依頼:私を、変えて欲しい   作:クラウンギア

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間が空いてしまいましたが、短い物語は完結に向かって進みます。
駆け足なので、ゆっくり読んで頂けると幸いです。


まだ二人とも

 

「・・・58、59・・60。」

 

1分数え終えたらベッドに入ってきてと言われ、きっちり数え終えた俺はゆっくりと目を開けた。月明かりだけで照らされた部屋は、思っていたよりもはっきり捉えることができて、目線は考えずともベッドに向いた。俺から見える目線では、枕が奥にあって、少し片側に寄った川崎の髪がかろうじて見える程度だ。

 

川崎は、今どんな気持ちでベッドに横たわっているのだろうか。

 

目を瞑り、川崎に触れられてからの1分間、俺は頭をフル回転させて考えていた。この後のことを想像してドキドキしていたかと聞かれると、答えは全くの否である。そして、考えて出した結論が正しければ、俺は川崎を、ある意味において止めなければならないだろう。熱に浮かされた自分を落ち着かせ、取るべき行動を決めるのに、もう時間は必要なかった。

 

一息ついて、ベッドへと向かっていく。川崎が空けている左側から、ゆっくりとベッドに滑り込んだ。川崎と触れ合ってはいないが、少し身を寄せればぶつかるだろう距離感だ。

川崎は向こうを向いていて、俺は掛け布団から片腕だけ出した状態で、天井を見つめている。そして、身体の感覚に神経を集中させると、川崎の状態を測った。やはり、と言わざるを得なかった。

 

意を決して、川崎に話しかける。

 

「川崎。」

 

「えっ?な、なに?」

 

川崎はこちらを向こうとするが、それを察知して食い気味に制する。

 

「まぁ待て。そのままで少し聞いてほしいんだ。」

 

半分こちらを向いてきた川崎が、名残惜しさはなく、巣に帰るような素早さで元の体制に戻る。

 

「う、うん。わかった。」

 

「・・ちょっと聞いていいか?」

 

「・・うん。」

 

微かな返事であっても、今の二人の距離感では十分に聞こえる。

 

この問いに川崎はどう返してくるかわからない。

しかし、聞かないわけにはいかないだろう。

 

「意地悪な質問になるかもしれんが・・・俺が目を瞑った後の、あれはなんだ?」

 

「あ、あれって・・・。」

 

川崎は慌てて口ごもり、応えに窮しているようだった。

先ほど、目を瞑って10秒後、川崎は一言と共に俺の頬にキスをした。触れるか触れないかくらいの皮膚の接触。一瞬にして沸騰しかけた俺の頭は、別の感覚によって一気にマイナス付近まで持っていかれていた。

 

「その、頬に、き、キスしたつもりだけど・・・」

 

「あぁ、だろうな。」

 

「だろうな、って・・・なによそれ。」

 

川崎の声色が、近頃では聞いたことのないくらいの温度に一気に落ちたことを感じる。

 

「いやだったんだ・・。」

 

続けて、一層低くなった冷たい感情からくる声で、川崎が呟いた。

正直、俺も辛さを感じている。

それでも、俺のこの疑念は、ちゃんと口にしなきゃいけないものだと、口にする。

 

「そうじゃなくて。・・・お前、震えてたろ。しかも、今だってそうだ。」

 

そう、川崎は近付いてきたときに、俺の腕に手を添えていたが、その手が浴衣越しにも分かるくらい、震えていたのだ。加えて、今先ほどベッドに入り神経を集中させて感じたのは、小刻みに震えている川崎の様子だった。おかげで、キスをされたということより、震わせる何かが、川崎に、もしくは二人の間にあるということに、俺は気を持っていかれたのだ。

 

ドラマや小説では、震えているシーンが安易に多用されているが、現実的には震えると言うのは相当なことだと、俺は思う。俺にとっては、昔小町が家出して探し当てたときに、震える小町を抱き締めたとき以来の感触だった。はっきり言って、あれは俺にとって一つの恐怖でもあった。人は震えることがあるのだ、しかし、それはいくつかの事象から追い込まれている時にのみ発する、危険信号みたいなものなのだ。

 

俺は今、川崎を疑ってしまっている。

 

「・・・。」

 

「なぁ、川崎。・・お前何か無理してないか?」

 

「・・・。」

 

川崎の浅い呼吸だけが聞こえる。

俺は天井に向け固定していた頭を、川崎のいる方へ傾けた。

 

「川崎?」

 

再びそう呼びかけると、川崎は勢い良くこちら向くように体制を転がした。

顔は伏せ、俺の肩に縋り付くように、浴衣の袖を握ってくる。

 

「おぉ。」

 

思わず漏れた声に情けなさを感じたのも束の間、川崎が大きく息を吐いた。

俺の腕がその温度を捉えて、俺は一層不安になってしまう。

 

「か、川崎?」

 

「・・・てるに・・・じゃん・・。」

 

「ん、すまん、聞き取れなかった。」

 

その声はあまりにもか細く、この距離にいても聞き遂げることができなかった。

 

「無理、・・無理してるに決まってるじゃん、って言ったの。」

 

その答えを聞いて、俺の中の温度も急激に下がっていく。

川崎が無理をしている理由はわからないが、俺がいるから無理をしていることに、震えていることに変わりはない。

その考えに至って、思ったよりも感傷的になっている自分がいて、鼻から短い息が漏れた。

 

「・・・だよな。なんだ、色々とすまん。やっぱり向こうで寝るわ。」

 

ベッドから急ぎ這い出ようとすると、川崎は強く腕を引っ張った。

反射的に川崎の方を向く。

顔を上げた川崎は、半分泣いているような、辛そうな顔をしていた。

 

「お願い、聞いてくれるって言ったでしょ。」

 

「いや、言ったが・・・、震わせるくらいの何かがあるなら、逆に聞けねえだろ。」

 

そう言い放って、再び這い出ようとするも、更に強い力で引っ張られる。

 

「はぁ・・・。」

 

川崎は俯いて、大きくため息をついた。

切り替えるようにして、顔を上げると、苦笑しながらこう言った。

 

「そうだった。・・そうだよね。私もひどいけど、あんたも大概だよ。ねぇ、いつも通りって言ったらおかしいかもしれないけど、ちゃんと言葉にするから、聞いて?ね?あんた勘違いしてるし、ちょっと極端だよ。それでもって、私も勘違いさせた上に、まだまだ下手だったんだ。」

 

「お、おう。ん、勘違い?」

 

「そ。」

 

その返事をトリガーにするように、更にぐいと引っ張られて、川崎の方へと倒れ込んでしまう。

頭を抱えられて、川崎の胸元に包み込まれてしまった。

なにこれ一体何がどれであれがどうなってこうなってんの?

 

「はい。深呼吸してー。・・・私が下手だった部分とか合わせて、ちゃんと言葉にするから、聞いて?ね?」

 

俺はこんがらがった思考を整理もせず、温かさに包まれながら、少しだけ頷いた。

 

 

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