ゴクリ‥それは、誰の嚥下音だったか‥
ただ、唾を呑み込む行為すら、憚られる。
唾を呑み込む事に意識を向ける事さえも隙になるのではと、私達は身じろぎひとつ出来ずに、睨み合っていた。不意に、私達の間を一陣の風が通り抜ける。砂埃が舞い、魔王が一瞬眼を細める。
その瞬間に私は手足の重りを外した。
そして魔王の右側へと軽く投げる。
ゴトリと、音を立てて、重りが落ちる。
そちらへ、眼をつむったままの魔王が意識を向ける。
ここだ。
私は魔王へと、飛び掛かり、拳速に留意したジャブを放つ。
私の一振りで、パパパン!と、高い音が三回響く。
牽制にと放ったジャブは全て魔王の片手であしらわれてしまった。
――もうやだ‥意識を逸らせて、不意を付いて、それでもまだこの拳は届かないというのか。
魔王≠人間説がここにきて天元突破。いや、元々薄々感じてたけど。
牽制が失敗した以上、この距離に留まり続けるは下策。私は距離を取ろうと考える。
―果たしてそうだろうか?
本当にこの距離は不利だろうか?
元々私と魔王のリーチ差は考える迄もなく、魔王に軍配が上がる。魔王と対比しての私の強みは、この小さな身体と、そのコンパクトさ故の攻撃の回転率じゃ無いだろうか。
牽制が届かなかったとはいえ、魔王の懐にいる今は、チャンスではないだうか。
怖い‥けど!魔王の吐息すら聞こえてきそうなこの距離は正直目茶苦茶怖い‥けど!
その口から今にもしゃくねつや輝く息や焼けつく息を吐き出してくるんじゃないかと、今も恐怖で身体が震えるけど‥!
私はひとつ大きく息を吸いこみ、拳速半分威力半分で拳をつき出す。
魔王は私が距離を取らないことに少し驚きを覚えたようで、眼を見開いて、私の拳を丁寧に受け流した。
流れそうな身体を必死で制御しながら、しゃがみ下段蹴りを繰り出す。足にヒットしたが、まるで、鉄柱を蹴ったような感触。
――全然効いてない。
止まるな。私は直ぐ様起きあがりこぼしの勢いで再び正拳突き。その時、まるでスローモーションのように魔王の肚を私の拳が捉えようかと言うところで、魔王の左腕が円を描くように回転して上から私の拳をはね除けた。
攻撃が、読まれてる‥?!
もっと。もっと回転をあげなくちゃ!手を止めるな。止めたら死ぬ。
私はより速度を上げ、上下に攻撃を散らしていく。
一体どれくらい、ガードされたか。ついには、一撃もクリーンヒットをいれられぬまま、その時はきた。
「プハッ‥!」
息が続かず、私が息継ぎをした瞬間、
魔王の眼が光ったのを、私は見たような気がした。何故曖昧なのかって?何故なら‥
「ガッ!?」
次の瞬間、私の横腹に、魔王の拳がめり込んでいたからだ。その衝撃で私の両足は地面と別れを告げる。
漸く補給した酸素を全て吐き出さされ、私のリバーと肺と肋骨が悲鳴をあげる。
酸っぱいモノが再び込み上げるが、なんとか耐える。魔王が追撃に拳をスイングする。
やだこの人マジで容赦ねえ。
もう一撃喰らったら確実に堕ちる。いまだ私は空中に浮かされたままである。避けるのは無理だ。
私は右へと身体を捻る。捻った勢いで身体を回転させて右回し蹴り。
「りぼんびーむ!」
私の足がハート型の障壁を産み出す。
その障壁が、魔王の右フックと、激突して火花を散らす。
そして、障壁が砕け散った。
――もうやだ。なんなのこのムリゲー、
そして漸く私は地面へと着地する。
脇腹の痛みに耐えながら、魔王へとファイティングポーズを取る。
隙を伺っていると、突然魔王の右側からエリオが突進してきた。
魔王は当然のように、ストラーダを親指と、人差し指で摘み、興味を無くしたように、エリオごと、ポイ捨てた。
わかってたけど!相方がたより無さすぎて、泣けてくる。
《エリオ君。こっちへ!》
《うん》
とりあえず、思いついたことがあり、エリオを呼び寄せる。
一先ず、魔王から距離をとり、エリオにブーストを掛ける。ストラーダが、蒼い光を帯びる、
《ほんじゃ、突貫!》
ゑっ‥》
《良いから突貫!》
《わかったよ‥》
エリオが魔王へとスタートを切る。
ブーストをかけただけあって、良いダッシュだ。
私もエリオの後ろにビタリと付き、実を隠しながら、魔王へと、走り出す。
魔王迄、後数十㍍。そこで私は大地を蹴る。
軽く跳躍して、エリオの背中へと着地する。
《ちょっ!?キャロっ!?》
《良いから》
《いや‥あの‥》
《良いから》
私の返事に諦めたのかますます加速するエリオ。
良いね。
養豚場の豚からドダイYSに昇格してあげよう。
《このまま、同時攻撃逝くよ》
《うん!あれ?字‥》
魔王迄後数㍍。そこでエリオがストラーダを掲げながら、魔王へと、飛び込んだ。
私も、エリオの背中から軽く跳び、低空で必殺キックを放つ。
「「いっけええええ!!」」
そして‥
―魔王は右手でストラーダを摘み、
左手で、私のキックを受け止めていた。
そう。みなさんご存知、転地魔闘の構えである。
――魔王には勝てなかったよ。
「あれ?おかしいな?こんな闘い方教えてないよね?」
静かに諭すように語り掛ける魔王さま。その滲み出る覇気に私達は、ひと言も返せない。
「訓練の時だけ、言うこと聴く振りして、本番でこんな無茶するならさ‥訓練の意味無いじゃない。私の言ってる事間違ってる?」
有無を言わせぬ迫力に私達はフルフルと首を振る。
「じゃあさ‥ちゃんと練習通りやろうよ‥」
あかん。これMK5や。
「なのはさん!発言宜しいでしょうか?」
このまま、処刑を待つよりは、話してみよう。と、私は挙手する。人間話せば解る。ってね。相手人間ちゃうけど。
「なに?」
変な事言ったら殺される‥プレッシャーだけで胃が苦しい。変わらず据わりきった眼でこちらを見る魔王樣。
超こええ。でも、話してみよう。
「教わったフォーメーション、攻撃パターンはもう既に、全部撃破されました‥!」
そうなのだ。教わったフォーメーション、パターンは一通りもう試して悉く撃破されているのだ。
ならばどうする?自分で手持の武器を駆使して戦うしか無いじゃないか。
私の言葉になのはさんは虚空を見上げて、少し考える。
「そうだっけ?」
と、ケロリと聞き返してくる。
だが、プレッシャーはいくらか和らいでいた。
私とエリオはコクコクと頷きを繰り返す。
「うーん‥じゃあいっか♪」
「それでも諦めずに、立ち向かったその心意気や良し‥!」
あんた。諦めるの許さないじゃん。
「うん。じゃあ‥続けよっか♪」
なんでそうなる。
今めでたしめでたしの流れだったじゃん‥
「そう考えると、今の作戦はなかなか面白かったよ?ただ慣れてないからか、どちらとも威力が足りなかったね?特にエリオ?キャロが乗ったくらいで、スピードや威力落としてちゃダメだよ?もっと足腰鍛えなきゃダメかなあ?」
いや、威力は十分な筈だよ?相手が魔王なのが間違いなだけで。やはり模擬戦の相手が魔王なのは間違っている。と思う。
魔王の言葉に、青くなるエリオ。
「さっ。じゃあ飛び道具も、何でもありで模擬戦再開しよっか♪」
魔王樣が楽しそうで何よりです。
《エリオ君。わかってるよね?》
《ゑ?》
《ここで男見せないと、なのはさん多分マジで地獄の特訓追加してくるよ?》
《が、頑張ります‥》
私の冗談にならない警告にエリオの顔が青くなる。
《うん♪期待してるよっ♪》
キャルンっ♪と、効果音が付きそうな勢いで、ウィンクをひとつ。
《‥っ!うんっ!頑張るよ!》
男ってチョロい。
青くなったり、赤くなったり、忙しいことで。
《それじゃまた、何とか隙を作ってみるから、頑張ってね‥》
《うん‥ごめんね‥》
良いってことよ。お互いタイマンじゃ勝ち目ないんだし、協力プレイと洒落込みましょう。
そして三度、私と魔王は対峙する。
サクッとエリオに活躍の場を用意して終る筈だったのに、何回やっても何回やっても魔王なのが倒れない。
そして、戦闘シーン苦手(ToT)