ドラゴンクエストⅤ~新たなる世界と新たなる者たち~   作:メソウサ

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第2話 謎の男 その2

「すみません、何処かで会いましたか?」

 

レックスはフードの男へ尋ねた。

暫くの間、2人は無言で見つめ合う。

何処か張り詰めたような緊張感が辺りに漂い始める。

 

「…いや、何でもない」

 

少し経ってから、フードの男はそう言ってレックスから顔を背け、そのまま店の外へと出て行ってしまった。

フードの男が出て行ったことで、周囲のピリピリとした空気は次第に和らぎ始めている。

 

「一体、何だったんだ?」

 

リーヴが不思議そうな顔でポツリと呟く。

レックスとフードの男が見つめ合っていた時、このまま斬り合いでも始まってしまうんじゃないか。

そう思ってしまうくらい、両者の間にはただならぬ雰囲気が漂っていた。

 

「アイツ、お前の知り合いなのか?」

「…いや、知らない人」

 

リーヴの質問に、やや間を置いてからレックスは答えた。

その表情は何処か険しそうに見える。

レックスがあのフードの男に対して何を感じ、何を思っているかはリーヴには分からない。

ただ、先程まで太陽のように明るかったレックスが急にこんな表情に変わったことがどうにも気になっていた。

 

「なあ…」

「さ!そんなことより、リーヴの住む所を見つけなきゃ!」

「え?あ、お、おうっ」

 

急にパッと明るい表情へと戻ったレックスにリーヴは少し戸惑ってしまい、思わず声がどもってしまう。

こっちの表情が彼の素なのだろうということは分かるのだが、どうにもギャップがあり過ぎた。

リーヴは軽く咳払いをし、気を取り直す。

 

「あ、でもレックスは確か何か大事な用があるんだろ?」

 

昨日、ドラきちがそのようなことを口走っていた。

そのことをリーヴは思い出す。

 

「もう町には着いたし、こっからは1人でやるよ」

 

この町に来たのは、これからの寝床と仕事を見つける為であった。

ここから先はリーヴ自身の問題であり、これ以上赤の他人であるレックスたちを付き合わせるわけにもいかない。

何か他に用事があるのであれば、尚更である。

しかし、そんなリーヴの考えを余所にレックスは人懐こい笑顔で口を開いた。

 

「そんな気を遣わなくてもいいよ。乗り掛かった船って奴だし、君がちゃんと住む場所を見つけるまで一緒に手伝わせて欲しいな」

「で、でも…」

「それに君が家を失ったのは僕の責任でもあるんだ」

 

気を遣うリーヴの言葉に被せるようにしてレックスは続けた。

何時の間にか、笑顔から真剣な表情へと変わっている。

 

「僕がちゃんとアイツを止められていれば、あんなことにはならなかったかも知れない」

「だから、それは別にお前のせいじゃ…」

 

レックスがあの時にテラノライナーを追い払うだけじゃなく完全に殺していたとしても、他の2匹が家を襲っていたことには変わりないだろう。

仮にその日無事に済んでいたとしても、あの森にテラノライナーたちが潜んでいたのであれば、また別の日に襲撃されていたかも知れない。

そうなれば、家だけでなく、最悪リーヴの命さえ失われていた可能性だってあったのだ。

あの時、あの場所にレックスがいてくれなければ、今のリーヴは存在していない。

感謝こそすれ、恨んだりするなどお門違いも甚だしい。

 

「じゃあ、これは僕のワガママだ。僕が君を手伝いたい。ダメかな?」

 

そう言ってレックスは小首を傾げてみせる。

リーヴは思わず「う~ん」と唸った。

 

本音を言えば、リーヴは猫の手だって借りたいぐらいの心境であった。

だから、レックスが手伝うと言ってくれるのはとても嬉しいし、願ってもいないことである。

それに、このままレックスと別れてしまうのは、やはり少し寂しい。

出会ってから1日も経っていないが、リーヴはレックスのことを人間として好きになっていた。

彼には何処か人を惹き付けるものがある。

 

「…じゃ、じゃあ、また言葉に甘えさせて貰うよ」

 

それがリーヴの出した答えであった。

もう少しだけ一緒にいても罰は当たらないだろう。

住む場所と仕事が見つかったら、今度こそお別れだ。

リーヴの返事を聞いたレックスはホッとしたように表情を崩す。

 

「うん、有難う」

「あ!お前、また『有難う』って言ったな!」

「あ、そうか。確かにそれもそうだね。アハハハ」

「ったく!…有難う、な」

「うん、どういたしまして」

 

2人は一緒に笑った。

 

2人は宿屋から出た後、一旦町を出て、外で待機しているプックルたちと合流した。

そして、レックスがリーヴの職&寝床探しに付き合う旨を説明すると、またしてもドラきちが嫌そうな顔で文句を言う。

 

「またそいつかヨォ!レックスは人が良過ぎるんだヨォ!!」

「ハハハ、ご、ゴメンね…」

「…どうせ何言っても、そいつに付き合うんだろォ?」

 

ドラきちはジト目でリーヴの方をチラリと見やった。

リーヴは少しばつが悪くなり、頭をポリポリと掻いて目を逸らす。

 

「ハァ、分かったヨォ。オイラたちはもう少しここで待っているヨォ」

「ごめんね、ドラきち!この埋め合わせは必ずするから!」

「期待して待ってるヨォ」

 

そう言ってドラきちは片方の羽をパタパタと振って、2人を町へ送り出した。

その隣でプックルは大きな欠伸をし、スラリンは相変わらず何を考えているのか分からない表情で「ピキー」と鳴いている。

 

「よーし、ドラきちの許可も得たので、改めて頑張ろうね!」

「あ、ああ!」

 

3匹と離れ、再び町の中へ入った2人はそう気合を入れてこれからのことに臨む。

 

 

 

それから暫く経ち…。

 

 

「…見つからないね」

「…ああ」

 

2人は疲れたような顔で町の中を歩いていた。

やはり、仕事と住む場所を同時に見つけることは、そう容易いことではない。

住み込みで働けそうなところは、ほぼ全て間に合っているようである。

 

「う~ん、想像していたよりも大変だね」

「こんなに見つからないとは思わなかった」

 

2人とも、少し甘く考え過ぎていたようである。

ここボムバレーは、ただでさえ小さな町なのだ。

そして、その割りに住人は少なくないので、1つの仕事に対しての競争率も高い。

余所者のリーヴが入り込める隙は殆ど無かったのであった。

 

「どうしよう…俺、手持ちもそんなに無いぞ」

 

リーヴは腰に付けていた袋を取り、中を見る。

壊された家から必死に回収した全財産150G。

宿屋が1人5Gだから、単純に宿屋に寝泊りしていれば1ヶ月程で無くなってしまう。

それ以外の生活費も含めれば、もっと早いだろう。

 

「実は僕も今はそんなに持ってないんだよね」

 

レックスは申し訳無さそうに言って、ゴールドの入った袋を取り出す。

リーヴよりは持っていたものの、それでも400G程であった。

ただ、レックスたちは旅をしているし、腕っ節も強い。

道中の魔物を倒していれば、然るべき場所から報奨を貰うことも可能なので、恐らく旅をする上で金銭には困ることは少ないだろう。

だが、リーヴには魔物を倒すような力は無い。

従って、何かしら働き口を見つけるしか、ゴールドを入手する手段が無いのだ。

森にいた頃は木こりとして稼いでいたが、それを失った今のリーヴは実に無力であった。

 

「ハァ~、俺もレックスみたいに呪文とか使えればなあ…」

 

思わずそんなことを愚痴ってしまう。

呪文が使えたところで魔物を倒せるかどうかはまた別の話である。

と、その時、リーヴの肩に誰かがぶつかって来た。

 

「痛!」

「おっと、すまねえ」

 

リーヴにぶつかった男はそれだけ言うと、振り返りもせずに行ってしまった。

 

「何なんだアイツ?」

 

不満を隠すともせず、リーヴは唇を尖らせる。

住む場所も仕事も見つからない苛立ちから、あまり機嫌が良くなかったのだ。

「ちぇっ」と舌打ちしてからそのまま行こうとすると、レックスがリーヴの異変に気が付く。

 

「あ、リーヴ。腰!」

「え?」

 

レックスに言われて腰の辺りに触れてみると、そこにある筈のものが無かった。

 

「あ、お、俺の全財産!!」

「さっきの奴だ!!」

 

気が付いて振り向いた時には既に遅かった。

先程リーヴにぶつかって来た男の姿は何処にも見えない。

 

「う、嘘だろ…?こんな白昼堂々とスリなんて…」

「取り敢えず、アイツを探そう!!」

「お、おう!!」

 

2人は手分けしてスリを探しに行く。

いくら小さい町とは言え、人1人探し出すのは容易ではない。

ただ、すぐに掏られたことに気が付いた為、そう遠くまでは行っていないだろうというのが唯一の望みであった。

スリが隠れられそうな路地を中心に探していく。

 

「見つかった?」

「いや、見つかんない!」

 

時間が掛かれば掛かる程、焦りは増していく。

それだけ遠くへ逃げられてしまうからだ。

スリの顔をよく見ていなかったのもあまり良くはなかった。

手掛かりは今のところリーヴの全財産が入った袋を持っていることしかない。

袋だけ捨てられてしまえば、もう探し出す手段が無いに等しい。

 

「もうダメだあ!」

「諦めちゃダメだよリーヴ!」

 

レックスはそう言うが、事態が絶望的なのは誰が見ても明らかである。

半ば諦め気味のリーヴが暗い顔でとある路地に入ると、そこに見覚えのある男が立っていた。

 

「あ!あいつは…」

 

フードを被った長身の男。

宿屋で出会ったあの男である。

そして、彼の前には1人の男が仰向けで倒れていた。

よく見ると、倒れた男の手には、またも見覚えのあるものが握られている。

 

「ん~?」

 

倒れた男の手に握られていたものは100Gが入ったリーヴの袋であった。

自分で作った不恰好な形のこの世に2つと無い袋なので一目で分かる。

ということは、つまりこの倒れた男こそが先程リーヴから金を奪ったスリに違いない。

 

「ああ!!お、俺の全財産!!」

 

リーヴは思わずそう叫んでしまっていた。

それに気付いたフードの男がこちらを向く。

相変わらず顔はよく見えないが、どうやら視線はリーヴの方を向いているようだ。

 

「……………………」

 

フードの男は無言で倒れているスリの手から袋を取ると、それをリーヴに向かって投げた。

リーヴは慌ててそれを受け取る。

 

「うおっ!?とと…」

 

袋を手にし、その重みを感じて、改めてこれが自分のものであることを確信する。

中を見ると、ジャラジャラとたくさんのゴールドが入っていた。

後でちゃんと数えてみないと正確なことは分からないが、どうやら使われているという心配は無さそうである。

リーヴはフードの男に向かって力強く頭を下げた。

 

「あ、有難う!」

「…別に礼には及ばん」

 

フードの男は素っ気無く返した。

よく考えると、どういった経緯でリーヴから金を奪ったスリがこうして倒れてしまっているのだろうか。

何となく想像はついたが、リーヴは一応フードの男に確認を取ってみる。

 

「あの、そいつ…」

「何だ?」

「あ、いや、その、その倒れてる人どうしたのかなーって。ハハハ」

 

フードの男が醸し出す威圧感のようなものに、リーヴはつい引き攣った笑いを浮かべてしまった。

何故だかフードの男からは冷たく危険な感じがする。

まるで研ぎ澄まされた刃のようなオーラを纏っているようであった。

 

「フン」

 

フードの男は倒れたスリをチラリと見やった。

 

「そいつが私から金を奪おうとしたから返り討ちにした。それだけだ」

「そ、そうですか~ハハハ」

 

リーヴはいい気味だと思う反面、フードの男の容赦の無い態度からスリは大丈夫かと心配していた。

見た限り息はあるようなので、恐らく気絶しているだけなのだろうが。

 

「…やはり息の根を止めるべきだったか」

 

フードの男から物騒な言葉がポツリと漏れる。

その冷淡な言い方に、彼の殺しに対しての躊躇の無さが窺い知れた。

リーヴは怖気が走り、全身に思わず鳥肌が立ってしまう。

 

「お~い、リーヴ。見つかったか~い?」

 

リーヴの名を呼ぶレックスの声が聞こえて来る。

すると、すぐにレックスがその場に現れた。

 

「ここにいたんだ。で、そっちは…」

 

レックスはフードの男を見て、思わず身構えた。

彼もフードの男が放つ異様な気を察知したのだろう。

そんなレックスを見てフードの男は肩をすくめてみせた。

 

「やれやれ、また会うことになるとはな…」

「あなたは誰なの?」

 

レックスがフードの男へ尋ねる。

 

「僕を…知っているの?」

「さあ、な」

 

フードの男は簡潔にそう答えた。

そして踵を返すと、宿屋の時と同じように無言でその場を立ち去ろうとする。

 

「あ、あの!!」

 

リーヴは思わずフードの男を呼び止めた。

 

「…何だ?」

 

相変わらず冷たい物言い。

下らないことならば殺すぞ、とでも言いたげであった。

 

「な、名前…」

「名前?」

「名前、教えて欲しい…ダ、ダメ、かな?」

 

震える唇でリーヴは言った。

何故そんなことを聞いたのか、自分でもよく分からない。

ただ、彼の名は聞いておくべきだと思ってしまったのだ。

 

「……………………」

 

沈黙。

レックスも彼の動向を見守っている。

 

「…ディー」

「え?」

「ディーだ」

 

フードの男はそれだけ言うと、振り向くことなく行ってしまった。

 

「行っちゃった…」

「行こう、リーヴ。ここにいても仕方ないし」

「え?あ、ああ…」

 

ディーと名乗った男がこの場から立ち去ってしまったので、2人も別の場所へ行くことにした。

向こうで伸びているスリの男はこのまま放って置くことにする。

町の役場に突き出してやってもいいのだが、ディーという男に伸されたことで取り敢えず許してあげることにした。

 

 

その場から誰もいなくなってから少し経つと、ローブを被った怪しい人物が依然気絶したままのスリの男へ近寄って来た。

その人物は男とも女ともつかぬ声で「ヒッヒッヒッ」と笑うと、ローブの裾から透明の丸い飴玉のようなものを取り出し、それを彼の口の中に入れて無理矢理飲ませた。

すると、スリの男は目を見開き、飛び上がるように跳ね起きる。

 

「グオオオオオオオオオオオ!!!!」

 

まるで獣のような咆哮を上げるスリの男。

彼の目は血でも噴き出したかのように真っ赤に染まり、体からは稲妻のような黒い光が迸っていく。

次の瞬間、スリの男の姿は異形のものへと変わり果ててしまった。

 

「ウォオオオオオオオオオオ!!!!」

 

再びの咆哮。

それは人間のものではなく、完全に魔物のものと化していた。

 

「ヒッヒッヒッ、どうやら実験は成功のようだねぇ…」

 

ローブの人物はその様子を満足そうに見つめている。

 

「さあ、人間を襲え。お前は今日からこう名乗るんだよ。“たてまじん”」

「ウゥオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」

 

“たてまじん”と化した男を送り出すと、ローブの人物はまるで霞のようにその場から消えてしまった。

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