異世界妄想自動車会社の興亡_1   作:かずき屋

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ちょっと昔話です。

それなりに、自動車雑誌みたいな言葉使ってます。

ごめんなさい。




異世界の日産自動車3

 とはいえ、この時代に一生懸命排ガス規制の対策をしたために、アメリカを出し抜き、品質が高く、クリーンな日本車はかのアメリカで売れに売れた。今では死語となった、光化学スモッグや大気汚染、四日市ぜんそくなどの矢面からクルマは逃げおおせた。

 「しばらくは我慢我慢の何年か、だったよな。」

たしかに6台目スカイラインまでL型エンジンの搭載は続いていた。燃料供給も、キャブレターから燃調制御しやすく、三元触媒の動作範囲に持ち込みやすい電子燃料噴射装置に変わりエンジン内部の改良も大きくされていたが、4気筒エンジンが2世代変わった割には変わっていなかった。セドリック・グロリアなどの一回り大きなボディを持つセダンはすでにL型エンジンの排気量を拡大して搭載していて、フェアレディZは2代目から主力は2000ccを越えた物になっていた。その後、1983年からV型6気筒エンジンが登場し、前出のセドリック・グロリアは3000ccのものが、また、スカイラインGTの手法で拡販を企んだブルーバードGTはブルーバード・マキシマと名を変え、V型6気筒エンジンとフロントエンジン・フロントドライブを武器に外貨を稼ぎ始めていた。

 「VGエンジンではいけなかったのですか?ターボ仕様もDOHC仕様もあったでしょうに。」

今度は違うところから声が上がった。たしかにV35型スカイラインからV6エンジン搭載車になった。

 「うん、まあ、そう思うよな。スカイラインもV型エンジンを乗せたFFにせよと上からの圧力は凄かった。・・・V型エンジン、良いんだけどな。荒っぽいだろ、どことなく。それにターボやDOHCも左右バンク分必要になる。左右方向に寸法も大きくなる。それに、そう言う重装備になるとな、重心が高くなるんだ・・・。吸気と排気が別々に片側にまとまる直列エンジンは、寸法は長くなるけど吸排気が片側にうまくまとまるし、4-2-1-2集合排気管ともしやすいし、三元触媒も近くに持って来やすい。ターボとの相性もそう言う意味で良い。さらに直6は完全バランスだ。」

うんうん、と頷く声が多数であった。また先輩達の遙か後方で声が上がる。

 「しかし、V35型スカイラインでは、短いV型エンジンを生かしてフロントミッドシップコンセプトだったと思うのですが。」

伊藤修令氏が、口を開く。

 「その辺になると渡辺君達の仕事になるなぁ。・・・5ナンバーを守りたかったスカイラインとしては、左右方向に寸法を食うV型エンジンはフロントセクションの大幅な改修が必要だった点と、ショートストローク設計の直列6気筒である、一連のRBシリーズの場合、VG型やVQ型エンジンとさほど重心高はさほど変わらなかった事実もある。あとは、後のGT-R復活に繋がる、レース用途があったため頑丈なRBシリーズを起用した理由もあるな。」

そこで伊藤修令氏も、一息つき、コーヒーを一口飲んだ。

 「そして、あの1990年の暑い夏に繋がるわけだ。」

グリッドに並んだスカイラインGT-Rは速そうには見えたけれど、先代スカイラインに煮え湯を飲ませ続けたライバルに比べ大きく、それまでのスカイラインのレース成績はめざましいものではなく、あまり芳しいレースでの活躍は予想できなかった。しかしレースが始まると、そこには青と白の本物のオオカミがいた。ニュルブルクリンクという、日本から見るととても遠い、波瀾万丈な路面のサーキットで初めて修行を積んだサムライがいた。そこで鍛え上げられた最新鋭の足回りと、新しい思想の4WDシステム、軽く600馬力は出るという強心臓。開けてみれば2位の同型車と初戦で1,2フィニッシュ。しかも3位以下2周の周回遅れというビッグバン的勝利を成し遂げた。それから、過去のスカイラインGT-Rの連勝記録を塗り替えるがごとくの快進撃が始まった。18年間の苦悩の歴史を葬り去るような勢いだった。

 鈴木も脳裏にあの熱いレースが感動的に甦った。速さは過去のもの、どちらかというと後追いのライバル車に埋もれて、スポーティなのかラグジュアリーなのかどっちつかずのイメージだったスカイラインが、再び誰の目にも明らかにレースに復帰した瞬間だった。

 一拍おいて、伊藤修令氏が言葉を続けた。

 「スカイラインのアテーサE-TSはフロントに駆動軸を伸ばし、オイルパン内を貫通させる構造上、前車軸位置とエンジンの位置関係、前部隔壁の位置関係は決まってしまう。そう言う構造上、BMWほど思い切ってエンジンを後ろに下げられなくてな・・・。」

1990年代初頭から、衝突安全が盛んに言われるようになり、前方からの衝突の他に55km/hのオフセット衝突なども重要視され始めていた。長く背の高い直列6気筒は、さらに不利になっていく。

 「しかも、排ガス規制も厳しくなってきたのでな・・・。」

パワーを求め、ターボの過給圧を上げていくと、その結果ノッキングやデトネーションが起こりピストンを始め燃焼室や排気バルブに過大な圧力、そして熱が加わりエンジンが壊れてしまう。そのため、この当時のターボエンジンは圧縮比を下げ、それでもノッキングが起こりそうになるとパワー空燃費以上の燃料を噴射し、燃焼室内で燃え残った燃料の液滴が蒸発する際の蒸発潜熱でもってなんとか異常燃焼をしのいでいた。もちろん、悪化する燃費、三元触媒の働かない燃焼領域なので排気ガスが汚くなるのは無視されていた時代だった。現在の筒内へ燃料を直接噴射するエンジンや連続可変バルブタイミングシステムが登場する以前の話である。

 そのころ1980年終わりから1990年初頭の、技術系自動車雑誌では、長らく過給ディーゼルエンジンを研究し、退職された方が突如としてアトキンソン・サイクルやミラー・サイクルについて盛んに論じられていた。このライターの方は、最後は現在のマツダ製、低圧縮高過給ディーゼルエンジンの元となる研究をなさっていたと思う。圧縮着火エンジンであるディーゼルサイクルエンジンは、外気温が極度に下がると、当たり前だが、エンジン始動時、燃料を噴射しても着火温度に到達せずエンジンがかからないことが起こりうる。そのため、着火用グロープラグを準備し、高い圧縮比(その結果の重いエンジン)のエンジンとしているのだが、その圧縮比を下げた場合、せっかくグロープラグで着火した爆発が続かない。そこで、着火してのち、一度排出した排ガスを排気バルブをもう一度開け、初爆でまだ熱を持っている排気ガスをもう一度吸い込み、その熱を利用して連続して安定した起動を続けさせる方法だった。それが実現できればディーゼルエンジンの圧縮比を14.0対1程度の理想状態まで下げられ、排ガス・燃費・パワーすべてにメリットがあった。

 そう言った他社の華々しい記事の踊る自動車雑誌に目を通すたび、鈴木は暗澹たる心地がしていた。我が日産は20数年前は技術の日産と言われ、ライバル会社がプラス100ccの余裕と宣伝すれば、我が社のエンジンは、ライバル会社の物よりも100cc少なくとも出力は同じか上回る。効率では上であるため燃費が良いと言い返していた。しかもその言質はレースで証明して見せていた。日産サニーは、オーバーヘッドバルブと言う古典的なバルブ開閉システムながら、ハイカムシャフトおよび5ベアリング支持のクランクシャフト、頑強なエンジンブロックでレーシングエンジンでは、常時1万回転を越える使用が可能となっていた。同時期のスカイラインは、さらに花形でレーシングエンジンの流れをくむと言わせたS20型エンジンは、調子が良ければ他に勝てるクルマはまずなかった。

 そんな華々しい過去がありながら、昨年のルマンでは惨憺たる結果に終わり、少ないラインナップのなかでもスポーツ仕様としてあるnismoも派手なデザインで、他と比べて圧倒的に速いといえるのはスカイラインから切り離されたGT-Rだけになっていた。もう、技術の日産と呼ぶ者は誰もいなかった。昭和の死語と思われてもしょうが無いだろう。

 「そうだな、あの頃は楽しかったなぁ。櫻井さんもご存命だったし、まだうちにも勢いがあった。OBの人達も気楽に見に来てくれたしな。」

明石が絞り出すようにそう言った。コーヒー缶をぎゅっと握っている指が白くなっている。

 かつての日産を思い起こす物、それは、最近ではクランクシャフト部分に比較的簡便なリンク機構を用いた、可変圧縮比エンジンが目新しい。ただ、2リッターのターボエンジンということで、これも小型車に乗せると言うよりは、3000cc程度の排気量からのダウンサイジングエンジンとしての位置づけて思われた。

 鈴木も発言したことがあった。おずおずと手を上げて思いを櫻井氏そして伊藤修令氏にぶつけてみた。

 「自分、父親が買った7thスカイラインの後期型、GTパサージュのシングルカムをしばらく乗っていたんですが、面白いクルマでした。4ドアハードトップ車なので、まっすぐ走ってると今となっては弱いボディと感じたんですが、いざコーナリングに入るとぎゅっとクルマが締まったような感じがあるんです。そして、クロスフローSOHC2弁だったけどよどみなく回るRB20Eエンジンは本当に楽しかったです。」

いくらかつかえたり、噛んだりしながらなんとか2人の御大にそう言って見た。また2人が顔を見合わせて笑顔で頷き合った。

 「俺が最後に担当したスカイラインだなぁ・・・。言い訳なんか言いたくねぇんだけどよぉ。身体壊しちまってなぁ。血吐いて、点滴しながら何とか出社していたけど、限界で・・・。しかもあの白いマークⅡがバカ売れしてただろ・・・。営業や販売店にああいうのをくれ、とさんざん突っ込まれていてな。ローレルがあるだろ!と突っぱねてたんだが、プリンス店がうんと言わなくてな・・・。まあ、でも結果的には、なぁ・・・。」

伊藤修令氏が苦笑しながら会話を受け継ぐ。

 「櫻井さん、突然倒れちゃって、引き継いだんだけども、試作車も大詰めでスケジュール的にそのまま出すほかなかった。今までと違う、もうちょっとインテリジェンスな雰囲気をねらったつもりだったんだけどな。もう、・・・そりゃあ、みんなも知ってるとおり雑誌から以前からのファンから袋だたき状態でなぁ。発憤して、手を入れられるところは入れて、エンジンの吸気系をシンプルにして、遅れてた2ドアクーペのGTS出して。久しぶりに寝る間もなかったよ。でもなあ、あの7代目のスカイラインはそんなわけで思い入れがあってな。そう言うこと言われると嬉しいな。コーナリングには実はかなりこだわったし。シャーシももともと横剛性は強かったんだぜ。それは櫻井さんの思想ですよね。」

 「うん、7代目のスカイラインを開発するにあたって、FJ20エンジンはあきらめることになっていた。上にかけあっていた新型6気筒エンジンは大幅刷新とは行かなかったけど載ることになっていて4気筒エンジンは明確な廉価版の位置づけになった。コスト高なことがあって一時お蔵入りになってしまった。そしてボディは、はやりのハードトップにしろと。モノコックはローレルと共有して5ナンバーいっぱいの見栄えの良い物にしろ、と。問題は4ドアハードトップだった。ライバル(マークⅡ、チェイサー、クレスタ三兄弟)は、ピラードハードトップ(Bピラーあり)なのに、うちは昔からピラーレスだろ?それで作れと。今時シートベルトも締めなきゃなんねぇのに、それにエアコンもついてるのに窓全開で走る人がどれだけいるんだよ!と言いたかったけどな。」

 櫻井氏は、そこまで一気に言って、残りのコーヒーを一気に飲み込んだ。空になったコーヒー缶を適当に手渡すと、一息ついて、また話し始めた。櫻井氏背後で、カランとコーヒー缶がゴミ箱に入る音が響く。

 「残念ながら、大きく重くなるのは目に見えていた。しかも、サスペンションもキャリーオーバー。クルマとして破綻するのは目に見えていた。それでも、時代がソフトで大きく立派な物を好むのはしょうがないかと思ったよ。それでも、Bピラーがねぇんでもどうにか成立させようと、サイドシルの構造や、シャーシ横方向の部材を大きめに、センタートンネルの形の見直しなど出来ることは頑張ったつもりだよ。」

そう言って鈴木の方を見た櫻井氏は、まるで1人の父親のような目だった。無茶な要求をなんとか形にしようと、我が子が社会に出て困らないようにと、手を尽くすそんな目をしていた。それをみて、鈴木もぐっと熱い物がこみ上げてくるのを抑えられなかった。自然に涙が頬を伝わる。オイルで汚れた袖口だったが、気にせずメガネを外して涙を拭った。いくつかの話をして、日付が変わる頃2人のOBは帰っていった。その場にいた者は口々に感謝に意を伝え、2人の手を両の手で握り別れを惜しむ者もいた。ツメにオイルの汚れなどがある者が多かったが、そんなことを気にするようなOBではなく、むしろ、そう言う現場があることを喜ぶような人達だった。

 

 「どうした鈴木?泣いてるのか?」

明石先輩と呼ばれた男にそう言われて、我に返る鈴木だった。

 「・・・すいません、櫻井さんが来た課外授業思い出していました。」

微糖と書かれた、ちょっと派手なコーヒー缶のプルトップをツメで起こし、開けて甘味料たっぷりのコーヒーを飲み込んだ。何も食べてない胃にはちょっとキツイが正直暖かくて美味かった。

 「そうだな、あの頃とは違うっちゃぁ違うけれどよ、クルマってえのは冷蔵庫やテレビとはやっぱり違う、そう思いたいよな。」

 「そうっすよねぇ。まあ、でもちょっと元気になれました。ところで・・・。」

今日寄ってみた話題を明石に振る鈴木だった。

 「あのe-power、あれってモーターとエンジンはつながってないんすよね?」

 「おお。ただ、ノートのフロントエンジンルームに収まるように作ってるから、いまのところ今までのようなエンジンとミッションのワンユニットして設計されているな。インバーター類も苦労して押し込んだらしいし。」

実際、日産ノートe-powerはベース車両のノートに比べて150kg程度重くなっていた。安普請のVプラットフォームでは、そのままだとフロント部分を中心に重量増を受け止めきれない可能性もあり、また衝突安全の兼ね合いもあってかなり補強が入っていた。二次的にハンドリングが良くなっているのは公然の秘密である。

 「そのフロント・モーターユニットとリアサス一体化して四駆のリア駆動ユニットとかって。」

そう言いながら鈴木は、最新の自動車技術雑誌をコピーしたものを見せた。そこには、海外有名トランスミッションメーカーが開発中と出ている、リアサスユニットとモーターを組み合わせた物の写真があった。

 「ふふふ、そう来るだろうと思ってな、・・・見ろよ。」

明石は、この部屋というか建物を狭苦しくしている原因の一因、二柱式リフトに乗った物体に近づき、その物体全体を覆っていたシートの一部分をはぐって見せた。

 「さすがっすねぇ、これ、最近NV200に追加された4WD車のリアサスっしょ?」

鈴木はさっと見て、我が意を得たりと頷いた。

 「おう。いちおう、ベースは現行シルフィだ。フロントにはノートのe-powerユニットが載ってるぜ。それも今度出るセレナ用の発電強化ユニットだ。」

明石がそう説明する頃には、鈴木は1mばかりリフトで浮かんでいるそのクルマらしき物の下にしゃがんでしげしげと眺めていた。

 「うわぁ、リアサスのへん、えげつなく強化してますね・・・。お、運転席下とフロアトンネルのフロントからリアまでの形状が違う・・・。プロペラシャフト通さなくて良いのに、なんでこんなに大きいですか?」

ふっ、と口の端を上げて笑う明石である。

 「ここだけの話だぜ、他言無用だ。何せ高岡課長の肝いりだからな。」

昼間、結構遠くに座っていた女性の課長を思い出す。今までの方針に変更なしに同意していたはずだが。

 「不思議そうな顔をするな。今の日産の行き方を腹に据えかねてる様子だぜ、課長。ま、それでだ、本当に他言無用で頼む。これな・・・。」

明石のちょっと声をひそめて、イタズラを相談するような雰囲気に水を差すかのように、入り口のシャッターがカンカンと叩かれた。

 「明かりが付いてるから来てみれば・・・。」




追記

※話がつながりなかった部分があったので、少し挿入しました。

またちょっと修正(^^;;180412
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