ドラゴンクエストⅤ~新たなる世界と新たなる者たち~   作:メソウサ

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第7話 グランバニアの危機 その4

「な、何なんだアレは!?」

 

巨大な影の正体を目視して、1人の兵士が思わず叫んだ。

影の正体は魔物であった。

その大きさは明らかにゴレムスを超えていて、両の手に巨大なハンマーのようなものを持ちながら、でんと構えている。

今まで見たこともない新種。

人工的な外殻に覆われていることや、生物感があまり無いことから、キラーマシンのようなメカ系統の魔物だろう。

顔と思わしき部分を小刻みに動かし、地上を見下ろしている。

無機質な視線が酷く不気味であった。

と、その目がピカッと光る。

 

「!来ます!」

 

ピピンが叫んだのと同時に魔物のハンマーが振り下ろされた。

見た目の巨大さと裏腹に意外と俊敏な動きであったが、その場にいた者たちは間一髪で直撃を交わす。

しかし、その風圧と振動にその場にいた者たちは思わずバランスを崩してしまう。

兵長ザトゥは思わず顔をしかめる。

 

「くぅぅっ!?…あんなもの、まともに受けたら即死は免れぬぞ!?」

 

実際、魔物の一撃は簡単に地面を陥没させ、地表を抉り取っていた。

こんなものをまともに受けたら、普通の人間であれば全身が砕け散ってしまうであろう。

 

「…………!」

 

ゴレムスは真っ先に巨大なメカの魔物に突っかかっていく。

気合いを溜め、肩からぶつかった。

ガシーンと鈍い音が辺りに響く。

渾身の体当たりである。

 

「…………!?」

 

しかし、相手はぐらつくどころか、ピクリともその場を動かない。

そして、その無表情な顔をゴレムスに向けると、ただじっと見つめていた。

まるで、これからどうやって始末しようか思案しているかのように。

 

「…ッ!!」

 

突然、巨大なメカの魔物の周りにオーラのようなものが発生した。

いや、実際には何も発生してはいないのだが、それが目に見えるくらいに相手が力を溜めたのだ。

直後、そいつは無言でゴレムスに向かって両手のハンマーを同時に振り下ろす。

 

「!!」

 

ゴレムスは咄嗟に両腕を交差させ、その一撃をガードしたものの、そのパワーにガード状態のまま彼の巨体が大きく動かされた。

後方に何歩か分下がらされると、ゴレムスはよろめき跪いてしまう。

 

「そ、そんな!?」

 

その様子を見てピピンは驚かずにいれなかった。

アベルの魔物たちの中でも屈指のパワーと体格を誇るゴレムスがパワーで押されるなど、滅多に見られるものじゃない。

それだけ目の前の敵が強大であるとも言えた。

 

「力も頑強さも見た目通り…いや、見た目以上ですな。だが!」

 

感心した風なことを呟いた後、マーリンは詠唱を始めた。

高い魔力を持つマーリンはすぐに詠唱を終え、指先をそいつに向ける。

 

「魔法に対しては如何ですかな?メラミ!」

 

指先から瞬時に巨大な火球が生まれ、放たれる。

敵の巨大な体が一瞬で炎に包まれた。

 

「やったか!?」

 

ザトゥは乾いた喉に向けてゴクリと唾を飲み込んだ。

しかし。

 

「!!」

「…………」

 

敵は一切のダメージを受けたような形跡も無く、ピンピンとしていた。

マーリンの呪文は例え相手が機械であったとしても、多少の損傷があってもいいくらいの威力であった。

それがほぼ無傷であったというのは決して小さくない衝撃である。

 

「はて…、これは一体どういうことですかな?」

 

マーリンも驚きを隠せず、その骸骨のように窪んだ目を大きく見開かせていた。

 

「ならば、これはどうでしょうか?…ベギラゴン!」

 

マーリンはすかさず両の手に魔力を集め、それを強力な熱線に変えて目の前の敵に放った。

見張り台より襲撃してきた魔物を塵1つ残らずに焼き尽くしたあの呪文である。

 

だが…。

 

「ああ!?」

 

その場にいる者たちは見た。

そいつが自身の周りにバリアーのようなものを張ったのを。

バリアーに遮られた呪文はそいつに届くことなく空中で雲散する。

 

「なるほど…そういったからくりでしたか。こいつは厄介極まりないですな。いやはや…」

 

その光景を見たマーリンは小さく舌打ちしてから皮肉混じりに言った。

ゴレムスに勝るパワーと頑強さ、マーリンの呪文すら防ぐバリアーの存在。

この魔物1体でここを襲撃している何千匹といった数の魔物たちを凌ぐ程の強さである。

こいつの登場で、押せ押せムードだった戦況が一変してしまった。

それは他の魔物たちにも伝播していく。

 

「ピピン隊長!このままでは前線を維持出来ません!」

「くっ、後退だけはダメだ!ここで退けば、ずるずると押されていくだけだ!」

「このまま奴らに突っ込まれてしまったらグランバニア城があっという間に攻め滅ぼされる!お前ら!死んでもここを守り抜くんだ!」

 

ピピンとザトゥが交互に叫ぶ。

しかし、それは他の兵士たちも重々承知のこと。

誰もが自らの命を懸け、この場の戦線を維持することに努めていた。

だが、それでも巨大な魔物を中心とした軍勢は更に勢いを増し続け、戦況は悪化の一途を辿っている。

 

「くっ、それでも…それでも僕らは、この城を…故郷を守らなきゃいけないんだ!」

 

ピピンは血を吐くようにそう叫んだ。

彼だけでなく、兵長ザトゥも、そしてグランバニアで戦う兵士たちにとってもグランバニアは生まれ故郷であり、何れは骨を埋める地なのである。

その地をこんな魔物たちに好き放題に荒らされるわけにはいかない。

 

「うおおおおおおおおお!!」

 

グランバニアの兵士たちは気合を溜め、襲い掛かる魔物の軍勢と命がけで対峙する。

だが、それでも今はグランバニア側に分が悪いのもまた事実。

依然、熾烈な戦いが繰り広げられていた。

 

 

 

一方、その頃グランバニア城。

 

「…………」

 

王の間にて、タバサはまたも不安げな表情を浮かべ、落ち着かない様子であった。

そんな彼女の予感を裏付けるように、兵士の報告が飛んでくる。

 

「オジロン様!戦地にて巨大な魔物が出現!戦況は我が軍に不利になりつつあります!」

 

ピカピカの鎧と兜に身を包んだ兵士が地面に膝をつきながらそう告げると、オジロンは思わず表情を曇らせた。

 

「やはり、数の差はそう易々とひっくり返せるものでもないか…」

「ハ!このままでは全滅かと…」

「縁起でもないことを言うでない!…お前、見たことのない顔だな。新参か?」

「ハ!ひと月前より!」

 

その兵士は即答した。

オジロンは訝しげに兵士のことを見つめる。

 

「…新しい兵士が入ったなどという情報は聞いたことがない。少なくともここ1ヶ月はな」

「…………」

「何故黙るのだ?…貴様、一体何者だ!」

「…ヒッヒッヒ、気付かれちゃいましたか!」

 

兵士は突如不気味な笑い声を上げると、ボンっと煙に包まれた。

次の瞬間、兵士の姿はピエロの格好をした何者かに変わる。

しかし、そいつはただのピエロではなかった。

何故なら、そのピエロには目が1つしか無かったからだ。

恐らく、人間ですら無い。

 

「貴様っ、何奴!?」

 

異形の存在を前にしながらも、毅然とした態度でオジロンが尋ねる。

こんな時でも慌てふためかないのは、望まぬ形とは言え長年王の役目を務めてきた賜物であろう。

 

「私の名ですか?私はペィロ。切り裂きピエロのペィロと申します」

 

案外、素直にピエロはそう答えた。

丁寧な言葉使いではあるが、何処か慇懃無礼な印象を受ける。

 

「切り裂きピエロ…?ペィロ、だと…?」

 

オジロンはピエロの口にした耳慣れない言葉に首を傾げた。

ペィロと名乗ったピエロのような姿の魔物はそれを見るや、急に大きな声で笑い出す。

 

「ヒッヒッヒッ、そう言えばこの大陸にはまだ切り裂きピエロはいないんでしたっけね。ヒッヒッヒッ」

 

ペィロの不快で耳障りな笑い声に、思わずオジロンは苦虫を噛み潰したような顔をした。

その背後では、フローラのことを守るようにタバサが立っていた。

その彼女たちの前を更にミニモンたちが守るように立っている。

その様子を1つだけの目でじーっと見つめた後、ペィロは甲高い声で再び笑い声を上げた。

 

「ヒッヒッヒ!何時見てもいいですねえ。弱き者たちがそうして支え合う姿というのは。実に滑稽です」

「え、えぇい!兵士たちよ!であえであえ!」

 

オジロンは叫んだ。

しかし、呼べば瞬時に集まるように訓練された筈の兵士たちは何時まで待っても来ない。

 

「な、何故だ?何故誰も来ないのだ?」

「ヒィーッヒッヒッ!あの雑魚共ならば私の手で深い深い眠りについていますよ。2度と覚めない深い深~い眠りにねぇ」

 

ペィロは三つ又の短剣をペロリと舐めながら言う。

よく見ると、刃先に薄っすらと血のような曇りが見える。

 

「お、おのれ貴様!」

 

オジロンは激昂するが、その様子がさぞ面白いのか、ペィロは挑発するかのように文字通り腹を抱えて笑ってみせた。

 

「ヒッヒッヒッ!いやあ、楽しいですねぇ。人間の感情というものは!」

「くぅっ…貴様、一体何処の魔物だ…?魔界か!?」

「ヒッヒッヒッ、言っても分からないと思いますが、お教えいたしましょうか。私はねえ、アストルティアという所から来ました」

「アストル…ティア?」

 

オジロンは初めて聞いたような顔をする。

 

「そんな場所、聞いたこともない!…ええい、貴様!口から出任せを言っているのだな!?」

「出任せではありませんよ、ヒッヒッヒッ。まあ、遠い遠い地からやって来たと思って頂ければ結構です。ヒッヒッヒッ!」

 

不敵に笑うペィロ。

普通は人を楽しませるのがピエロというものだが、このペィロというのは先程から自分が笑ってばかりである。

そして、その笑い声は周りの者を等しく不快にする。

笑っている間、とても無防備なのもまた腹正しい。

 

「ヒャダルコ!」

「メラミ!」

 

タバサとミニモンはその隙を狙って、同時にペィロに向けて呪文を放った。

ペィロは避ける間もなく、その身に2人の呪文を受ける。

 

「やったか!?」

 

間近で見ていたオジロンは思わず声を上げた。

が、しかし、ペィロはピンピンしており、まるでダメージを受けた様子がない。

寧ろ、またも腹を抱えて笑い声を上げていた。

 

「ヒィーッヒッヒッ!!無駄無駄。無駄というものですよ。その程度の呪文じゃかすり傷すらとてもとても」

「そんな…」

「僕とタバサの呪文が…」

 

王の間という場所や非戦闘員であるオジロンがいたという理由で多少は抑えたという面もあるが、それでも大抵の魔物であれば少なからずダメージは受ける威力な筈である。

しかし、実際は殆ど無傷。

タバサとミニモンは戦慄していた。

そんな2人を見て、ペィロは笑うのを止め、憐憫を含んだような視線を送る。

 

「おやおや、何で効いていないんだ?って顔ですねぇ。では、お教えいたしましょう。それは私が魔結界を張っているからです」

「魔…結界?」

「な、何だよそれ!」

 

耳慣れない言葉に2人は戸惑いを隠せない。

 

「ヒッヒッヒッ!知らないのも無理はありませんねえ。ここには無い技なのですから。水のない世界の人間に海を教えても想像すら出来ないのと一緒ですね。ヒッヒッヒッ!」

「ば、バカにして!行くぞ、ブラウン!」

「ん!」

 

ミニモンはブラウンと共に手にしている武器でペィロに飛びかかった。

呪文がダメならば通常攻撃というわけだ。

同時にクックルが「クックルゥー!」と一際甲高い声で鳴くと、2匹の身体能力が目に見えて向上した。

クックルがバイキルトを使ったのであった。

 

「フフーン♪」

 

だが、2匹のその攻撃はペィロの舞うようなステップで軽やかに交わされてしまう。

更にその直後、ペィロは踊るような動きのまま反撃を試みた。

 

「うわあ!?」

「んんっ!?」

 

ペィロからの反撃を受け、2匹は元いた場所まで吹き飛ばされてしまう。

大きなダメージでは無いものの、あまりに不可解な動きに戸惑いは隠せない。

 

「ヒッヒッヒッ。呪文が効かないなら肉弾戦ですか。浅はかですねえ。そっちは寧ろ私の得意分野だというのに」

 

両手に装備した短剣をこすり合わせながらペィロはそう言いのけた。

相変わらずリズミカルに体を動かしながら、まるでタップダンスのように足を踏みならしている。

この動きで先程ミニモンとブラウンの攻撃を避けたのである。

 

「さてさて、どうしますか?打つ手なしの万事休すという奴ですか?ヒッヒッヒッ」

 

そう言ってペィロは短剣の刃をペロリと舐めた。

そして、品定めするかの如く、この場にいる者たちを見回す。

 

「…久し振りですねえ。柔らかい活きのいい肉を切り刻むというのは。思えば、ここ最近は実験だの何だので、こういうことはしていなかったですからねえ」

「…………!」

「そこの魔物たちはともかく、人間の…それも女の肉を切り裂くのは極上の愉悦。いい…実にいいですよお!」

 

喋りながらどんどんテンションを高めていくペィロ。

それを見て、タバサは恐怖や不快感よりも、真っ先にこの場にいる者たちをどうすれば全員守れるかという使命感を覚えた。

戦いが始まる前の不安の色は、今はもう無い。

彼女もまた伝説の勇者の血を分けた存在ということなのだろう。

妖精の剣を握る手にグッと力が入る。

 

「…皆にはもうこれ以上、指一本だって触れさせない!」

 

慣れない剣を構えながら、タバサは言った。

それを見たペィロは、今度は笑うのではなくおいおいと泣き始める。

 

「おおっ…、何と健気なのでしょう。思わず涙を禁じ得ませんよ。おーいおい」

 

無論、嘘泣きである。

 

「その健気さに敬意を表して、少し遊んであげますよ」

 

ペィロはリズミカルな動きを保持したまま三つ又の短剣を構えた。

何処かコミカルな様相とは裏腹に、その身から発する殺気は先程よりも増している。

タバサは背筋に凍るものが走った。

 

「…………」

「ヒーッヒッヒ!行きますよお!!」

 

先に動いたのはペィロの方であった。

両手の三つ又の短剣を鮮やかに振り回し、タバサへ襲い掛かる。

タバサは妖精の剣で何とかそれらを受け止めた。

こうして敵相手に本気で剣を振るうのは実に6年振りではあるが、意外と体は覚えているものである。

伊達に伝説の勇者と血を分けてはいない。

 

「つっ……!」

「ヒッヒッヒ、やりますねえ」

 

ペィロは余裕の態度を崩さない。

ニヤニヤとした表情で連撃を加えていく。

その1撃1撃を何とか妖精の剣で受け止めていくが、タバサはそのまま1歩1歩後ずさってしまう。

それだけ相手の攻撃が激しく殺気も篭っているのだが、その攻撃にはどうも必ず相手を殺すという本気さが無いように思われた。

「遊ぶ」という言葉通り、ペィロはタバサを使って遊んでいるのだろう。

何時の間にか2人はまるでダンスでもしているかのように、足並みを揃えていた。

 

「ほーれほれ。そんなステップでは観客を楽しませることは出来ませんよお!」

「ふざけ…ないで!」

「ヒッヒッヒ。ワン・トゥー・スリー。アン・ドゥー・トロワ」

 

小馬鹿にしたかのようにペィロはそう口にする。

そうしながらも、攻撃の手は緩めない。

少しでも気を抜いたら、そのまま切り刻んでやろうという魂胆である。

 

「タバ…」

「フゥッ!」

 

タバサとペィロの間に入ろうとしたミニモンへ向け、ペィロは何処に仕舞っていたのか隠しナイフを投げつけた。

ナイフはミニモンの足元へと突き刺さる。

ミニモンの足が止まってしまった。

 

「ミニデーモン風情が、私と王女の時間を邪魔しないで貰いたいですねえ。せっかくの気分が台無しですよお!」

 

何処まで本気なのか分からないようなことをペィロは声を張り上げて言った。

あまりに狂気じみていて、ミニモンは恐怖すら覚え始める。

このペィロという魔物は明らかに格上の存在であり、このまま本気を出されてしまえば皆やられてしまってもおかしくない。

ペィロはこの場にいる者たちの生殺与奪を明らかに握っていた。

 

「ヒーッヒッヒッヒ!!ヒーッヒッヒッヒ!!!!」

「あ!!」

 

ペィロは激しい攻撃の末、タバサの妖精の剣を弾き飛ばしてしまった。

タバサは手ぶらになってしまう。

そんな彼女へ向け、ペィロは両方の三つ又の短剣を構え、ペロリと舌なめずりした。

 

「名残惜しいですが…これでお終いですよおおおおおお!!」

「…………ッ!!」

 

タバサは思わず目を閉じてしまう。

ペィロの凶刃が今まさにタバサの喉元へ一直線に向かっていた。

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