーリンさん!?」
王の間に待機していた筈のマーリンが何故ここにいるのか。
ピピンは頭の中で疑問符を浮かべていた。
…
……
………
「オジロン殿もドリス嬢の前では1人の父親ですな」
遠目からドリスたちの様子を見たマーリンが言った。
オジロンはすまなさそうに頭を掻く。
「すまぬな。こんな時に…」
「いえいえ、それが正しき親子の形だと思いますよ。まあ、こんな魔物に言われるまでも無いと思いますがね」
そう言って、マーリンは小さく笑った。
そして徐に王の間を後にしようとする。
「?何処へ行くのだ、マーリン殿?」
オジロンはマーリンの背中へ尋ねた。
マーリンは振り向かずに答える。
「…私も戦場へ行ってきますよ」
「マーリン殿自ら?」
「ええ。この戦い。長引けば我々の敗北の可能性が高まる…。攻めの手は少しでも多い方がいいでしょう」
「それはそうなのだが…」
オジロンは渋い顔をする。
万が一、魔物たちがここまで侵入してきた時、マーリンがいなければ防衛の手が1つ減ってしまう。
いくらフローラやタバサも戦えるとは言え、一国の要人を戦闘に立たせてしまうのは悪手でしかない。
「オジロン殿が考えていることは尤も」
そんなオジロンの思惑を読み取ったのか、マーリンはそう口にした。
だが、すぐにまた小さく笑う。
「何、私がいなくてもミニモンの坊主がそこにおりますでしょう」
そう言ってマーリンはタバサの側に寄り添うミニモンを指差した。
「立派に私の代わりを務めて下さりましょうぞ」
「ええっ!?」
誰よりも言われた当人のミニモンが驚いていた。
「ま、マーリン!それは一体…?そ、それに僕じゃ…」
「この私がそう言っているのだから、それを信じるのですよミニモン」
「で、でも…!!」
「お前には未来がある。こんな老いぼれ魔物よりもずっと…」
「マーリン…」
「…なんてことを言ってはみましたが、あの瘴気の研究もあるので死ぬつもりは一切ありませんからご安心下され。それではちょっと行って参ります」
………
……
…
「やれやれ…私自ら来たのは正解でしたな」
マーリンはいつものようにぶっきら棒な感じで言った。
そう言いながらも呪文を繰り出し、多くの魔物たちを倒している。
「ピピン、この私も加勢いたしますぞ」
「マーリンさん…」
ピピンは思わず泣きそうになる。
幼い頃、まだグランバニアの宿屋の息子でしかなかったピピンは、思春期の多感な時期にアベルの魔物たちとよく一緒に遊んでいた。
当時はグランバニアには同世代の子供は少なく、またアベルたちの失踪によって国は大変な時期にあった。
そんな鬱屈した空気の中、ピピンが何よりも好きだったのはアベルの魔物たちとの触れ合いであったのだ。
ピピンは一切覚えることは出来無かったが、マーリンからは呪文の勉強を受け、今はここにはいないピエールからは剣を教えて貰っていた。
アベルの魔物たちはピピンにとって、掛け替えのない仲間であり友人であり師であり、そして家族でもあるのだ。
マーリンの加勢もあってアベルの魔物たちを含めたグランバニア軍は襲撃してきた魔物たちをぐんぐんと押し返しつつあった。
「おおっ!戻ってみたらこの戦況!やはりアベル王のお仲間は強いな!」
「ザトゥさん!」
「待たせたな、ピピン。前線を抜けてった連中どもを始末するのに時間が掛かっていた。どうやら今が攻め時のようだ。ここから巻き返すぞ!」
「はい!」
ザトゥが加わると、前線部隊も更に活気付く。
魔物たちの進行は止まるどころかこっちが押し返しつつあった。
これならば勝てる。
そう思い始めたその時であった。
「!?」
突如、巨大な足音と振動。
あまりの揺れに地震でも起きたのかと誰もが錯覚した。
ゴレムスのそれとはまた一回り以上に大きいものだ。
周囲が薄暗くなる。
何か巨大なものが光を遮った、そんな感じであった。
「な、何ですか…?」
ピピンはその正体を探ろうと空を見上げた。
「こ、これは!?」
目視したその正体にピピンは驚愕する。
そこにいたのは鎧のようなものを纏った巨大な魔物であった。