ドラゴンクエストⅤ~新たなる世界と新たなる者たち~ 作:メソウサ
「遅いヨォ!」
「ご、ゴメンゴメン。その…色々あってさ」
ドラきちが少し怒ったように言うと、レックスは申し訳なさそうに頭を下げた。
何だかんだでドラきちたちはレックスを待っていたらしく、先へ行ってと言われたにも関わらず、別れた時と同じ場所にいた。
「それで何でそいつも一緒に来てるんだヨォ!」
そう言って、今度はレックスの隣にいるリーヴへと視線を向ける。
リーヴは一切悪びれることなく口を開いた。
「レックスに麓の町まで送ってもらうことになってさ」
「何でそうなるんだヨォ!?家まで送るだけじゃなかったのかヨォ!?」
「レックスの言う通り、色々あったんだよ、色々」
「色々って何だヨォ!?」
「色々ったら色々なんだよ!」
「わけが分からないヨォ!」
1匹憤慨するドラきち。
レックスが連れている魔物たちの中で唯一人語を話せるのは彼だけのようで、他の2匹は押し黙っている。
今はドラきちが魔物たちを代表して喋っているようであった。
「スラリン、お前はどう思うんだヨォ?」
「ピキー!」
ドラきちに尋ねられて、ようやくスラリンは言葉…というよりも鳴き声のような音を発した。
彼も人語を話せないなりに何かを訴えているようである。
「…ふむふむ、スラリンも今はそんなことしている暇はないって言ってるヨォ!」
ドラきちがスラリンの言葉を通訳する。
どうやら彼は異なる種族の言葉でも理解することが出来るようだ。
次にドラきちはプックルの方へ体を向けた。
「プックルはどう思うんだヨォ!」
「ガウガウ」
「ほら、プックルだって…えぇ!?プックルは構わないのかヨォ!?」
「ガウ!」
「流石、プックル!分っかるぅ~!」
驚くドラきちを余所に、レックスはプックルの頭を撫でて喜ぶ。
プックルもまたレックスの手をペロペロと舐めてそれに応えていた。
「むう…プックルがそう言うなら仕方ないヨォ」
ドラきちは渋々といった感じで言った。
どうやら、この3匹の中ではプックルが一番の決定権を持っているようだ。
伊達に地獄の殺し屋と呼ばれてはいない。
「ってことで、これからもよろしくな、ドラきち!」
「気安く名前呼ぶなヨォ!」
プイっとそっぽ向くドラきち。
リーヴは少し苦笑すると、次にプックルへと顔を向けた。
「お前もありがとな。え~っと、プ、プックル…?」
そうお礼を言いながら、リーヴはプックルに恐る恐る触れようとする。
と、プックルがその指先をペロっと舐めてみせた。
「ひゃおん!」
リーヴはつい変な声を上げてしまった。
猫科特有のざらざらとした舌の感触。
キラーパンサーのそれは普通の猫よりも強く硬いもので、舐められた指先が思わず切れてしまいそうになるくらいだった。
「アハハハ!リーヴ、今女の子みたいな声出してたよ!」
「うるせえ!ちょっとビックリしただけだよ!」
思わぬ醜態を晒してしまったことに、リーヴは顔を真っ赤にしてしまう。
とは言え、普通の人であればキラーパンサーに舐められたりしたら、リーヴに限らず誰でも似たような反応になったであろう。
或いは、舐められる前に失神してしまうかも知れない。
「い、行くぞ!!早くしないとここで野宿しなきゃならなくなるかんな!!」
リーヴはそう言って先に進み始めた。
レックスは「アハハ」と笑った後、リーヴの後を追って歩く。
3匹の魔物たちもそれに続いて行った。
そうして歩いて行くこと数時間。
ようやく深い森を抜けることが出来た。
「ふぃーっ。あと少し歩けば町が見える筈だぞ!」
「もう大分夜も更けてきちゃったね。取り敢えず町に着いたら宿屋に泊まろうか」
レックスは夜空を見上げながら言った。
リーヴの言った通り、森を抜けてからそれ程時間が掛からずに麓の町まで辿り着くことが出来た。
この町はボムバレーという名で、とても小さく、どちらかと言えば村に近い規模である。
「プックルたちはここで待ってて」
レックスが申し訳無さそうにプックルたちへそう告げた。
確かに、いきなり魔物を連れて町へ入ったら、いくら真夜中とはいえパニックになりかねないだろう。
それにここ最近は人間の魔物に対する風当たりも再び強くなってきているし、無理に連れて行けばいらぬトラブルを招いてしまう可能性も高い。
プックルたちもその辺は弁えていたようで、文句一つ言わずにレックスの言葉に従った。
「オイラたちのことは気にしないでいいから、ゆっくり休んでくれヨォ、レックス。今日も色々あって疲れただろうしヨォ」
ドラきちはそう言ってレックスに気を使わせないように配慮する。
その気持ちを汲んだのか、レックスはこくりと頷いた。
「うん、じゃあ朝になったら迎えに行くから」
「待ってるヨォ」
「ガウガウ」
「ピキー!」
町の中へ入っていくレックスたちを見送りながら3匹はそれぞれ声を掛ける。
一連の会話を聞いて、リーヴはレックスと魔物たちの絆は強いんだなと思った。
町に入るなり、不気味なカラスの鳴き声が2人を出迎えた。
闇に溶けているからなのか、鳴き声の主を確認することは出来ない。
2人は一先ず宿屋を探すことにした。
宿屋は入り口のすぐ近くにあり、こんな夜遅くなのにも関わらず開いているようだったので、2人は迷わず店の中へ入った。
小さい町の宿屋らしくそれ程大きい店では無かったが、何処か温かみがあって懐かしい感じがする。
「…いらっしゃい」
店に入ったレックスたちを迎えたのは、店主と思わしき初老の男であった。
頬杖をつきながら眠そうな顔でカウンターに座っている。
「お2人様ね。今、泊まってる客がいて空いてる部屋1つしかないけど構わないかい?」
「僕は構わないけど…リーヴは?」
「俺は別に一緒の部屋でもいいけど」
「じゃあ、それで」
「ん…。じゃあ、10Gだ」
「はい」
レックスは胸から袋を取り出すと、10枚のゴールドを取り出してカウンターに置いた。
店主はそれを目で数えた後、欠伸混じりに部屋の鍵をレックスへ渡す。
「部屋はそこね。隣には他の客が泊まってるから間違えないように気をつけてな」
鍵を受け取ったレックスはリーヴと共に、店主の言った部屋の中に入った。
部屋へ入るなり、リーヴはベッドの上へ飛び込む。
「かぁ~、やっぱ宿屋のベッドはいいなあ~。ふわふわだ~」
「ちょうどベッドは2つあるし、リーヴはそっちを使いなよ」
「ああ!」
リーヴは枕に顔を押し付けながら答えた。
まるで雲の上にでもいるかのような心地良さと今日1日の疲労から、寝巻きに着替える間もなくそのまま意識を失ってしまった。
レックスも靴と上着を脱ぐと、そのままベッドの中に入って横になった瞬間眠りに落ちる。
部屋に入って、それ程時間も経たない内に2人は就寝したのであった。
…
……
………
「ますか…」
突如、レックスの耳に声が聞こえて来た。
レックスは目を開こうとする。
しかし、まるで金縛りにでもあったかのように体の自由が利かない。
「この声が聞こえますか?」
声は尚も続く。
「誰?僕を呼ぶのは?」
レックスは尋ねる。
不思議なことに、口が動かないのに何故か言葉を発することが出来た。
「この声が聞こえる名も知らないあなたに伝えます…」
声はレックスの問いには答えてくれなかった。
「この世界は魔の者の手により、少しずつですが滅びに向かっています」
「魔の、者?」
「お願いです。この声が聞こえたら、それを止めて下さい」
「止める?どうやって?」
「お願いです。誰か…」
段々と声が小さくなっていく。
レックスは動かぬ体で手を伸ばそうとした。
消えそうなその声をその手で捕まえようとでもするかのように。
やがてその声は完全に聞こえなくなった。
………
……
…
「…おい!!」
「ん…?」
レックスの耳に再び声が聞こえる。
先程と違い、今度はちゃんと体が動く。
目を開けると、心配そうな顔のリーヴがレックスを覗いているのが見えた。
「リー…ヴ?」
「おい、大丈夫かレックス?何かうなされてたようだったけど」
「うなされてた?僕が?」
「ああ!」
レックスは体をゆっくりと起こす。
外を見ると、太陽は既に昇っており、明るい光が窓から差し込んでいた。
どうやら、先程のは夢だったようだ。
「ん、どうも夢を見てたみたい」
「夢?悪い夢か?」
レックスは首を振った。
「ううん、悪夢って感じじゃ無かった。いい夢ってわけでもないけどね。え~っと…何て言ってたっけなあ?」
不思議なことに夢の内容を思い出そうとしても全く思い出せなかった。
何か伝えられたような気もしていたが、それさえも記憶の底に沈んでいるようである。
「そうか…。とにかく朝だから起きろ。ほら、上着」
「うん…」
リーヴに促されるまま、レックスは上着を受け取ってそれを着る。
頭の中に霧が掛かったようなモヤモヤとした気分であったが、思い出せないものは仕方ない。
眠気眼のまま荷物をまとめると、取り敢えず宿屋を出ることにした。
「お前、朝弱いんだな」
「うん…リーヴは朝強いんだね」
「そりゃ、木こりやってたからな。朝早く起きるのは仕事みたいなもんだ!」
リーヴはえっへんと胸を張った。
「…まあ、その木こりも暫く休業しなきゃなんねえだろうけどな」
「アハハ…」
一転して、リーヴはがっくりと肩を落とした。
今日はこの町でリーヴの今後についてどうするかを決めなければならない。
何処か住み込みで働けるような店でもあればいいのだが、そう容易くはいかないだろう。
何にせよ、今日一日はこの町で過ごすことになるのは間違いない。
レックスたちが部屋の鍵を返しに宿屋のカウンターまで来ると先客がいた。
「鍵だ」
そう言って、店主に鍵を手渡している。
フードで顔を隠しているが、声の感じからして男のようである。
そう言えば、昨晩に店主より隣の部屋に宿泊客がいると聞かされていた。
彼がそうなのだろう。
何処と無く近寄り難い雰囲気を醸し出している。
「…はい、有難うね」
フードの男から鍵を受け取った店主が欠伸を噛み殺しながら言った。
と、レックスたちの姿が視界に入ったのか、声を掛けてきた。
「あ、お客さん。どうでしたか、うちの宿屋は?」
「あ、ハイ。とても良かったです」
店主の質問にレックスがそう答えると、店主はニコっと笑った。
「そうですか。では、今後ともご贔屓にして下さいね…ふわっ」
またも店主は欠伸をする。
昨晩は真夜中だから眠そうなのだと思っていたが、この店主は1日中眠いらしい。
フードの男がチラッとレックスの方を振り向いた。
男の顔はフードに隠れてよく見えないが、髪の色が銀色であることは何となく分かった。
「お前は…」
フードの男がそう言葉を漏らす。
まるでレックスのことを知っているかのような口振りであった。
「?」
この時、まだレックスは気付いてはいなかった。
リーヴとの出会い、そしてこの男との出会いが、新たな運命の始まりであるということを。