ドアを開けて入るとそこにはゴリラが青筋立てて待ち構えていた。
うわー。超臨戦態勢やん。腹の探り合いとか、テンプレの挨拶とかを交わす気は無さそうだった。
「何の用だ!小狸!」
いきなり怒鳴り散らしてくる。
いくら中将とはいえ、この対応は如何かとも思うが、そこにツッコミいれても、時間のムダっぽいので、あえてスルー。せっかくだから、私はスルーを選ぶぜ。
「中将が現在お盛んになっているスカリエッティとの取引について、お話しに来ました」
私は淡々と用件を告げる。
私の態度が気に食わないのか、中将はワナワナと震え、青筋を浮かび上がらせる。
両拳を握り締め、プルプルしている。
いっそこのまま、キレて掴みかかりでもしてくれたら、楽なのだが。
シャアとアムロばりに殴り合いでも私は一向に構わん!私は中将に向けて、シャドウボクシングを始める。
もう一押ししてみようかと、更に口を開こうとしたとき、
「パパ?お薬の時間です‥」
オーリス女史がお盆に藥と水を持って割って入ってきた。
残念。
てかパパて。
「おお‥いつもすまないな‥」
中将も中将でねこなで声で答える。
「それは言わない約束でしょ?」
ため息交りでオーリス女史は藥を渡す。
いきなり繰り広げられる親娘の茶番。
「プッ!あははははは‥!ちょ‥オーリス三佐‥堪忍してーな‥あははははは!」
オーリス女史は何か?みたいな顔でこちらを見ている。それが更に私のツボに入る。
レジアス中将もすっかり毒気が抜けて、怒りのオーラは消え失せている。
やられたわ。
公の場でオーリス女史が中将をパパなんて呼び間違えた事は今まで無い。
そして、多分これからも‥。
つまり、オーリス女史はたった一言挟むだけで、部屋の空気をリセットしてしまったのだ。
こちらは中将の不正の証拠を握っている。そんな状況で相手に襲いかかりでもすれば一発アウト。
だからこそ私もあえて、挑発的な態度をとっていたわけだが。
中将は優秀だが、直情径行な所がある。気に入らない小娘。まさに不倶戴天の敵である私に挑発されれば、キレさせるのは簡単だと思っていたのだが、優秀な副官もついているのを忘れていた。
「八神二佐。中将は長年の激務で、心身はボロボロなのです。あまり、挑発的な態度は慎んで頂けませんか?」
「わかりました。非礼をお詫びします」
私は中将へと頭を下げる。
「構わん。キレてないし?キレたら大したもんだし?」
「パパ?前から言ってるけど、それ全然似てないよ?」
「そ、そうか‥」
オーリス女史の鋭いツッコミにシュンとする中将。
「オーリス三佐‥もう勘弁してーな‥」
私は必死に笑いをこらえながらオーリスにお願いする。
あかん‥このまま、親娘漫才で有耶無耶にされるわけにはいかん。
頭を振り、気持ちをリセットする。
私が真面目なオーラを出すと、オーリス女史は一歩下がる。
とりあえず、静観の構えのようだ。てか、出ていかへんの‥?
まあ、しゃあないか‥中将キレッキレ作戦は無しやな‥
「スカリエッティに村の身寄りの無い娘を提供し、戦闘機人の部隊を量産しようとしているところまでは、調べが付いています‥」
私はハキハキと、現在わかっている事を簡潔に伝える。
「それがどうした?」
中将は全く怯まず、聞き返してくる。
げっ。開き直りかいな。
「どうしたって‥余りにも非人道的過ぎます!管理局がやっていいことじゃありません!」
私は務めて冷静に理を説く。
「ワシの仕事は地上の平和を守る事だ!それ以外は知った事か!」
あかんわ。この人、本気でそう思ってるわ‥
「弱者を踏みにじった上での平和にどんな意味があるんですか!そんなもん‥正義やない!」
「正義だと‥?」
中将から気迫が立ち上る。
何やこれ‥
私は必死に呑み込まれまいと、歯を食い縛り、中将を睨みつけた。
「少しは見所のある狸かと思ったが、所詮只の小娘か!」
「そんな甘ったれが、軽々しく正義等と口にするな!」
「そもそも、善と悪は表裏一体!」
「善などというものを求めれば、悪に利用される!悪などというものに酔えば、善に弾劾される!」
「そのどちらもを呑み込むのは「力」だ!」
「圧倒的な力と、それに属される絶対的な支配!」
「自らの理想を妨げる他者を捩じ伏せる力が無ければ、その先にあるのは滅びだけだ!」
「これは、人類が悠久の昔から、繰り返してきた真理だ!」
中将の真っ直ぐな視線に射抜かれ、私の心に迷いが産まれる。
「なあ‥八神よ‥?」
「‥は‥い?」
唐突に名前を呼ばれ、困惑する。記憶を遡っても、初めてのことだ。
「ならば、地上から、人員や予算を
奪っていく、海の連中は、悪なのか?」
「奴等の、必要になるかどうかもわからない、武器開発の予算があれば、この地上の人々の、暮らしはもっと楽になり、治安も良くなるだろう?」
「ならば、海の連中は悪ではないか?違うだろう?」
「はい‥」
私は既に中将に呑まれているのか?
「人には各々事情があり、立場がある。そんな人間達が纏まるには、大いなる目標と、力が必要なのだよ‥そして、その力を理解せず、蔑み妬む者達は、時として、目標を見失い、同胞にすら牙を剥く‥」
‥この人は、人間に絶望してるんだろう。
私もたくさん汚ないモノを見てきた。中将ともなれば二佐の私以上に見てきたのだろう。
ジム君の言葉が脳裏に浮かぶ。
「優しい‥ですね」
人間と、同じ管理局の仲間に絶望しながらも、
現場の捜査員の安全性を第一に考え、市井の平和に注力し続けるこの人は‥確かに、陸の英雄である。大きい‥とてつもなく大きく見える‥。
「そして、機動六課‥だったか‥?」
「はい?」
「あの、部隊はなんだ?」
「なんだ‥?と、言いますと?」
「リミッターでごまかして、高ランク魔道師を集めていたな‥」
うっ‥あかん‥薮蛇か‥?
「そのリミッターの解除権限を持つ者も貴様達の身内ではないか‥」
「何時でも解除可能なリミッターに何の意味があるというのだ‥」
うぐぐ‥あかん‥撤退や!
「時空管理局の歪さの象徴とも言うべき部隊ではないか‥」
「中将!」
「なんだ‥?」
「勘違いしないで下さい。私は別に中将を糾弾しにきたんじゃありません‥」
「‥?何を今更‥」
「だってそうでしょ?中将を糾弾、断罪したいなら、証拠をさっさと本局に渡せばいいんですから!」
「ふむ‥それで、何が言いたい?」
私は必死で考える。
「えーと。つまりですね‥?」
「元々、村の村長は、村の食糧事情を解決して欲しいと、管理局に陳情したわけじゃないですか?」
‥うむ‥。確かにそうだったな‥」
「なら中将、解決しましょうよ!」
「どうやってだ?」
「こちらが計画書になります!」
私はジム君が考案した農業再生案を見せる。
これは、村から帰ってきてから、ジム君が大急ぎで作ってくれたものだ。
中将は資料をパラパラ見ると、
「そんな予算は無い。」
と、資料を返して来た。
「こちらがバジェットになります‥」
私はすかさず、予算案を纏めた、資料を手渡す。
予算案を見た、中将は軽く目を見開くと、資料を読み込んでいく。
「どうです?かなりお求め易くなっておりますよ」
私は揉み手をしながら、中将に詰め寄る。
「確かに安いが‥この金は‥誰が出すのだ?」
「それは勿論、中将のポ、ケ、ット、マ、ネー、で、はぁと」
「なん‥だと‥」
「ゲイズおじ様ならぁ、これくらい、大したこと‥無いでしょう?」
私が中将の胸板にのの字を書きながらお願いすると、中将は嘆息してげんなりしながら、オーリス女史を手招きした。
「オーリス。お前に、任せる‥」
資料を受けとり、手早く読み込むと、オーリス女史の眼鏡が一瞬光った。
「八神二佐?」
「はい?」
「言わずもがなですが、わかっていますよね?」
「勿論♪」
契約成立ってことで‥♪
私はウィンクをひとつすると、オーリス女史は静かに頷いた。
そのオーリス女史の頷きを受けて、
中将が再び、口を開いた。
「八神‥」
「ハッ」
「お前はワシを断罪しなかった‥」
「世間一般でみれば、それは正義に悖る行為ではないか?」
ええ?そこで、そんなこと言い出しちゃうん?
「はい‥ただ、正しい事が正義では無いと考えました。」
私の答えに中将は満足気に頷いた。
そう。正義を行ったから必ず良い結果が出る‥なんて事はない。世界はそんなに単純にできてない。
「それで良い。お前は、この世界に漂う、偽者の正義などより、自分の正義に基づいたのだ。」
「他者の決めた、善悪等に惑わされるな‥お前は機動六課しかり、お前はお前の信じる道を生け‥」
「は、はいっ!」私は思わず敬礼していた。
書いてて思ったけど、なのはってキャラの年令以外にも、設定とか、魔法少女モノのそれじゃないよね?(笑)六課自体がイレギュラーな産物だし(´・ω・`)そこを突かれて、タヌキとゴリラの対決は、一応、作者的には引き分けということになりました(笑)これで一応、レジアス分は終わりです。これから、風呂敷畳みにはいります。