ドラゴンクエストⅤ~新たなる世界と新たなる者たち~   作:メソウサ

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第2話 謎の男 その3

「…それで、どうする?もうこの町は全て回ったと思うけど」

「どうするって言ってもなあ…」

 

リーヴとレックスはとても渋い顔をする。

この町にある店は一通り回ったのだが、思っていた以上に収穫は無かった。

住み込みは抜きにしても、仕事さえも見つからないという状態である。

中にはリーヴの事情に同情してくれた人もいたが、それとこれとは別といった感じで断られてしまった。

どうやら、この町の人たちは何処かドライなところがあるらしい。

 

「一先ず、宿屋に戻ろうか。今日の宿も早めに取った方がいいと思うし」

「…だな」

 

取り敢えず2人は、一旦宿屋まで戻ることにした。

2人の宿屋までの足取りが何処と無く重いのが、この先の展望が明るくないことを示していた。

その間、会話は全く無い。

 

と、その時であった。

 

「キャアアアアアアアアア!!」

「うわあああああああああ!!」

「た、助けてくれええええ!!」

 

町人たちの悲鳴が2人の耳に入って来た。

ただごとではない、尋常な叫び声である。

真っ先にレックスが声のした方へと向かって走り出した。

 

「お、おい待てよレックス!」

「リーヴは先に宿屋へ戻ってて!!」

 

そう告げたレックスの表情はこれから始まることを予期してか、とても険しいものであった。

レックスの勧告を聞いても、リーヴはその場から動こうとはせずに立ち尽くす。

 

「待ってろって言われてもよお…」

 

自分が付いて行っても何も出来ないだろう。

それどころか、足手まといになってしまう可能性は非常に高い。

そのことはリーヴ自身もよく分かっている。

だが、だからと言って、自分にここまで尽くしてくれた相手を置いて、1人宿屋へ戻れる程割り切れる性格をリーヴはしていなかった。

 

「俺も…俺も行く!!」

 

遅れてリーヴもレックスに追随する。

理屈ではなく、気持ちが先に出ていた。

レックスの後を追って行くと、やがて広場の方に出る。

騒動の現場は思っていたよりも近くであった。

そこでリーヴはレックスの姿を見つける。

 

「レック…」

 

声を掛けようとした時、大きな物音がリーヴの耳を貫く。

建物か何かが破壊された、そのような物音だ。

リーヴはそちらへ視線を向けた。

 

「ま、魔物!?」

 

思わず声が裏返ってしまう。

リーヴの視線の先では、全身が土のような色の体躯のいい大男が暴れていた。

顎鬚たくましいその顔つきこそ人間に近いものの、鋭く尖った耳や肩から出っ張った棘のようなものから、男が人間では無いことが一目で分かる。

その風貌はまさに魔人、といった感じである。

魔人の両の手に大きな盾を持ち、それらを武器のように振り回していた。

あんなものが人に直撃してしまったら、確実に息の根を止めてしまうだろう。

 

「止めろ!!」

 

レックスは魔人に向かってそう叫んだ。

既にその手は鋼の剣に掛けられており、何時でも抜いて構えることが可能となっている。

 

「ウゥゥゥゥ…」

 

魔人はレックスの姿を見止めると、ニタァと笑った。

まるでレックスがやって来るのを待ち構えていたみたいである。

その邪悪に染まった眼を見て、戦いを避けることは出来ないとレックスはすぐに感じ取った。

 

「ウゥウォォォォアアアアアア!!」

 

突然の咆哮。

それと同時に、魔人はレックスへ向かって突進を始めた。

レックスは素早く鋼の剣を抜く。

 

「ハアアアアアアアアア!!」

 

気合を入れ、レックスは迫り来る魔人に向かって鋼の剣を振り下ろした。

と、魔人は両の手に持つ盾をピッタリと合わせる。

すると2つの盾が1つとなり、内部への侵入を拒む城門が如くレックスの前に立ちはだかった。

金属同士がぶつかり合う嫌な音が辺りに響く。

次の瞬間、鋼の剣は刃の部分が真っ二つに折れてしまった。

 

「しまった!!」

「グフゥアアアアアアアア!!!!」

 

魔人は両腕を広げ、自らその城門を開くと、両方の盾を地面へと付ける。

そして、それを支えに両足でキックを繰り出し、レックスにお見舞いした。

 

「うわあっ!!」

 

重い一撃をまともに食らってしまったレックスは後方へ大きく吹き飛ばされてしまった。

そのことが魔人のキックの威力の凄まじさを証明している。

魔人は更に追撃を加えるべく、地面を強く蹴りだした。

例の如く、両の手の盾をピッタリと合わせたままである。

 

「くっ…!」

 

レックスはよろよろと起き上がると、右の手に力を込めた。

 

「ベギラマ!!」

 

閃光の熱で敵を焼き尽くすギラ系の呪文。

それはリーヴと初めて出会った森の中で、テラノライナーを追い払った呪文である。

だが、その閃光は巨大な盾に遮られてしまい、魔人に届くことは無かった。

魔人は一切のダメージを受けておらず、尚も速度を緩めることなく、レックスへ向かって突進する。

 

「レックス!!アレだ。あの魔物たちをやっつけた雷の呪文を使え!!」

 

居ても立ってもいられないリーヴは思わずそう叫んでいた。

リーヴが付いて来ていたことに少し驚きを見せたレックスだったが、すぐに首を振って答えた。

 

「ダメだ!周りの人を巻き込んじゃう!!」

 

周囲にはまだ逃げ遅れた町人たちが大勢いる。

確かに、この状態であの強力な呪文を使ってしまえば、その余波でその人たちを傷つけてしまうかも知れない。

 

「あ!」

 

気が付くと、既に魔人はレックスとの距離を間近まで詰めていた。

両の手で作られた城門は閉ざされたままである。

この状態で体当たりをしようという算段なのだろう。

鋼の剣をへし折り、呪文すら通さないこの頑丈な盾でぶつかられたら、レックスが如何に腕っ節が強くてもただでは済まない。

 

「…ッ!!」

 

レックスは歯を食い縛り、すぐに来るであろう衝撃に備えた。

と、その時であった。

 

「ガゥルルルルルルル!!!!」

 

獣の鳴き声と共に大きな黒い影が魔人へと飛び掛ってくる。

レックスはその正体にすぐに気が付いた。

 

「プックル!!」

「ガウゥゥゥゥ!!」

 

プックルはその巨大な爪で魔人の腕を引っ掻いた。

夥しい血が辺りに飛び散る。

 

「ウゥアアアアアア!!!!」

 

魔人はプックルの襲撃に驚いて動きを止めた。

 

「行くんだヨォ、スラリン!」

「ピキー!!」

 

更にこの場に現れたドラきちが指示すると、スラリンが口から強烈な火炎を吐いた。

魔人はすかさず盾を合わせ、それを防ごうとする。

しかし、スラリンが吐いた炎は凄まじく、灼熱とも言うべき威力で魔人を盾ごと吹き飛ばした。

魔人はそのまま仰向けの状態で倒れ、両の手の盾はスラリンの火炎で溶けかかっていた。

 

「今だヨォ!レックス!!」

「うん!!」

 

ドラきちにそう言われるのと同時にレックスは再び右の手に力を込める。

そして、倒れている魔人へ向かって再び呪文を放った。

 

「ベギラマ!!」

「グゥオオオオオオオオオオ!!」

 

魔人はすぐに起き上がると、先程レックスのベギラマを防いだ時と同じように盾を構える。

しかし、スラリンの火炎で大きなダメージを負った盾はその役目を果たすことは出来なかった。

盾の中央の部分がボロボロと崩れ、その空いた穴から漏れた閃光が魔人の体を貫く。

 

「ウゥアアアアアアアアアアアア!!!!」

 

魔人は悲痛な叫び声を上げると、またも後方へ吹き飛んでいった。

まあ息があるらしく、破壊された盾を杖によろよろと起き上がってくる。

しかし、最早戦意を失っているようで、レックスに背を向けると、そのまま町の外に向かって逃げ去ってしまった。

どうやらレックスたちはこの戦いに勝利したようである。

 

「ふぅ~…」

「ふぅ~…じゃ、ないヨォ!!」

 

一息ついてからその場に座り込むレックスにドラきちが怒りの表情で言った。

 

「何かあるとすぐに首を突っ込んで、それでこうして騒ぎを起こして…。オイラたちが何でこうして旅をしているのか、その目的を忘れたのかヨォ!?」

「アハハ、ご、ごめんドラきち…」

「笑って誤魔化そうったって無駄だヨォ!!第一…」

 

ドラきちはチラリとリーヴの方を見やった。

 

「こんな奴に構っているからこんな目に遭うんだヨォ!だからオイラは言ったんだヨォ!とっとと置いて行けってヨォ!」

「何だと!?」

 

ドラきちの言葉にリーヴは反射的にそう返す。

1人と1匹は互いに睨み合い、バチバチと火花を散らしていた。

 

「そんなこと言わないのドラきち。リーヴに付き合っていたからこそこの町に来たわけだし、この町に来たからこそこうして魔物から皆を救うことが出来たんだし…」

 

仲裁に入るレックスをドラきちは白い目で見つめる。

レックスは「アハハ…」と申し訳無さそうに笑いながら後頭部をポリポリと掻いた。

 

「…しかし、何で町にあんな魔物が?」

 

リーヴはポツリと呟いた。

 

「うん。それも見たことのない魔物だ」

 

レックスがそれに続く。

あの森の中で出会ったテラノライナーたちもついこの間までは見掛けない種類の魔物であった。

今、世界ではこうした新種の魔物たちが各地で発見され、魔物たちの凶暴化に伴い問題となっている。

 

(…やはり、お父さんの言った通り、誰かが裏で糸を引いているんだろうか?)

 

一朝一夕で新種の魔物がこうも発見されるということが、自然発生的なものとは考え難い。

だが、仮に人為的なものだとして、誰が何の為にそんなことをしているのか。

レックスは思案に暮れる。

 

 

「お前らもあいつの仲間か!?」

 

その時、町人の誰かがそう声を張り上げた。

レックスはハッとなる。

思わぬ形で現実へと引き戻されてしまい、困惑する。

 

「あの…」

「そうよ!そうに違いないわ!!だって魔物たちがあの子たちに従っているもの!」

 

レックスの言葉を遮るようにまたも町人から声が上がる。

声の主と思われる中年女性がプックルたちを指差しながら震えていた。

 

「見た目は普通の若者なのに…」

「見た目に騙されちゃダメだ!!あいつはきっと魔物の親玉なんだ!!」

「でも、魔物同士で戦ってたぞ?」

「きっと仲間割れだ!」

「魔物なんか連れて、この町で一体何をするつもりだ!?」

 

一度口火を切られると、その流れは止まることを知らない。

瞬く間に、町人たちはレックスたちを非難し始めた。

 

「お、おいレックス…不味いヨォ…」

「ガルル…」

「ピキー!」

 

魔物3匹もそれぞれ困惑したまま、レックスを守るように側へ寄り添っていく。

恐れていたことが起きてしまったのだ。

 

「出て行け!」

 

その声と同時に石礫がレックスたちに向かって飛んで来た。

この一投を切っ掛けに、次々と町人がレックスたちに向け、石や物を投げつけ始める。

 

 

「な、何だよ、これ…」

 

リーヴは目の前の光景に思わず絶句する。

レックスは間違いなく、この町と人々を守るためにあの魔人と戦ったのだ。

それは誰の目にも明らかな筈である。

なのに、魔物たちと一緒に戦ったということだけで、何故レックスがこんなにも責められなくてはいけないのか。

いくら、近年魔物たちが凶暴化し、それによって不安が増大しているからと言って、薄情すぎやしないだろうか。

リーヴも魔物に対しての憎悪は少なからずあるが、それとレックスの仲間の魔物たちを一緒くたにしてはいない。

彼らにもそのくらいの思慮があってもいいではないか。

 

「おい、お前らいい加減に…」

 

憤りを感じたリーヴが彼らに言い返そうとすると、レックスが肩を掴んだ。

振り返ると、レックスは何も言わずに首を横に振る。

 

「お前…」

 

レックスはこの町人たちの言い掛かりを甘んじて受けようとしている。

ここでリーヴが何か言い返すことは、レックスのその思いを無駄にしてしまうことになってしまう。

 

「…ッ!」

 

リーヴは何か言ってやりたい気持ちをぐっと堪え、言葉を飲み込んだ。

そして、せめてこの罵詈雑言をこれ以上レックスたちに聞かせないよう、彼の手を引いてこの場から立ち去ろうとする。

レックスは無言でリーヴと共に歩き、プックルたちもそれに追随していった。

 

「二度と来るな!!」

 

尚も町人たちは、レックスの背中に言葉をぶつける。

こうして2人はこの町を出て行かざるを得なくなってしまった。

本来であれば、レックスは町を救った英雄である筈なのに、まるで諸悪の根元であるかのような言われ方をされ、リーヴは自分のことのように悔しさで一杯になる。

こんな理不尽が許されていいのだろうか。

 

「ごめんね。僕のせいで、あの町に君の居場所が無くなっちゃって」

 

レックスはそう言ってリーヴに頭を下げた。

こんな時ですら、レックスは自分のことよりも他人のことを心配している。

気が付くとリーヴはボロボロと涙を流していた。

 

「リーヴ?」

「何でだよ?何でこんなことになるんだよ?おかしいじゃねえか…」

「仕方ないよ。魔物たちが各地で暴れているから、皆もきっと不安で仕方ないんだ。だから…」

「でもよ!!」

 

リーヴが悲しかったのは、レックスが責められたことだけではない。

リーヴは木こりの仕事で初めてこの町に来た時のことを思い出す。

祖父が死に、全ての仕事を1人でこなさなくてはならなくなったのが5年程前。

初めて自らの手で品物を卸す為にこの町へ来た時、リーヴはとても不安で堪らなかった。

そんな右も左も分からなかったリーヴをこの町の人々は温かく迎えてくれ、まるで自分の子供のように接してくれたことを昨日のように覚えている。

だから、そんな彼らがこうして敵意を剥き出しにしてきたことがとても信じられないのだ。

 

「何で、こんな…」

 

今思えば、仕事を探していた時から既に変であった。

見知った人物もいたのだが、その誰もがリーヴに対して冷たかったように感じた。

その変化は前々から薄々と感じてはいたものの、ここまで酷くは無かったとリーヴは記憶している。

一体、何があったというのだろうか。

ただ情勢に不安を感じているだけで、人はここまで冷たくなれるのだろうか。

 

「ごめんヨォ、レックス。オイラたちが町に入らなかったら、こんなことにならなかったかも知れないんだヨォ…」

 

ドラきちが本当に済まなそうな表情でレックスに謝った。

先程まで怒っていたとは思えないくらいに落ち込んでいる。

それはドラきちだけでなく、言葉を発せないプックルやスラリンも同様であるように見えた。

 

「ドラきちたちが来なかったらあいつにやられてかも知れないし、そんな風に気にすることじゃないよ。寧ろ、ドラきちたちが来てくれて助かったんだから胸を張りなよ」

 

レックスはそう言ってドラきちの頭を慰めるようにポンポンと叩いた。

 

「レックスゥ…」

 

ドラきちは目に涙を溜めながらレックスの胸に飛び込んだ。

 

「…それにしても、やっぱり魔物たちはどんどん強くなっている」

 

レックスは真剣な表情で言った。

 

「剣も折れちゃったし…早いところ武器の調達をしないと、手ぶらになっちゃうね」

「天空の剣を持ってくれば良かったんだヨォ」

「ダメダメ。アレは本当にいざという時の為のものなんだから」

「そう言えば、ここからもっと行けばサラボナの町だヨォ」

「じゃ、次の目的地はサラボナだね。久々にルドマンお祖父ちゃんにも会えるし、楽しみだなあ!」

 

ドラきちと会話をしている内に何時の間にかレックスは曇り1つ無いあの太陽のような笑顔に戻っていた。

まるで先程までの出来事が一切無かったかのようである。

そのレックスの明るさに何処かリーヴは救われたような気がしていた。

 

「あ、リーヴはどうしよう…」

「もう放って置こうヨォ。思えば、こいつに関わってから碌なことが無いヨォ!」

「そういうこと言うなっての。…ねえ、リーヴ。どうする?」

 

レックスがリーヴに尋ねる。

リーヴの答えは決まっていた。

 

「…一緒に行く」

「え?」

「お前と一緒に行くって言ったんだ」

「それって、僕たちと一緒に旅をするってこと?」

「ダメ…か?」

 

レックスは何か大切な用事があるようなことを言っていた。

それがどんなことかは知らないし、レックスたちが何者なのかさえも未だに分からないが、この世界の異変に関わるようなことなのは間違いない。

リーヴは今、この世界に何が起きているのか知りたかった。

レックスたちに付いて行けば、リーヴはそれが分かるような気がしていた。

 

「あ、ダメならダメでいいんだ。それならここでお別れだ。俺、1人で住むところとか探すよ。この近くに別の村があったと思うしさ」

 

とは言え、余所の人間を巻き込めないということであれば、リーヴは諦めようと思っていた。

レックスと一緒に行きたいという気持ちは強いが、だからと言って無理に付いて行くようなことはしたくない。

返答次第では、ここでレックスたちと永遠にお別れだ。

レックスの返答は…。

 

「うん、いいよ」

「え?そんなあっさり…」

「レックス!!」

 

思わずドラきちが声を張り上げる。

しかし、レックスは構わずに続けた。

 

「君が住む家を失ったのは僕の責任でもあるし、それに旅の仲間は多い方が楽しいしね」

「レ、レックス。この旅は遊びじゃ無いんだヨォ…?」

「分かってる。それは忘れてないよ。でも、ここで困ってる仲間を見捨てるなんて、僕には出来ないよ」

 

『仲間』。

自分のことをそう言ってくれたことにリーヴは感動していた。

思わず、また涙が出そうになる。

 

「……!!」

 

リーヴは服の裾で目をゴシゴシと擦ると、右手をレックスの前に突き出した。

 

「…改めて、これからよろしくなレックス!」

「うん。これからよろしくね、リーヴ!」

 

2人は固い握手を交わす。

その様子を苦々しげに見るドラきちをプックルとスラリンが宥めていた。

 

こうして、リーヴはレックスの旅に同行することとなった。

これより物語は加速していく。

 

 

 

「グゥゥゥウ…」

 

“たてまじん”は青色吐息のまま、走っていた。

ダメージが大きい。

今は退却し、傷を治さねば…。

 

その時、人影が“たてまじん”の前を遮った。

 

「…止めを刺さないとは、甘いな」

 

“たてまじん”の前に現れたのは、フードを被った銀髪の男であった。

抜き身の剣をその手に持っている。、

 

「グゥゥゥ…!」

 

“たてまじん”は戦慄する。

目の前の人間が自分より格上の存在であることを本能で感じ取っていた。

 

「その姿になっては人間には戻れん。どの道、ここで死んだ方がお前の為だ」

 

フードの男はそう言って一歩前へ出る。

その瞬間、“たてまじん”の頭の中では、自らが巨大な獣に食われる図が浮かんでいた。

全身から冷や汗が滴り落ちる。

しかし、それでもただ食われるわけにはいかない。

“たてまじん”は盾を構え、フードの男に向かって突進する。

中央に穴が開いているとはいえ、こうして武器として使用することはまだ出来る。

 

「フン」

 

と、フードの男はその場から高く飛び上がった。

そして空中で弧を描き、“たてまじん”の背後へと着地する。

一瞬で背後を取られた“たてまじん”はまたも戦慄し、振り返ろうとする。

だが、その前に自らの心臓を刃が貫いていった。

 

「グゥアアアアアアア!!」

 

断末魔の叫び。

“たてまじん”は地面に倒れ、そのまま絶命した。

フードの男は素早く剣を“たてまじん”から抜くと、血を振り払う。

 

「フン」

 

死んだ“たてまじん”には興味ない。

そうとでも言うように、フードの男は“たてまじん”に背を向けた。

 

「…あの少年」

 

フードの男は先程の町で出会った1人の少年を思い浮かべた。

 

「あいつは恐らく…」

 

そう呟き、フードの男はその場から去る。

彼の去って行った方向は、丁度サラボナの町のある方向であった。

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