将をなんちゃらするならまず馬をなんちゃら。   作:stan

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ある兄の事件簿弐。

転移門を抜けると、懐かしい風景が広がる。

俺が育った村が見えてきた。

早く母さんに会いたい。はやる気持ちを抑えながら、自然と早足になるのを感じる。村の入口をくぐり、自分の記憶と寸分違わぬ風景にホッとしながら、自分の家へと急ぐ。

「ふふっ‥ジム。嬉しそうだね‥?」

俺の隣を同じ速度で走りながら、フェイトさんが声をかけてくる。

「すみません。はしゃいでしまって‥」

「あはっ‥別に構わないよ。お母さまに会うのも久しぶりでしょ?私には構わなくていいから」

と、柔らかく微笑むフェイトさん。

正直ありがたい。

というのも、あの嘆願書を見つけてから、言い様の無い不安が俺を蝕んでいた。母さんがどこか遠くに行ってしまうような‥そんな得体の知れない不安が。

はやる気持ちに任せ、自分の家のドアを開け放つ。

「母さん!」

家の中に入ると、そこには母さんがきょとんとしていた。洗濯物を干していたのか、その手に洗濯物を持ちながら、

「ジム‥なの?」

 

「母さん!ただいま!」

 

俺は思わず母さんを抱き締めた。

この腕に母さんを抱き締めてなお、修まらない不安に震えながら、母さんを強く抱き締めていた。

すると、母さんは優しくそんな震える俺の頭を撫でてくれるのだった。

そして漸く、俺は震えが収まり、顔を上げる。

「おかえりなさい。私の可愛い坊や。」

そこには、聖母のような慈愛の視線を向ける母さん。

思わず、気恥ずかしくなり視線を逸らしてしまう。

コホンとひとつ咳ばらいをして、仕切り直す。

そう。今回の俺は、管理局員として来たのだ。

 

「時空管理局、機動六課ライトニング隊所属のジム=ニーです。今回はこちらの嘆願書の件で調査に参りました。こちらの差出人は貴女で間違いありませんね?キングさん?」

 

すると母さんは、目に憂いを載せて頷いた。

 

「はい。間違いありません。」

 

「御話を伺っても?」

「ごめんなさい。ジム‥出来れば、貴方以外にお願いしたいわ‥良いかしら?フェイトさん‥でしたかしら?」

と、母さんの視線の先を見ると、いつのまにか、玄関にフェイトさんが立っていた。

唐突な許否に何か重いモノで頭を殴られたような錯覚に陥る。

「か‥母さん‥なんで‥?」

 

。「ごめんなさい‥ジム‥本当にごめんなさい‥」

 

「俺じゃ頼りない?」

 

「違う!違うの‥そうじゃないのよ‥」

 

何か言いたい事を言えないような葛藤を見せながら、母さんは頑なに謝りながら、俯き、涙を溢す。

困り果てた俺は、フェイトさんへと視線を向ける。

と、フェイトさんはゆっくりと頷きこちらへ歩み寄る。

と、そのまま未だ泣きじゃくる、母さんの肩を抱き、別の部屋へと誘導し歩いて行く。

俺は母さんに許否された事がショックで、その場を動けずにいた。ただ、立っているだけで精一杯だったのだ。

◆◆◆   フェイトside◆◆◆

「さて‥お話しを伺っても?」

と、私の問い掛けに、お母さまはゆっくりと頷くと、ぽつりぽつりと話始めた。

それは、この村の暗部。

この村では昔から、身寄りのない若い娘を生贄に捧げてきたらしい。魔物とやらが実在するかは解らない。ただ、生贄にされた娘達は、誰も戻ってはきていないそうだ。

何故、村長の署名でなく、お母さまの署名で嘆願書を出したのか。

村長は生贄をだす事に積極的らしい。

元々、ここは小さい村だ。

身寄りのない娘は村全体で養っているようなものだ。そこで、労働力の乏しい、若い娘は生贄の名目で体の良い口減らしをしているらしい。

娘がどうなったかはわからない。

お母さまはそんな村長の方針を止められなかった、自分の非力さを悔いていらっしゃった。

そして、そんな自分をジムには見せたくないのだと。

そして、この度とうとう、良心の呵責に耐えられなくなり、独断で管理局への通報に踏み切ったというわけだ。

一通り話を聞いて、納得はできた。

ただ、これは解決が難しい‥。

村長がやっていることは間違いなく悪い事だ。

十人に聞けば、ほぼ十人が悪い事だと談じるだろう。

だが、動機はどうだ。やり方はともかく、村長の方針によって、村全体は助かっているのかも知れない。綺麗事だけじゃ世の中は回らない。

それは、ここ数年管理局で執務官をして、嫌というほど感じてきたことだ。

これくらいの規模の小さい村だと確かに、村人全員の食扶持を確保するだけでも、いっぱいいっぱいなのかもしれない。

それでも私は‥

私がしようと、していることは、この村にとっての悪かもしれない。

お母さまの気持ちが今ならよくわかる。この現状を見ない振りしたら、私は二度とエリオに顔向け出来なくなる気がする。

いつの間にか強く強く拳を握り締めていた。

はやてに相談しよう。

あの頼もしい親友なら私には想いもつかない解決策を出してくれるかもしれない。

いつだって、この世はこんな筈じゃないことで溢れてる。そんな現実を一歩一歩、小さい歩幅でも前に向かって行こう。ねえ?なのは?なのはならどうするかな?決まってるよね?何時だって、全力全壊だよね?明るい未來へ一直線に最短距離で‥だよね!

 

 

 

 

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