その日、広めの会議室に、数人の男女が集まっていた。
まだ時間には早いが、やる気溢れるメンバーは既に集まり、お互い自己紹介をして、お互いの得意分野等を共有していた。
ある程度の自己紹介が終えたのを確認し、時間を確認すれば、開始時間1分前。
頃合いかと、立ち上がると、室内の視線が集中する。
この一大プロジェクトの若きリーダーがどんなものかという興味、そして、出来んの?やれんの?という挑戦的な感情。ネガティブもポジティブも合わさった複数の感情が俺に刺さる。
その中でも一際眼光鋭い視線の集団が一団。
同時に先程迄の会話も止まり、静謐が室内を覆い尽くす。
さーて。やったるか。
かかってこい。
ゆっくりと周りを見渡し、十分に自分に意識が向いていることを確認すると、俺は口を開いた。
「はじめまして‥本日はお集まり頂きありがとう‥何人かは知った顔もいるけれど、今回は地上と海が、手を携えて、初めて踏み出す一歩になる。いわば、初めの一歩だ‥各々の考え、目論見はあるかもしれないけれど、管理局の一員として、見据える未來は同じだと信じている‥だから君達もこのプロジェクトを利用してやる。くらいの気持ちでいい‥無論、私も君達を利用するつもりだ‥個人の野心は我慢しろ。‥なんて言うつもりは毛頭ない。むしろ野心は仕事をする上で強烈なエネルギーになる‥このプロジェクトを成功させれば、諸君らには確実な栄達が待ってるだろう‥」
そこで、ぐるりと周りを見渡す。
ゴクリと喉を鳴らす者。
拳を握り、何かを決意するもの。
真っ直ぐ顔を上げ、此方を見据える者。
それで良い。
志が綺麗かどうかなんてどうでも良い。
やる気さえあれば、それは望むところだ。
間違えそうなら、その都度、此方で修正してやればいいだけの話なのだから。
「‥勿論俺にもね」
其処で最後にウィンクをしながらひとつおどけて、締める。
そんな様子に、誰かが、クスリと溢し、張り詰めた空気が和らぐ。
表情を緩め、
各々、隣のメンバーの顔を伺う。
「よっ♪中々堂に入ってるじゃねえの?」
「勘弁して下さいナカジマ三佐‥」
俺は慌てて、敬礼で返す。
なんて、声を掛けてきてくれたのは、ゲンヤさんだ。
まさかのゲンヤさんも、チーム入りである。
正直階級も歳も上なので、勘弁してほしかったのだが、中将たっての推薦というわけで、断る訳にはいかなかった。
中将的には地上の発言力を高める為。対外的には
実績も無い若いリーダーに対する保険。いわばお目付け役的な役割なのだろう。
理屈はわかるが、部下に階級も歳も上の人が入るのは非常にやりにくい。
俺のそんな屈託を見抜いたかのように、
三佐は言葉を続ける。
「そんな、かしこまらんでくだせえや‥今回は俺はあくまで部下なんですからよ‥」
この申し出は正直有り難い。
今回集まったメンバーの中ではゲンヤさんが、言うまでもなく、階級も歳も頂点である。
そんなゲンヤさんが、最初に俺をリーダーと認める。
必然的に他のメンバー。中には、勿論、多少階級も歳も上の人間はいる。そんな、人間達も抵抗なく、俺をリーダーと認めてくれるだろう。
乗るしかない。このビッグウェーブに!
「恐縮です‥」
精一杯の謝意を瞳にのせて、目礼する。
こんな一言だけでは表せない程、俺は今、モーレツに感謝している!
「私もご一緒出来て嬉しいです‥父共々、よろしくお願いいたしますね♪」
と、ギンガさんも挨拶に来てくれた。
ゲンヤさんを押し退けているのはご愛嬌だ。
「先日は‥父が大変ご迷惑を‥おかけしました‥」
等と、眉を下げて、敬礼してくる。
ご迷惑‥ああ。例の試験か。
そういえば、ゲンヤさんも絡んでいたらしい。
「いえいえ、お気になさらず‥」
敬礼を返しながら、穏やかに返す。
実際、俺は中将にも伝えた通り、全く気にしていない。
それより、この話はあまり拡げないように。と、クロノ提督から厳命を受けている。
「そういうわけには‥」
だが、ギンガさんは引き下がらない。
なんだなんだと、周りも此方に、注目し初めている。
これはあかん。
なおも、口を開きそうなギンガさんの手を取る。
「本当に大丈夫ですから!ほら!仲直りの握手握手!」
と、手を握り、ぶんぶん振ると、ギンガさんの顔が紅に染まった。
え?何で?
「あの‥すみません‥手を‥」
と、消え入りそうな声でギンガさん。
「あ?す、すみません‥」
と、慌てて手を離す。
そうだよね。いきなり手握るとか、どんなセクハラだよってね。
すみません。すみません。通報だけはしないでください。謝りますから!何でも島村!
「ぁ‥」
そして何でそんな名残惜しそうな声を出すんですかね
「ほぉ‥」
そんなギンガさんをゲンヤさんがニヤニヤしながら見つめている。
「ち、違うの!父さん!まだそういうんじゃ‥」
「まだ?‥そういうのってどういうのだ?」
そう切り返され、ギンガさんは更に顔を真赤にし、
「‥っもおぉ~~!」
と、叫び声を上げて、両手をぶんぶん振りながら、ゲンヤさんを威嚇する。
そんなギンガさんをどうどうと宥めながら、ゲンヤさんは悪怯れることなく、此方に振ってくる。
「大変だ!ジムリーダー!室内に牛が居るぞ!」
と、ギンガさんの額を片手で抑えつつ、おどけてみせる。
牛って‥いや、確かに、胸部装甲は牛みたいですけど‥
てか、ジムリーダーって‥。何?ポケモンで対決でもすればいいの?
バッヂなんか無いよ?
ゲンヤさんの言に益々顔を赤くするギンガさん。
そんなギンガさんが可愛くて、二人のやり取りがほほえましくて。俺は笑ってしまっていた。
いや、俺だけじゃなく、全員が。
「コホン‥僕もいいかな?ジム?」
「おお‥グリフィス。良く来てくれたな」
こいつはグリフィス=ロウラン。
六課で地獄のデスマーチを共にした戦友である。
歳が近いのもあって、階級は准尉と上なんだが、仲良くさせて貰っていた。レティ提督の息子とあり、階級も若くして准尉とエリートまっしぐらなイケメソと男が嫌う要素満載のチートボーイなんだが、その気取らない性格と、真面目さに裏付けされた優秀な実務能力を俺は好いていた。
グリフィスはレティ提督のたっての推薦枠だ。
流石はレティ提督。政治の機微を見逃さない。
しかし、裏の思惑は兎も角、こうしたしっかり働きが期待出来る顔見知りがいるのは有り難い。
「しっかり働けよ?でないとレティ提督と彼女に言い付けるからな?」
「なっ‥?!言われなくても‥君こそリーダーなんて出来るのかい?役者不足って顔に書いてあるぜ?」
ハハハ。こやつめ。
俺は優しくグリフィスの靴を踏む。
そんな俺の足を更に上から踏むグリフィス。
頬がヒクヒクひきつってるのはご愛嬌だろう。
「君こそふ抜けた指揮をするようならフェイトさんに言い付けるからな?」
「!‥てめえ‥!」
滅茶滅茶こきつかってやるからな‥
と、俺が静かに決意していると、
「言っとくが、僕は上司だろうと、無能な指揮には従うつもりはない。意味のわからない指示を跳ばすようなら、ガンガン突き上げていくからよろしく‥」
「上等だコラ」
それで良い。
こいつの優秀さはわかってる。
もし、そんなことになるなら、こいつを使いこなせない俺の責任だ。
特に異論を挟まない俺にグリフィスも微笑を浮かべ、此方に向かって拳を掲げる。
「しっかり僕を使いこなせよ?リーダー?」
「あいよ‥」
俺も拳に拳を合わせて、軽く微笑み合う。
そんな俺達の横顔に何やら赤く熱い液体が突然降りかかった。
二人でギギギギ‥と、横を向くと、そこには鼻から大量の血を流しながら、シャリオ=フィニーノ技術主任がサムズアップしながら満面の笑顔でこちらを見ていた。
俺とグリフィスは反射的に顔を逆に逸らす。
関わりたくない。
二人の思いは300%シンクロしていた。
技術‥マギテク方面のスペシャリストとしてシャリオ=フィニーノ技術主任もチーム入りしていた。
「はいはーい‥!なんかグダグダになりそうだから、ここで私もいっちょカマすぜい!」
と、能天気な声が響く。
此方はクロノ提督たっての推薦枠。エイミィ=リミエッタ嬢である。
彼女はこのチームの金庫番。所謂経理役として召集された。
「私のお財布のヒモは超‥堅い‥ぜえ‥!
誰が呼んだか知らないが!チームの金庫番!その名は‥エイミィ~!リミエッタ!私‥!参‥上!」
と、背後に爆発効果でも入りそうなポーズ付きで自己紹介。
乳が揺れている。うむ‥尊し!
更に、グダった気もするが、あえて突っ込まない。
大人だからね!
それに後でクロノ提督が怖いし‥
大体、メンバー紹介は終わったかな。
と、思いきや、俺の目の前にはちょこんと、少女が一人。
肩位迄の長さの緩いウエーブがかった茶髪の大人しそうな美少女だった。
「あ、あの‥!自分‥1321航空部隊から参りました!シボ=レーと申します‥」
「1321‥ああ、ヴィータさんのとこの‥?」
「は‥はい!ヴィータさんは尊敬する先輩です!」
「そっか‥私もヴィータさんには時々お世話になってます‥」
主に戦闘訓練でハンマーで適度にボコボコに殴られてます。
こんな大人しそうな娘が武装隊だなんて、世の中解らんね。
「ジムさんのお噂はかねがね‥御一緒にお仕事出来るなんて光栄です♪」
等と、敬礼しながら伝えてくる彼女に俺は戸惑う。
噂って何?
「噂って何の事ですか?」
思わず尋ねると、
「武装隊では、力の大小がそのまま、上下関係に直結しますから♪ジムさんの昇級試験での模擬戦での御活躍は私の部隊にも轟いております♪」
「え?誰から聴いたの?」
何で拡がってるの‥
「スバルさんから聞きました♪」
なん‥だと‥。
俺がゲンヤさんを見ると、三佐は頭を抱えてしまっていた。
「ごめん‥シボ=レーさん‥その話、余り拡げないように、配慮、お願い出来るかな?」
「はい!ジムさんが仰るなら!」
と、ニコニコしながら答えてくれる。
良い子そうではあるんだけど。
ある程度自己紹介が済んだようなので、
眼光鋭かった一団は挨拶に来るつもりは無いようだ。まあ、別に構わない。
皆を着席させて、今回のプロジェクトの目的を共有する。
先ずは現在の地上部隊の状況。
現在のミッドの治安は中将の指揮のお陰で保たれていること。
魔道師等、代えの効かない、人材に頼る事を善しとしない中将自身が代えの効かないピースになっているのが、どんな皮肉だよと。だが、残念ではあるが、中将自身もかなりのご高齢に差し掛かっている。今すぐどうにかなる訳ではないだろうが、
中将自身が実際に御体を壊されてからでは遅いのだ。人の命が永久不変なモノで無い以上。何時までも中将に甘えていて良いものか?
つまり、中将が、倒れた後にも、問題無く回るシステム作り。が急務である。
そして、人材、予算は勿論、原状維持でだ。
ここまでひと息に話し、
ぐるりと周りを確認すれば、
プロジェクトの深刻さを察し、表情を引き締める者。
俯き、資料を読み込みながら、色々思索に更ける者。半々だった。
挨拶に来なかった一団は早くも集中を切らし、興味無さそうにしている。だが、異論を挟むつもりはないようで、此方を見ないようにしている。
とりあえず、今の所、異論は無いようで何より。
其処で、俺は、一計を案じる。
無茶振りに近いがな。
見せてやれ。お前の優秀さを。
「さて、以上を踏まえた上で、‥グリフィス?」
「はい?」
「このプロジェクトで求められてる事がわかるか?」
「そうですね‥誰でも出来る‥予算も人材も最小限で最大限の効果、を得る方法の追及‥それが僕らの命題ですね?」
「その通り」
流石の理解力で助かる。
こうして、名指しで質問し、答えられる人間が居るだけで、会議の雰囲気は引き締まる。
事実、会議室の温度が気持ち上がった気がする。
さて、もう少し‥俺の時間に付き合って貰おう。
「さて、これを達成する為の叩き台を俺の方で作ってきた。」
其処で、プロジェクターのスイッチを入れると、
前日に作り込んだ資料が画面に映し出される。
既に配ってある資料と同じモノだけどね。
時間経過で次々と代わるプロジェクターの画面と手元の資料を見比べているメンバーに資料についての説明を始める。
「―このデータは‥とある管理外世界の治安に関するデータだ。
このように、この地域は空き巣被害等が多く、
治安が良いとは言えない、地区だった。
其処で‥ここの政府がとった、対応策が、これだ。
―花壇を造った。‥それだけで、空き巣被害が減ったそうだ。
―何故か?近隣の住民が花壇の世話をするために、表に出る事で、
自然と、人通りの少なかった路地に人の目を作ったのだ。
また、花壇の世話をしながら、近隣同士でコミュニティも出来た。
その結果、住民同士に仲間意識が芽生え、
個から団へと、変化した。
お互いに声を掛合い、
見はり合い、その結果、犯罪者にとって、犯行をしにくい地区が自然と出来上がったのだ‥これが、我々の目指す、ひとつの形では無いだろうか?
つまり、住民自身に防犯意識を植え付け、自分の身は自分で守る。という風潮を作り上げ、その為に必要な事は積極的に協力、投資していく‥これ以外に今回の命題を解決する術は無いと考える‥異論汎論は認める」
其処で、プロジェクターの映像も終了する。
パチパチ‥と、音の方を見ると、グリフィスが拍手をくれていた。次に、ゲンヤさんとギンガさんも続いてくれる。
グリフィス。ありがとよ。お前が居てくれて良かった。
拍手の波が照れくさく、軽く手を上げ、
「えーと。ご清聴ありがとうございました‥流れとしては、このあと軽めのディスカッション。各自、休憩は自由にどうぞ‥それで、次回の会議迄に各自、ひとつ案を持ってくること。其れを宿題にしたいと思います‥それじゃ、煙行ってきま~す」
タバコ吸わないんだけどね。
俺が居なくなった後の反応が見たいのだ。
と、グリフィスに軽く視線を送り、会議室を後にする。
休憩室の壁に背中を預けて思案を巡らせながら突っ立っていると、
「よっ♪大将♪」
ゲンヤさんがタバコに火を付けながら、こちらに歩いてきた。
「お疲れ様です!」
「あ~良いから良いから‥」
スッと俺の隣に立ち、煙を俺と逆の横に吐き出す。
こういう細やかな気遣いが出来る所を本当に尊敬する。
階級も歳も下の人間にキッチリ敬意を持って接してくれていると感じる。
「あの後、どうでした?」
おそるおそる、不安に思い聴いてみる。
「ん?グリフィスの坊やが上手くまとめて、ディスカッションしてたぜ」
その答に安心し、息を吐く。
「まあ、御輿が無くても、担ぎ手がきちんと動くかは心配だわな‥」
と、苦笑しながら、ゲンヤさんがタバコの灰を落とす。
―仰る通り。
流石。俺の不安等、見透かされているようだ。
まあ、今回はグリフィス以外にもエイミィさんもシャリオさんもいるから、だいぶ楽な部類だが。
其れ以外だと、シボ=レーといったか。あの娘。
会議中も真面目に話しを聞いていて、一向にモチベが落ちなかった。
あの娘は使えそうだ。
「良いメンバーが集りましたね‥」
「ん。ギンガもこういう仕事は割とどうして、出来る奴だからよ?しっかり使えよ?」
「勿論。頼りにしてますよ?ゲンヤさん。当然貴方にも御指導ご鞭撻賜れますよう‥お願い申し上げます」
きちんと目を合わせて、最敬礼する。
「バカヤロ。老いぼれにんなもん期待するんじゃねえよ‥」
と、慌てたように仰るゲンヤさんに思わず吹き出す。
「あー‥それとな‥すまなかった‥!」
と、いきなり頭を下げられる。
「ちょっと‥やめてくださいよ‥」
「中将に頼まれて、どうしても断れなかった‥本当にすまなかった!」
「本当に気にしてないんで、もう勘弁して下さい‥」
「だがな‥恩を仇で返すような不義理をしちまったのは事実だ‥」
「じゃあこうしましょう!」
「ん?なんでも言ってくれ?」
「ゲンヤさんのお薦めの飲み屋で一杯奢って下さい!(ギンガを幸せにしてやってくれよ!)」
「「へ?」」
なんかとんでもないことを言われたような気がする。
其処で、俺は時計を見て、
「おっと‥そろそろ参加しとかないと‥すみません。ナカジマ三佐‥俺、先に戻りますね?」
「あいよ」
ジムが去り、一人になった喫煙室で、ゲンヤは一人呟いた。
「‥なんだよ‥ギンガ‥おめえ‥全く脈無いじゃあねえかよ‥」
娘に伝えるべきか、そんなことを悩みながら、漏れ出た言葉は、溜息と共に吐き出された紫煙と、共に宙に消えた。
今回も読んで頂き、ありがとうございますm(__)m
なんか、魔法少女の欠片もない展開ですみません。え?もとから無い?本当にすまないと思っている!
次回からは早送りするつもりでいます。