夜も更けてきた頃。
俺の部屋で俺とキャロはずっとお喋りしていた。
いつもならもう寝ている時間だが、今日のキャロはどこか落ち着かない。
視線をあちこちにさまよわせ、
チラチラとこちらを見てくる。
「どうした?キャロ?眠くなったか?」
俺の問いかけにキャロはぶんぶんと首を横に振るが、
目はしょぼしょぼしている。明かに眠そうだ。
「ジム兄は眠いの?」
「ん~?まだ平気かな。キャロが眠くなるまで付き合うよ」
「ジム兄‥」
キャロがキラキラした目でこちらを見てくる。
よせやい。照れるぜ。
「んじゃ召還のこともう少し聞かせてよ?」
「うん!」
~~更に夜は更けて~~
「ふーん。詠唱が大事なんだな。呪文間違えたらどうなるの?」
「わかんない‥なにも起きないかもしれないし、とんでもないモノが出てきちゃうかもしれないし」
「へー。じゃあさ‥」
呪文の詠唱。非常に厨二心をくすぐられる響きである。
黄昏より暗きモノ‥闇より‥あかん。これアカンやつや。
その後こうしたらどうなるか等、色々な案をキャロと話し合った。
すると、キャロがコクリコクリと舟を漕ぎだした。
「キャロ?眠いのか?」
「ぱよ~‥」
コクリコクリと頷く。
「んじゃ自分の部屋にお帰り?送るから」
「ぱよ~」
フルフルと首を横に振るキャロ。
「ジム兄、一緒に寝よ?」
「へ?」
「いや、お互い自分の部屋あるんだから、部屋で寝ようよ?」
「いやなの?」
ウルウルと潤んだ目でこちらを見てくるキャロ。
むう。お兄ちゃんこの目には弱いんだよなあ。
「‥わかったよ」
「今日だけだぞ?」
俺がそう言えば、嬉しそうに、同じベッドに潜りこんでくるキャロ。
「えへへ。ジム兄と一緒に寝るの久しぶりだね」
「そうだな。キャロが五つになった時にお互い別々にねるようになったんだっけ?」
すると、キャロは哀しげに目を伏せて、
「うん。でもね、私、ホントは寂しかったんだあ」
「そっか。キャロはホントにあまえん坊だなぁ」
「そんなことないもん」
プイッと俺に背を向けるキャロ。
それでも、モゾモゾと背中をこちらへくっつけようと、近付いてくるキャロは可愛い。
「じゃあ、部屋帰るか?」
ガバッとこちらへ向き直り睨んでくるキャロ。
「ジム兄のいじわる‥」
そんなキャロがとても可愛くて、俺は苦笑を溢す。
「ごめんごめん」
謝りながらソッとキャロを抱き締める。
「ぱよ~♪」
顔を真赤に染めてあっという間に、機嫌を直したキャロを腕に納めながら、蒲団をかけ直す。
「でもさ。寂しい時は寂しいって言えよ?」
「俺は、キャロの兄ちゃんなんだから」
「キャロが寂しいなら、いつだって守ってやる」
「ジム兄‥ありがと‥」
お礼をいわれると少しはずかしい。
俺は、恥ずかしさを誤魔化すように、眠ることに決めた。
「お休み。キャロ」
暖かいキャロの体温に心地よさを感じながら、
キャロから漂う、甘い芳香に、殊更、鼓動が高鳴るのを感じる。
キャロに高鳴る鼓動がバレやしないかと心配になる。
だが、自分の腕の中から、自分のではない、明らかに自分より速いリズムを刻む、鼓動を感じ、これならばれないかと安心すると、直ぐに、俺の意識は眠りへと沈んでいった。
お互い、多少の意識はしているようだが、本当に男女として意識し合う日は、来るのだろうか。
今無理矢理答えを出す必要は無い気がした。
二人の物語はまだ始まったばかりである。
寝静まって少し後、
モゾモゾと闇の中で動く影がひとつ。
その影はぺたぺたと暗闇の中に手を這わし、
何かを確認すると、ひとつ大きく息を吸って、
「ジム兄‥ありがとう」
そう囁くと、顔を寝ているジムに寄せたのであった。
チュッ
翌日、
ジムが朝起きてから、首を傾げながら、自分の唇に指を這わせている光景があったそうな。