川崎は、真っ直ぐ俺の目を見ながら語り始めた。
「突然の誘いを受けてくれて、その、ありがとう。」
川崎は真剣そのもので、わざわざ言葉を返すのも躊躇われてしまう。少しだけ頷いて、その後の言葉を促す。
「まず、あんたのことだから色々疑問に感じてるかもしれない。覚えてたら、だけど。私んちが共働きで、私が弟妹達を面倒見てたのは知ってるよね?ほら、京華とか。」
「ああ、知ってる。大志からの依頼もその辺りから来たものだったろう。けーちゃんか、、元気にしてるか?」
「ああ、元気にしてるよ。また遊んでやったら喜ぶと思う。今でも、その、たまにあんたのこと聞いてくるし。」
「そうか。良かった。」
そこで一旦二人が止まってしまう。
いかんいかん。
「悪い。続けてくれ」
「あ、うん。詳しい事情は教えてくれなかったけど、父親の仕事が調子良くなったみたいで、母親が仕事辞めたんだ。高3なったくらいかな。そこから、私がやってたこと奪われちゃって、おまけに『今まで苦労かけた分、色んなこと経験しなさい』って言われてさ。
とにかく受験だったから、今まで家事や送り迎えしてた時間は、勉強と読書に当てたんだ。」
話の区切りに、俺はまた小さく頷く。これで俺が疑問視していた点については合点がいった。つまりは川崎家に経済的余裕ができて、皺寄せが来ていた川崎自身が解放されたのだ。これ自体は悪いことじゃないだろう。母親の言うことも分かる。しかし川崎は嫌々手伝っていたようには思えない。家族愛、とかいう言葉が似合う感じだったしな。
「進学先について、母親が自由にしなさいって言ってくれて、私としては国立狙いだったんだけど、結果私立に行くことになった。両親としては、父親の仕事の調子関係なく、私たちがみんな私立行っても問題なかった、とは言ってたけど。」
やはり国立狙いだったのか。
でも落ちてしまったのか、または、何かを理由に私立を選んだのか、気になるところではあるが。
「あ、国立にも受かったんだよ。ただ、理由があって、私立にしたんだ。・・・その理由は控えさせて。」
あれ?俺表情が語っちゃってる?なんで心読まれてんの?声に出てた?
「・・・続けるね。」
こほん、まぁいい。
話に耳を澄ませよう。
「こっからが、その、相談になるんだけど。母親が私の代わりに動くようになって、私には時間ができた。高校の時は勉強があったけど、今はその、色んなこと考える時間になっててさ。あんたはもうしっかりものだから、って言って家からも出されちゃったしね。」
「・・・きっと大志も、出ていけ姉ちゃん、みたいな感じだったんじゃないか?もちろんお前を想って、という感じで。」
川崎家としては、それまで長女として苦労を買ってた川崎に、もっと人生を謳歌してほしかったんだろう。やはり家族愛という言葉が似合う。大志も小町が絡んでいなければ俺が土に還すこともなく、良い奴として生きていただろうな。いや、生きてるけどね。気持ち的には小町と絡む男子は軒並み還したい。
「うん、まさにそんな感じだったかな。複雑だったけど、想ってくれてるのは分かったから。」
いとおしそうに家族に想いを馳せる表情は、これ以上なく慈愛に満ちていた。何その顔、母性の塊なの?甘えたくなっちゃうだろ。いや甘えられねーけどさ。
「・・・聞いてる限りは、相談が必要とは思えないんだけどな。」
「うん、だよね。だからこれは幸せな悩みなんだと思う。でも家族から願われてることを思うと、その幸せだけに甘えてらんない。
だから、本気で悩んで考えて、今日あんたに話しかけた。」
そう言い切る川崎に、俺はハッとさせられてしまう。その表情には覚悟が見て取れたし、その覚悟の先に俺への相談がある、という状況に、心臓を掴まれた気がしたのだ。
なんだよ。可愛いくせにかっこいいのかよ。
「・・・わかった。聞かせてくれ。」
目を逸らさずに応えると、川崎は息を飲んだ。
「私を、変えてほしい。」
相談の詳細は次話にて。
読んで頂けていることがUAから見てとれるので有り難く思います。次話も早々に上げたいです。