それでは、どうぞ。
・・・あれから、どれほどの時が経っただろうか。
一人で色んなところを回ってきたと思う。大陸を西に進んで、ローマとかインドとかエジプトとか巡ってみたりもしてきた。
幾ら切り離された外史とはいえ、三国志をしっちゃかめっちゃかにしてきたので、大分正史とはズレが生じていることと思う。・・・だが俺は謝らない。
「・・・って、だいぶ秘境だよなぁ、ここ」
最近はGPSの精度も宇宙衛星の解像度も侮れなくなってきたし、ってことで人のいないところを探してこうして色んなところを歩いてみたりはしているが・・・。
あれから千と何百年か経ってると思う。正確な数字はちょっと分からないが、多分二十世紀は超えてるんじゃないかな。
「そう考えると、あんまり迦具夜を笑えんな」
歌具夜をつれて一旦月に戻っているのだが、こちらとは時間の流れ方違いすぎるらしくて、本当にたまにしか会ってないからな・・・。
もうすでに、この世に知り合いといえる人間はいないだろう。たまに遭難しそうになってる飛行機助けたりしてたけど。あれオカルト情報誌とかに載ってないかな・・・大丈夫かな・・・。
あ、でも英雄と呼ばれる人とも何人か会ったりはしたな。もう座についてるだろうから、また顔は合わせるけど。
いやー、それにしても長い旅路だったなぁ。落ち着くからと日本にまた帰ってきたのはいいけど・・・何処の森だろう。向こうに富士山見えるけど、樹海とかじゃないよね?
「いやはや、次は何処に行こうか。しばらくはここで休むのも良いかもしれんな」
『休む』となると十年単位で動かなくなったりとかザラなので、場所を選ぶ必要はあるけど。
「あ、じゃあ火口とか見てみようかな、富士山の。マグマの耐性あったかは分からないけど・・・」
そうと決まれば登山だ。この体であれば、登山道具など無くとも、観光気分でエベレストだって登れるぞ!
ざくざくと鎧姿で登山。写真に撮られた場合、コラージュを疑われるレベルの違和感を抱かせるだろう。
しばらく歩くと、登山道に合流したらしい。人はいないみたいだから、このまま登山道を歩くとしよう。
「あ、どうもー」
――と思った声を掛けられたので、一瞬で鎧からライダースーツに着替えた。
危ない危ない。『怪奇! 富士の山で黄金の鎧を来た不審者!?』として一面を飾るところだった。いや流石に飾れないか。なんだったらエアぶっぱまで考えるけど、多分そうしたら魔術協会すっ飛んでくるよね?
あれ、でも世界も違うから存在してないんだろうか。うーん、俺みたいなのが存在してるってことは・・・あ、そういえば返事してねえや。
「ああ、どうも。今日は人が居ないですねぇ」
うん、これくらいなら許容範囲の受け答えだろう。
「そうみたいですね。天気も悪いし、もう夕暮れですから、皆下山しているのかもしれませんね」
今更ながら声の方へ向き直ると、朗らかな笑みを浮かべた青年だった。・・・おや、珍しいな。
こういうところに来るには、かなり軽装に見える。・・・確かにここまでは車で来れるとはいえ、ここから先を上るには、装備も時間も中途半端だ。
ふぅ、とため息をついた青年を誘い、ベンチに座る。
「いや、まさか人に会うとは思いませんで・・・」
「ああ、いや、こちらこそ。ちょっと裏のほうから歩いてきてね」
「ああ、そういう裏道が?」
「なんというか、まぁ、ほぼ遭難しかけてたというか」
「良くご無事で・・・」
ちょっと引き気味に苦笑する青年に、そりゃそうだ、と俺も苦笑する。
目の前に現れた外国人に『いやちょっとさっきそこで遭難してまして』と言われたら、俺も苦笑せざるを得ない。
「そういえば、日本語お上手ですね」
「まぁ、ほぼ日本人みたいなものなので」
この外見だけだもんな、外国人っぽいのは。中身純日本人だし。
「そうなんですか。どうりで。・・・今日は、観光で?」
「ええ。ほぼ日本人と言ったばかりですが、日本自体は久しぶりで」
確か・・・以前来たのが七十年ほど前だったはず。久しぶりと言っていいだろう。
あまりにも生きすぎて麻痺してきているが、十年経てば大体久しくなるものだ。
「富士山に来たの自体は初めてなので、まぁ、火口まで行ってみようかなって」
「火口まで行くんですか!? 今日!? その格好で!?」
「っと、口を滑らせた。いえまぁ、特殊な訓練を受けておりまして」
「今、僕の中で貴方の評価が『珍しいハーフ』から『怪しい外国人』にランクアップしたんですけれども」
少しだけ距離を離される。・・・いやいや、そこまで怪しまなくとも。だけどまぁ、自分だったら絶対近づかないな、と冷静に思う。
そんな彼ににこやかに笑いながら、俺はそのまま話を続ける。
「まぁ、火口に行こうってのはホントですよ。なんていうか、ほら、見てみたいじゃないですか」
「『火口を見たいから』で思い立って登山するのは一部だと思いますよ・・・?」
「いっそ、思い切ってみるのも大切ですよ。やっぱりこう、ある程度生きてくるとどうしてもそういう気分になりますから」
「・・・結構生きてきましたけど、そんな気分になったことは・・・」
「ああ、『火口見に富士山登ろう!』ってことじゃなくて、『思い立ったが吉日!』みたいにどうしてもやりたいことが出来たときですよ」
それなら確かに、と青年は頷く。その後彼は、ですが、と続ける。
「・・・それが出来るのは、一握りの人間だけですよ。大会社の社長だとか、歴史上の偉人とか」
「歴史上の偉人だって、同じ人間ですから。確かに運とか先天的に必要なものもありますけど・・・それでも、『やろう』って思わないと、その偉業も何も、無かったんですよ」
「ああ、それは確かに。天運も、天武も、天智も、使わなきゃ持ち腐れですものね」
「必要なのは、最初の一歩なんでしょうね。何でも、やってみようって思う一歩。それでダメなら、違う方へ歩けば良い。間違ってるかどうかは、死んだ後に誰かが評価してくれますから」
「はは、それもそうだ。自分で自分の評価が出来るほど、人間は客観的に自分を見れませんからね」
自分で自分のことを絶対にだめだと思う人が、後世で評価されてたなんて良くあることだ。
何でもやってみるといい。それが、俺が今まで歩いてきた時代を見て、思ったことだ。
「・・・なんだか、気が少し楽になりました」
「それは良かった。怪しい外国人でも、出来ることはあるんですね」
お互いに笑いあって、ベンチから立ち上がる。
「良いお話が出来ました。僕、やろうとしてたことがあったんです。・・・やってみようと思います」
「応援しますよ」
最初の時とは違い、決意に満ちた瞳が、俺を見返す。
その目さえしていれば、きっと大丈夫。何度もみてきた、『歴史上の偉人』の目である。
彼が境地にたどり着けるかは全く分からない。・・・でもきっと、後悔する生き方だけはしないだろう。
・・・最後まで名乗りもしなかったし、名も尋ねられなかった。だけど、それでいいのだろう。
変な外国人と話した青年が、道を戻れたなら、それで。
「さて、登山の続きっと」
・・・後で知ったことなのだが、この青年は俺や迦具夜の残した少ない痕跡からサーヴァントの存在にまでたどり着こうとした、オカルト誌の編集長になったらしい。
・・・
「お疲れ様です。・・・貴方、中々こちらに来る予定無いみたいなので、迎えに来ました」
富士山の火口を見て、空を飛んで遊覧飛行していると、ぶつんと視界が切り替わるように神様の部屋に来ていた。
すでに椅子に座っている状態で、目の前にはお茶。対面には微笑む神様。どうやら、いつもどおりの白い部屋だ。
「丁度二千年ほど生きられたみたいですね」
「え、死んだのか、俺」
「はい。ちょっと加護が強すぎましたね。あと、正確には死んでません。魂だけ、座に昇華しましたので」
「なるほど、神様の寂しさが頂点に達したと」
「違いますよ!?」
全力で反論してくる神様を抑えながら、うんまぁ、と今までを振り返る。
召喚されて聖杯戦争止めて、世界を巡って色んなものもみられたし・・・それなら、そろそろ座にいる『みんな』にも会いに行かないと。
「一応言っておきますけど、座の行き来って普通出来ませんからね? 貴方が特殊すぎるんですよ?」
「分かってるって」
「もう。神霊に近いから、英霊の座に縛り付けるにはちょっと制限緩むところもあるってだけなんですからねー」
はい、と神様からタブレットを受け取る。
「おお、これはいつぞやの神様の毛髪入りタブレット」
「変態みたいになるんで、その言い方はやめましょう。一応神器ですからね、それ」
「分かってるって。・・・で、何でこれを俺に?」
「貴方は私の部下ということになりました。お仕事手伝ってもらいますよー!」
「・・・ああ、分かった。仕事の手が足りないから俺を座に押し上げたな・・・?」
「ん、んー? な、何のことやらー?」
わざとらしく顔を逸らす神様に、ああもう、とため息。
「分かったよ。ここまで来たら、神様の手伝いくらいしてやるさ。・・・で、どうすればいいんだ?」
・・・
一通りタブレットの使い方を教えてもらって、早速仕事・・・というわけでもなく、まずは俺の座へと案内された。
・・・座って概念的なものじゃないのか、と言ってみると、まぁほとんど神様扱いだから、仕事場ということで存在するらしい。
「で、それがこの目に優しくない黄金の城か」
「黄金が貴方のイメージカラーみたいなもんですからねぇ」
色々と案内してもらって、取り合えず、と玉座に座る。ここから、この城内のマップを見れたり仕事が出来たりするらしい。
「で、そっちのほうで操作して・・・そうそう、やっぱり若い人は飲み込み早いですねー」
「若い人・・・」
「ふふ。神様に年齢で勝とうなんて、それこそ無茶ってもんですよ!」
「まぁ良いや。あれ、これ・・・」
「あ、はい。皆さんと会ったり話したいこともあるでしょうから、『招待』が出来ます。貴方が招待できる英霊がここに表示されるので、チェック入れると招待されますよ」
ためしに、と一人の名前をタッチ。すると、チェックマークが付いて・・・。
「・・・ふぇ? あれ、ここは・・・」
「ああ、月。・・・久しぶりだな」
「あ、ぎ、ギルさん? ・・・って、私若返って・・・ああ、なるほど、そういう」
召喚された直後は混乱していた月だが、自分の身体を見て、状況を判断したらしい。
「漸く、なんですね、ギルさん。待ちくたびれちゃいましたよ?」
「いや、申し訳ないな。まさか自分でも、これほど長引くとは」
「やっぱり最初に呼び出すのはその方ですかー。あ、始めまして。私神様です」
「ああ、あなたが・・・。月です。ええと、一応英霊としては『董卓』ですけれど」
お互いにぺこり、と頭を下げる二人。うんうん、神様と董卓だとは、この場を見た一般人は思うまい。
「・・・生前、散々お世話になったみたいで」
「んぇー? 何でこの人私に敵対心抱いて・・・いぇっ!? ち、違いますよ!? 夢の中で誑かしていたわけじゃ・・・!」
「? ・・・ああ、心が読めるんでしたね。なら、私がこれから何するか分かりますね?」
「・・・オラオラだけは勘弁してくれません!?」
「あら。右か左かの質問すらしてませんけれど」
にこにこと笑いながら近づく月は、うん、まぁ、体は若いけど、精神は一生を過ごしてるからな。ちょっと強かになってる。
それでもまぁ、流石に神様に物理攻撃は・・・って精神攻撃か。それなら効くだろうな。
「ふふふ、ギルさんとのアレとか、コレとか、思い出しただけで伝わるんですもんね?」
「そ、そんなの読心切っちゃえば・・・あれ、き、切れない!?」
「私の宝具の力ですよ? 『相手のスキルを自分の支配下に置く』って力なんですけど」
「嘘ですよねそれ!?」
「宝具持ってるのは本当ですけど、効果は嘘です」
二人のやり取りを見ながら、これからもまぁ、退屈はしなさそうだ、と一人笑う。
さて、それじゃあこれから英霊として頑張りますか。最初に召喚されるのは、何処になるのかなぁ。
・・・
というわけで、最後は短かった上にいきなりですが、最終話になります。キリもいい数字でしたので、以前から考えていたことではありました。これ以上は同じ話の繰り返しになりそうというのもありますが。ここ最近の更新ラッシュはそういうことなのです。申し訳ありません。
大体五年か六年書いてきたことになります。・・・かなり長引いてしまいましたね。
色々と勉強させていただいたり、ご感想いただいたり、自分にとってかなり大きな部分を占める良い体験をさせていただきました。
多分またすぐに続編とか書くとは思いますが、その辺りの事は活動報告に書こうと思います。
誤字脱字のご報告、ご感想お待ちしております。ありがとうございました。