※おまけのおまけでエピローグも置きます
今まで読んで下さり、また誤字報告や評価、コメントなどご支援のほど、
本当にありがとうございました。
比企谷から来た連絡に従って、外出する準備を進めた。
連絡が来たときは、まずちゃんと連絡が約束通りに来たことに安堵したけど、その後すぐに、あと数時間後に'何かが終わる'ということに、不安いっぱいになった。
何度振り返っても、比企谷と'友達'になってからの私は、見るに耐えないほど舞い上がっちゃってたし。例え失いたくないとしても、あの比企谷に対して、あの行き過ぎたアプローチは得策ではなかったかも、と、何度も悶えるような夜を送った。
そして、今日。
もうどんな結果だろうと腹を決めて行くしかない、そう思いつつも・・・。
新品の派手過ぎないワンピースに身を包み、昨日美容院で褒められた髪を整え、バレない程度に化粧も施して・・・と、ここまで無意識で進めて、まだ好かれようとしているのか、と比企谷への想いを再確認して、ため息をついた。
比企谷のこと好きすぎるでしょ、私。
今日どうなってしまうか、わからないのに。
数年間秘めた想いは、私が感じていたより、遥かに大きくなっていたようだった。
そのせいか、どんな想像をしても、自分の気持ちが治まることはなかった。
-----
それでも、時間は刻一刻と過ぎていくわけで。
全身が映る鏡で最終確認しているうちに、家を出なければばらない時間になっていた。
最期に、鏡の中の自分に、こう告げる。
「何があっても、泣いちゃダメ。それだけは比企谷のためにならないんだから。・・・よし。」
玄関を開けて、力強く踏み出した。
-----
指定の喫茶店の前まで来ると、入り口で呼吸を整えた。
たぶんだけど、もう比企谷はいると思う。だから、このドアを開けたら、あとは進むだけなのだ。行け、私、と勢いをつけてドアを開けると、何かを示しているかのようにドアベルが鳴り響いた。
店内に目を向けると、少ないテーブル席には誰もおらず、カウンターにスーツのベスト姿の男性が一人いるだけだった。まだ、来てなかったのか、そう思いつつ店内へと歩を進めると、言い知れぬ違和感が訪れる。
カウンターにいるマスターに目を向けると、待ってました、と言わんばかりの表情をして、いらっしゃいませ、と言った。軽く会釈をし、どこに座ろうか、と考えようとした刹那、カウンターの男性がこちらに振り向いた。
「良かった。来てくれたか。」
私は、本当に驚いちゃって、文字通り言葉を失った。
「あ、え?・・・え?」
「いや、驚きすぎだろ。」
「ひ、比企谷なの?」
「俺は俺をそう認識して生きているが。」
そう言う比企谷の姿を改めて見る。カウンターに腰掛けているせいで全部はわからないけど、上下のスーツにベスト、ネクタイまでした姿で、髪型もさっぱり整えてあり(それでもアホ毛はあるんだけど)、それはもう見違えるようだった。
ていうか、か、かっこいい・・・。
嘘でしょ。
「ま、まぁ、俺らしくない格好だってことは認める。まぁなんだ、変じゃなきゃいいんだが。」
「ぜ、全然変じゃない!むしろかっこいいというか、うん、似合ってると、思う。」
すっかり熱に浮かされた私から、すんなり褒め言葉が出てきてしまう。
「ほら、だから僕も何度も似合っていると言ったじゃないか。」
「いややっぱり普段着ていませんから。これでいいのかどうかは分からなくてですね・・。」
どうやら私が来る前に、マスターとそういう話をしていたようだ。
不思議な間が産まれた瞬間、またもやマスターが救いの手を伸ばしてくれる。
「じゃぁ今日はカウンターへどうぞ。」
「あ、ありがとうございます。」
そう返して、比企谷の右隣に腰掛ける。荷物は右隣に置いてしまっていいからね、というマスターの助言に従って、荷物を慎重に置くフリをして、息を整えた。
この姿の比企谷をこの距離で見るのはまずい、たぶんずっと照れてしまう。。
そう考えた矢先、またしてもマスターから別の事実が告げられる。
「ちなみに、今から2時間ほどは貸切だし、僕も二人に飲み物出したらちょっと買い出しに行ってくるから。」
「え?・・・え?」
「なにその反応、それ流行ってんの?」
「いやそうじゃなくて、一体どういう。。」
私はもう緊張の上に、比企谷のスーツ姿だけでいっぱいいっぱいだったので、もう理解が追い付いていなかった。
「まぁ、一旦落ち着け。何飲む?」
そう言って、比企谷のシャツに纏われた腕が私に伸びる。メニューを私に差し出してくれているだけなのに、ドキッとしたのはうまく隠せているかな。。
「う、うん、わかった。・・・じゃぁ、アイスティーで。」
「俺はベトナムコーヒーをアイスで。」
「かしこまりました。ちょっと待ってね。」
・・なぜがベトナムコーヒーを頼んだ比企谷を見て「あ、比企谷なんだ」と再確認する私。
少し間を置いて、尋ねてみる。
「なんか色々ありすぎて、よく分からないんだけど。」
少し不満をぶつけるように、比企谷に言ってみたが、
「これでか?じゃぁ、たぶんこの後もっとよく分からないぞ。」
「いや、もうやめて・・。」
更に倍で返されてしまって俯く私に向かって、比企谷の優しい声音が届く。
「勝手ばっかで悪い。でもちゃんと順に説明するから、聞いてくれ。
・・まぁまずは飲んで一息つくか。」
そう言ったタイミングで、目の前にアイスティーが置かれる。続いて比企谷にも飲み物が出されて、いとおしそうにグラスの下に溜まった練乳を混ぜている。
「ホットじゃ見えなかったけど、結構練乳入っているんだ。」
「そうだ。これ、これがいいんだ。」
「まぁ、毎日じゃなければ健康も脅かさないと思うけど。」
「・・毎日マッ缶飲んでるけど?」
「控えて。」
少しずつ、いつものようなやり取りを繰り返しているうちに、私にも落ち着きが戻ってきていた。いや、まぁ今日落ち着いた瞬間あったのか問われると、答えづらいけど。。
「じゃぁ、僕は買い出し行ってくるから。良さそうなら、連絡入れてくれるかい?」
「分かりました、ありがとうございます。」
そう告げてカウンターを出ると、ささっと出入り口から去っていくマスター。
目で見送ると、「さて」という比企谷の声がした。
「川崎から申し送りがなければ、話していいか?」
「申し送りって。うん、ないよ。」
そう返すと比企谷は正面を向き、口に手を当ててコホンと整えた。
比企谷は、元々の印象とは結びつかない腕時計を見て、一息つく。
「あー、まずな。ここはマスターにお願いして貸切にさせてもらった。それは単純に何か他の要因に邪魔されたくなかったからだ。じゃぁ俺んちでいいだろ、と問われれば、少し別の意味合いも生じる可能性を危惧して、この場所に決めた。」
たまにこちらに視線を向けながら話す比企谷の言葉を、私は一生懸命聞こうとする。比企谷んちがじゃなったのは、正直ありがたかったかもしれない。たぶん、玄関で誓った自分との約束が守れなかったかもしれないから。
「うん、わかった。」
「よし、じゃぁ次だ。次は、あー、この格好か。」
「まぁ、そうかな。どうしてスーツなの?」
比企谷はバツが悪そうに後頭部に手を当てて、それでも、と話し始める。
「あー、まぁなんというか、ちょっと装備したかったんだ、強いものを。・・・で伝わるわけないか。なんだ、いつもお前の姿に圧倒されっぱなしだったから、お返しだ。色んな人に協力してもらって、この姿がある。自分でも驚いたくらいだ。良いのかまでは分からんが。」
そう気恥ずかしそうに言う比企谷は、それは、もう、可愛くて仕方なかった。今すぐ抱きしめたい想いをどうにか抑えて、嬉しい気持ちだけを取り出して、比企谷に伝える。
「なにそれ。・・でも、本当に見違えた。かっこいいと、思う。」
「お、おう、そうか。じゃぁ、まぁ、良かった。」
私の言葉に反応して、アホ毛が少し跳ねた気がした。きっと気のせいなんだろうけど。
そこまで話すと、比企谷が突然、難しい表情を作った。
私はアイスティーを飲むフリをしつつ、何気なく問うてみる。
「ん、どうしたの?」
比企谷は何か覚悟を決めるような切り替えを雰囲気で表現したのち、私にこう応えた。
「いや、ここからが本題だからな。そう、本題だからな。」
「1回言えば伝わるよ。」
緊張している比企谷にツッコミを入れて、その話を待つ。
「ふー、こっからは俺の独白であり、先週旅行に行ったとき、まぁ、川崎からもらった告白の返事だ。一つだけ、これは俺の弱さかもしれないが、答えて欲しい。ちゃんと確認したいと思う。
・・・気持ちは変わってないか?」
そう、この顔だ、比企谷が何か決めたときにするこの表情。
高校のとき、何度か見ることが叶ったこの表情が一番好き。
私は、正直に、真っ直ぐに応える。
「・・・何も、変わってないよ。今日会って、また再燃したくらい。」
比企谷は何度か頷いた、感触を確かめるように。
「承知した。まぁ、おう、ありがとう。」
「どういたしまして。」
今私は、この後の答えに期待してしまっている。不安なんてどっかに行っちゃってる。
例えこのまま突き落とされても、それはそれでいいと思えるくらいに、幸せな気持ちで、言葉を待っている。
「この1週間、俺は考えた。もう全部まっさらにして、俺は川崎とどうしたいのか、俺は今後どうしたいのか、川崎に何を思ってほしいのか、川崎にどう思ってほしいのか、上げたらキリが無いくらい考えたつもりだ。
もうこれ以上考えることはない、と限界を感じた時、一つ思い出したことがあった。
それが、川崎の依頼:私を、変えて欲しい、だった。
俺は、依頼され受けた仕事は、最後までやり抜かないと気が済まない性質だ。
では、今俺が考えようとしているのは、依頼という形があるからじゃないのか?
そう問うた。いや正確には、問おうとした。
そして、すぐに気付いた。
俺は、依頼をした・受けた、の関係なんてどうでもよかったんだ。例え今、川崎から依頼を取り下げられたとしても、関係ないんだ。俺は川崎を変えたいと思っているし、川崎に変えてもらいたいと、思っている。そうやってずっと、関係していきたいと、思っている。」
そこまでは一気に言うと、比企谷は少しだけ涙目になっているように見えた。
私は、もう言葉の一つ一つが、何かの終わりに近づいていくのが手に取るように分かって、また、この数年間密かに想い続けていた歴史もあって、半分泣いてしまっていた。
「まだだ。
じゃぁ、互いに変われる影響がなくなったらそれまでじゃないのか?
そう自分に問うた。
驚くことに、さっきの言葉と矛盾するように聞こえるかもしれないが、変わったり変わらなかったりすればいいと思った。だから、変わったり変わらなかったりすることが、俺が川崎と望んでいる関係に、何か意味をもたらすのかで言えば、NOだ。
そんなんどっちだっていい。」
「ふふ。言ってることめちゃくちゃだよ?」
「だよな、分かっている、でも聞いてくれ。」
仕切り直すように、比企谷が更に語気を強めた。
「じゃぁ、結局はなんなんだって、更に俺に聞いてみた。
川崎から受けた依頼で、俺は川崎と影響し合うことで関係していきたいと思った。
だが、更に考えてみると、影響し合わなくたって、それはそれでいいと思った。
なぜか。
それは、いずれにしたって川崎がいるからだ。
俺はすでに川崎を隣に置いて、物事を考えていたんだ。
そんな風に勝手に、川崎が隣に居てくれる前提で、色々考えていたんだ。
そこまで、考えて、一番大事な自問に辿り着いた。
川崎が隣に居て欲しいか、だ。」
比企谷が唾を飲み込む音が聞こえた。
私は、もう今にでも比企谷の腕に手を添えたくて、視界をぼかしながら比企谷の言葉を待った。
「俺は、川崎が隣に居て欲しい、俺が川崎の隣に居たい、そう心から思えた。」
比企谷の今まで見たことのない真剣な表情と、熱い視線が私に届く。
心がキュンとする、どころの話ではなかった。
もう一生、この人と生きていきたい、そんな風に感じた私は、変なのだろうか。
「ん、、、遠回りしてしまってすまない。
先週貰った告白の返事、まぁ色々話してしまったが、」
「言葉で伝わるか、こんなもん伝わらないんじゃないかと思うが、
川崎のことが好きです。
そして・・・重いと思われるかもしれんが、'結婚を前提に付き合ってほしい'と思っている。」
もう比企谷が何を言っているのかわからないほど、私は嬉しくて、結局涙を流してしまっていた。比企谷も私を好きでいてくれて、'結婚を前提に付き合ってほしい'って・・・・え?
「比企谷・・今、なんて言った?」
私の聞き間違いでも構わない。
でも、'それ'は私にとっての夢で、一番大事なことだから。
「川崎のことが好きだ。」
聞いといてなんだけど、改めて言われるとすごく照れてしまう、じゃなくて!
「そ、そのあと!」
「・・・重いと思われるかもしれんが、'結婚を前提に付き合ってほしい'。」
き、聞き間違いじゃなかった。
「あーーなんというか、ずっと隣に居て欲しい、って曖昧だと思ったんだ。
それで、世の中の言葉に合わせて、形としてもちゃんとしているし・・・こう言う他になかった。別に結婚と言うものに固執しているわけではない、まだ学生の身分だしな。
ただ、まぁこれは俺も驚いているんだが、川崎と長く一緒にいることの条件に働くことがあるなら、俺、結構働くぞ。」
比企谷の想いを聞いて、私はらしいなと思ってしまう。
でも、そこまでちゃんと考えてくれたんだ。
なら、私だって、ちゃんと応えたい。
「ぐす、えーっと、ぐす、はは、ダメかも。」
全然ダメだった、涙で薄くした化粧も取れてるし、ちゃんと声になる気がしない。
「ま、まぁ一旦落ち着けって。答えがなんだろうと、俺逃げないから。」
比企谷はこの期に及んで、まだうまくいかない可能性が考えているのだろうか。
私基準で物事を捉えている姿勢が、優しくて、もどかしい。
答えなんて、決まっているのに。
「ぐす、比企谷。」
言葉にするなんて、簡単にできない。
それは、私が依頼してから、私自身が経験してきたことだ。
比企谷は、色んなものを超えて、たくさんを言葉にしてくれた。
私は、なんて返せばいいのだろう。
そう考えて、やめた。
尽くしたって伝わり切らないかもしれないのだ。
なら、もう、いっそ。
「ねえ。」
「大丈夫か、、って、ん・・」
比企谷が近付いた隙に、私を幸せにしてくれた言葉が紡がれた口に、
優しくキスをした。