森の中の物語   作:落葉 剛

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時代は行き過ぎ

二人は再会します



魔女と英雄となって


森の思い出

石畳に馬車が走る。

とあるお城の城下町。

 

その井戸端で洗濯をする女性が一人。

その女性の記憶は遠い遠い昔の話。

今はもう会えない森の友人達の記憶。

 

 

 

ワルツを踊ることはなくなったけど毎日せっせと働いて、たまに思い出してはワルツを口ずさむ。

彼女はそれはそれで幸せなものだと感じていた。

特に不満もない。

与えられた平凡な毎日が続けばいいと思っていた。

 

 

彼女の思いと裏腹にこの国はかなり昔から戦争状態にあり王子が人質として彼の国に囚われているために休戦できているにすぎない。

王子はとてもプライドが高い人物。

もうこれ以上囚われの身でいることはできなかった。

 

 

 

しばらくして王子は自害した。

その報せは両国に激震を走らせた。

こと王子の国は出陣か否かを決めかねていた。

通常であれば即攻撃の重要な事件であるが両国の間の兵力は桁が違う。

彼の国の数十分の一の兵力しかなく攻撃したとたん逆に国中を蹂躙されるのは目に見えていた。

国としての尊厳をとるか、国民の安全をとるのか。

王は難しい決断を迫られていた。

 

 

 

石畳に馬車が走る。

馬車は城の中へと吸い込まれていった。

 

馬車の主は妖しく微笑んでいた。

 

 

彼女の記憶は遠い遠い昔の記憶。

 

 

 

助産師である彼女は齡数百年になっていた。

周囲は魔女だといって距離をおいていたが彼女はそんなことに頓着することなくただ命の前にだけ立っていた。

城下町の井戸端に住んで数年。

彼女はそろそろだと思っていた。

 

 

 

 

「陛下!ご決断を!」

軍の大将や大臣が国王に詰め寄る。

国王は決断を下せずにいた。

そのとき、荒々しく扉を開ける者がいた。

あっけにとられる大勢の前で男は有無を言わせず言葉を投げた。

「陛下の窮状を耳にいたしまして馳せ参じました。この国難、丸く納める秘策がございます。どうかこの私にこの一件、お任せください。」

男は不適に微笑んでいた。

 

周囲にいた大臣たちは怒った。

男に罵詈雑言を放ち罵っていた。

それでも男の微笑みは微動だにしない。

国王は尋ねた。

「汝、褒美は何を欲するか?」

男は即答した。

「この一件が片付きましたら、こちらの城下に住む魔女を頂きたく存じます。」

大臣たちは猛反対した。

男の意図が全く理解できなかったからだ。

しかし、国王は男の妖しい微笑みの向こうにただならぬ決意を感じた。

 

 

決定は下された。

男は彼の国へ特使として派遣された。

 

 

 

彼女の記憶は遠い遠い昔の記憶。

共に待つものはいなくなったけど、それでも約束の時を待っている。

 

 

思い出は遥か遠く、幾重もの年月を越えて、今再び巡り会う。

 

 

石畳に馬車が走る。

彼女は馬車が通り過ぎていくのを見つめていた。

 

 

 

 

 

「陛下、報告申し上げます。彼の国の狙いは我が国そのものではなく我が国に自生する薬草にありました。彼の国の王女が大変な病でその薬草が必要だったとのこと。しかしながらそれはすでに数百年も昔の話。王女が謎の失踪を遂げてからも両国は刃が引けなかっただけのこと。

失踪した王女の話をいたしましたら和睦に応じていただけました。」

「して、その王女とやらはどこにいたか?」

その国王の言葉を聞いて男は妖しく微笑んだ。

「なにをおっしゃいます陛下。この城下にいまします。」

その場にどよめきが走る。

「私が褒美として欲した魔女。彼女にございます。」

「な、なんだと!そんな馬鹿な!」

大臣が怒鳴り声をあげる。

無理もない。誰も異端者が王女だとは思わない。この頃の助産師は権力から見れば異端者以外の何者でもなかったからだ。

 

 

「やっぱり、あなただったのね。」

ふいに透き通る声が聞こえる。

話題の人物、彼女―魔女―だった。

 

その姿に誰もが言葉を失った。

齡数百年とは思えぬ若さ、魔女と言う呼び名にふさわしくない美貌。

 

誰も魔女の話は聞いていても実際に会ったものはいなかった。

 

 

そう、彼を除いては。

 

 

「久しぶりだね、お嬢ちゃん。」

「一体いつまで待たせるつもりだったのかしら?他のみんなは先に逝ったわよ。」

「ああ…時間がかかりすぎたよ。すまない。」

 

 

「さあ、一緒に…」

 

 

 

「ワルツを…」

 

 

 

 

 

「「踊ろうか!」」

 

 

三拍子の円舞にのってお城は森の中に姿を変える。

思い出のあの日の少女とおおかみを思い出すように。

 

 

 

 

 

 

彼女の記憶は遠い遠い昔の記憶。

 

 

幾百年の時を越えて、

 

永遠の時の縁を越えて、

 

おおかみは少女との約束を守った。

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