Side: ヴラド・スカーレット
「アハはははハははハはハははハ!!!」
私とエリザは突然聞こえた笑い声に対して警戒しつつ振り向く。そこにいたのは...
「...エレナ?」
私達の愛しき娘の一人、エレナだった。だが...
「違いますわ貴方...あれはエレナですがエレナではありません」
普段のエレナの目は透き通った綺麗な青。だが今は黒く濁ったような赤い目をしている。それはまるで...
「まるであの狂気だ...」
「えぇ似ています...我がスカーレット家に伝わる狂気に」
もし仮にアレが『スカーレット家の狂気』であるとするならば、何故血族ではないエレナにあるのか?何故狂気の象徴である宝石の羽を所持しているフランではなく?等と疑問点は沢山思い浮かぶが、とりあえずは...アレをなんとかしなくては。
「エレナ!!私だ!ヴラド・スカーレット!!お前の父親だ!!分かるか!!?」
一応理性はあるか確かめる。あれば話は早いのだが...
「ヴラド・スカーレット?何ソれ。それヨリサ!遊ぼウよ!私ト勝負すルの!負ケた方は死ヌ!いいデシょ?」
...駄目のようだ。
ふとエレナの周りを見てみると...もうそこは吸血鬼である私から見ても酷い有り様であった。
辺りは更地になっていてそこらに転がってる死体が山ほどある。それも人間のものだけではない。私達の仲間である吸血鬼の分まである。異常な再生力を持つ吸血鬼をこうもあっさりと...!
「...エリザ、すまないが構えて欲しい。娘に拳を向けるのは心苦しいと思うが...」
「...勿論、エレナを気絶させる方向で行きます。いつものエレナなら幻術魔法等使われ苦戦するでしょうが、幸い今は狂気の暴走状態...それらを使われることはないでしょう」
「だからと行って油断してはいけない。あれは気絶させるのだとしても手加減をすれば終わりだ」
「...確かに。あれは私が対峙した中で一番強い...それは貴方もでしょう?」
「...あぁ」
そう、若い私が唯一負けたエリザよりも今のエレナのほうが強いだろう...だが、
「二人でやれば勝てる...殺さずにな」
「...私は突っ込むことにしか能がないので指示をよろしくお願いしますよ、貴方」
「私は援護に回る。エリザ...暴れてこい」
「フフッ、分かりました!」
エリザはエレナの方に向かっていく。エレナ...今助けてやるぞ!
◇ ◆ ◆
Side: エリザ・スカーレット
...驚きました。まさか私の動きにエレナが着いてこれるとは。これは少し不味いですね...あの方が援護してくれてるとはいえ私達が圧されている。一応攻撃は当たりはしますが、ダメージを最小限に抑えられています。このままでは...
「アハ!この程度なノ?モッと楽シませて...」
...!?不味い!避けなければ!!
「ヨ!!!」
─エレナの右拳が私の頬を掠める。
よく見ると拳圧のせいなのかエレナが右拳を出した直線上が更地になっていました...あれは反則でしょう。ここまで底が見えない相手だとは思いませんでしたよ...
「ヘェ...避けレルんダァ...」
楽しそうに、無邪気に笑うエレナ。どうしましょうか...これでは気絶させるどころかこっちがやられてします...
「エリザ!!」
...これは何か策があるようですね。
「えぇ、私は何をすれば?」
「時間を稼いで欲しい...出来るか?」
「私では精々10分ですが...」
「十分だ!」
何をする気でしょうか?...まさかあの奥義を?あの奥義ならば何とかなるかもしれませんが...あれは反動も凄まじいはず。大丈夫でしょうか...
「大丈夫だエリザ。私を信じてくれ」
...これは信じるしかないでしょう。私の一番
「えぇ...任せましたよ?」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
エリザがエレナの注意を反らしている時、ヴラドは周りを策敵させていた蝙蝠を全て戻し力を蓄え始めた。
ヴラドがこれからやろうとしてるのはヴラドの中の究極奥義。ヴラドを唯一負かしたエリザはこの奥義を恐れて繰り出させる前に倒した程である。
「貴方!まだですか!?」
「後少しだ!すまない、もう少し持たせてくれ!!」
さっきからこんな会話が何回か続けられている。その技は強力な為、それなりの力を必要とする。仕方がないことなのだ。
「...!よし、やれるぞ!!エリザ!そこから離れろ!!」
「ッ!はい!!」
エリザは身体能力をフルに使ってエレナから離れる...はずだった。
「逃がサなイヨォ?」
エレナはエリザとの距離を保ったままだ。ニヤニヤしながらエレナはエリザに更に攻撃を仕掛けていく。エリザはその対応をするのに必死だ。
「(このままだとらちが空きません...ならば!)」
エリザは意を決してヴラドに叫ぶ。
「貴方!!私ごと発動させなさい!!それしかありません!!」
「なっ...!お前も知っているだろう!!あれは相手を『倒す』奥義ではなく『殺す』奥義であると!!お前が死んだらあの子達は悲しむ!私もな!」
「ですがこのままならば私どころか貴方も帰れなくなります!!さぁ早く!!」
決死の表情を見てヴラドは決意する。
「(全神経を集中してエリザを避ける...!)やむをえん、行くぞ!!」
ヴラドの右手が黒く発光し...
「吸命『ウロボロス』!!!」
そこからいつもの蝙蝠と違う禍々しい色をした蝙蝠が飛び出した。その数はおよそ一万匹。
しかしこれだけではない。ヴラドの周りにある草や木やその葉っぱ等が全て蝙蝠となった。
「さあ行け!!あの敵の元へ!!!」
一斉に蝙蝠が雄叫びをあげながらエレナとエリザのほうへ向かう。その様子はまるで獲物を見つけた野獣のよう。
ただ、大抵の敵は殺せるこの奥義だが、今のエレナを殺せるかで言えば答えはNoだ。先程ヴラドが言ったようにこの奥義は敵を殺す...つまり生命エネルギーを吸いとるのだ。だが今のエレナは吸いとり切れない程の力を持っている。むしろ吸う蝙蝠がキャパオーバーで死んでしまう。出来たとしてもエレナの動きを制限、良くて気絶だろう。ヴラドはそれを狙っているのだ。
「ンー?何こレ...邪魔ダなァ」
エレナは飛んできた蝙蝠を破壊し始める。それによりエリザに対する注意が無くなったためエリザはすぐさま退散しヴラドの元へ行った。
「ハァハァ...貴方、大丈夫ですか?」
「...大丈夫だ。それよりお前の方が大変だっただろう」
エレナは蝙蝠を破壊していくが蝙蝠の数は無くならない。むしろ増えているようだ。それによりエレナは見て分かるほどイライラし始めた。
「アーもウ!!メんドくさイ!!!」
エレナが怒って隙を見せたその一瞬、蝙蝠がエレナに噛みつき吸収を始めた。
「─!?ヤばッ!!」
さっきのイライラした表情が一変し焦ったような表情になる。そこに出来た更なる隙で他の蝙蝠も沢山噛みつき始めた。エレナの表情が更に一変し苦しい表情となる。
「グゥぅ...!!ウらぁァァァァ!!!」
エレナは蝙蝠を出現させたヴラドを睨み付けたかと思えば一瞬で出現させた槍...グングニルを投げつけた。
ただの槍なら攻撃を展開しているヴラドでも避けれただろう...だが、投げられた槍はグングニル。決められた相手に向かって投げられたら必ず刺さってしまう伝説の槍だ。更にエレナの魔法で強化されている。すなわち...
「ガハァァ!!!」
...待っているのは『死』だ。
「貴方!!!」
エリザが焦った声でヴラドに駆け寄る。ヴラドは奥義を止めて刺された心臓を復元しようとする。よってエレナを取り囲んでいた蝙蝠は全て消えた。
「エ、リザ...私は、もう...」
「貴方!...嫌、嫌ぁ!!」
エリザはヴラドを抱き締める。まさに絶望、だ。
「ヘぇ...あれヲ耐えルンだァ...」
先程の焦った表情はなんだったのか。エレナはニヤニヤしながらその様子を見つめていた。
「ヨシ...決めタ!二つトモ食べヨッと!丁度お腹モ空いタシね!」
子供のように舌をペロッと出して二人の方へ歩き出す。
─ここで言うエレナの食事はただ食らって腹を満たすだけではない。
力を持つものを食らって自身に吸収させる。つまり、相手の能力、力を全て自分のものにするのだ。
「そーナルと後一つも殺サナイと...ね!!」
グングニルをもう一本召喚しエリザに投げる。エリザはヴラドに気を取られていてそのまま喰らってしまった。
すると──
「あ、アレ...何デ...こん、なに...苦しい...の?」
エレナは心臓を押さえ始めた。表情は苦痛、それに伴い膝をついた。
「まだ...まだ!私はまだ...!!」
何かにすがるように手を伸ばしながら呟く。その瞬間。
「『封印発動』」
エレナの周りに魔方陣が出現し光が放たれる。しばらくしてそこにいたのは...
「...あれ、何で私こんな所に?」
先程とは違って、透き通った綺麗な青い目をしたエレナがきょとんとした表情で座り込んでいた。
一応ですが、まだパピーとマミーは生きてます。