はぁぁ、だりいなぁ。
最寄駅から大学への道。
同じ1限に出席するであろう学生たちに紛れて、歩を進めている。
大学も2年目になるというのに、一向にこの場所に慣れない俺は、ほぼ毎日吐いている心の溜息を、堕落の元となる言葉と共に吐いた。溜息を吐いた回数なら、今も目の前を映るリア充共の「ウェイ」の回数と良い勝負になると思う。いや、絶対勝ってる。・・いや待て、今も変わってないとしたら、戸部には勝てないが気がする。むしろ完敗。
変わってないとしたら、か、と俺は考える。
変わる、ねぇ。
ふと、高校時代に想いを馳せる。
卒業も近くなった頃には、どうにも言い訳ができないくらいな状況になっており、奉仕部の二人の想いには完全に気付いていた。疑っても事実ばかり押し寄せ、裏を読もうとしても表しかないようなことばかりが、あの二人と俺との間に積み重なったからだ。
卒業式の日。
奉仕部部室で告白してきた二人の顔が思い浮か・・ばねえな、あんまり。
なんでだろうか。
いや、分かっている。
最後の告白は、とても自然なものであり、涙なんてなかった。
互いにけじめを付けるものであった、と思う。
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確かに奉仕部では、これ以上ない経験をしたと思っている。
俺自身に考えや、想いや、行動などが、増えもしたし、捨てもしたし、擦り切れたりもした。きっと、二人もそんな感じだろう。
卒業式の日、告白を受けた俺は、どちらも選ばなかった。そう、「選ばなかった」のだ。
実を言うと、二人からの想いはもちろん嬉しかったが、頑張っている二人を見ているうちに、俺も何か頑張ってないと、二人には釣り合わないという確信を持っていた。また、そのことを二人に告げたとき、二人もそのようなことを感付いていたようで、
「全く遺憾ではあるけれど、あなたが好きなことは本当よ。でも、あなたが言っていることも分かるわ。もしこの先も一緒に歩いて行くと考えたとき、今のあなたでは難しいわね。少し大人になりなさい。もし、あなたが思う通りになれた時、私を追うこと自体は許容してあげるわ。」
「どんだけ高飛車なんだよ・・・」
「あら、事実だけを綺麗にまとめて言ってあげているだけよ?・・・あなたには本当に感謝してるわ。ありがとう。」
「まぁ、おう。」
「ヒッキー、私もねヒッキーことは大好きだよ。ずっと好きだし、これからも好きなんだと思う。けど、ゆきのんが言っている通り、それだけじゃダメな時が来るんだと思う。それはどっちが悪いとか、良いとかじゃないんだけど・・・」
「・・言いたいことは分かる。」
「・・ありがとう。あはは、いつもそうだったよねー。本当にちゃんと私が言いたいこと分かってくれていると思うから、そういうところも好きだよ。ヒッキー、私は、頑張るから!ね、ゆきのん?大学行ってもまた三人で集まろうね?これからの私たちの想い、なんて、難しいことわからないけど、二人に話したくなること、たくさんあると思うからさ!ね!?」
「由比ヶ浜さん・・分かったからそうべたつかないでくれるかしら・・もう。」
「ええー!ゆきのん冷たいー!あ、ヒッキーもおいで?」
「いかねーよ!」
「・・・通報するわよ?」
「え?行動してないよね?想像させただけで罪なの?俺だけ?つーか何想像してんの?」
「・・・通報するわ。」
「あはは、ごめんねヒッキー。」
「待て!雪ノ下!」
・・・
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今もたまに三人で会っている。
ちなみに、三人で会った時は、雪ノ下も由比ヶ浜も、恋愛がらみの話はしない。
それは俺に気を遣うとかそんなんじゃなく、俺に言ってもしょうがないから言わないだけだ。二人の間では別途、恋愛絡みの話はしているらしい。
たった今は、おそらく二人とも恋人は出来ていない。
というか、そんな時間がないはずだ。
雪ノ下は日本の最高学府にあたる大学に進み、三年次には留学が決まっている。MBAの取得、だっけか。それは、彼女が目標を決め、それに向かって今も邁進しているからだ。
その目標は姉である陽乃さんとも共有済みで、二人して雪ノ下建設からの離脱と自身の幸せの獲得を根底に、必要なことを片っ端から手に入れている。数ヶ月空けて会うと、その度ぐんぐんと成長している姿が見れて、こちらも気持ちよくなる、やっぱすげーわあいつ。
由比ヶ浜は、高校3年次に母親が病気になり、少し家族のサポートが必要になった事をきっかけに、料理と栄養学に強い興味を持ち始めた。雪ノ下とつるんでいることから、単純な「料理できる私可愛い!」なんてスイーツ(笑)には収まらず、大学と同時に夜間の料理学校に通い、雑誌のモデルと都内のイタリアンレストランでのバイトで遊ぶお金と料理学校代を稼いでいる。
二人とも、すごく、すごく頑張っている。
・・・
そんなやり取りを懐かしく思う。
はい、じゃあ俺は?というと、二人ほどじゃないが、自分では考えられなかったことから挑戦するようにしている。じゃないと、二人と会った時のネタもないしな。なんか、三人で会った時に、俺が除け者になる感じは、俺が許さないのだ。
もちろん、全てを投げ出そうとしたことがあった。
しかし、それは小町が許さなかった。
「こんのー、ゴミぃちゃん!まーだそんなこと言ってるの!ガキじゃないんだから、自分が頑張れないことを理由に、人を、しかも雪乃さんと結衣さんを遠ざけるだなんて、小町が許すとでも思ってるの!?」
さすがにこれを言われては、俺も動かざるを得なかった、というわけだ。
だからって、リア充になるわけではない。大学の成績の上位キープや、ライターと家庭教師のアルバイト、あと誘われた会はできるだけ断らない、とかその程度だ。
ただこれだけでも、今までの俺から考えると大分変わったようで、雪ノ下や由比ヶ浜はいつも楽しそうに俺の話を聞いてくれる。
まぁ、だから俺も渋々ではあるが、頑張っているのだ。
しかし。しかし、だ。
はぁぁ、だりいなぁ。
心の溜息は、依然として出るのだ。
▽
ふー、今日は大学の5限が終わってしまえば、何もない日だった。
もう、最高!人間本来の姿に戻れる!幸せ!めっちゃだらだらすることを誓いながら最寄駅へ向かう。大学入学と共に家から追い出された俺は、大学から二駅離れたところに自宅があった。
駅のホームで小説を開こうとしたとき、肩を触れるか触れないかくらいで叩かれ、声を掛けられる。
「ねえ、ちょっと。」
「ん?・・なんだ川崎か。」
大学の入ってから髪を胸ぐらいまでの長さにカットし、化粧も施すようになったからだろうか、綺麗だったのが更に垢抜けた川崎が、少し恥じらいだ様子で話し掛けてきた。
川崎沙希とは同じ大学に通っている。同じ学部の違う学科なので、時折学内で見かけることがある。同じ講義を受けたこともある。その度、少しだけ話すくらいの仲だ。ただ、お互いやはり、基本ぼっち、というのは変わっていなかった。
そういや、国立に行くものだと思っていたが、何か事情が変わったのだろうか。
「この後、ひま?」
いや、暇じゃないと言おうとしたところで、決め事が思い浮かぶ。
『誘われた会はできるだけ断らない』
いやまだ誘われてはないが、おそらくは何かに誘おうとしているんだろう。
「ひま、ではあるな。どうした。」
パッと表情が明るくなる。なんだこいつ、可愛いな。
なんだ?髪型か?きつそうな感じが和らいでいるが、それでいて話しかけにくいオーラが昇華して、雪ノ下の雰囲気に似通ったものになっている、そう感じた。
「ちょっとご飯でも行かない?相談したいことあって。」
相談、か。
久しぶりに聞いたな。
勢いで書いてみました。
続けるかは、未定です。